交通量の多い世田谷通りに面した「ロイヤルホスト 馬事公苑店」(東京都世田谷区)。40年以上前に出店した同店の成功で首都圏における知名度が高まった(筆者撮影)

コロナ禍で外食産業も大きな打撃を受けた。だが、時代とともに消費者の意識や飲食の好みは変わるので、もともと同じ外食ブランドが長年続くのはむずかしい。最近でも居酒屋から焼肉店に業態転換して、店名や中身がまったく変わった例もある。

そんななか、ファミリーレストランで半世紀以上の歴史を持ち、今でも好調なのが福岡県発祥の「ロイヤルホスト」だ。1号店が同県北九州市に開業したのは1971年で、現在の店舗数は全国に221店(2022年12月末現在)。競合の「デニーズ」(1号店開業は1974年)とともに、創業以来、同じブランド名で厳しい外食業界を生き抜いてきた。

最初の緊急事態宣言時(2020年春)には大きく売り上げを落としたロイヤルホストだが、2022年度は「年間売上高122.5%・来客数119.7%・客単価102.3%」と好調だ(既存店前年比、親会社ロイヤルホールディングスの発表数値)。

2022年の各月は、上記3部門の数字がすべて前年比100%超を記録した。

これだけ変化が激しい時代に、なぜ「ロイホ」は支持され続けるのか。運営会社の社長に取材し、同ブランドの横顔を紹介しながら、消費者心理を考えてみた。

「年末年始ベスト5」は、おなじみのメニュー

まずは、年末年始の店の現状を聞いてみた。

「3年ぶりに行動規制がない年末年始となり、ロイヤルホストの売り上げは好調でした。コロナ前の2019年と比較しても107%になる見込み(速報値)です。当社グループでは、空港や高速道路のサービスエリアにも別業態店を構えていますが、どこも好調でした」

ロイヤルホスト」や「天丼てんや」を運営するロイヤルフードサービスの生田直己社長はこう話す。グループ店舗の店長経験も長かった生田氏は、現在、ロイヤルHD執行役員(外食事業担当)も兼任、同グループ外食事業全般の責任を担う。


ロイヤルフードサービスの生田直己社長(写真:ロイヤルフードサービス、撮影のためマスクを外しています)

年末年始に、特に人気だったメニュー(ベスト5)は次のとおりだという。

(1) ロイヤルのオニオングラタンスープ
(2) 黒×黒ハンバーグ
(3) パンケーキ
(4) アンガスサーロインステーキピラフ
(5) シーフードドリア

「セットメニューでお選びいただくことが多い『オニオングラタンスープ』は看板メニューのひとつで、単品でもご注文されます。また、『黒×黒ハンバーグ』は、『ロイヤルらしいメニューを開発しよう』と、当時の開発スタッフが試行錯誤して2009年9月から販売を開始した商品です。国産黒毛和牛75%:国産黒豚25%の黄金比率でつくっています」(生田氏)

1位は、通称「オニグラ」と呼ばれ、コロナ前の2019年比でも1.5倍以上(1店舗当たり1日平均出品数)を記録するほど好調だという。3位に入った「パンケーキ」は後述するが、いずれも長年親しまれているメニューで、ロイホらしい商品だ。


「オニオングラタンスープ」と「黒×黒ハンバーグ」(写真:ロイヤルフードサービス)

ステーキやハンバーグ…、消費者は定番を支持

現在、「洋食小皿&厚切りステーキ第5弾」となる創業50周年記念のファイナルフェアが開催中だ。お客さんの反響とブランドの狙いを聞いてみた。

「洋食中心のレストランなので、やはりステーキをはじめハンバーグやオムライスといった定番メニューが人気です。半世紀以上運営する中で、メニューとデザインは創業者の江頭匡一(えがしら・きょういち)の思いを踏まえています」(生田氏)

江頭氏は、大学中退後、アメリカ軍基地でコック見習いとして働き、アメリカの食文化に親しんだ後、1951年に創業。同社は福岡空港(当時は板付空港)に機内食搭載と喫茶営業から始まった。

まだ敗戦の余韻が残る1953年には、福岡市中洲にフレンチレストラン「ロイヤル中洲本店」(現レストラン「花の木」。現在は大濠公園内に移転)も開業した。その18年後に創業した「ロイヤルホスト」店名には、「王様、王道」という意味のロイヤルと、「おもてなし」という意味のホストを合わせた。これがブランドの骨格ともなっている。

筆者の知人の50代男性(自営業)は、12月に店に行き、こんな感想をSNSに投稿した。

「今日も奮発してロイホへ。アンガスサーロイン1ポンドとオニグラいきました。(中略)
じつはロイホのステーキナイフのグリップの厚みが、たまらなく好きな感触です」

ロイホのステーキを好む人は「厚切りだからいい」という声も目立つ。

「アメリカから直輸入した牛肉をセントラルキッチンで下処理し、チルドのまま各店舗に配送。店舗ではサイズに合わせて切り分け、チャコールで焼いて提供しています」と生田氏は話す。


分厚さも人気の「厚切りワンポンドステーキ」(写真:ロイヤルフードサービス)

