デサントジャパン株式会社は、2023年春夏シーズンより、20-30代に向けた新しいコンセプトのニューレーベル『MOVESPORT(ムーブスポーツ)』を展開することを発表しました。また、ニューレーベルを象徴する存在として、未来のスポーツシーンを牽引する次世代アスリートによる『MOVESPORT UNIT(ムーブスポーツユニット)』の発足も合わせて発表しています。

デサントの人気シリーズとして長年にわたって展開してきた『MOVESPORT(ムーブスポーツ)』。今回のリニューアルでは、スポーツシーンに特化した従来の良さを残しつつ、より日常に溶け込むデザインを兼ね備えたつくりとなっています。

デサントジャパンの弘中貴大さんに、リニューアルの背景や今後の展望、さらにデサントのものづくりへのこだわりについて伺いました。

(写真・撮影:Eiji_Ikeno)

これまでの良さを残しつつ、日常にも溶け込むウエアへ。

ー今回「MOVESPORT(ムーブスポーツ)」が大きくリニューアルすることになりましたが、どのような経緯があったのでしょうか?

弘中:もともとMOVESPORTは、アスリートが試合やトレーニングに集中して取り組めるウエアをコンセプトにしてきました。ただ、世の中の流れとしてスポーツと日常の境目がなくなっているなか、これまで培ってきたウエアの良さを残しつつ、日常でも着ることができるスポーツウエアのほうが良いのではないかと。

経済的にも物価が上がっており、日本全体が節約志向になっています。それによって人々は、より物を選んで買うようになりました。スポーツのときにしか着ることができないウエアと、日常でも着ることができるウエアでは後者のほうが価値が高いですよね。世の中の変化にあわせて、うまくニーズを捉えていきたいなと思っています。

ーリニューアルにあたり、こだわったポイントは?

弘中:「素材」と「デザイン」には、すごくこだわっています。

素材はポリエステル100%を採用しているものが多く、軽いのですが丈夫で耐久性に優れています。軽いと丈夫でないイメージがあるかと思いますが、研究開発拠点「DISC」で実施される試験によって基準に達した素材でなければ、製品に使うことはできません。一般的に良いとされている生地だったとしてもです。これによりデサントジャパンの不良品の確率はとても低いものとなっています。

生地に使われる糸の素材や編み方にも特徴があります。MOVESPORT独自の「S.F.TECH」という素材は、着用時に軽く感じるのが特徴です。高捲縮糸と高反発糸を組み合わせることによって、伸縮性と張り感の両立を実現しました。発表会見のときもアスリートの方が「着ていることを忘れる」とおっしゃっていたほど、ストレスを感じにくいウェアです。

これらこだわりの素材や技術でつくられているのが、MOVESPORTのウエアです。

ーデザインの変化についても教えていただけますか?

弘中:デザインも大きく刷新しました。レーベルロゴはすべて大文字で統一し、「MVSP」と短めの略語も採用したことでデザインのバリエーションを増やしました。また、ワッペンを入れるなど、スポーツメーカーとしてはめずらしい加工も施しています。

これらのグラフィックは約100個の候補から、大きさや配置などを1センチ単位で検討して決定しています。デサントグループの中でも、最もグラフィックにこだわっているレーベルではないでしょうか。

あとはサイズ設定も大きく変えました。今までは試合やトレーニングに特化するため細身に作られていたのですが、かなり標準的なシルエットになっています。

ーそういった部分でシームレスを体現しているということですね。どのような層に着てもらいたいと考えていますか?

弘中:20代から30代の方に着てもらいたいウエアになっています。新しい層を取り込んで、より多くの方に着ていただきたいと考えています。

これまでは50代や60代の方に着ていただくことが多かったのですが、そういった方にも「若々しくてカッコいいな」と思っていただけるデザインになっていると思います。

「色、サイズ感、ロゴの配置、プロモーションすべてを考え抜く」

ーこれだけ大きなリニューアルとなると、社内ではさまざまな意見があったのではないですか?

