盛り上がる会議を開くには、どうすればいいのか。エグゼクティブ・コーチの林健太郎さんは「チームにおいて、誰が何を言っても、どのような発言や指摘をしても、否定や拒絶をされたりする心配がない状態にすればいい」という――。

※本稿は、林健太郎『否定しない習慣』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Sam Edwards
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sam Edwards

■「相手のために否定する」というメカニズム

→あなたは知らないうちに誰かを否定してしまう

多くの人は自分が知らないうちに否定をしてしまっています。まず、そのメカニズムについてお話ししていきます。

そもそも、ほとんどの人は「否定ばかりしないほうがいい」「否定しないで受け入れることが大切」と認識しているかと思います。

では、なぜ頭ではわかっているのに「否定」をしてしまうのでしょうか。これを一緒に考えていきましょう。まず想像してみてください。もし、小学生になるあなたのお子さんが、「将来は宇宙飛行士になりたい」と言ってきたら、あなたはなんと答えるでしょうか。

「そんなの無理、無理」
「お金がいくらかかるか知っているのか? ウチ、そんなにお金ないぞ」
「お前、そんなに頭がよくないだろ」

さすがにここまでのNGワードを口にしてしまう人はそういないと思います。

とはいえ、自分の子どもに対して、できるだけ夢を応援してあげたいという気持ちはどんな親も持っているはずです。

その一方で、応援してあげたい気持ちと同時に、「現実的な夢や目標を持ってほしい」と思ってしまいがちです。「実現するわけがない夢からは、早く目覚めさせたほうがいい」という無意識の「親心」が働きます。

仮に、その場では直接的に否定せずとも、無意識に否定している心理状態になったとします。そのような深層心理は、次のような言動に表れます。

●宇宙飛行士になりたいといった話をなかったことにする
●相手の相談に真剣に耳を傾けない
●親が進んでほしい進路に誘導する

これらすべて悪意はなく、むしろ“よかれと思って”行うもの。つまり、よかれと思って相手を否定することになってしまうのです。言ってしまえば、「愛情の裏返し」。「子どものために否定してあげる」というメカニズムがそこにあるのです。

→否定のほとんどに「悪意」はない

私の親がまさにそうでした。何しろ私、小学生どころか、中学3年生のとき、真剣に「将来はF1カーの空力デザイナーになりたい」という夢を親に伝えました。

言われた親も驚いたことでしょう。

父からは、「お前な、もう少し、普通のやつ、ないのか? 言いたいことはわかるけど……」と、困った顔で言われたのをよく覚えています。ちなみに母は「ふーん」とひと言唸(うな)っただけ。

学校の先生からは「そんな、わけのわからないことを言っていないで、進学のことを考えろよ!」とのありがたいお言葉をいただきました。

今になって考えれば、相手に悪意がないことも、「大人の常識」でそう言ってしまった父親や先生の気持ちもわかります。とはいえ、これは確実に子どもの可能性をつぶしていますよね。こうした「否定」の前提は、「よかれと思って」。この考え方が、否定を正当化してしまうのです。

無意識に否定してしまう習慣は、悪意がないからこそ厄介といえます。

■否定する人、しない人に会ってわかったこと

→アメリカのカウンセラーが与えてくれた気づき

自分がなりたいものを言えば否定される――。

中学生当時の私は、そう強く思いました。そして、親や学校の先生に対して心に刻み込まれた感情は、「怒り」であり、「拗(す)ねる」というものでした。

「『将来、何になりたいか』って聞いたから答えたのに、言わせておいて否定するの?

それって、はじめから答えは決まっているよね!」

中学3年生の私に言わせれば、大人たちがやった対応は「あと出しジャンケン」。自分たちが望んでいる「答え」を言ってほしいだけのように思えたのです。

もちろん、今となっては私の父親や学校の先生が言った言葉の意図も理解できます。

その後、拗ねてしまった私は、いろいろありながらもアメリカに留学することになりました。その留学先の学校には、「進学カウンセラー」と呼ばれる人がいました。

そのカウンセラーから「ケンタロウは、将来、何になりたいの?」と聞かれた私は、内心、「また否定されるのだろうな」と思いながら、「将来は、F1カーの空力デザイナーになりたい」と答えました。

すると、カウンセラーはこう言ったのです。

「素晴らしい。じゃあ、どうやったら本当にそうなれるか、一緒に考えてみよう!」

日本とはまるで違う反応に、「素晴らしいの?」と私のほうが驚いてしまいました。この対応は正直、新鮮でした。自分の夢が認められた気がし、自由に言っていいんだなと感じました。

ところが、実際に夢を認めてもらって、いざ、「どうしたらなれるか、一緒に考えよう」と言われると、実は、何ひとつ具体的に考えていなかった自分に気がつきました。頭から否定されるとカチンとくるのに、いざ賛成されると何をしていいかを具体的に考えていなかった自分に気がつく。

「ああ、そうか。相手に現実を気づかせるには、こういうアプローチもアリなのだな」ということを知った、貴重な経験でした。

→否定されないとどうなるのか?

