写真:AP/アフロ

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韓国ソウルの繁華街・梨泰院で154人が死亡した転倒事故で、SNSでは痛ましい写真や映像が拡散している。

現地の神経精神医学会は緊急声明を出し、「現場映像やニュースの過度な繰り返し視聴は、健康に悪影響を及ぼす恐れがある」と注意を促す。韓国の韓悳洙(ハン・ドクス)首相も「SNSなどで死傷者に対する嫌悪発言や虚偽情報、刺激的な事故場面の共有がみられる」として自制を求めた。

「ミュート」機能で非表示にした人も

事故は2022年10月29日夜(現地時間)、人気ドラマ「梨泰院クラス」の舞台にもなった繁華街で起きた。ハロウィーンで集まった人々が狭い坂道で群衆雪崩を引き起こし、154人が犠牲になったと報じられている。

事故後にはツイッターで、現場に居合わせた人たちが撮影した写真や動画が多数投稿されている。中には、折り重なるように倒れて悲鳴を上げる若者や、救急隊員らが懸命に心臓マッサージを続ける姿、死体が道端に並べられている様子など、ショッキングな内容がそのまま収められている。

日本人の間でも凄惨な現場の模様は拡散され、「梨泰院の動画見てしまって人混みがトラウマになってしまった」「見たくもないのに梨泰院の動画回ってくる辛い」と強い影響を受けたという人が少なくない。関連ワードを「ミュート」機能で非表示にしたという声もあった。

大韓神経精神医学会は30日、事故を受けて緊急声明を出した。複数の現地メディアによれば、トラウマ(心的外傷)を防ぐために3つの提言をする。その上で、韓国での2014年の客船「セウォル号」沈没事故や新型コロナの流行時のように、専門家による大規模なメンタルケアが必要だと説く。

具体的な中身は

1つ目は、「事故現場の映像や写真を無断で流布する行為はやめるべき」。前述のような配慮無き投稿、拡散は故人や被害者の名誉を傷つけ、二次的、三次的な被害につながる可能性を指摘する。

閲覧者のトラウマを引き起こす恐れもあり、「私たちは市民意識を持ち、これ以上の拡散を避けるよう努めなければなりません」「現場映像やニュースの過度な繰り返し視聴は、健康に悪影響を及ぼす恐れがありますので、お控えいただくことをお勧めします」と呼びかける。

2つ目は「ヘイトスピーチ(嫌悪表現)の自制」。オンライン上での嫌悪表現や未確認情報の拡散は社会的対立を生み、事故の解決には一切役に立たないと断じる。関係者のトラウマをさらに悪化させ、回復を妨げることにもなるという。

最後は「メディアは、災害報道規則を遵守しなければならない」。報道被害への警鐘で、メディアは被害者の名誉やプライバシーなど個人の人権を守り、社会に混乱や不安を与えないよう努めなければならないとする。

事故でメンタルヘルスに不調を抱えている人に対しては、正しいメンタルケア情報や支援を受けられる機関を知らせる必要があるともする。

聯合ニュースによれば、韓悳洙首相も31日、安全対策本部の会議で、「SNSなどで死傷者に対する嫌悪発言や虚偽情報、刺激的な事故場面の共有がみられる」として自制を求めた。