近年のクルマは、サイドミラーの位置が以前と変わっています。ドライバーから見てやや手前にくるよう、やや後ろへ下げた位置となっている車種が増えているのです。しかし従来通り「Aピラーの根本」とするメーカーも。違いは何なのでしょうか。

フェンダー→Aピラー付け根→さらに下げるかサイドミラー

 2022年夏から秋にかけ、トヨタ「クラウン」「プリウス」、日産「エクストレイル」、マツダ「CX-60」といった新型車が登場しました。これらには、地味ではあるものの、共通する特徴が存在しています。それがサイドミラーの位置です。サイドミラーがドアの付け根にあたるAピラーの根本からではなく、ドライバーから見てやや後退し、ドア本体に直付けされる形で伸びているのです。


上のクルマはサイドミラーがAピラーの根本につく。下のクルマは位置をやや後ろへ下げてドアに直付けされている(乗りものニュース編集部撮影)。

 個人的な考えでいえば、正直、サイドミラーはAピラーの根本にあったほうがスマートに見えます。そもそもサイドミラーは、格好良さを求めてAピラーの付け根に移動したという歴史を持っています。

 今から40年以上前、昭和のクルマのサイドミラーはドアよりずっと前方のフェンダーについているのが一般的でした。サイドミラーがフェンダーにあれば、前方を見ているときに視線の移動なくサイドミラーも見えることが、そこに設置された理由です。

 ところが、海外では、フェンダーではなくAピラーの付け根であるドアにサイドミラーを取り付けることが流行ります。これは、フェンダーミラーに対してドアミラーと呼ばれ、この方が圧倒的に格好良い、というのが世間一般の意見だったのです。

 そのため、安全性にこだわって抵抗していた日本のお役所も、世間の意見に負けて、1983(昭和58)年にドアミラーを解禁します。すると、日本で販売されるクルマは、あっという間にドアミラーだらけとなってしまいました。

 とはいえ、運転しやすさという意味では、やはり視線移動の少ないフェンダーミラーが上。そのため、業務に使う=格好は関係ないタクシー「JPN TAXI」には、今もフェンダーミラーが続いているのです。

 そんな格好良さを求めて、Aピラーの付け根に移動したサイドミラーを、さらに後ろに下げるのは、二重のネガティブさがあります。ひとつは「せっかく格好良い場所にあるのに、格好悪くしてどうする」というもの。そして「サイドミラーが後ろになればなるほど、前を見ているときからの視線移動が大きくなる。より見づらくしてどうする」というわけです。

 しかし、自動車メーカーが、何も理由なくネガティブなことをやるわけがありません。ズバリ安全のためです。

単純明快な安全対策 でも欧州では…

 実は、ドアの付け根、Aピラーのすぐ下にサイドミラーがあると、斜め前に運転手が見えない死角が生じてしまうのです。サイドミラーの視界をよくしようと、ミラーを大きくすればするほど、斜め前の死角は大きくなります。交差点を曲がった先に横断歩道があるようなシチュエーションでは、サイドミラーが非常に邪魔になってしまうのです。

 そこでサイドミラーを下げるとどうなるか。Aピラーと、下がったサイドミラーの間から向こうが見えるようになり、死角を減らすことができるのです。安全性を気にする自動車メーカーとしては、お金もかからないうえに安全性も高まるという、メリットだらけの手法となるのです。

 そうした手法を採用するクルマは2000年代にちらほらと登場しました。ホンダの「フィット」は2001(平成13)年の初代からAピラーの付け根から後ろにミラーが設置されていましたし、「プリウス」も2003(平成15)年登場の2代目より同様の手法を採用。2010年代に入ると、マツダやスバルのほとんどのモデルは、サイドミラーがAピラー付け根ではなく、ドアになっています。

 しかし、特に欧州車はAピラー派が、まだまだ主流のような状況です。

 BMWは、そのほとんどのモデルがAピラーの付け根にサイドミラーがあります。メルセデス・ベンツは電動車であるEQシリーズの一部がドアについていますが、CクラスやEクラス、Sクラスといった伝統的なセダンはすべてがAピラーの付け根です。また、プジョーやシトロエンもAピラー付け根が多数派です。フォルクスワーゲンは、「ゴルフ」や「パサート」がドアで、「ポロ」や「T-Roc」はAピラー付け根で、半々くらいという状況です。


メルセデス・ベンツのEQS(上)はドアに、SクラスセダンはAピラーにサイドミラーがついている(画像:メルセデス・ベンツ)。

 ちなみに、トヨタで言えば、「ヤリス」と「スープラ」は、いまだにAピラーの付け根にサイドミラーがあります。ヤリスは欧州で人気のモデルですし、スープラはBMWとの共同開発車。日系モデルでも、欧州向けであれば、Aピラーの付け根にあるモデルが残っているのです。

 欧州車でも新しいモデルほど、Aピラーからドアへサイドミラーの位置が移行してきてはいるものの、Aピラーの付け根のモデルが多いのは、デザイン優先であったり、伝統的な配置を重視するという欧州ならではの特徴が理由かもしれません。