53歳父が、養子のうーちゃんに振られたような気持ちになった理由<古泉智浩の養子縁組やってみた99>
53歳の漫画家・古泉智浩さん。古泉さん夫婦と母(おばあちゃん)、里子から養子縁組した小2の長男・うーちゃん、養子になった長女・ぽん子ちゃんという家族5人で暮らしています。今回は、うーちゃんと釣った魚をぽん子ちゃんと調理するというお話です。
気分屋のうーちゃんが釣りに来てくれて、うれしい!
小2の養子のうーちゃんは、僕がなにを誘っても断るのですが、久しぶりに釣りに誘ってみると行くと言います。珍しいことがあるものだ、応じてもらえるなんてうれしいと心のときめきを感じました。
●片思いみたいな、振られたような気持ち
翌朝おばあちゃんの部屋の布団でゴロゴロしているうーちゃんに予定を伝えました。
「じゃあ、1時に帰ってくるから準備して行こうね」
寝転がったままうーちゃんが言いました。
「ぼく行かない」
出た、いつものやつ。毎回こんな調子だったことを改めて思い出して喜んだ自分がバカみたいで、そもそも期待などしなければよかったと後悔しました。片思いみたいな、振られたみたいな気持ちです。
●うーちゃん行くのか、うれしい!
しかし釣りに行きたい気持ちは変わらないので、午前中仕事をしていったん帰宅して昼食して釣りに行く準備をしていると、うーちゃんがやっぱり行くと言います。
「ふーん、あっそう」
なんかこう、足元を見られるのも嫌なので素っ気ない振りをしてしまいました。行くのか、うれしい!
ただ、すぐキャンセルする人は信用を失って誰からも誘われなくなります。相手の都合もあるので予定をコロコロ変えるのはよくないよといつかなにかのタイミングで伝える必要があります。
今は子どもで、子ども同士の世界はそんな感じなのでしょうか。それとも相手が僕なので気軽にキャンセルしてもいいと思っているのでしょうか。
●まさに入れ食い!86匹も釣れました
海ではそろそろハゼが釣れ始めてもいい頃合いです。先日漁港を訪れた際には、まだハゼの影も見えませんでしたが、もう9月も中盤を過ぎたらいるはずなので、豆アジ用のコマセとハゼ用のアオイソメを買って行きました。
この日は豆アジが絶好調で、しかも少し大きめサイズの豆アジが流れ作業のように釣れました。豆アジに交じって、サバ、サヨリなども釣れました。エサをカゴに入れる、海に仕掛けを落とす、魚が食いつく、海から上げる、魚を針から外す、エサをカゴに入れる…が無限ループで休む暇がなく釣れました。息が上がるほど疲れました。
ありがたいことに、うーちゃんがほとんどの作業を自力でこなしてくれるようになっていました。
行くか行かないか迷っていたうーちゃんですが、魚がかかると興奮して大喜びで魚をクーラーボックスに入れています。休むことなく釣れてその数なんと86匹でした。
本当はほかに小さいクロダイやイシダイも釣れましたが、骨が大きくて食べにくいのですぐリリースしました。エサがあればあるだけ釣れていたので、エサがなくなってようやく終わることができました。
浅瀬に移動して仕掛けを替えて、アオイソメでハゼを狙うことにしました。アオイソメは足のあるミミズのような虫餌で、頭には口があって歯もあります。うーちゃんはその歯が怖いので、頭の部分をちぎって僕が使って、しっぽの方をうーちゃんが使います。
ハゼはたしかにいるはいるのですが、まだあまり数が多くなくて結局僕が3匹釣っただけで、うーちゃんはつまらないようでした。ハゼもおいしいので釣りたかったです。
●小魚40匹分の下ごしらえをスタート!
その日は4歳の養子のぽん子ちゃんがママの実家に遊びに行っていたので、帰りに2人を迎えに行って、魚をおすそ分けしました。なにしろ家では食べきれない数です。
ママの実家では猫が3匹いて、時々釣った魚を持っていくと、新鮮な魚が好きなようで猫が大喜びで食べてくれるとのことです。
魚を釣るのはとても楽しい遊びですが、よく世間で言われるのは「釣った魚を持ち帰って放置して奥さんに嫌がられる夫」です。そんな声は僕も自覚しているので、釣った魚に関しては下ごしらえから調理、食べ残しまで僕が責任を持って処理する方針です。なので、食べにくい魚、処理しづらい魚は徹底的に持ち帰らないようにする必要があります。
そういう意味で、豆アジは非常に面倒くさい魚です。なにしろ数が多すぎて処理が大変なのです。大人が食べるだけなら、頭から丸ごと調理すればすむけれど、子どもが食べることを考えると、頭をとってはらわたを出して骨までサクサクになるまで揚げる必要があります。
面倒くさいことは後回しすると余計に面倒になります。ママの実家で分けた残りの小魚40匹分の下ごしらえを流しでしていました。
「なにしてるの〜」
ぽん子ちゃんがすごく興味ありそうに近づいてきました。
「お魚を料理するための準備だよ」
「ぽん子ちゃんもする〜」
しかし、そうは言っても4歳児に包丁を使わせるわけには行きません。豆アジの下ごしらえは、頭を包丁で切っておなかに切り込みを入れてはらわたを出す、そして水でおなかの中を洗います。
「それじゃあ、ぽん子ちゃん。おなかをほじくり出して洗ってくれる?」
「うん、いいよ」
マジかと思いましたが、小さなイスを踏み台にして流しの水道に手が届くようにして、僕が頭を落としておなかに切り込みを入れた豆アジを手渡すと、上手にはらわたをほじくり出してきれいに水洗いしてくれます。洗った魚はお皿に乗せます。
気が滅入るだけの面倒な作業がぽんこちゃんのお陰で楽しい作業に変わりました。
早々に包丁の作業が終わったので、魚のおなかを洗う作業を手伝おうとしました。
「ぽん子ちゃんがする! やめて!」
強い口調で怒られました。
●豆アジのから揚げは過去最高水準の出来!
ぽん子ちゃんがすべての魚のおなかを洗う作業を終えるのを待ち、魚の水気をキッチンペーパーでふき取り、カレー味の唐揚げの素に漬けました。フライパンに油を敷いて、骨まで食べられるようにじっくり揚げました。
そうして完成した豆アジのから揚げは過去最高水準の出来でした!
「ほら、うーちゃんが釣った魚だよ。ほら食べて」
うーちゃんは渋々と言った様子で1匹食べて、それっきりもう食べませんでした。
「ぽん子ちゃん、あんたがおなかを洗ってくれておいしくできたよ」
ぽん子ちゃんも3匹ほど食べただけでそれ以上は口にしません。大人がおいしくいただきました。
子どもが食べるか食べないかは本当にむらっ気で、今日食べたからと言って明日食べるとは限りません。それから数日たってぽん子ちゃんが
「ほじくるのやりたーい」
と魚の下ごしらえをやりたいと言うのでまた釣りに行きたくなりました。