今から四半世紀前のアメリカ空母には攻撃専用機が多数搭載されていました。その中心を担っていたのがA-6「イントルーダー」。基本性能が良かったことから派生型もいくつか作られ、さらに専用の訓練機まで用意されていました。

四半世紀前は日本にも飛来していたA-6「イントルーダー」

 2022年現在、アメリカ海軍の艦載機はFA-18E/F「スーパーホーネット」が戦闘機と攻撃機の両方を兼ねるようになり、電子戦機に関しても派生型のEA-18G「グラウラー」が運用されているため、空母の飛行甲板は似たような機体ばかりが並ぶようになりました。しかし、いまから四半世紀ほど前、すなわち1990年代後半までは戦闘機、攻撃機、電子戦機ともに専用設計の別機が任務に就いていました。


編隊飛行するA-6「イントルーダー」攻撃機(画像:アメリカ海軍)。

 そのひとつがグラマンA-6「イントルーダー」です。「侵入者」を意味する名の同機は1963(昭和38)年の部隊配備スタートから1997(平成9)年の退役まで34年間にわたり、アメリカ海軍と海兵隊の主要攻撃機として重用されていました。

 横須賀を母港としていたアメリカ海軍第7艦隊の歴代空母にも艦載機として搭載されていたため、日本の空でもよく見られ、厚木や岩国などのエアショーでは毎年のように姿を見ることができた軍用機です。このように日本人にも馴染みある名機A-6「イントルーダー」について、改めて振り返ってみます。

 A-6「イントルーダー」はアメリカ海軍初の本格的な全天候型艦上攻撃機として生まれた機体です。全天候攻撃機とは、視程が確保できない気象条件下や夜間の暗闇の中でも、地上の航法施設に頼ることなく完全に自立した航法を行い、敵地に進入して目標を正確に攻撃できる能力を持っている軍用機のことです。

 その能力を獲得するため、A-6では機首に備えた大型レーダーや、それに連動する機上コンピューターなどによって地形をコックピットの画面上に投影すると同時に、最適な爆撃コースと投下のタイミングを計算できる機能を持っています。ゆえに極めて高度な電子機器が装備されており、その操作要員として「WSO」と呼ばれる爆撃・航法を担当する専門の兵装システム士官がパイロットの横に搭乗する2名体制が採用されています。

 大量の爆弾、ミサイル、魚雷などを搭載して敵地へ侵攻できる飛行性能と航続力が求められた結果、必要な燃料搭載量を確保するため、機体は丈夫な主翼と強力なエンジンを装備していました。

 A-6が成功した大きな要因のひとつとして挙げられるのが、エンジンでしょう。同機はプラット・アンド・ホイットニー(P&W)社製J52ターボジェット・エンジンを双発で搭載していました。

 J52は、当時すでに量産中だったA-4「スカイホーク」軽攻撃機に搭載されていたJ65ターボジェット・エンジンと大きさこそほぼ同じですが、圧縮比を約2倍に高めたことで燃料消費率は約20%も低くなった高性能エンジンでした。A-6でJ52エンジンが採用されると、A-4についても既存のJ65から新型のJ52へ換装することが決まり、E型以降のA-4シリーズは全てJ52を搭載して生産されています。

A-6要員向けの専用訓練機TC-4Cとは?

 アメリカ海軍にとってA-6とA-4、両機種のエンジンを共通化することは大きなメリットがありました。J52は1950年代から60年代にかけて軍民双方で大量に生産され使用されていたJ57エンジン(民間名JT3)を基に開発されたP&W社の主力製品です。のちにこのJ52を基にJT8Dターボファンエンジンが開発され各国の旅客機に使用されたことを鑑みると、J52が極めて優秀なエンジンであったことが判るでしょう。

 ただ、A-6「イントルーダー」は複雑な機上システムを搭載したため、乗員を養成する際にはパイロットとWSOをペアで訓練する必要がありました。そのため専用の訓練機が開発されています。

 ベースに用いられたのは、当時、A-6と同じくグラマン社が製造していたターボプロップ・ビジネス機「ガルフストリームI」です。これに、A-6の電子機器とレドームを取り付け、TC-4Cという訓練専用機が作られました。なお、TC-4Cが配備されたワシントン州ウィッドビーアイランド海軍航空基地所属の第128攻撃飛行隊は、後に海軍と海兵隊の全てのA-6要員を訓練する役割を担いました。