この両極端な体験、また近年私が数多くの経営者やビジネスパーソンをコーチングしてきてわかったことがあります。それは、

●否定ばかりされると、怒りが生まれる
●否定ばかりされると、オープンに話せなくなる
●否定ばかりされると、信頼関係が生まれにくくなる
●否定ばかりされると、自己肯定感が低下し、自信を持てなくなる

ということ。逆に、

●否定されないと、ポジティブな感情になる
●否定されないと、もっとコミュニケーションを取りたくなる
●否定されないコミュニケーションでは、信頼関係が生まれる
●否定されないコミュニケーションでは、自己肯定感が高まり、自信が持てる

というシンプルな「事実」です。

写真=iStock.com/Mikolette
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mikolette

「何を当たり前のことを……」と思う人がいるかもしれません。そのとおり、当たり前のことなのです。とはいえ、それをわかっていても私たちは「否定する」ことを意識的にも無意識的にも行っている「現実」があるのも事実なのです。

■「否定しない」が心理的安全性を生む

→「ポジティブ思考」「褒める」よりも効果的な方法

否定をやめるメリットでとくに大きいのは、個人間における「心理的安全性」が確保されることです。

心理的安全性は、もともとビジネスシーンでも注目されている考え方。ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソンが提唱した心理学用語「Psychological Safety(サイコロジカル・セーフティ)」の和訳です。

グーグルが2015年に「生産性の高いチームや組織には心理的安全性がある」という主旨の研究結果を発表したことで有名になりました。

心理的安全性をかみ砕いて説明すると、「チームにおいて、誰が何を言っても、どのような発言や指摘をしても、否定や拒絶をされたりする心配がない状態」です。

写真=iStock.com/John Wildgoose
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/John Wildgoose

逆に、人は否定される(ときに拒絶される)と、急に不安になったり、パフォーマンスが低下したりします。

そのため、どんなコミュニケーションを取っても相手が「否定しない」ことがわかっていれば、人は萎縮することなく思ったことを言い合えるようになるのです。

心理的安全性は、ビジネス的な文脈で語られるので、チームや組織においての話だと思われがちですが、個人間の一般的なコミュニケーションの場合でも、当然生まれます。

あなたが「否定しない」コミュニケーションの習慣を身につけることで、相手との関係性の中に心理的安全性をつくることができるようになります。

これができるとどんな変化が起きるでしょうか。相手側の目線で紹介してみましょう。

●何を言っても話をまずは聞いてくれる
●率直に自分の思ったことを言える
●安心して相談や会話、議論ができる
●失敗や小さなミスをしても責められることがない
●できないことをバカにされない
●いつもありのままの自分でいられる
●一緒にいて居心地がいいと感じる
●仕事が楽しくなり、やる気が出る

いかがでしょうか。

■「否定しない」。それだけでいい

これはあくまで一例ですが、「否定しない」ことで心理的安全性を確保できたら、とてもいい人間関係がつくれるとわかるかと思います。世間的には、「ポジティブ思考」「褒めること」の重要性が叫ばれていますが、そんなに難しく考える必要はありません。

林健太郎『否定しない習慣』(フォレスト出版)

「否定しない」。それだけでいいのです。

ここまでは、あなたが「否定」をやめることの効用をお伝えしましたが、大事なのは「お互いが否定しないコミュニケーションを行うことで、その効果はさらに大きいものになる」ということを理解することです。

心理的安全性は、ひとりではつくれません。お互いが否定しない関係をつくることで、否定や拒絶のない環境がつくられていきます。それが「心理的安全性が確保された状態」なのです。

そのためにできることは、一人ひとりが、まず「否定するコミュニケーション」をやめること。否定しない習慣を身につけることです。

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林 健太郎(はやし・けんたろう)
リーダー育成家
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。一般社団法人 国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、日本におけるエグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。リーダーのための対話術を磨くスクール「DELIC」を主宰。2020年、オンラインでの新しいコーチングの形態「10分コーチング」(商標出願中)を開発。
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(リーダー育成家 林 健太郎)