「今夜は勝負！」と思っていたのに、男の“ある態度”で女の心が急変。1杯で帰ったワケ
― イイ男はすでに売約済み ―
婚活戦国時代の東京で、フリーの素敵な男性を捕まえるなんて、宝くじに当たるくらい難しいと言っても過言ではない。
待っているだけじゃ『イイ男』は現れない。
これだと思う人を見つけたら、緻密な戦略を立ててでも手に入れる価値がある。たとえその人に、彼女がいても…。
◆これまでのあらすじ
大手IT企業に勤める凛（30）は、大学時代に憧れだった先輩の悠馬（31）に再会する。彼女がいると知りながらも惹かれていく凛。そんな時、悠馬の彼女のエリが、彼に隠れて男遊びをしていると知る。
「突然だけど、今日の夜ご飯でもどうかな？」
木曜日の17時。珍しく悠馬から食事に誘われ、凛は飛び上がるほど喜んだ。
急ぎの仕事がないことを確認すると「大丈夫です」と返信した。
― 今日こそ勝負に出なきゃ…。
先日、悠馬とゴルフに行ったときのことを凛が涼子に報告すると「今が勝負の時」と言われたのだ。
『略奪作戦の5つ目。好きな人と彼女の間にヒビが入っているときに、一気に攻め落とす。ずるずる行くと“都合のいい友達”で終わっちゃうから。
好きなことを匂わせて、女性として意識させる。でも“好き”とは言わない』
“自分から告白してはいけない”のは、男性の“追いかけたい願望”のためというより「自分が決断した」と思わせることが重要だと涼子は言う。
『“押し切られて仕方なく乗り換えた”では、相手は後々不満を持ってしまう。絶対に相手から言わせること』
凛は、涼子の言葉を頭の中で反芻する。
そして、18時になるとメイクを直し、凛は気合を入れて会社を出た。
待ち合わせ場所の六本木のミッドタウンに行くと、既に悠馬が立っていた。
「悠馬さん、こんなに早く仕事終わるなんて、珍しいですね」
「今日はクライアントとの打ち合わせがなくなったから、せっかくだしと思って」
こういう時に思い出してくれたことが、凛は素直に嬉しかった。
気軽に入れる居酒屋に入りビールで乾杯する。
「そういえば、凛ちゃん、髪切ったんだね。似合ってるよ」と悠馬が褒める。
「悠馬さんがこっちの方が好きかと思って…」と凛は言いたかったが、恥ずかしくて黙ってしまう。
― だめだ、これじゃ変な人だ…。今日が勝負なのに…。
焦った凛は「今日は誘ってもらって嬉しかったです」と微笑むが、声がうわずってしまう。勝負しなきゃと意識すればするほど、から回る。
つまみを2人食べているうちに、凜はいつものペースを取り戻してきた。
ふと悠馬を冷静に観察すると、疲れているように見える。
「最近忙しかったんですか？」
枝豆をつまみながら凛が尋ねる。
「あぁ、トラブル続きで寝てなくて。でもやっと落ち着いたんだ」
そう答える悠馬は、まだ1杯目だというのに、酔いが回ったのか眠たそうだ。
― 悠馬さん、無理しているのかも…。もっと一緒にいたいけど、ここは早めに切り上げるほうがよさそう。
「悠馬さん、大丈夫ですか？ちょっと疲れてるみたい」
凛は温かいお茶と消化に良さそうなものを頼んだ。そして、早々に切り上げることにした。
「ありがとうございました、嬉しかったです。今日は早く帰って休んでください」
「ごめん、こっちから誘ったのに気を使わせて」
申し訳なさそうにする悠馬に「いえ、また誘ってください」と笑顔で別れた。
帰りの電車で凛は「次いつ会えるかわからないのに、せめて約束だけでもしておけばよかった…」と激しく後悔するのだった。
悠馬とはお礼のLINEのやりとりをしたあと、また何週間も会えない日が続いた。
1人でいるとつい悪い方向に考えては苦しくなり、凛はスマホを見てはため息をつく。
― やっぱりエリさんとうまくいってるのかしら…？あの日もっと頑張ればよかった…。
考えるほど、エリへの嫉妬心で「あなたの彼女、実は裏で遊んでます」と悠馬に告げ口したくなる。
しかしそんなことをすれば、自分の評価まで下げてしまう。
凛はグッと堪え、悠馬に「以前言ってた和食のお店、行きませんか？」とLINEを送る。
緊張しながら待っていると、スマホが震え、LINEのポップアップが見えた。
― 返信来た！？
喜んですぐさま確認するが、それは同期の隆也からだった。
