伴大介、高木大地 ※背後には故・渡辺宙明が映し出されている

写真拡大 (全7枚)

金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門> 
第33回 「人造人間キカイダー」ジロー役の伴大介に聞く!
 

今から50年前、1972年のイギリスではプログレッシヴ・ロック全盛期を迎えた。イエスは『危機』を、エマーソン・レイク&パーマーは『トリロジー』を、ジェネシスは『フォックストロット』を発表。後世に残る名盤が次々と発表されるというまさに百花繚乱の年だった。

その頃日本では、テレビ界の特撮・ヒーロー・シリーズが百花繚乱(1973年はさらに盛り上がるが)。71年から続き大人気だった『仮面ライダー』は放送中、ウルトラマンシリーズは『ウルトラマンA』、そのほか『アイアンキング』『愛の戦士レインボーマン』など、後世に残るヒーローが生まれた年だった。その中でも今なお根強いファンに愛されているヒーロー番組が『人造人間キカイダー』(原作:石ノ森章太郎)である。

音楽を手がけたのは、アニメ・特撮界の作曲家レジェンド、故・渡辺宙明氏。のちに『マジンガーZ』や『秘密戦隊ゴレンジャー』『宇宙刑事ギャバン』などを手がけ、子供番組でお馴染みの作曲家のイメージを確立するが、そもそもこの世界に初めて飛び込んだのが『人造人間キカイダー』なのだった。その詳細は、本連載の第26回『アニメ・特撮のレジェンド渡辺宙明と対談』~後編~(https://spice.eplus.jp/articles/292539)に記してあるので併せてお読みいただければと思う。

当時宙明氏は46歳。今まで映画音楽を主な仕事としていたが、テレビの勃興と映画の衰退で仕事が減り、東映本社に行って直談判で決めてきた仕事が『キカイダー』で、以降、宙明氏の快進撃は続き、2021年には95歳で戦隊ヒーローシリーズ『機界戦隊ゼンカイジャー』の音楽を担当(大石憲一郎氏とともに)した。そして、『キカイダー』から50年の節目となる2022年に宙明氏と再びコラボレーションをすることになったのが、同作品の主役・ジロー役を演じた伴大介氏だった。伴氏もまた、デビュー50周年を迎えていた。

が、宙明氏は2022年6月23日、96歳で逝去。宙明氏は亡くなる3日前までコラボレーション作品に筆を入れていた。

そんな宙明氏の遺作の演奏をすることになったのが、我々「金属恵比須」である。1972年のプログレの音を再現するのは得意だが、今回は1972年の特撮音楽に挑戦することとなった。伴大介&金属恵比須が2022年10月14日『春くれば2022』をリリース。その事情を直接、伴氏に聞いてみた(なお、『モノ・マガジン』の筆者の連載「狂気の楽器塾」のコラボ企画となる)。聞き手は、筆者の高木大地。

伴大介(中央)と金属恵比須


 

■挿入歌『春くれば』を歴史に残したかった

―― 宙明先生の遺作を伴大介さんのヴォーカルと金属恵比須がアレンジと演奏でコラボレーションすることになりました。

伴大介(以下、伴) 『人造人間キカイダー』の挿入歌で俺が歌った「春くれば」を歴史に残したいというのがきっかけだね。だったら他の曲も入れたらどうかということで、2000年代に俺が一人芝居をした時に宙明先生に作ってもらった曲があるから、歌詞をつけて歌にしようということになった。そうしたら制作が進行している時に宙明先生が逝去された。本当に残念。

―― この連載で宙明先生初の作曲指導を私が受けるということをしたのですが、その記事が公開された数日後に逝去され、悲しくてたまりませんでした。その宙明先生との思い出ですが、50年前に行なった「春くれば」のレコーディングは覚えていますか?

伴 すんなり進んだ記憶があるね。練習期間が1週間ぐらいしかなかった。

―― 『キカイダー』の撮影中でしたよね。

伴 うん。忙しい時だったな。放映中に宙明先生が「伴君のためにも曲をつくろうか」という流れでできた曲だね。BGMをかなりつくられていたからその流れだったのかもしれないね。シャレで作ったのかも(笑)。

―― そんなことはないですよ。最終回の43話「ジローの最後かダーク全滅か!?」で印象深いシーンで使用されましたし。それにしても伴さんの声に合った曲だと思いました。

伴 その時、宙明先生にはこういわれたの。「伴君にはこういう曲じゃないほうがよかったかな」と。練習中に。

―― それは萎えますね(笑)。宙明先生で直に指導を受けていたのですか?

伴 うん。宙明先生の自宅に通っていたよ。宙明先生が直々にピアノを弾いていた。

(写真撮影:稲益宏美)


 

■俳優になるきっかけ

―― そもそも伴さんはなぜ俳優になろうと思ったのですか?