弘中:社内でも重要な位置にあるカテゴリーなので、多方面への調整が必要だったので苦労しましたね。

ー弘中さんは主にどういった役割を担っているのでしょうか。

弘中:普段は主にスポーツ用品店への卸売りの商品企画を担当しています。展示会でも賛否さまざまな意見をいただきました。人気シリーズで期待されているからこそ調整は大変でしたね。

ただ担当者は20代から40代の方が多く、まさに新しいMOVESPORTのターゲットとなる皆さんです。新しい製品に前向きな感想をいただけることも多かったので、「絶対にいけるな」と自信もありました。

ー「もし売れなかったらどうしよう…」と思うこともあるのかなと。そういう意味では、責任感や葛藤もともなう仕事かと思います。

弘中:それはありますね。もちろん商品の品番数を増やせば売れる可能性が広がるのでリスクは減らせます。ただそうすると、生産やプロモーションの効率が悪くなってしまうので、できるだけ品番は絞るようにしています。

あとは生産量をどうするのか。とくに多く生産すると決めたときは、色やサイズ感、ロゴの位置、プロモーションまで全てが重要になります。考え抜いた製品が売れたときは嬉しいですね。

ーやはり売れたときに、やりがいを感じることができるのですね。

弘中:製品は本当に自分の子どもみたいなものですね(笑)。街で自分の企画したウエアを着ている人を見たときは嬉しいです。

次世代のアスリートと共に、より良いブランドをつくり上げていく。

ーコンセプトムービーなどでアーバンスポーツを採用していますが、狙いや背景について教えていただけますか?

弘中:スケートボードやBMXなどのアーバンスポーツは、競技中のウエアと日常着がシームレスです。また競技自体の躍動感や若者らしさがとても良いなと思いました。リニューアルしたMOVESPORTとすごく親和性を感じたことが、組みたいと思った大きな理由のひとつです。

これから開催されるパリ五輪、ロサンゼルス五輪に向けて、これまでになかったスポーツがメジャーになる可能性は十分に考えられます。そんな新しいスポーツと共に、レーベルを盛り上げていければと思っています。

発表会見にはたくさんのメディアの方が来てくれましたが、彼らも野球、サッカーだけではなく、次のスポーツを探していると話していました。「アーバンスポーツに興味がある」というメディアさんは多かったですね。

ー多くのスポーツブランドは特定の競技とイメージの結びつきがありますよね。「MOVESPORTといえばアーバンスポーツ」としていく意図があるのでしょうか?

弘中:いや、そうは考えていません。デサントの企業理念は「すべての人々に、スポーツを遊ぶ楽しさを」であり、MOVESPORTは特定の競技背景を持たないことも強みだと思っています。

私自身、大学まで野球を続けてきましたが、ここで働いているとさまざまな競技の関係者と接する機会があります。良い意味で幅広い人をターゲットにできるブランドなので、すごくやりがいを感じています。

ー「MOVESPORT UNIT(ムーブスポーツ ユニット)」にさまざまな競技のアスリートがいるのも、そんな意図があるのですね。

弘中:そうですね。デサントはその競技のトップ選手と契約し、選手と一緒に対話を重ねて良いものを作っていく「頂上戦略」を掲げています。今回も各競技トップレベルの選手と契約をして一緒にものづくりをしているので、しっかり良いものを作っていきたいなと思っています。

彼らに「MOVESPORTを着たい」「MOVESPORTを着て試合に出たら良い結果が出せるんだ、良いトレーニングが積めるんだ」と思ってもらえるブランドにしていきたいですね。いろいろな意見をいただけるので、真摯に受け止めて対応していきたいと思っています。

ー最後に、これからのMOVESPORTをどのようなものにしていきたいか、思いを聞かせてください。

弘中:2025年にMOVESPORTは誕生20周年を迎えます。今はあくまでもデサントジャパンのニューレーベルのひとつという位置づけですが、20周年のタイミングでは「ニューブランド」にしていきたいと考えています。

また、いずれは直営店のような形で出店して、エンドユーザーさんと直接関われるブランドにもしていきたいです。まずはMOVESPORTという一つの集合体として、競技やシーンは関係なく大きなブランドにしていきたいと思います。