1987年、ワシントン州ウィッドビーアイランド海軍航空基地で披露されたKA-6Dの空中給油デモ飛行(細谷泰正撮影)。

 また、大きな搭載量と優れた航続力を持つA-6を活用した派生型もいくつか造られています。

●電子戦型EA-6A

 最初に生み出されたのは、海兵隊の電子戦機EA-6Aです。ただ、EA-6Aは乗員2人のまま機体サイズを変えずに各種機器を搭載したため、電子戦能力も限られたものでした。とはいえ、敵レーダー信号の分析能力を持ち、レーダーサイト攻撃用の対レーダーミサイル運用能力を持っていたので重用されたようです。

 EA-6Aは、アメリカ空軍のF-105GやF-4Gといった敵防空網制圧用のワイルドウィーゼル機と同様のミッションを遂行することが可能でしたが、高度化する電子戦状況下では能力不足であったことから、改良型のEA-6B(後述)が開発されます。なお、EA-6Bが登場すると、性能不足が見えていたEA-6Aは予備役に回され、EA-6Bが電子戦訓練を行う際のアグレッサー(敵役)として用いられるようになりました。

●空中給油機型KA-6D

 次に造られたのが空中給油機型KA-6Dです。エンジンを強化し新しい電子機器を備えたA-6Eの配備が始まると、旧式化した初期型のA-6Aは一部の電子機器を外して空中給油装置を搭載、空中給油機KA-6Dに改造されました。空中給油機は艦載機の航続距離と滞空時間を延長してくれます。これは空母航空団にとって作戦能力の拡大と安全性の向上という2つの大きなメリットをもたらしてくれます。そういった役割から空中給油型KA-6Dは全てのA-6部隊に配備され、作戦にも同行しました。

A-6ファミリーのなかで最後まで現役だった「プラウラー」

●電子戦型EA-6B

 最後に作られた派生型が電子戦型EA-6B「プラウラー」です。コックピット部分を延長して4座とし強化型エンジンと電子戦装備を搭載した本格的な電子戦機で、海軍と海兵隊で採用されました。胴体を延長し、パイロット1名と電子戦士官(ECMO:エクモ)が3名搭乗する形へと変更したのが特徴で、パイロット横の前席ECMO1が航法、通信、防御側電子戦を担当し後席のECMO3とECMO4が電波妨害を行う攻撃側電子戦を担当しました。


1983年8月、ワシントン州ウィッドビーアイランド海軍航空基地の公開行事で展示されていたアメリカ海兵隊のEA-6B「プラウラー」電子戦機(細谷泰正撮影)。

 EA-6Bは電子戦機の決定版として改良が繰り返され、1991(平成3)年までに170機が生産されています。また原型のA-6「イントルーダー」攻撃機が退役した後も実戦部隊にとどまり、空軍の電子戦機EF-111「レイブン」が退役した後は空軍の作戦にも同行するようになりました。そのため、EA-6Bは1971(昭和46)年の部隊配備から後継機となるEA-18G「グラウラー」の戦力化が完了する2019年まで、実に48年もの長期間にわたり第一線で使われました。

 ちなみに、EA-6B「プラウラー」はベースとなったA-6「イントルーダー」と比べ、機首部分を大きくするなどの形状変更などで、空力的に不安定な面が出るようになり、操縦が難しいとの指摘があります。半世紀近くに渡った就役期間中に、およそ50機が失われていますが、実戦で撃墜された機体は1機もありません。危険な任務の内容と出撃回数を考慮すると実戦における損失ゼロは驚愕に値します。この数字は米海軍の電子戦能力の高さを証明しているともいえるでしょう。

 A-6「イントルーダー」は、派生型EA-6B「プラウラー」の退役まで含めると、実に56年間にわたって第一線で運用され続けたことになります。運用国はアメリカのみですが、同機が冷戦中に果たした役割は決して小さくなく、だからこそ攻撃機や電子戦機といった地味な機体ながら、比較的名の知られた名機にまで昇華したのかもしれません。


※一部修正しました(11月17日10時45分)。