伴 サラリーマンになるのは自分の性格に向いてないと思ったんだよ。

―― いつ頃ですか?

伴 10代後半かな。地元に芝居をかじっていた友達がいて、覗きに行ってみたの。「こういうことやってるバカヤローもいるんだな」と(笑)。これはお金で計算できない世界だなと思った。ただ生活するために生きるのはつまらないじゃない。

―― 芝居や映画に興味はあったのですか?

伴 映画はあった。親父が映画好きで、幼稚園の頃から手を引っ張られてみに行ったな。洋画を見て面白いなと。

―― 面白いと思った映画のタイトルは覚えていますか?

伴 覚えてないな。でも大体西部劇。ジョン・ウェインとかアラン・ラッドとか。あとマリリン・モンローが好きだったな。

―― それは異性としてですか?

伴 子供の時なんだけど、「大人になったら絶対外人と結婚してやる!」って思ってね(笑)。大人になってから考えたんだけど、マリリンの魅力って“お母さん”を感じることなんだ。

―― 母性ですか?

伴 そう!

―― セクシーな方向ではなくて?

伴 セクシーじゃない。母性なんだ。

―― マリリンみたいな人と出会いたいからこういう世界に入りたいと思ったのでしょうか?

伴 そんなことはないけれども影響はあるかもね。日本の映画も見たな。「ゴジラ」とか。もう怖くてね(笑)。

―― それから演劇の世界に入るのですか?

伴 三島由紀夫さんたちがつくった劇団NLTに入ったんだよ。

―― 試験で入られたのですね。芝居の経験はなかったのに?

伴 うん、でも受かっちゃった。

―― 受かった理由を自己分析すると?

伴 当時はオーラが出てたのかも(笑)。

(写真撮影:稲益宏美)


 

■長嶋一茂さんはキカイダーのファンだった

―― 『キカイダー』もオーディションはあったのですか?

伴 何にもなかった(笑)。マネージャーが来て、「来週からテレビの仕事が入るよ。子供番組の主役」って。「は?」って。びっくりしたな。後から聞いた話なんだけど、本当はプロデューサーの奥様が選んでくれたみたい。

―― というと?

伴 プロデューサーが奥様に「候補がこれだけいるんだけど誰がいい?」と写真を見せながら聞いたらしくて、それで俺を選んだんだって。3~4年前に奥様と会った時に「あのね、(ジロー役を)決めたの、ワタシ」といわれた(笑)。

―― (大笑)

伴 熱心に見る子供のお母さんのハートを掴まなければならなかったらしく。

―― “お母さんキラー”だったのですね。

伴 男子は大体ハカイダーファンだもんね。女性がジローファンが多かったらしく。中にはジローファンの男性もいるみたいだけどね。

―― どんな方ですか?

伴 長嶋一茂さん。

―― ええ?

伴 一茂さんは根っからのファンだったみたいで、ジージャンとジーパンで学校行ってたらしいよ。

(写真撮影:稲益宏美)

―― 伴さんにとっての『キカイダー』とは?

伴 石ノ森章太郎さんの描いた作品として素晴らしいね。キャラクターの配置がいい。博士がいて娘と弟、歳は離れすぎてるけど(笑)。そこに人造人間のジロー。素晴らしいな。そして通称“はんぺん”という3枚目キャラの服部半平、そこに悪のプロフェッサーギル。父親が逃亡者というのもいいね。50年前にこんな設定でドラマを作るというのがすごいことだと思うよ。

―― “はんぺん”の位置付けというのが他の特撮ドラマはないですよね。演技も最高です。

伴 うえちゃん(”はんぺん”役の植田峻(現・うえだ峻))は普通にやってて面白かったからね。なんでコイツ面白いんだろうなって。欲がないんだろうな。笑わせようとしてないから。それがおかしいんだよ。

―― 特異な立場ですよね。

伴 スタッフも段々「植田峻、面白い!」ってなっちゃって。

―― 登場する時間も回を重ねるごとに長くなっていきますよね。

伴 「うえちゃんは日本のチャップリンだ」っていってたよ。最大の評価を与えてた。

―― “はんぺん”がいることによって話が重層的になりました。

伴 そうなんだよ。暗くなっちゃった場面に出てきてね。『キカイダー』で彼の存在がいかに大きいかと思うよ。色々と助けてもらったし。ドラマとして素晴らしい。こんな面白い脚本、見たこともないな。

(写真撮影:稲益宏美)


 

■ロックはうるさくてダメ

―― 一応こちらの連載は音楽関連の連載なので、音楽のお話も。どんな音楽がお好きですか?

伴 オールディーズだね。最初にいったけれどもアメリカ映画にのめり込んだから。日曜日になればラジオ釘付けだったな。

―― FEN(Far East Network。極東の米軍向けのラジオ放送)などですかね。

伴 ニール・セダカ、ポール・アンカも好きだね。

―― 未だに聞いていますか?

