【決勝T進出・独占掲載】堂安律の“圧倒的自信”を支える“底知れぬ覚悟”「考えてみてください。漫画だったら3月に代表落ちした時点で、W杯本番で活躍するのは俺、という展開になりそうじゃないですか?(笑)」

カタールW杯・スペイン戦で起死回生の同点弾を叩き込み、日本代表を決勝トーナメントに導いた堂安律。グループリーグ初戦のドイツ戦で沈めた歴史的ゴールに続き、再び世界を驚かせた“有言実行の男”が3か月前に語っていた「人生でいちばん覚悟を決めた瞬間」とは?

「ドイツで活躍できなかったら、キャリアはここで終わるんやな」

ドイツ、スペインという世界の強豪相手に大逆転勝ちをやってのけ、グループE首位で決勝トーナメントに進出した日本代表。ドイツ戦に続き、またしても値千金の同点弾をぶち込み、大躍進の立役者となったのが堂安律だ。

ドイツ戦後に「決めるのは俺しかいない」、スペイン戦後に「これで1戦目が奇跡じゃなくて必然で勝ったと国民の皆さんに思ってもらえる」と言い切るなど、24歳の“漢気レフティー”はプレーだけでなく、その言動でも日本中から注目を浴びる存在となった。

弱冠20歳で日本代表デビューを果たし、出場3試合目の強豪ウルグアイ戦で初ゴールを挙げるなど順風満帆なサッカー人生を送ってきた堂安だが、実は3年前にサッカー人生最大の挫折を経験した。週刊プレイボーイ(集英社刊)の連載コラム「堂安律の最深部」では、その大きな壁を乗り越えた当時の心境について赤裸々に明かしている。

「PSV移籍1年目には、人生で初めて、怪我もしていないのに試合に出られないという経験をして、次のシーズンが始まる前に(ドイツ・ブンデスリーガの)ビーレフェルトへ移籍したんですけど、そこから肝の据わり方が変わりました。『ドイツで活躍できなかったら、俺のサッカー選手としてのキャリアはここで終わるんやな』と本気で思いましたから。人生でいちばん覚悟を決めた瞬間でした。

以前は『俺はやれるんだ』『俺は強いんだ』と自分自身に対して強気な言葉を言ったりもしていたけど、そういう無意識のカッコつけがなくなりました。『ここでダメなら、サッカー選手としてのセンスがなかったってことやから、もうしゃあない。どうせなら思いきって楽しんでやろう!』って心の底から吹っ切れたというか。俺にはもう失うものないんで。腹をくくって覚悟を決めちゃえば、怖いものなんてないんですよ」

壁を乗り越えて実感した“今”の大切さ

「俺にはもう失うものはない」と吹っ切れてブンデスリーガに挑み、ビーレフェルトを残留へと導く大活躍を演じた堂安。昨季はオランダ・エールディビジへと復帰し、PSVでシーズン2桁得点を記録。充実のシーズンを終え、W杯を3か月後に控えた今季開幕前にはフライブルクへと完全移籍を果たした。

心技体が充実し、結果もついてきたこの時期に、堂安は「“今”に集中することの大切さ」を実感していた。

「以前は先のことばかり、未来のことばかり考えていて、今が疎かになっていたんですよね。夢は持たなきゃいけないけど、夢を見すぎちゃダメ。夢しか見てないやつは足元をすくわれます。俺が経験しましたから。もちろん、大きな目標を掲げることはすごく大事だし、例えば、年に2回くらい目標を紙に書いて頭にたたき込んだら、そこからはその目標を忘れてがむしゃらに毎日過ごさないと。それが一番の近道なんですよ。

そうやって思えるようになったのは最近です。ビーレフェルトにいたときも、昨季PSVに戻ってからも、目の前のことに必死で集中していたので、そういうことを考えるタイミングもなかったので。いろいろメンタルについて勉強してきたけど、そういうことじゃなかったですね……。

勉強することも大事ですけど、実際に経験して心の底から納得しないと自分はなかなか変わらない、ということをこの数年で身を持って実感しました。今まで俺は経験の大切さって、そんなに信じてこなかったんです。『経験なんてしなくても、経験せずに結果を出せばいい』と思っていたけど、『ああ、こういうことだったのか!』と今は思います。サッカー選手としてだけじゃなく、ひとりの人間として大事なことを学べた気がします」

もっと堂安律というストーリーを楽しんでほしい

インタビューでのまっすぐな発言から、勝気な性格と思われることも多い堂安だが、関西出身らしくユーモアセンスは折り紙付き。所属クラブで充実したプレーを披露していたものの、日本代表では思うように結果を残せていなかった時期でも決して悲観せず、茶目っ気たっぷりにこんな“言霊”を唱えていた。

「ここ数年、壁にぶつかったりもしたけど、俺に注目していないなんてもったいないですよ。だって考えてみてください。もし漫画やドラマだったら、3月に代表落ちした時点で、W杯本番で活躍するのは俺、という展開になりそうじゃないですか?(笑)

もっと堂安律というストーリーを見てほしいし、楽しんでほしいですね。面白いものを見られると思いますよ。『今シーズンで人生が変わりそうな気がする』って少し前にも言いましたけど、そんな予感がするんですよね。今の自分なら、願えば必ず実現できると信じています」

スペイン戦勝利の歓喜から1時間後、堂安はツイッターを更新し、短くこうつぶやいた。

「優勝するよ!!」

自分を信じ抜き、底知れぬ覚悟で大きな壁を乗り越えた“有言実行のヒーロー”が、またひとつ、とてつもない“言霊”を唱えてくれた。