東京都の保育士・川崎陽子さん(40歳・仮名)は比較的、労働条件の良い保育園に勤めているが、夫と共働きでも2人の子の学費は賄えない。川崎さんは「そもそも保育士の仕事は専門職。業務量が多く、責任も重大なわりに給与水準が低すぎる。もやし27円に消費税がつくのが痛いと感じるほどです」という――。

※本稿は、小林美希『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

保育士の給与水準は月収10万円分も低い

うちの保育園は他と比べて給与も良いし、働きやすくて、満足して働けています。

私は、保育士資格のない補助者として5年前から働き始めて、1年前に保育士の資格が取れたばかり。それでも、給与が手取りで月20万円というのは、高いほうだと思います。

けれど、やっぱり保育士の給与水準は、全体として低いんですよね。全産業の平均より月10万円も低いって問題になったから、国が処遇改善措置を実施しているくらいなんですから。

3歳年上で食品関係の会社に勤めている夫の月給は手取りで26万円。世帯年収は約700万円ですが、共働きでも家計は厳しいです。

いかに節約して生活するかをいつも考えています。もし給与が横ばいのままで物価が上昇し続けたら、いったい、どうなるかと思うと、とても不安になります。

夫が転勤族で出張も多いので、賃貸マンション住まいです。3DKの部屋の家賃が月14万円ほどかかります。オール電化なので、光熱費が高いんですよ。月2万円もするんです。水道代もなんだか高いですよね。2カ月で1万5000円です。収支はトントン。かなり頑張らないと、貯金できません。

■もやし27円の消費税を高く感じる

大学生と高校生の子どもがいて、食べ盛り。食費が月7万〜8万円はかかります。野菜の値段が上がったので、もやしを買う頻度が高くなりました。近所のスーパーのなかでも最安値の1袋27円で買うようにしています。27円に消費税がつくのが痛いですね。もやしナムルとか、もやしと葉物の野菜をベーコンで炒めたり、安い食材を使った料理のレパートリーが増えちゃいましたよ。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

野菜は……高いので避けたいですね。どうしても欲しい野菜は、割引シールがあるものを買います。少し前まで、たまねぎが3個で98円だったのに、今は300円を超えるでしょう。たまねぎをたくさん使うハヤシライスやバターチキンカレーは作らなくなりました。あまりにも節約を頑張ると疲れるので、できるだけ買った食材を無駄にしないようにしています。

■私立大学の授業料など、2人の子の学費がしんどい

子どもが小さい頃は小中学校の給食を無償化してほしいと思っていましたが、お金がかかり始める高校生から児童手当はなくなるんですよ。

大学の授業料の負担はとても大きいです。上の子が私立の大学に進学したので、入学金と前期の授業料だけで100万円も納入したんですよ。半期で70万円の授業料がかかるなんて。

あんまり学費が高いので、コツコツと貯めた貯金では足りずに、学費の一部は奨学金を借りました。本当は全額奨学金で賄えたらと思ったのですが、月4万円ちょっとしか借りられませんでした。

写真=iStock.com/Khongtham
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今、高校に通っている下の子が大学に進学すれば、ダブルで学費を捻出しなければならないんです。私立は高い。どこも初年度に130万円くらいかかるし。国立大は授業料が安くても、数は少ないし、偏差値が高すぎて、誰もが入学できるわけではないし。

大学全て、無償化されればいいのにって、本当に心からそう思います。下の子も私立になったら、いよいよ副業しないといけないかもしれません……。

■園児が130人いる保育園の保育士は残業漬け

うちの保育園は、朝晩のシフトに入ればシフト手当が月3万円つくんです。だから、フルタイム勤務で稼がないと、って思っています。休みもとれるし、働きやすくて、ほとんど残業はありません。残業すればもちろん、きちんと割増賃金が支払われます。

ずっとブラック保育園でばかり働いていた同僚は、うちの保育園で働いて、待遇がよくてビックリしていました。有給で夏休みをもらえて、子どもの看護休暇も有給ですし。

同僚が前に働いていた保育園は月給15万円程度で、保育士2人で朝7時から夜7時まで勤務だったんですって。土曜勤務もあって、残業しても残業代が出ない。

次に有名な社会福祉法人の保育園で勤めたそうで、園児が130人いる大きな保育園に配属されましたが、まったく帰れないんです。園児が多い分、業務が多くて毎日夜の8時頃まで園にいたそうです。

私の職場は保育士の待遇をきちんと考えてくれていますが、どうしても、そもそも保育士の仕事は業務量が多いんです。

■園児たちはかわいいが、責任のわりに賃金が低い

保育士は、ただ子どもを預かるだけではありません。専門的な知識をもって子どもの年齢ごとの発達を考えて、保育園での生活や遊びを通して学んでほしい、身につけてほしい、発達してほしいことを「保育計画」にまとめて、日々の保育にあたるのです。