伴 うん。今日のおすすめということで自分のツイッターでは載せてる。バラードが好きだね。ロックはうるさくてダメなんだ。

―― 金属恵比須は一応ロックバンドなんですが(笑)。

マネージャー それ、ダメな発言です!(笑)

―― プログレッシヴ・ロックはロックの中でもおとなしいほうなので大丈夫ですよね?(笑)

伴 うん、金属恵比須は一緒にCDをつくって最高なバンドだと思ったよ!

(写真撮影:稲益宏美)


 

【PROFILE】
■伴大介(ばんだいすけ)
5月5日生。川口市出身。1972年、劇団NLT在籍中に「人造人間キカイダー」主人公ジロー役に抜擢されデビュー。この時、原作者の石ノ森章太郎により芸名を「伴大介」と命名される。その後も「イナズマン」「イナズマンF」「忍者キャプター」と次々と特撮作品で主役を演じる。一方、Jホラーの父と呼ばれる鶴田法男監督のVシネマ「ほんとにあった怖い話~第2夜 霊のうごめく家~」に出演したのをきっかけにホラー作品の出演も多い。映画「リング」「らせん」「リング0~バースデイ~」いずれも貞子の父、伊熊平八郎役で出演。音楽では、渡辺宙明によるキカイダーの主題歌・挿入歌集で「春くれば」、「石ノ森章太郎男も泣けるTV主題歌集」で「ゴーゴー・キカイダー」を歌唱。また、2022年2月公開の宙明サウンド×化け猫映画「怪猫狂騒曲」で祟られる佐賀藩主・鍋島光茂を熱演した。
https://twitter.com/bandaisuke1

■金属恵比須(きんぞくえびす)
1991年結成のプログレッシヴ・ロック・バンド。2015年、『今日は1日プログレ三昧』(NHK-FM)でオンエアされブレイク。TV番組・雑誌・新聞など多数のメディアに取り上げられ、五木ひろし、頭脳警察、ダミアン浜田陛下(元聖飢魔Ⅱ)との共演を果たす。著名人にファンが多く、郄嶋政宏(東宝芸能)が熱烈に応援。2019年、樋口真嗣監督(『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』他)ら主催による「小松左京音楽祭」に出演。
代表作は『ハリガネムシ』『武田家滅亡』『黒い福音』。Vocal, Percussion:稲益宏美 Bass, Guitar:栗谷秀貴 Drums:後藤マスヒロ(元・人間椅子) Guitar, Keyboards:郄木大地 Keyboards:宮嶋健一。
https://yebis-jp.com/

■渡辺宙明(わたなべちゅうめい)
1925年(大正14年)8月19日愛知県名古屋市で生まれる。旧制八高理科を卒業後、東京大学文学部心理学科に学ぶ。卒業論文は「旋律的音程の力動性に関する実験心理学的研究」。作曲を團伊玖磨と諸井三郎に、ジャズ理論を渡辺貞夫に師事。作曲家デビューはCBC(中部日本放送)のラジオドラマ「アトムボーイ」(1953年)からである。映画音楽作曲家としては、新東宝の映画「人形佐七捕物帖 妖艶六死美人」(1956年)や「鋼鉄の巨人(スーパージャイアンツ)」(1957年)などを皮切りとして、現在までに200作を超える映画に作曲した。 1972年に手がけた「人造人間キカイダー」と「マジンガーZ」がきっかけとなり、特撮やアニメの仕事も増え、世界的な人気を博す。東映スーパー戦隊もののスタートとなった「秘密戦隊ゴレンジャー」(1975年)から続くシリーズでは、BGMだけでなく、挿入歌の作曲者としてもこのシリーズを支え続けている。また金字塔を打ち立てた「宇宙刑事ギャバン」(1982年)から続くメタルヒーローシリーズは、最近も宇宙刑事Next Generation(2014年)で主題歌、BGMを作曲して高く評価を受けた。CM音楽やゲーム音楽も手がけており、戦後のラジオドラマからスタートして、メデイアの変遷とともに作曲を続けている作曲家である。2012年には長年の功績を東京アニメアワード第8回功労賞。2014年11月にはジャスラック永年正会員を顕彰された。2019年文化庁映画賞受賞(映画功労部門)。卒寿を迎えてからも日本最高齢の現役作曲家として活躍しており、2021年には『機界戦隊ゼンカイジャー』で『ゴーグルファイブ』から39年ぶりに戦隊テレビシリーズの挿入歌、BGMを担当するなど、最晩年まで活動した。95、96歳で「ネズラ1964」「虫コナーズ」「怪猫狂騒曲」なども作曲。ニコニコ動画のスリーシェルズ放送局にてレギュラー番組「渡辺宙明先生語る!」を配信していた。2022年6月23日、老衰による心不全のため、東京都渋谷区の病院で死去。