「明日そっちなんやけど、晩ごはん食べに行かん？」
少しがっかりしたものの、「OK、彩香にも聞いとく」と返信する。悠馬からの返事は結局来ないまま、凛はヤキモキした気持ちを抱えながら眠りについた。
◆
「お疲れ！」
次の日。彩香は婚約者とデートだというので、結局凛は隆也と2人で『山田五郎邸のごりょんさん』に行くことになった。
「隆也と2人って珍しいよね。初めてじゃない？」
「そうかもな。たまにはええやん、新鮮で」
隆也はニカっと白い歯を見せて笑うと、レタス巻き串を美味しそうに頬張る。最近食欲を無くしていた凛は、少年のように嬉しそうな顔をする彼に、少し癒された。
お酒が進むにつれ、隆也のトークは勢いを増していく。
「前にインフルエンザにかかってんけど、そん時にメールで“陽性でした”って送るんを、間違えて“妖精でした”って送ってもうて。そしたら上司から“やはり普通の人間じゃないと思ってました”って来て“何でや！”って…」
隆也の話に、凛は終始笑いっぱなしだった。
「あー、お腹痛い。隆也といると笑い疲れる」
「こんなんで疲れてたらあかんで。まだ第2章があるんやから」
凛は笑いながら「こんなに笑うの久しぶりかも」と独りごちる。
それが聞こえたのか「どうしたん？」と隆也が優しいトーンで尋ねた。
「わかってたことなんだけどさ、好きな人に彼女がいるのがつらくて」
凛は別に隆也に聞いてほしかった訳ではなかった。でもなぜだか、彼の前だとつい本音が出てしまう。
すると隆也が、急に真剣な顔をして聞いた。
「なあ、そいつのどこがそんなにいいん？」
おちゃらけた彼しか知らない凛は、その真面目なトーンに驚いた。
「どこって…全部。見た目も仕事も申し分ないけど、それより中身が大人でかっこよくて…」
戸惑いながら答える凛に、隆也は強く言う。
「やめといた方がええんちゃう？凛ちゃんつらそうやで？そいつに固執せんでも、他にいくらでもいるやろ」
大して知りもしない隆也にわかったような口をきかれ、凛は妙に腹が立った。
「他なんて、探してもいなかったの。つらくてもいいの、私が決めたことだから」
「でも、彼女が遊んでることにも気づかないなんて、見る目ないか単なるバカやで？そんなヤツが、凛ちゃんの良さに気づくわけないやん」
悠馬のことをバカ呼ばわりされ、凛は激怒した。
「そんなこと言われる筋合いない！何も知らないのに放っておいてよ」
凛は自分でも意地になっているのはわかっていた。
だが、悠馬を好きになればなるほど、彼に彼女がいる現実がつらく、ずっと気持ちが不安定だった。
そんな時に隆也にまで反対され、なんとか保っている心のバランスを崩されたくなかったのだ。
その時、鞄の中にあった凛のスマホが震えた。もしかしてと思いLINEを開くと、悠馬からだった。
「再来週の金曜なら行けると思うけど、どうかな？」
前向きな返事に思わず頬が緩む。
そんな凛を見て、悟ったように隆也が言った。
「ごめん、悪かった。でもさ、さっきまで悲しそうやったのに、連絡一つで一気に表情が明るくなったり、振り回されてる凛ちゃん見てられへんわ」
隆也の言葉にぐうの音も出ない。
「わかった。じゃあ、もう隆也に顔見せないから」
すると隆也は「そうじゃなくて…」と言って凛を真っすぐに見つめる。
「だからさ、俺じゃあかんの？」
またふざけたことを、と思ったが、その真剣な瞳に凛はドキッとした。
「何言ってんのよ。隆也こそ自分の心配した方がいいよ。そんなに軽かったら、一生誰とも結婚できないよ？」
凛の返しに隆也は「ははっ」と小さく笑う。
「だよねー、誰かもらってくんないかな？私、結構いいお嫁さんになるわよ」
いつものノリで、裏声で冗談を言う隆也に内心ホッとした。
凛は小さく高鳴る鼓動に気がつかないように、心持ち大きな声で「あはは」と笑い飛ばすのだった。
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▶1話目はこちら：「何考えてるの！？」食事会にしれっと参加する既婚男。婚活を妨げ大迷惑なのに…
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2度目の悠馬との食事デートでリベンジする凛は、いい雰囲気になり、思わず彼に…
