時間がない時に空腹を満たすには何を食べればいいのか。聖路加国際病院循環器内科医の浅野拓さんは「ナッツや高カカオのチョコレートは肥満の原因になる血糖値スパイク(血糖値の急上昇)を起こしにくく、ちょっとした栄養補給に最適だ。一方、甘い飲み物やゼリー系飲料は血糖値スパイクを招くのでよくない」という――。

※本稿は、浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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■「甘い飲みもの」には要注意

血糖値を上げる張本人は、糖質です。

ここで改めて糖質とは何かと言えば、炭水化物のうち食物繊維を除いたもの。炭水化物のうち、体内で分解・吸収されてエネルギーとして使われるのが糖質、体内の消化酵素ではほとんど分解されないまま腸に届くのが食物繊維です。

さらに、「糖類ゼロ」「糖類オフ」といった表記を目にすることもあると思います。糖類は糖質の一部で、糖質の最小単位である単糖類(ブドウ糖や果糖など)と二糖類(砂糖の主成分であるスクロースや乳製品に多く含まれる乳糖など)を指します。

糖類は、糖質のなかでもすぐに分解されて血中に入り、血糖値を上げるので、摂り方にはとくに注意が必要です。

なかでも、危険なのが甘い飲みものです。甘い飲みものというのは、糖類そのものを液体として飲むので、体内で分解するというプロセスがほとんどなく、ダイレクトに血糖値を上げます。そのため、血糖値スパイク(注)がとにかく起こりやすいのです。

(注)食後に血糖値が異常に上がる状態。食後高血糖とも言われ、脳梗塞や心筋梗塞のリスクになると考えられている。

だから、私は、甘い飲料は飲みません。スポーツドリンクや炭酸飲料、砂糖の入ったコーヒー・紅茶もそうです。飲みものを飲むのは、水分補給が主目的ですよね。そうであれば、わざわざ追加で糖を摂る必要はありません。ちょっとストイックに聞こえてしまうかもしれませんが、甘い飲みものは生きるために不必要なもの。不必要なものは選択しないというのも大事な選択です。

■空腹状態でコーラを飲むと体はどうなるか

ちなみに、本稿を書くにあたって実験をしてみました。あえて空腹状態である朝、コーラ飲料を飲んでみたのです(注)。

(注)これらの実験は、読者のみなさんの理解の助けとなるための「見える化」の試みであり、エビデンスレベル(科学的根拠の信頼度)は6段階のうちレベル5(症例報告)です。紹介している現象は論理的矛盾がなく、他の報告でも確認されているものですが、あくまで参考として考えてください。血糖の数値は個々人によって大きく変わるものです。実際の自分の数値を知りたい場合は、ご自身でフリースタイルリブレ(グルコース値の測定器)を装着して確認してみてください。

するとどうなったのかという結果が、次の図表1です。これはフリースタイルリブレで測定した血糖値の変動を表すグラフで、見事に血糖値スパイクができました。350mlのコーラを1缶飲んだら、直後に225mg/dlぐらいまで急上昇していました。あまりにも血糖が上がったので朝ごはんを食べる気になれませんでした。

出典=『健康寿命を延ばす「選択」』

12時と19時頃から始まる山は昼食と夕食の影響で上がった血糖です。コーラによる山は食後の山よりもはるかに高くなっています。液体の糖質というのは、血管にとって凶器なのです。

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■どうしても飲みたければ「糖質ゼロ飲料」を選ぶ

ところで、最近では糖質ゼロ、カロリーゼロを謳った甘い清涼飲料水も売られていますよね。コーラにも、糖質ゼロのものがあります。糖質ゼロなのになぜ甘いのかというと、アスパルテームやアセスルファムK、スクラロースといった人工甘味料が使われているからです。これらは砂糖の何倍もの甘みがある一方で(アスパルテームは砂糖の200倍)、糖質は含まないので、血糖値も上げなければインスリンの分泌も促しません。

そういう意味では、どうしても甘い清涼飲料水が飲みたくなったら、糖質ゼロのダイエット系清涼飲料水を選ぶほうがベターです(実際にフリースタイルリブレで確認しても血糖値はまったく上がりません)。ただ、「糖質ゼロのダイエット系清涼飲料水なら安心して飲んで大丈夫」とは言い切れません。なぜなら、弊害があるという明らかなデータは現時点ではまだ出ていないものの、そもそもデータが出揃っていないからです。

また、「甘い」と感じるということは、脳も甘さをキャッチして、脳内では報酬系が刺激されるので、「もっと、もっと」と甘いものを欲し続けてしまいます。現時点で言えるのは、ふつうの甘い清涼飲料水を飲むなら、糖質ゼロの清涼飲料水を飲んだほうがベターだけれど、そもそも水分補給のために甘い飲みものを飲む必要はないのではないか、というところまでです。

■「時間がないからゼリー系飲料」で昼食を取ると…

液体の糖質がいかに血管にとって凶器かが見える、もうひとつのグラフを紹介します。これは、私のものではなく、知人医師のある日の血糖変動を表したグラフです。

出典=『健康寿命を延ばす「選択」』

協力してもらい、2週間、フリースタイルリブレをつけてもらっていました。HbA1cは5.2%で、空腹時血糖も正常、耐糖能異常もない、いたって健康な人のグラフですが、午後3時頃に血糖値が250mg/dl近くまで跳ね上がっています。

