かつて“酷道”として知られていた国道421号「石榑峠」。その峠を一気に抜ける長大トンネルが開通して10年以上が経ち、他の箇所の改良も進んでいます。三重〜滋賀を結ぶ並行3ルートのうち、なぜこのルートが“選ばれた”のでしょうか。

冥界の入口かのごとき「ゲート」があった“酷道”石榑峠

「国道」のイメージにそぐわないような、細く荒れた道路だったり、そもそも車道がない通行不能区間があったりする路線は、「酷道」とも呼ばれます。そうした路線の改良が進んでいるところもあり、酷道は徐々にその数を減らしています。
 
 その一つとして、三重県桑名市から滋賀県近江八幡市に至る国道421号「八風街道」が挙げられます。険しい「石榑(いしぐれ)峠」を越えるルートは、その姿を大きく変貌させています。


石榑峠旧道にある車幅2m制限のゲート。酷道の象徴的な物件として知られる(画像:photolibrary)。

 石榑峠はある“名物”で知られていました。それは、県境部の最も狭い区間の前後に置かれた、いわゆる“いじわるゲート”。車幅2m以上のクルマの進入を防ぐべく、コンパクトカーの高さくらいまである重厚なコンクリートブロックが道路の両端に置かれ、物理的に幅が狭められているのです。ある意味、酷道の象徴のひとつといえるほど有名な物件で、旧道となった今も見に来る人が少なくないようです。

 この峠に代わって、県境を貫く4157mの「石榑トンネル」が開通したのは2011(平成23)年のこと。これにより、県境付近の最狭隘部はもちろん、冬季通行止め区間も解消されています。

 鈴鹿山脈で隔てられた三重県と滋賀県のあいだには、国道421号の北に306号、南に477号もありますが、この3ルートとも冬季通行止めでした。冬季も通行可能な国道21号(中山道)と国道1号(東海道)は直線距離で50kmほど離れており、421号ルートの改良により、その中間の短絡路が確保されたといえるでしょう。

なぜ石榑峠は改良されたのか

「阪神大震災以降、既存の国道を代替あるいは補完するような路線が注目され、そのなかで国道421号は306号、477号より優先して整備されました。(理由としては、三重から)ちょうど滋賀の中央部に出られ、トンネルでパスできる延長も一番長かったことが挙げられます」

 国道421号を管理する滋賀県東近江土木事務所の道路計画課はこう話します。トンネルの開通で、国道421号の三重県いなべ市と滋賀県東近江市のあいだは、2時間15分ほどかかっていたのが、約60分に短縮されました。

 より広域的に見ると、国道421号は“名古屋市から滋賀県中央部までの最短ルート”の一部と見ることもできます。三重県側では、桑名市内で伊勢湾岸道(湾岸桑名IC)、名四国道(国道23号)、東名阪道(桑名IC)を連絡するとともに、2019年にはいなべ市内で東海環状道の大安ICが開通したことで、そのアクセス路にもなっています。

 滋賀県側では名神の八日市ICに接続しており、大安IC〜八日市IC間は山越えで50分ほど。名古屋市〜八日市IC間をGoogle mapでルート検索すると、名神回りとともに、この東海環状道〜国道421号経由のルートも提示されるに至っています。


石榑トンネル(ドラレコ画像)。

 とはいえ、特に滋賀県側は「大型車のすれ違いが困難な箇所や、急カーブが残っています」と県の担当者は話します。実際に走っても、道がいきなり狭まる箇所がいくつかあり、その向こうで対向の大型車が通過を待ってくれていたシーンもありました。

 そうした箇所の改良を少しずつ進めてはいるものの、「まだ大雨や雪に弱いところもあり、安定的な道路になるには道半ば」だと話します。かつての酷道が、本当に見違えるほどの快走路になるには、もう少し時間がかかりそうです。