四半世紀以上ヘッドハンターとして人材紹介業をしている著者の目線から、独立か転職かで迷う方に向けたアドバイスをお届けします(写真:Mills/PIXTA)

「場所と時間に捉われない働き方」「企業依存型からの脱却」「独立やフリーランスの増加」「出世の意味合いの変化」など、この数年で私たちの働き方は大きく変わりました。誰もがキャリアを主体的に選ばざるを得ない時代、私たちはどのようにキャリアを描いていけば良いのでしょうか?

転職3回、独立1回を経験してきた佐藤文男さんの著書『働き方が変わった今、「独立」か「転職」か迷ったときに読む本』から内容を一部抜粋・再構成してお届けします。第2回は、ヘッドハンターの目線から見た、独立か転職かで迷う方に向けたアドバイスです。

2022年現在、「転職」は誰しもが経験する可能性のあるような、当たり前のものになりました。とくに最近では、20代でも転職を3回〜4回といったペースで行う方も出ていますが、四半世紀以上ヘッドハンターとして人材紹介業をしている私からすると、年代と比べて多すぎるように感じています。

私が求職者を見る際に基準にしているのは、20代で0〜1回、30代で0〜2回、40代で0〜3回、50代0〜4回の転職回数です。

転職回数が増えてくると、企業の採用担当者は経歴書を見ただけで「この方は弊社でご縁があったとしても、すぐに辞めてしまうのではないか」と勘ぐってしまい、書類審査の段階でアウトとなってしまう可能性が高くなります。いわゆる「ジョブホッパー」の仲間入りをすると、どんなに優秀な人だとしても、転職市場では採用側の見方が変わってしまうことをまず肝に命じましょう。

さまざまな意見があると思いますが、私は現代でもキャリアを構築していくうえで「石の上にも三年」は真実だと考えています。

独立か、転職か、現職に残るか

新型コロナを経て、私たちは転職だけでなく「独立」という道も広く一般的になりつつあることを肌で感じているのではないでしょうか。今後は誰もが転職だけでなく、独立の選択肢も視野に入れてキャリアを形成する可能性があります。

その際にまず目を向けるべきは、「現職での目標達成の状況」です。

現在勤務する会社を離れる決断をする前に、現在の会社で掲げた目標をどの程度達成したか、今が会社を辞めるタイミングかどうかを見極めるようにしましょう。もし、上司や同僚からのハラスメントといった深刻な状況がある場合は別にして、ただ漠然と会社を辞めたいと思っているだけなら、まずは現在勤務する会社に踏み止まることも選択肢に入れることが大切です。

現在、私自身が転職の相談を受けるなかでは、およそ3人に1人の割合で転職にストップをかける結果になっているのが実状です。そうした転職にストップをかける方に対しては、相談の最後に「現在勤務する会社にもう少し残り、専門性を磨いて実績を出すことに注力したほうが良い」とアドバイスさせていただくことが多いわけです。

それでも現在勤務する会社を離れる決意をして、「次の世界に飛び込みたい」という状況で独立か転職かを悩んでいるのならば、私は間違いなく「転職」の選択肢のほうをおすすめします。なぜなら、私自身も独立と転職の両方を経験していますが、どちらのほうがハードルが高いかというと、もちろん独立のほうが成功するハードルが高くなるからです。

当たり前のことですが、会社に勤務していれば、実績の良し悪しにかかわらず、毎月一定の給料が自分の口座に振り込まれていきます。ところが、いざ独立するとなれば、途端に毎月普通に入ってくる給料が突然なくなることも十分に想定されます。

ある意味、自動的に毎月入ってくる収入がないということは、言い換えればスムーズに生計が立てられなくなる状況もありうることを決して見落としてはならないのです。

将来的に独立を考えているなら

今は転職の道を選んだとしても、いずれは独立を考えている人も増えてきています。

そんな人には、ぜひともベンチャー企業を転職先としておすすめします。ベンチャー企業であれば、会社としてのブランド(看板)が確立されていませんし、かつ小規模の企業なので会社としての体制が構築されておらず、仕事内容も何でもかんでも引き受ける必要に迫られます。

会社名を名乗っても相手は知らず、会社説明から入る必要があるベンチャー企業は、将来の独立に向けて自分を研鑽するための良い修行の場であるといえます。

私自身も振り返ると、商社やメーカーなど、大企業での経験しかなかったところから、将来の独立も視野に入れて20人前後の小さなヘッドハンティング会社に転職しました。そこでの経験が、その後の自らの独立の際に大変役立ちました。何も完成されていないベンチャー企業に転職し、仕事は基本的に何でも引き受け、資金的な余裕もない中で率先して自ら動かざるを得ない状況が、独立を後押ししてくれるのです。

とくに、前回の記事(「1人で始め、従業員は増やさない」起業を勧める訳」)でも書いたように、役員経験も独立する際に大きく役に立ちます。なぜなら役員になるということは、社員に給与を支払う責任や、社員の家族や生活を守る責任など、会社の経営の一翼を担う立場になることだからです。

まずは会社員の経験を

私は現在、山梨学院大学で「実践キャリア論」という授業を実施していますが、その受講生から就職をせず最初から独立起業したいという声を聞くようになりました。

かつてはまず就職し、その就職先で会社員生活を終えるか、もしくは転職という選択肢しかなかったのですが、最近では10代後半から20代前半の世代でも、就職を経験せずに最初から起業して独立するというスタイルが選ばれる流れが出てきました。

しかしながら、会社を興して自分で回していくということは、並大抵のことではありません。ですから、社会人としてまずは就職、転職と会社員を経験し、最低でも3〜5年程度の実務経験を積み重ねることをおすすめしています。


その実務経験値をベースに独立すれば、独立した際の成功するための下支えにつながっていきます。

10代後半から20代前半の若い世代が、最初から就職せずに独立起業することを頭ごなしに否定するつもりはありません。しかし、独立した後に経営を長く続けていくためには、企業規模は問わず会社での社会人として勤務する経験値があるに越したことはありません。

このように「就職→転職→独立」というステップで独立したほうが、独立後に会社を継続させていくための基本スキルを身につける意味でも、持続可能かつ理想的なキャリアの描き方なのです。

(佐藤 文男 : 佐藤人材・サーチ株式会社 代表取締役)