WBC決勝の米国戦に3番手で登板した高橋宏斗【写真:Getty Images】

写真拡大

WBC優勝記念連載「世界一の裏側」#1、20歳高橋宏斗は決勝で堂々の投球

 野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表「侍ジャパン」は3大会ぶり3度目の優勝を成し遂げた。大谷翔平投手(エンゼルス)ら一流選手の団結力で掴んだ世界一。「THE ANSWER」では米マイアミで行われた熱戦を現地取材。大会を通じて伝えきれなかった選手、監督の思いや現地でのエピソードを連載「世界一の裏側」として連日紹介していく。

 第1回は侍ジャパン最年少の20歳・高橋宏斗投手(中日)。決勝・米国戦では3番手として1回2安打無失点。痺れる展開でトラウト、ゴールドシュミットのメジャーMVP経験者から連続三振を奪い、米メディアからも注目される投球で世界一に貢献した。「足は震えてヤバかった」と振り返る大一番での力投の裏には、大谷の言葉もあった。

 ◇ ◇ ◇

「本当にやり切った。もともと先発でしたが、中継ぎ、タイブレーク要員で入ったり、いろんな調整の方法があったけれど、世界一になるためだと思ってしっかり準備できてよかった」

 2点リードの5回、痺れる展開で登板して1回無失点。高橋は試合後、ミックスゾーンでの取材で充実感を漂わせた。

 逆転を期待する米国ファンの「USA」コールが鳴り響く物々しい雰囲気に「足は震えてヤバかった」と振り返る。それでも20歳らしからぬ堂々とした投げっぷりだった。

 先頭のベッツは98マイル(約158キロ)の速球で打ち取るも、打球が高く跳ねて内野安打に。トラウト、ゴールドシュミットとMLBでMVPを獲得している大スターと悪い流れで対峙することになった。

「正直誰と対戦してるか、把握できない状態。トラウトさんとやっているときも頭が回らなかった」。ここで気持ちが後ろ向きにならなかったのは、試合前の大谷の言葉が大きかった。

3年後のWBCに期する思い「3年かけてしっかりやるべきこと」

 侍ジャパンのメンバーを前に、ロッカーで円陣の声出しを務めた大谷は「憧れるのをやめましょう」と第一声。続けてその意図をこう語っている。

「ファーストにゴールドシュミットがいたり、センターを見ればマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたり、野球をやっていたら誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思う。憧れてしまっては超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう」

 知らず知らずのうちに抱いてしまう、米国代表への憧れを今は捨てること。高橋にもこの言葉は響いた。「その通りだと思いました。一人の打者、相手として投げられることができた。気持ちで負ける部分は1ミリもなかった」。結果、トラウトは鋭いフォークで、ゴールドシュミットは97マイル(約156キロ)の速球で連続三振に。アレナドには左前打を許したが、最後はシュワーバーを力ない中飛に打ち取った。

 20歳で世界一が決まる舞台を経験。米専門誌「ベースボール・アメリカ」も記事で「1イニングのみの登板でタカハシはスカウト陣の中で大きな話題に」などと報じるなど現地でも実力を認められた。それでも、3年後の第6回大会に期する思いがある。

「レベルの高い野球をもう一度味わいたいという思いもあるし、プロ野球選手としての立ち位置として(WBCで)先発投手としてマウンドに上がれていない。地位をしっかり上げていくことが、あと3年かけてしっかりやるべきことかなと思う」

 米国の飲酒は21歳以上と定められているため、試合後のシャンパンファイトには参加できず。「参加する気満々でゴーグルをつけていたけど、マネージャーさんから『米国は(飲酒は)21歳かららしい』と言われて……」と苦笑いで明かした。「今度はドラゴンズでシャンパンファイトに参加できるように日本で頑張りたい」。3年後、WBCの先発マウンドに竜のエースが立っているかもしれない。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)