津波被害の救助の前に“毒ガス検知”ナゼ? 全国の消防が集結 過去最大の合同訓練超リアルだった!
7年ぶり6回目となる「緊急消防援助隊全国合同訓練」が静岡県で実施されました。この訓練は全都道府県から集まった消防隊がワンチームで災害対処訓練を行うというもの。今回は過去最大規模で初の試みもあったようです。
静岡で17年ぶり2度目の開催
2022年11月12日と13日、静岡県において「第6回緊急消防援助隊全国合同訓練」が行われました。
これは、1995(平成7)年に発生した阪神・淡路大震災を契機として創設された緊急消防援助隊、通称「緊援隊(または緊消隊)」の消火や救助技術、そして指揮や連携活動などの能力を向上させるため、おおむね5年に1度のペースで行われている大規模な実動訓練です。とはいえ、新型コロナの影響などから実施が延期されたことで、前回(第5回)から7年空いての開催となりました。
静岡県で開催された「第6回緊急消防援助隊全国合同訓練」の様子(武若雅哉撮影)。
6回目となった今大会は、発生が危惧されている南海トラフ地震を想定した内容で、静岡県内で開催されるのは2005(平成17)年以来17年ぶり2回目とのこと。すべての都道府県から約700隊、計3000人超の隊員が参加したほか、消防団や警察、自衛隊、海上保安庁、そしてDMAT(災害派遣医療チーム)などの機関も参加するなど、過去最大の規模で実施されました。
また、今回は土砂災害や風水害の機動支援を行う消防部隊や、化学剤や生物剤、放射能汚染といったNBC災害に対応した特殊部隊なども多く参加していたのが特徴です。
なぜ、全国の消防機関が1か所に集まってこれだけ大規模な訓練を行う必要があるのか。それは近年多発する自然災害に対して、いかに迅速に行動することができるか、どれだけの部隊を一斉に投入できるのか、投入された部隊をいかにして効率的に稼働させ、迅速な人命救助に繋げるのか、こういった点を演練し、問題の洗い出しを行うのが目的だからです。
ほかにも、今大会では会場に訪れることができない市民にも消防の救助活動を知ってもらえるよう、消防の全国訓練では初となるYouTubeでのライブ配信が行われるなど、新たな取り組みも行われていました。
まず12日のサブ会場となった遠州灘海浜公園では、想定上の津波被害にあった静岡県磐田市を舞台にした訓練が行われました。その内容は救助だけではなく、化学系の部隊まで投入され、かなり臨場感のあるものでした。
津波災害なのに有毒ガスを想定 なぜ?
ここでは想定する発災から24時間が経過し、海水が引いたという状況から訓練が開始されます。まずは地元の磐田市消防による有毒ガスなどの検知活動です。なぜ、有毒ガス検知から開始されるのかといえば、多くの家屋が津波に流された場合、可燃性のガスやその他の有毒物質も漏洩している可能性があるからです。この危険な環境に部隊を投入することは二次災害を発生させる可能性があるため、まずは救助隊の安全を確保するという観点から訓練が始まりました。
静岡県で開催された「第6回緊急消防援助隊全国合同訓練」の様子。写真でも福井県、兵庫県、大阪府などから集結していることがわかる(武若雅哉撮影)。
説明によると、仮にこの有毒ガス検知作業中に要救助者を発見しても、検知作業に係る隊員は少数であるため、要救助者の情報を本部に伝達するのみで、彼らが直接救助活動にあたることは稀だそうです。
これは要救助者を見捨てているワケではなく、増援に来る多くの部隊を受け入れ、一斉に救助活動に当たる方が、より効率的で安全に多くの要救助者に対処することが可能であると考えられているからです。とはいえ、緊急を要する場合には、ガス検知作業を中断して人命救助にあたる場合もあるとのハナシでした。
こうした検知作業と平行して行われているのがドローンによる局地的な被害状況の確認と、増援部隊の受け入れです。発災から既に24時間以上経過しているため、続々と現地に到着する遠方の部隊を次々と指定された駐車スペースへと誘導します。
遠方から集まった救助隊の隊長などに対して行われるのが、その段階での被害状況の報告と、担当する救助作業の割り振りです。これは想定上の被害地域である磐田市消防が音頭を取って行われます。ここでポイントとなるのは、たとえ上位組織である総務省消防庁の職員が駆け付けたとしても、指揮を執るのは地元消防だという点です。総務省消防庁の職員は、あくまでも地元消防のサポートに徹するそうです。
各救助隊に必要な指示が与えられると、各隊はそれぞれの救助活動場所へと向かっていきます。ただ、近年の地震災害を受けての想定といえたのが、救助活動中に2度目の地震を検知するという点でした。
次々と搬出される想定上の被災者たちを救急車に乗せ、病院などへと後送している最中に新たな地震を検知、これにより二次災害の恐れがあるとして全救助隊へ一時退避命令が発令されたところで、初日の訓練を終えました。
あえて遠方部隊同士でチーム組ませる意義とは?
他方で、この津波被害への対応訓練を行っている会場の隣では、地震によって発生した大規模な火災への対応訓練も行われていました。想定上、次々と延焼する住宅火災。取り残された住民を助け出しますが、トリアージの結果、助けるのが難しいと判断されることも。それでも、住民基本台帳に基づいて残る全ての住民を探し出します。
時を同じくして、住宅の延焼火災とは異なる原因で、大規模な工場からも火が出ます。出火を確認した磐田市消防は、地上からの放水に加え、ヘリコプターからの空中消火を要請。静岡空港を仮の拠点としていた各地の防災・消防ヘリコプターが次々と燃え上がる工場へと放水し、大ごとになる前に鎮火させていました。
静岡県で開催された「第6回緊急消防援助隊全国合同訓練」の様子。津波で被災した地域の有毒ガス漏洩を検査するレスキュー隊(武若雅哉撮影)。
2日目となる13日は、静岡空港の西側にある県有地において、南海トラフ地震で発生した「多重衝突事故」「地下施設での火災」「列車の脱線事故」「土砂災害」など多くのシナリオが想定され、これらに対処するための救助活動が一斉に行われました。
全国から集結した緊急消防援助隊は、このように指定された現場での救助活動に従事したのですが、今回の訓練の肝ともいえる「連携」に関して興味深い調整がされていました。それが「遠方の救助隊同士でチームを組ませて救助に当たらせる」ということです。
たとえば、近隣の救助隊同士であれば、日頃の訓練でも連携しやすいため、大きな問題は発生しません。それに対して、たとえば北海道の部隊と九州の部隊は、普段接する機会がありません。そのため、今回の訓練では、あえて遠方の部隊をワンチームにすることで、お互いに連携方法を模索させていたのです。
ちなみに、これだけ大規模な訓練が行われるということから、静岡県に設置された訓練会場付近には多くの市民が集まっていました。なかには遠方から駆け付けたと思われるファンの姿も。なにせ、全国の緊急車両が一堂に会するため、これ以上の撮影機会はないでしょう。
また、将来の消防士になるかもしれないチビッ子たちも多く見に来ており、老若男女問わず普段はなかなか見ることができない消防士らの活動に目を輝かせていたのが、印象的でした。