公務員の不祥事が相次いでいます。この問題を取材しました(写真:ma3to/PIXTA)

補助金の不正受給や4630万円の誤振り込み、住基ネットから個人情報収集など、この1年を振り返ってみても公務員の不祥事が止まらない。

こうした職員の不祥事が繰り返されてしまう原因はどこにあるのか? 公務員の組織に詳しい太田肇・同志社大学教授、職員の副業推進など組織改革を精力的に進めている小紫雅史・奈良県生駒市長に聞いた。

公務員不祥事が止まらない。11月5日、東京都内の区役所の職員が住基ネットを操作し、個人情報を収集して知人に渡したとして住民基本台帳法違反の疑いで警視庁に逮捕された。

警視庁幹部によると、職員は区民課に勤務し住基ネットシステム(住民基本台帳ネットワークシステム)へのアクセス権限があり、収集された個人情報は男女20人以上におよぶという。警視庁は、個人情報が職員の知人を経て暴力団関係者に渡ったとみて捜査している。

今年5月には誤振り込みがあった

ここ数年だけで見てみても、公務員の不祥事やミスは留まるところを知らない。昨年には、補助金の不正受給でキャリア官僚2人が詐欺の罪で逮捕・起訴。今年5月にも、中国地方の某県で、低所得者463人分への給付金が誤って1世帯、金額にして4630万円が振り込まれた。受け取った男性が一時、全額を使い切ってしまい警察に逮捕されるという事件に発展した。

なぜこういったことが繰り返されてしまうのか。組織論が専門の太田肇・同志社大学教授は、「個人と組織両方に問題がある」と指摘したうえでこう説明する。

「まず個人の問題だが、公務員は個人情報など、職員でないと接することができないような情報に日々接していることが多い。職員のなかにはこれを自分が預かってるからとか、自分が自由にしていいとか、そうした錯覚に陥っている人たちがいる。一般の市民と同じ感覚で、その情報に接しないといけないという認識が希薄だったのではないでしょうか」

今回の事件では、部下に対する上司の監視体制が不十分だったと思われても仕方ない。事実、逮捕された職員が住基ネットのシステムにアクセスするにあたり、ログインには静脈認証が必要だったが、検索自体は自由にでき、上司の許可は必要なかったという。また職員が所属していた区民課が扱う個人情報は膨大だったことから、職員1人ひとりの業務が煩雑になっていて、区民課内部での相互のチェックも行き届いていなかったようだ。

一方で、太田教授は「私は組織の問題のほうが大きいように思う」とも述べる。

「役所に限らないが、日本の組織というのはおおむね閉鎖的であり、内部の論理で動く。私はそれを『共同体型組織』と呼んでいる。その共同体型の組織の特徴で顕著なのがジョブローテーションであり、部署や仕事の特性に応じたマネジメントが十分に行われない傾向がある」

「大事なのは、そこで情報の取り扱いについて厳しく指導が行われたかどうかということ。役所全体が共同体になっていると、外部と役所内部との間に大きな壁ができる。常に外部の目、つまり社会の目にさらされているというような感覚が鈍くなっていく」

さらに、相互のチェックがききにくい公務員組織の特徴として、「役所の業務がそれぞれの部署でタコツボ化している」点を指摘する。

「まず、仕事の役割分担が明確になってないということが、職員個人が組織のなかに溶け込んでしまっている原因だと思う。職員個人の役割が明確になっていれば、その場の空気で物事が決められたり、組織を隠れ蓑にした無責任な仕事が行われたりすることがなくなる」

奈良県生駒市の取り組み

こうした公務員の組織の問題に対して、リーダー自らが率先して動き、根本的な解決策を見出そうとしている自治体もある。

奈良県の北西部に位置する生駒市では、かつて市内の消防署で不祥事が相次いだ。消防士長が窃盗容疑で書類送検されたほか、救急隊が搬送先を間違えるなど、ミスは数件に及んだ。これを受け、当時副市長だった小紫雅史市長が全消防職員約130人と面談を行い、現場の悩みを吸い上げて改善策に反映させた。

小紫市長は当時のことをこう振り返る。

「消防署員全員と面接して、細かい問題点が次々と明らかになった。同時に署員1人ひとりは強い使命感を持っていて、とくに一部の若い署員からは、組織を変えていきたいという気概も感じた。一方で、署員の意見を取り入れて消防のあり方を変えていこうというリーダーシップが、組織として非常に遅れていたことを痛感した」

今回の事件についても、「周囲の気づきがあったかどうかが重要」だと述べる。

「不祥事の発覚した部署では、誰かが事前に問題点に気づいているもの。ただ、それを指摘したり改善しようと行動したりする人材がすごく少ない。変えていくことには、リスクや責任が伴うかもしれないけど、職員が自分の裁量で、もっと自主性を持って自分で判断して、その場その場の問題に対処していかなければならないと思う」

組織の問題を改善していくうえで一番大事なのが、「リスクに対する職員の理解を深めること」だと小紫市長は強調する。

「リスクというのは、つまり『悪いことしたらやばいよね』『こんなことが起こったら大変だよね』という感覚のこと。だからこそ、普段から起こりうるリスクをすべて掘り出しておく。また、実際に不祥事が起きたときに、まず何をするのかということを順位付けして具体的にシミュレーションしておくことで、起こったあとの対処も迅速に進めることができる」

どのような公務員が求められるか

縦割りなど、旧態依然たる役所のさまざまな「病巣」を取り除いていくためにも、今後どのような公務員が求められていくのだろうか。前出の太田教授は、これからの組織のリーダーには、これまでのリーダーとは違う能力が求められると考える。

「従来型の管理ではなく、サポート・支援するという方向にウエイトが移っていくだろう。これも部下の自律性が高まってはじめて可能になるわけだが、能力を引き出して活躍できるような場を与えたり、情報を提供したりする。イメージとしては管理職というよりも、ファシリテーターやコーディネーターのような役割を果たすようになってくると思う」

そのためには、組織の問題の具体的な解決策として「外部の力を借りるなどさまざまなアプローチが重要」と指摘する。

「やっぱり外部から人材を獲得したり、活用したりすることは大事だと思う。ただ、そこで民間企業からという発想になるのではなく、例えば欧米では公務員の間での労働市場があるように、日本でも公務員、あるいは準公務員、NPOやNGOなど広い意味で公的な仕事に携わる人たちのなかで人材の市場ができればいい。メリットとしては、公的な仕事の経験者なら少なくとも機密情報の扱いについては安心して任すことができるだろう」

職員1人ひとりが分け隔てなく臆せずものが言える組織づくりをリーダー自身が率先して進められるかどうか。公務員組織の未来はリーダーたちの気概にかかっているといえそうだ。

(一木 悠造 : フリーライター)