by Thomas Hawk

2022年10月にTwitterの買収を完了したイーロン・マスク氏が、アメリカ合衆国下院議長を務めるナンシー・ペロシ氏の夫が自宅で襲撃された事件に関連し、根拠のない陰謀説をTwitterで共有したことが物議を醸しています。

Paul Pelosi attack prompts Elon Musk and political right to spread misinformation - The Washington Post

https://www.washingtonpost.com/politics/2022/10/30/paul-pelosi-attack-misinformation-elon-musk/

Elon Musk shares lurid conspiracy theory about Paul Pelosi attack in response to Hillary Clinton | The Independent

https://www.independent.co.uk/news/world/americas/crime/elon-musk-paul-pelosi-attack-hillary-clinton-b2213757.html

Musk posts baseless conspiracy theory about Paul Pelosi attack on Twitter | Elon Musk | The Guardian

https://www.theguardian.com/technology/2022/oct/30/elon-musk-twitter-baseless-conspiracy-theory-paul-pelosi-attack

Musk tweets link to an unfounded conspiracy theory - ABC News

https://abcnews.go.com/Technology/wireStory/musk-tweets-link-unfounded-conspiracy-theory-92391687

現地時間の2022年10月28日2時過ぎ、アメリカ合衆国下院議長を務めるナンシー・ペロシ氏の自宅にハンマーを持った男が押し入り、ペロシ議長の夫であり82歳のポール氏が襲われるという事件が発生しました。関係者によると、男は襲撃時に「ナンシーはどこだ」と叫んでいたそうで、ペロシ議長を狙って自宅へ侵入したとみられています。しかし、当時ナンシー議長は不在であったため、在宅していた夫のポール氏を襲撃したとのこと。

米下院議長宅に侵入者、夫がけが 容疑者逮捕も動機は不明 | ロイター

https://jp.reuters.com/article/usa-pelosi-husband-idJPKBN2RN1I2



ポール氏は男の目を盗んで警察に通報し、男と話している間も通話中にしておきました。緊急性を認識した警察が2時27分に現場へ到着したところ、男とポール氏はハンマーを持ってもみ合っており、警察が見ている前で男は少なくとも1回ポール氏を殴ったそうです。結局、男は警察によって取り押さえられましたが、ポール氏は頭蓋骨や右腕の骨折といった重傷を負いました。ポール氏の治療は順調であり、医師は完全に回復するという見通しを示しています。

現行犯逮捕されたのはデビッド・デパペという42歳の男であり、殺人未遂・高齢者の虐待・押し入りなどの罪に問われているとのこと。また、デパペのオンライン履歴の調査から、新型コロナウイルスワクチンに反対していたことやQアノンに関連する陰謀論に執着していたことがわかっているほか、反ユダヤ主義・人種差別主義・トランスフォビア的な見解も表明していたと報じられています。海外メディアのThe Independentによると、ペロシ氏への襲撃に至るまでの数週間で投稿のペースは加速し、デパペは1日に数回ほど投稿を行っていたそうです。

2016年のアメリカ大統領選挙に民主党候補として立候補したヒラリー・クリントン氏は、デパペが極右の陰謀論を広めていたと報じたロサンゼルス・タイムズの記事を引用し、「共和党とその代弁者は現在、憎悪と混乱した陰謀論を定期的に広めています。その結果が暴力であることは衝撃的ですが、驚くべきことではありません。市民として、私たちは彼らに彼らの言葉とその後の行動に責任を持たせなければなりません」とツイートしました。



これに対してマスク氏は、「この話には目に見えていること以上の何かがあるかもしれません」というメッセージと共に、Santa Monica Observerというウェブメディアが掲載した記事へのリンク付きでリプライを送信しました。現地時間の29日午後の早い段階でリプライは削除されていますが、削除されるまでに約2万4000件のリツイートと約8万6000件を獲得したとのこと。

Santa Monica Observerの記事は、「デパペは過激なゲイ活動家グループに所属していた経歴があり、同性愛者だというウワサのあるポール氏はバーでデパペと出会って一緒に自宅へ向かった」と主張するものでした。なお、Santa Monica Observerは過去に「ヒラリー・クリントン氏はすでに亡くなっており、現在のクリントン氏は偽物だ」と主張する記事を掲載したこともある、フェイクニュースや陰謀論を拡散することで悪名高いメディアです。

ファクトチェックサイトのMedia Bias/Fact CheckはSanta Monica Observerについての評価で、「Santa Monica Observerは本物のローカルニュースサイトに見えるように設計された詐欺師のサイトです」と述べ、共和党に有利な報道をする疑わしい情報源だと結論づけています。大手海外メディア各社も当該記事には根拠がないと指摘し、Twitterの買収を完了したマスク氏がこのような記事を共有したことは、今後のTwitterにおけるモデレーションに疑念を呈すると主張しています。



なお、マスク氏は言論の自由を支持する姿勢を掲げつつも、10月27日のツイートでは「Twitterが何を言っても罰せられないような、自由奔放な地獄絵図になってはいけません。私たちのプラットフォームは、この国の法律を順守した上で、すべての人を温かく迎え入れなければなりません」と述べ、議論の健全性を保つためにある程度のコンテンツモデレーションを行う方針を示しています。

マスク氏がTwitterのCEOとCFOを解雇、「Twitterを参加自由の地獄絵図にはしない」と言論に制限を設ける構え - GIGAZINE



また、10月28日には「幅広く多様な視点を備えたコンテンツモデレーション(投稿監視)評議会」を設置することを明らかにしました。

ツイッター買収のマスク氏、「投稿監視評議会」設置へ トランプ氏の即時復帰なし - CNN.co.jp

https://www.cnn.co.jp/tech/35195336.html

しかし、マスク氏の買収後にTwitter上では「トランプが勝った」といった政治的に誤った発言や人種差別的な中傷が増加していることも指摘されており、Twitterにおけるコンテンツモデレーションについては疑念の声が上がっています。ミネソタ州の民主党員であるエイミー・クロブチャー上院議員は、NBCニュースに対して「コンテンツのモデレーションが必要だと思います」「イーロン・マスク氏がコンテンツモデレーション評議会を開始すると言ったのは1つの良い兆候でした。しかし、私はこれについて心配し続けています。大量のうそを広めることで人々がお金を稼ぐべきではないと思います」と述べました。