3月には、1ポンドステーキが5000円超に

価格に対する思いはどうなのか。「ロイホは競合よりも高い」という声は、よく聞く。

「2022年に価格改定を実施させていただきました。ご負担を考えると心苦しいのですが、さまざまな商品が値上げされる実情をご理解いただけたのではないか、と考えています」

冒頭で紹介した既存店の数字では、値上げによる客離れは、あまりなかったようだ。

ただし1月6日、「3月8日からのステーキ16品と朝食2品の値上げ」が発表された。エネルギーコストや物流費などの上昇、原材料価格の高騰を受けた措置だという。

特に前述の「厚切りワンポンドステーキ」(450g)は、単品で4708円(税込み)が、5588円(同)と値上げ率19%、880円も上がる。「ガツンと食べたいとき」に選ばれる人気商品だが、5000円を超えることで、消費者の価格抵抗ラインがどうなるのか。

一方で、お得感のある商品もある。年末年始人気3位「パンケーキ」だ。3枚重ねで495円(同)。2022年11月26日に放送されたTBS系のテレビ番組「ジョブチューン」(アノ職業のヒミツぶっちゃけます!)放送後に話題を呼んだので、ご存じの人も多いだろう。

簡単に説明すると、同番組に出演したシェフが語った「すごくケミカルな香りがする」「家でも焼けるんじゃないか」という辛口の講評や注文に対して、「ロイホのパンケーキはあれで正解なの。今どきにしたらダメなの」などSNS上で擁護や反論が相次いだ。

一連の流れを、商品提供側はどう受け止めたのか。

「まず番組に出演させていただいたのは、自分たちの味や調理に対するこだわりやひと手間を知ってほしかったからで、過去にも1度出演したことがあります。今回は番組終了翌日から、店舗ではパンケーキのご注文が相次ぎ、SNSの力を再認識しました」

本稿では同騒動に深入りするのではなく、中身は「ホットケーキ」に近い商品への消費者意識に興味を持った。昔から味わってきた人もおり、番組の演出に不快感を示した人の多くは、「自分の想い出にケチをつけられた」――と感じたのではないだろうか。

同商品に限らず、商品改良は視野に入れているが、急に味が変わることはなさそうだ。


ロイヤルホストの「パンケーキ」。今でも注文が多いという(筆者撮影)

「コックが腕をふるうレストラン」の真意は?

ロイヤルホストの特徴を、競合との差別化の視点であらためて聞いてみた。

「当社が定めたブランドバリューでいえば、(1)プロのコックが提供するおいしさ、(2)安心感、(3)清潔で整った環境、が3本柱です」

外食の基本中の基本「QSC」(Quality=飲食の品質、Service=接客レベル、Cleanliness=衛生管理)を踏まえたうえでの話だが、プロのコックについて、生田氏はこう補足する。

「『そもそもコックとは何だろう?』は社内でも議論を進め、現在こう考えています」

(1)素材の味を組み合わせて商品設計をする人
(2)セントラルキッチンで、均質化・安定化の視点で製造する人
(3)各店舗の現場で、味を再現する人

(1)は商品開発、(2)は安定生産、(3)は店舗での提供、に携わる人だ。各部門で働く「コック」が、店で提供する「できたての味」を支えているという。

ファミレス業界では、かつて低価格訴求のレストランが勢いを増した。当時、攻勢に押されて危機感を抱いたロイヤルホストは、一部で低価格メニューも提供した。そのときに、常連客からは「ロイホにはそれ(低価格)を求めていない」と言われたという。その言葉にハッと気づかされた当時の関係者は、ブランドの原点に立ち返った。


巨大な寸胴鍋が置かれたセントラルキッチン(写真:ロイヤルフードサービス)

Z世代が指摘した「ニューオールドアメリカン」

かつてファミリーレストランといえば、深夜営業も人気だった。だが現在は少ない。競合の「ガスト」が再開する動きがあるが、コロナのかなり前に夜中の利用客が減って、多くのファミレスが取りやめた。代わって現在、各社が注力するのが朝の時間帯だ。

ロイヤルホストも「ブレックファストメニュー」に力を入れている。まずは手頃な価格の朝の時間帯で来店頻度を増やしてもらい、顧客を取り込みたい思いがあるのだろう。

ブランドの今後を見据えて、若い世代への訴求はどうなのか。

「1つの例として、先日、産学連携で女子栄養大学の学生と交流し、一緒にメニューを考えたことがあります。店のキーワードで興味深かったのが『ニューオールドアメリカン』――。学生さんからは『みなさんにとってはオールドかもしれませんが、私たちにとってはニューオールドアメリカンです』という声があり、Z世代の意識も感じました」

若い世代も意識した訴求では、近年は「パフェ」に力を入れている。1月11日からはイチゴを使った「苺〜Sweet Strawberry」の第1弾をスタートさせた。「パフェをご注文されるために来店されるお客さまも増えています」(同社関係者)。

「古臭い」のではなく「懐かしい」+「楽しめる」は、マーケティング訴求でも用いられる。「ニューオールド」をどう反映するか。現在好調なロイヤルホストの今後の課題だろう。


「Sweet Strawberry」の商品(写真:ロイヤルフードサービス)

(高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)