夫婦間のモラハラで悩む人からの相談依頼が引きも切らない。夫婦問題研究家でパートナーシップアドバイザーの岡野あつこさんは「モラハラが続く限り幸せな家庭づくりは困難です。一刻も早く自分がしていることはモラハラだと相手に気づかせる必要があります。ひとつは、夫が認めている人から伝えてもらう方法。もうひとつは妻が別居を申し出る方法です」という――。
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モラハラという言葉や概念が浸透し、それまでは黙って生活するしかなかった妻たちが「ウチの夫はモラハラだったのか!」「モラハラはひと事ではなかった!」と気づきはじめた。

その結果、夫のモラハラを理由に離婚を考える妻たちが増えている。「もう、モラハラ夫にガマンしなくてもいいのかもしれない」「こんなモラハラに耐えていかなければならないなら、別れよう」と離婚という人生の選択をする妻たちには、どんな事情があったのだろうか。今回は、夫のモラハラに気づいた妻たちの事例を紹介する。

■CASE1 自分の間違いを決して認めない夫

「昔から頑固な一面のある夫だったが、年を重ねてひどくなった。でも、まさかそれがモラハラだとは思いませんでした」と話すR子さん(49歳)は、5歳年上で元経営者の夫との夫婦問題の相談で私のもとを訪れた。夫の会社の経理をまかされているR子さんは26歳で妊娠を機に結婚、現在、社会人1年目の娘と大学生の息子がいる。

R子さんの夫は会社員時代に培った人脈とノウハウを活かし、30代半ばで独立。「自他ともに認めるほど仕事ひと筋の人。今まで順風満帆だったわけではないものの、持ち前の判断力と意思の強さを武器に、努力してなんとかやってきました」と、いちばん近くで夫を支えてきたR子さんは振り返る。

ところが「数年前に患った大病をきっかけに会社を売却し、リタイアして自宅で過ごすようになってから夫の様子がおかしくなっていった」とのこと。

「ただワガママに振る舞うだけなら慣れているものの、最近は自分の間違いを認めようとせず、私の落ち度だと思い込み『妻として失格だ』と言わんばかりに、何かにつけて強く非難してくるようになったんです」

たとえば先日は、こんなことがあったという。

「義父の7回忌で会食をすることになった時のこと。私が『お義父さんが好きだった、あのお店にしない?』と和食のお店を提案したところ、『オヤジが好きなのは中華料理だったのに、なんでわざわざ和食の店を選ぶんだよ? お前もずいぶんひどい嫁だな』と、あきれ顔で言うんです」

ところが、R子さんの記憶では中華料理が好きだったのは去年亡くなった義母のほうで、むしろ晩年の義父は「若い頃と違って、脂っこい中華料理はすっかり食べられなくなってしまった」と語っていたというのだ。

R子さんはそのことを夫に伝えたところ、「実の息子のオレの言葉を信じないのか? じゃあいいよ、オヤジかオフクロか、どちらが中華料理を好きだったのか、今ここで娘たちに聞いてみろよ!」と、それぞれひとり暮らしをしている娘と息子に電話をかけることを強要されたR子さん。

「夜の12時を過ぎていたこともあり、『こんな時間に、そんなことであの子たちに電話するのも迷惑よ』と拒んだのですが、夫は一歩も引かず。仕方なく、私からまずは娘に電話を入れたところ、娘は事の次第にあきれながらも『中華料理が好きなのは、おばあちゃんよ』と、夫の記憶が間違っていたことを証明してくれました」

それで一件落着かと思いきや、夫いわく「オレが間違うはずがない。お前がそそのかして、娘とグルになってオレをバカにする気だな」と言い放ち、さらにR子さんに息子に電話をさせるよう指示したのだった。

「もちろん息子の記憶も私や娘と同じでした。『オヤジ、ボケたのかよ(笑)』とまで言われていましたけれどね」

それでも納得できない夫は、電話を切った後も「オレは間違っていない。夫に恥をかかせるなんて最低の妻だな」とブツブツ言いながら、自室に向かって行ったとのこと。「後日、心配した娘から連絡が来て、最近の夫の言動をこぼしていたら『お母さん、それって間違いなくお父さんのモラハラだよ。ごめんね私、ずっと気づかなくて。お母さん、大丈夫?』と泣かれてしまったんです。そこではじめて私は『これがモラハラというものなのか』と気づきました」

■CASE2 妻を無視し続ける夫

「夫に存在を無視されて半年以上たちます。これ以上、無視され続けると私のメンタルが崩壊しそうなので、近々家を出ようと思っています」と話すのはJ乃さん(39歳)。

同じ職場で知り合った3歳年上の夫とは、J乃さんが27歳の時に結婚。その後、2人の子どもが誕生し、産休や育休を経たJ乃さんも夫と同じ会社に職場復帰した。

J乃さんいわく、「夫はもともと無口な人。だから私も無視されていることにしばらく気づかなかったものの、半年くらい前、私が『もうすぐ誕生日だね。何かほしいものある?』と聞いたところ、私の質問に答えないかわりに『オレ、お前のこと無視しているんだけど、気がついてもいないわけ?』と。冗談かと思って笑い飛ばしたのですが、それ以降、何を話しかけてもひと言も答えないどころか、私とは目を合わせようともしなくなったんです」