この前に何をしたのかと言えば、昼食をとる暇がなく、おなじみの栄養補助ゼリーを2パック飲んだそうです。

この商品の栄養成分表を見ると、1パックに炭水化物が45g入っています。おおよそおにぎり1個分と同じぐらいの量です。そして、たんぱく質、脂質はゼロ。

炭水化物単品のものは、素早くエネルギーを補給できる一方で、糖が素早く血管内に入っていくので、血糖値の急上昇を招き、同時にインスリンが大量に分泌され、余った糖が中性脂肪につくりかえられて、どんどん脂肪細胞に取り込まれていくという現象を引き起こします。

■血糖値の乱高下を招いて結果的に腹が減る

また、このグラフでも急上昇したあとで70mg/dl未満まで下がっているように、インスリンの分泌の良い人は一気にたくさんのインスリンが出るため、反動で血糖値の急低下も招き、低血糖にもなりやすい。それが空腹を生むので、腹持ちは良くありません。実際この医師は空腹に耐えられず17時にオレンジジュースを飲んでしまい、また血糖値スパイクを起こしてしまいました。

この「反動で起こる血糖値の急低下が空腹感を生み、次のエネルギー摂取を早めてしまう」ということは、1000人以上を対象とした研究でも明らかになっています。糖質の多い食事をとったときほど、食後の血糖値の下がりが大きくなり、食事から2、3時間後の空腹感が高まり、次の食事までの時間が短くなり、結果としてエネルギー摂取量が増加したのです(注)。

(注)Nature Metab. 2021 Apr;3(4):523-529.

ですから、私は、腸炎などでご飯が食べられない場合などを除いて液体の糖質はおすすめしません。時間がなくて短時間でパッと栄養補給したい場合でも、液体の栄養補給は、結局のところ短時間しかもちません。固形のクッキーなどを1、2枚食べたほうが、血糖値の上昇はゆるやかで腹持ちも良いと思います。

■ナッツはどれだけ食べても血糖値が上がらない

間食したいときにいちばんおすすめなのが、ナッツです。ナッツの主な栄養素は、脂質です。アーモンド、くるみ、落花生、マカダミアナッツなど種類によって多少異なりますが、おおよそ5〜7割が脂質で、残りは炭水化物とたんぱく質が半々程度という構成です。

浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)

なおかつ、ナッツの炭水化物は、食物繊維の占める割合が多いので、ほとんど血糖値は上がりません。実際、ナッツを食べたあと、フリースタイルリブレのグラフを見ると、血糖値はほとんど上がっていません。

また、ナッツの脂質のほとんどは、不飽和脂肪酸です。LDLコレステロールを下げ、動脈硬化を抑える効果があるのが、不飽和脂肪酸です。肥満の原因は糖質であり、脂質を摂(と)っても糖質ほど太らないことがわかっています。

約12万人を対象にナッツの摂取と死亡との関連を調べた研究では、ナッツを食べない人に比べて、毎日ナッツを食べる人の死亡リスクは20%低いことがわかりました。がん、心臓病、呼吸器疾患の病気別に見ても、ナッツを食べる人のほうがそれぞれの死亡リスクは低かったのです(注)。

(注)N Engl J Med. 2013 Nov 21;369(21):2001-11.

ナッツに関してはいくら食べても血糖値を上げませんので、量も、食べるタイミングも気にする必要はありません。罪悪感なく食べていただいてOKです。私自身も、間食したいときにちょっとつまむというよりは、意識的に食べるようにしています。昼食などがとれず、夕方極度にお腹が空いて素焼きのアーモンドを一袋丸々(450kcal以上)食べてしまったりすることもありますが、全然太りません。

間食としてそのまま食べるだけではなく、食べ応えがあってそれなりに満腹感が出るのでサラダにトッピングしたりしてボリュームを出すのに使うのもおすすめです。

■食後数時間後のおやつには高カカオチョコもいい

ナッツよりも、もう少し甘いものが食べたいときにおすすめなのが、高カカオのチョコレートです。最近では、「カカオ72%」「カカオ86%」などと書かれた、カカオの含有量の多いチョコレート商品が増えています。

写真=iStock.com/victoriya89
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/victoriya89

チョコレートに含まれるカカオポリフェノールは抗酸化作用を持ち、血圧低下やHDLコレステロールの増加といった血管に良い働きもあります。ただし、食べる量と食べるタイミングは選ぶこと。血糖値が上がり始めている食後すぐに食べると、さらに血糖値を上げてしまうので、食後2〜3時間経って血糖値が下がった頃に間食として食べましょう。

量は薄くて小さいブロックであれば5枚以下を目安に。そのぐらいであれば、食べても血糖値はそんなに上がりません。ただ、もし数枚では止められず、次々と手が伸びてしまうときにはまだ糖質中毒から抜け切れていません。一旦、甘いものとは距離を置きましょう。1カ月ほどは間食をゼロにすることをおすすめします。

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浅野 拓(あさの・たく)
聖路加国際病院・心血管センター 循環器内科医
1979年生まれ。2006年3月浜松医科大学医学部卒業後、聖路加国際病院の初期臨床研修を開始。心血管センターにて主に冠動脈疾患や弁膜症の診療に従事し、これまで術者として500人以上のカテーテル治療に当たる。急性心筋梗塞など緊急疾患の救命を目的とする診療を行う一方で、チーム医療、個々人のリスクに見合った治療選択、実践的な生活習慣を患者に提案することを重視している。2020年アムステルダム大学(University of Amsterdam)にて博士号取得。日本内科学会専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本循環器学会関東甲信越支部予防委員会委員。
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(聖路加国際病院・心血管センター 循環器内科医 浅野 拓)