【スポーツメンタル】”生理移動”、ピルの活用で女性アスリート”悩みの種”を解決
”子供を産める身体”にするための身体の重要な仕組みである生理。分厚く準備した子宮内膜の壁が妊娠不成立の場合に剥がれ落ち、体外に排出されます。生理自体は、1ヶ月に1度約1週間ほどの期間。しかし生理には、周期があり身体やメンタルの好不調が伴います。普段の生活はもちろんスポーツ選手にとっては尚更”悩みの種”であり、女性アスリートのパフォーマンスを左右すると言っても過言ではないものです。今回は、スポーツ選手の生理への向き合い方についてお話します。
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女性ホルモンによる”生理周期の好不調”
男性とは全く異なる身体の作りで女性の身体にあるのは、女性ホルモンによる生理=月経という仕組み。関係するのは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)という2つの女性ホルモンの分泌です。
一般的な女性の生理周期は28?30日の約4週間を1サイクルとして生理が始まって約14日目に”排卵”が起こります。1週目(生理中)は、体温を上げる黄体ホルモンの分泌がなくなるため、体温が下がり身体が冷え血行が悪くなりやすい時期。生理痛、頭痛、胃痛や生理の出血により貧血気味やだるさが現れることもあります。
生理終了間際には、卵胞ホルモンの分泌が始まるため生理中の不調が改善されていきます。2週目(生理後)は、卵胞ホルモンの分泌が高まるため肌や髪のツヤも良く、心身ともにイキイキと充実する時期。卵胞ホルモンは、排卵の時期により一層女性らしさを増します。3週目(排卵後)は、黄体ホルモンの分泌が始まり子宮内膜が分厚くなっていきます。
下腹部の微々たる違和感を感じる時期。心身ともに気持ちは高まりますが、黄体ホルモンはメンタルを不安定にすることもあり、2面性あるデリケートな期間でもあります。4週目(生理前)は、黄体ホルモンが活発になり、体温が上がり、むくみ、肩こり、頭痛などのPMSと言われる不調が現れることがあります。
またイライラや不安感などメンタルが不安定になる時期。この4つの時期を繰り返し、妊娠や出産という大きな役割のために”産める身体”になるのです。
年齢による”身体の変化”
年月を重ねるごとに女性ホルモンの分泌量や動きが変化し、年代によって少しずつ悩み方も変わってきます。幼年期と呼ばれる0?8歳頃には、女性ホルモンがまだ働いていませんが卵巣の中には数万の数の卵子となる原始卵胞が作られていきます。思春期と呼ばれる8?18歳頃には、少しずつ女性ホルモンの分泌が始まりふっくらと丸みのある体つきに変化します。
11?14歳頃には初経(初めての生理)を迎え、15?18歳頃に排卵や月経が安定し妊娠や出産に備える身体つきになります。性成熟期と呼ばれる18?40歳半ばには、身体の機能が成熟し女性ホルモンの分泌が順調で仕事、恋愛、結婚、妊娠、出産、子育てに関わる充実した時期です。
更年期と呼ばれる40歳半ば?50歳半ばには、女性ホルモンの分泌が少なくなり卵巣の働きが徐々に衰えてきます。一方で卵巣を刺激するホルモンが増えるため、ホルモンバランスが崩れます。この更年期障害と呼ばれる症状でさまざまな不調が現れます。個人差はありますが、やがて閉経(生理終了)を迎えるのです。
生理時の”メンタルコンディション”
”腹痛、頭痛、そしてメンタル面の不調を感じる女性が多いのが生理の時期。特にメンタル面では「生理が試合に重ならないか不安」「生理周期による好不調を意識してしまう」「生理周期にトレーニング内容を変える必要がある」「生理出血による貧血の心配がある」と生理を”必要悪”のように捉える傾向にあるのが現状です。
生理がきちんとくる”女の体”になってしまっては競技力が下がってしまうと考える指導者も多いと言われています。思春期から成熟期の女性にとって排卵があり生理があることは将来的に子供を望む際に必要な事であるのに、”無月経の方がマシ”と誤った観念を助長することになってしまいかねません。それほど生理がコンディションに及ぼす影響は大きいのです。
85%の女性アスリートが、生理周期に伴いコンディションに変化があると自覚しているそうです。その中でもコンディションが良い時期として一番多かったのが”生理終了直後から数日”。黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌される時期には、月経前症候群(PMS)を感じる人が多いです。倦怠感、むくみ、体重増加、乳房豊満感、気分変調などの不調。また生理中には、生理痛を感じる人も多いです。
生理周期による身体の不調の改善方法として痛み止めを服用する他にも”生活のリズムを整えること”や”アロマテラピー”などで気持ちをリラックスさせる方法があり、実践している人も多いです。また、”ツボを押すこと”や”体を温めること”そして”食事を意識すること”で緩和を望めます。
しかし近年、試合中に生理の時期を避ける=生理移動させることがコンディション調整の手段として活用されています。海外では既に常識的にも考えられている生理移動。ところが日本のトップアスリートの66%が「コンディション調整のために生理移動という手段があるなんて”考えたこともなかった”」と話しています。
この”生理移動”のメリットは、単に生理が試合に当たるのを避けるためだけではなく、そのスポーツ選手個人のコンディションが良いと感じる時期に逆算して合わせることも可能になることなのです。
”低用量ピル(OC)”による生理移動
日本のスポーツ選手にまだ浸透していないコンディション調整のための手段である生理移動。使用される低用量ピル(OC)ですが、初めてこの薬剤を利用した人は、悪心や体重増加などの症状を感じた人もいるそうです。そのため内服期間中に試合を迎えるのではなく、試合前には低用量ピルの服用を終了するという余裕を持つことがオススメ。
例えば、前の生理3日以内に低用量ピルを開始し試合の1週間前に服用を終了します。すると出血の終了後に試合を迎えることができるのです。また試合に関わらず、重い生理痛や月経前症候群(PMS)に日常的に悩まされているのであれば低用量ピルの定期内服への移行を試すこともできます。
女性アスリートの低用量ピルによるコンディション調整。海外では既に活用している選手も多いですが、日本のトップアスリートはわずか2%に満たないと言われています。
しかし近年では、テニスや自転車競技など海外で活躍するスポーツ選手の低用量ピル服用者が増えつつあります。多くの人に知ってもらうことで生理周期によるコンディション影響にばらつきがなくなり、よりパフォーマンスの向上が期待できることは間違いありません。もちろん選択肢の一つではありますが、あらゆる情報を知っておくことが重要だと考えています。
今回は、悩む女性アスリートが多い”生理”についてお話しました。女性として”子供を産むため”に大切な身体の仕組みであるものの、スポーツ選手として考えるとパーフォーマンスに影響する生理は”悩みの種”。身体の不調を感じることでメンタルも大きく左右されてしまうため、指導者や選手自身も生理を”必要ないもの”と感じてしまいかねません。
しかし、生理がどんなもので年齢によって女性の体がどう変化していくのかを男性の指導者やスタッフが理解してくれることで女性アスリートも心強く感じることができます。また日本で浸透していない”生理移動”という手段。十分に理解したうえで上手く活用すれば、試合など一番大切な時期に向けてコンデションを調整することができます。
今後もスポーツ選手にとって有益な情報を発信し続けていきたいと思います。
[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]
※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。
一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人
1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。