「だれもが簡単につくれて、健康な体づくりの礎になり、しかも食べ疲れをしないレシピ」を信条としている、料理家の長谷川あかりさん。ここでは長谷川さんが、ごはんづくりを通じて今のようなメッセージを発信するまでの過程を伺いました。簡単につくれる「しょうゆだけから揚げ」のレシピも。

長谷川あかりさんが芸能界を経て、料理の仕事にたどり着くまで

Twitter、Instagramで今話題の料理家、長谷川あかりさん。「油も小麦粉も使わない夏カレー」や「味つけはしょうゆだけのから揚げ」「塩辛が決め手のブイヤベース風魚介煮込み」など、見栄えもよく、つくってみたい! と思わされるレシピが人気です。

 

じつは今の仕事に就く前は、まったく違う芸能の世界に身を置いていたという長谷川さん。小学校高学年から、おもにTVでタレント活動し、高校も芸能コースがある学校へ進学。そこで気がついたのが、同級生たちの食生活でした。

●おいしいものを食べてくれる「胃袋」を探していました(笑)

「同級生は実家を出て、10代半ばの若さで一人暮らしをしている子が多かったのですが、どうしても食べ物の栄養バランスが偏りがちでした。『安く上がるし、スティックパン一袋で一日過ごす』とか。またモデルをしている子たちが、ダイエットのために『今日のおかずはこんにゃくとトマト!』みたいな、極端なランチを食べている姿も目の当たりにし、料理好きの身としては、これはどうにかしなければ、と。

そこで仲のいい友達数名に、週に一回、おにぎりをつくらせてもらったんです。そうしたら喜んでもらえて、『〇〇ちゃんはチーズが好きだから、チーズ入り』『〇〇ちゃんはゴマ油で味つけしてみよう』と、一人ずつの好みに合わせて変化をつけてみたりするようになりました。そうやっていくうちに、『みんなを健康にしたい』『私の料理を食べてくれる胃袋、大募集!』みたいな感じになって。料理をつくるのがどんどん楽しくなっていきました」

――その後、20代前半で結婚し、同時に芸能界も引退。もともと好きだった料理の道を究めようと、大学で学び、管理栄養士の資格を取得しました。

「ずっとつくり続けていた料理ですが、一方では、どこかで趣味の域を出ていないようなコンプレックスもあったんです。結婚をし、プライベートや仕事に一区切りがついたこともあり、昔から興味のあった栄養について、基礎から学び直すことにしました。それが22歳。一般的な年齢からは少し遅めのスタートでしたが、夫も、周りの家族も『いいじゃない』と応援してくれたのはありがたったですね。とくに最初の2年間は朝から晩まで勉強漬けの毎日を過ごしました」

●普通の人を健康に寄せていくレシピを広めたい

――栄養学を徹底的に学んだことで改めて感じたことはなんでしょうか?

「毎日の食事の中で多くの人を健康な方向へと寄せる、“公衆栄養学”というジャンルを、管理栄養士として広めていきたいと強く思いました。ただ、栄養の学問って、おいしさや見映えなどとはあまり関係のない、地味といえば地味なジャンルなんです(笑)。だから、SNS、そして外食や中食の多様化で目や舌が肥えてしまっている現代人の生活のなかで、だれが、どういうスタンスで体に優しい料理を広めていくのか、というのは大事かもしれません。

そういう意味では、10代の頃に芸能活動をしていたのは、マイナスになっていないのかもしれませんね。当時の仲間たちが、私のレシピをつくってSNSに上げてくれることも増えてきて、ありがたいです。芸能活動をしていたことは、とくに隠すことでもなく、かといって過剰にアピールすることでもないかなと思っています。それでもなにかの形で、皆さんが栄養や料理の楽しさについて触れるきっかけのひとつになっているのだとしたら嬉しいです」

 

●調理技術は気にしなくて大丈夫、と発信したい

「これだけ忙しくてなんでも溢れている今の時代、自分でちゃんと料理をしようと思えるって、それだけですごいし、真面目な人だと思うんですよね。だからこそ、食材の切り方とかも教科書通りにきちんとやらなきゃ、と思ってしまうかもしれないけど、お店の料理じゃないので、多少雑でも楽しくつくって、おいしく食べられるほうが大事。毎日のことなので、必要以上に技術技術を気にして悩まなくても大丈夫だよ、ということは発信していきたいです。

また、煮込みハンバーグとか、洋食的なものって毎日食べるには重たいですよね。外食が続くと疲れちゃうのは、おいしすぎるから。なので、毎日『すごくおいしい!』みたいな100点満点じゃなくていいはず。家庭料理で100点満点のおいしいは目指さなくていい、それよりもつくっている時間が楽しく、そしてつくり手の自己肯定感が上がるものであってほしいなあと思っています」

ーーレシピで「時短」という言葉をあまり使わないのも、意図があるのでしょうか?

「そこにあまりこだわりすぎないほうがいい、と思っています。あくまで『おいしそう』『つくってみたい』が先にあって、つくってみるとそんなに難しくなかった、というレシピを目指して。

投稿して人気だったレシピにしょうゆだけで味つけするから揚げがありますが、簡単とはいえ、やっぱりそれなりに少し手間はかかるんですよ。決して、時短レシピじゃない。でも、いいんです。自分なりに『この味がおいしい』『これを追加してみるとどうなる?』と、研究を重ね続けて、家族や友人達にも、ご機嫌な態度で振る舞える一品なんです。

だれもが軽やかに挑戦できて、その人なりの工夫をする余白もあり、それでいて気がついたら栄養も摂れて……。『こんなものがつくれちゃう。なんだか私ってすごいかも!』と思えるもの=料理、というイメージにしていきたいです」

「しょうゆだけから揚げ」レシピ

【材料】

鶏もも肉1枚、しょうゆ 大さじ2、小麦粉 大さじ1と1/2、片栗粉 たっぷり、油 大さじ3(フライパンの底全体にいきわたればOK)

【つくり方】

お肉としょうゆをジッパーつき保存袋に入れ、肉が完全にしょうゆを吸い込むまでもみこむ。小麦粉を加えてもみこみ、さらに小麦粉を加え、袋を振って全体にまぶし、袋ごと握って、片栗粉を肉に密着させる。
フライパンに油を注いだら火をつける前に肉を入れ、弱めの中火で合計8分ほど両面を揚げ焼きする。ひっくり返すとき以外は肉に触らないこと。最後強火で片面30秒〜1分ずつカリッと揚げ焼きにして完成。

片栗粉をまぶす前に小麦粉でお肉をコーティングすることで、衣サクサク&口の中でほろっとほどける不思議な食感に。