保育士は、年間の保育計画、月ごとの保育計画の「月案」、週ごとの保育計画の「週案」を作るんです。園児一人ひとりの健康の状況、成長や保育の経過などを記録する「児童票」も作成します。保護者との間で交わす連絡帳には、日々の様子はもちろん、食事の量やトイレの回数も記入します。一日の全体の様子を知らせるクラス日誌も書くので、書類業務も多いんですよ。

写真=iStock.com/itakayuki
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他の園より給与は高く、働きやすいので会社に対する不満はないのです。保育士の仕事はやりがいがあるし、園児はとても可愛い。けれど、やっぱり保育士は仕事量も多くて、責任は重大です。それを考えると保育士全体の賃金水準は低いと思えてならないんですよね。

フルタイム勤務で朝晩のシフトに入らないと、とたんに家計は苦しくなってしまいます。私も、もう40代。体力的にきついですよ。仕事は好きですけど、どっと疲れが出た時にリフレッシュする経済的な余裕があればなぁ、と思います。

■ヨガや家飲みがささやかなぜいたく

職業柄、どうしても体力を使うし疲れるので、リフレッシュしたいときは週末にヨガに通います。

コロナの感染が拡大する前は、ママ友に誘われて飲み会にも行きましたが、今は、出費がかさむし、やめておこう、そう思います。だって、飲みに行ったら、どうしても5000円くらい払うことになっちゃうじゃないですか。もったいないです。

だから、たまに家でお酒を飲むのが気晴らしですね。炭酸水は近所で一番安いスーパーで買ってきて、ハイボールを自分で作ります。ペットボトルより缶が安いので、だいたいは缶で買います。

■子育ての予算を増やさない政治家に腹が立つ

私たちがこういう生活を送っているのに、政治家ってなんなんでしょうね。「パパ活」がスクープされたり、不祥事ばかり。議員に選ばれたら不祥事を起こさず、しっかりやってほしい。私たち下々の者が暮らしやすくなるようにしてほしいですよ、本当に。

子育て関連予算って、年間に約3兆円くらいなんですよね。そのうち、保育園や幼稚園の運営費って、いくらなんですか。

写真=iStock.com/istock-tonko
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子育ての予算はなかなか増えないのに、防衛費はいとも簡単に増やすじゃないですか。政府がこれから5年で防衛費を倍にするんでしょう。今でも5兆円を軽く超えているんですよ。それが倍になって10兆円になるって、どういうことなんですか。

こういうニュースを見ると、どの政党を支持するとか、イデオロギーがどうかという問題ではなく、予算を倍にするのは防衛費ではなくて、保育や教育の分野だろうって、普通に思いますよ。

自分の生活もギリギリ。子どもの将来もどうなるか。遠くに住む私の親の健康も心配です。私だって、血圧が高くて健康不安があるんです。本当に、これから何が起こるか分かりません。

■岸田総理の待遇改善案に「一桁違うのでは?」

岸田文雄首相が保育士や介護職などに対して月9000円の賃上げをすると言った時、正直、一桁違うのではないかと思ってしまいました。月9万円アップなら、辞める保育士も減るとは思いますが……。各党の公約を見ても、本当に実現してくれるとは思えません。けれど、選挙権を無駄にしないために毎回、投票に行っています。

私は子育てが一段落してから保育士資格を取得し、保育園で働いて5年が経つのですが、やりがいある職業でも、やっぱり、そもそも国が決めている賃金の水準と仕事の量・責任は見合わないと思えてならないです。

■子どものため、自分のことは二の次にするしかない

もし、収入が増えたら、クラリネットを買いたいですね。音楽が好きなんです。良いものは100万円するから、夢のまた夢です。

小林美希『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社現代新書)

まずは子どもたちの学費を払わないと。自分のことは二の次です。なんといっても2人が私立大学に行ったら、年間120万〜130万円の学費を4年、それを2人分ですから。

大学、無償化されないんでしょうか。学費……本当にヤバいです。児童手当って、なんで中学を卒業する年齢で終わるんですかね。お金がかかってくるのは高校生からなのに。悲しくなりますね。

夫がまた転勤になるとつらいです。子どもたちの進路があるから、ついては行けないです。でも、夫が単身赴任すれば二重生活になって生活費が大変なことになる。転勤の辞令が出ないことを祈るばかりです。

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小林 美希(こばやし・みき)
労働経済ジャーナリスト
1975年茨城県生まれ。神戸大法学部卒業。株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリストに。13年「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。著書に『ルポ 保育格差』など。
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(労働経済ジャーナリスト 小林 美希)