写真=iStock.com/Ratsanai
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J乃さんには、夫から無視される原因に心当たりはないとのこと。

「強いていえば、私が昇進したことで夫より給料が少しだけ多くなったことでしょうか。一度だけ『なんだか私のほうが偉くなっちゃってごめんね(笑)』と言ったことがあります。でも、その時は夫からは何も言われませんでした」

夫から無視されていることに気づいてからのJ乃さんは、日ごとに心が弱っていったとのこと。

「食事や洗濯はこれまでと変わらず夫の分までしますし、夫も私のつくった料理や私がアイロンをかけたシャツを着て出社します。それなのに、会話は一切なし。『子どもたちもそろそろおかしいと気づきはじめるので、心配させないためにもこれまでどおりに会話してほしい』とお願いするも、それも無視。同じ家に住んでいるのに、私の存在が見えていないように振る舞う夫に傷つくばかりです」

思い悩んだJ乃さんは、カウンセラーをしている友人に相談したところ、こう分析された。

「J乃のダンナさんのしていることは、完全にモラハラだよね。『お前のせいでオレはこうなった』という被害者意識を、J乃を無視することで伝え、抗議しているんだと思う。原因はたぶん自分のほうが、収入が低いことなんじゃないかな。妻より優位に立ちたいから、せめてモラハラで妻をおとしめたいんだよ」

友人からの指摘で夫のモラハラに気づいたJ乃さんは現在、離婚をみすえた別居を検討中だ。

■CASE3 大声で妻をののしる夫

C美さん(35歳)も夫のモラハラにおびえる妻のひとり。

「でも、ウチの夫の言動がモラハラだと知ったのはつい最近のこと。それまでは『夫を怒らせてしまう私が悪いんだ』『夫の言うことは間違っていないのかもしれない』と思っていました」

10歳年上の会社員の夫とC美さんが結婚したのは8年前。二人に子どもはおらず、現在C美さんは近所のスーパーマーケットでアルバイトをしている。

「夫は私より人生経験も豊富。経済的にも夫に頼るしかない私は、夫が明らかに間違ったことや理不尽なことを言い出しても逆らえませんでした。心のどこかで『夫婦とはそういうもの』という思いもありました」

C美さんが夫のモラハラに気づいたのは、同じマンションの隣の部屋に住む主婦仲間から「前から思っていたけれど、C美さんのダンナってモラハラ夫じゃない? 尋常じゃない怒鳴り声がウチまで聞こえてくるよ」と言われ、恥ずかしい思いをしたことがきっかけだった。

C美さんいわく、「夫のことは怒りっぽいとは思っていましたが、それは生まれつきの性格なのかと。ただ、思い込みや勘違いも多く、それを夫が怒っている時に私が指摘すると、手をつけられないほどエスカレートしてしまうこともたびたびあったんです」

C美さんのいちばんの悩みは「一度、怒りはじめると長い時で1時間は続く」という夫のキレっぷりだという。

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「怒っているうちに、いつのまにか事実が変わっていることも少なくないんです。たとえば、夫に告白されたから付き合ったのに、『お前が迫ってきたから付き合って結婚までしてやったのに、なぜもっとオレのことを大切にできないんだ』と責めたり、もともと自分の両親と折り合いがよくないのを『お前を守るために、両親とは縁を切ってやった』と私のせいにしたり。はじめは普通の声の大きさで怒っていても、しまいには必ず私への怒声が大きくなっている。今のマンションに引っ越す前のアパートでは、夫の怒鳴り声があまりにも大きくて激しかったので、警察を呼ばれたこともありました」

自分がやったことはなかったことに、自分にとって都合の悪いことはすべてC美さんのせいにする「モラハラ夫」に対し、C美さんはこれからの夫婦生活のあり方を真剣に考えはじめている。

モラハラ夫への対策は「一刻も早く」が効果的

夫のモラハラは、それが続く限り、妻は幸せになる可能性はないといっていい。だからこそ、なんらかの方法で、「自分がしていることはモラハラである」ということを夫に気づかせる必要がある。

私がおすすめしているのは次の2つの方法だ。

ひとつは、「夫が認めている人から伝えてもらう」という方法。夫の両親や上司、先輩や親友など「この人の言うことなら耳を貸す」という人物にモラハラの事実を伝え、夫に対して改善をうながすよう説得してもらう。

もうひとつは、「夫のモラハラを理由に、妻が別居を申し出る」という方法だ。「家を出ようと考えるほど、あなたの言動に深く傷ついている。それは間違いなくモラハラだ」ということを伝え、みずからの行動でそのことに気づかせる効果がある。

モラハラに限っては、「いつか自然に気づく」「そのうち治る」という事態はあり得ない。妻が、夫のモラハラに気づいた時が改善するチャンスだととらえ、勇気を持って行動をしてほしい。

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岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー
夫婦問題研究家、パートナーシップアドバイザー、NPO日本家族問題相談連盟理事長。立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに32年間、38000件以上の相談を受け、2200人以上の離婚カウンセラーを創出『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)。近著は夫婦の修復のヒントとなる『夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法』(サンマーク出版)。著書多数。
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(夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー 岡野 あつこ)