毎日食べても飽きず、なおかつ料理をつくる楽しさも味わえる。そんなシンプルなレシピを公開し、SNS上で大人気となっている料理家・長谷川あかりさん。自身の料理や食に込める思い、そしてESSE世代におすすめしたいレシピも紹介してくれました。

長谷川あかりさんの「派手すぎず、でも体に優しいレシピ」ができるまで

「手軽な材料でつくれて、しかもあっさりとした味わいがいい」、「特別感もありつつ、でも何度もリピートしたくなるレシピがたくさん」と、SNS上でまたたく間に話題の料理家となった長谷川さん。

 

今年の3月まで大学で栄養学の勉強をしており、TwitterやInstagramで本格的にレシピを発信し始めたのは、じつは4月を過ぎてからでした。

「周りからは『SNSを始めた途端にバズってすごいね』と言われることもあるのですが、当事者としては、あまり実感がないのが本当の気持ちなんです(笑)。ただ、最初にいいね!の数が1万を超えたレシピが、缶詰の魚介にお刺身をのせただけの中華粥という、ものすごく地味な料理だったんです。ちょうど梅雨の頃で体調も変わりやすいし、胃腸の負担にならない、簡単につくれて体に優しいレシピはどうですか? という気持ちでアップしたんですよね。

 

そうしたら思いのほか、反響がありまして。SNSで人気の料理というと、お酒に合うおつまみやガッツリ食べ応えがあるメニューという印象で、私はそういったバズりには関係ない料理家だと思っていたのですが…。『え、このレシピに皆がいいねしてくれるの?』、『魚介の中華粥が?!』という驚きと、もしかしたら、なにか、世の中のお役に立てたのかもしれないといううれしさがありました」

●料理中は勘違いをしながら作業をしているかも(笑)

――同時に料理家として、ある種の確信も抱いたのだとか。

「私はつくる方も食べる方も負担にならない、暮らしに根づいたレシピを発信したいと考えているのですが、そういう料理をつくりたい方って案外多いのかもしれないと安心しました。私のレシピは使う調味料の種類も少ないですし、味つけは酒蒸しをしただけでOKというものもあります。

私自身、もともと料理をするのは大好きだったのですが、その割には面倒くさがり屋だし、料理の中でやりたいこと・やりたくないことがはっきりしているタイプだったんです。たとえば、下ごしらえの段階で色々な種類の野菜をひたすら切る作業は今でも苦手(笑)。でも、トッピングにする用の薬味を丁寧に刻んだり、コトコト煮たり、食材の香りが出るまでじっくり焼いたりなどの好きな作業をしていると、『もしかしたら……私って料理の天才かも!』と気分が高揚してくるんです。それだったら、嫌いな工程は適度に力を抜いてしまった方がいい。天才と思える部分に目を向けて……。もしかしたら私、料理中はずっと勘違いをしながら作業をしているかもしれません(笑)。

もちろん料理の仕事をする私に関しては、切り方が美しく均一であることに越したことはないのでもっと練習しなくてはいけないのですが…。一方で、「家庭でつくる気楽な料理」を発信していくという意味では、そこのハードルを上げすぎずにいた方が自分自身もレシピを参考にしてくださる皆さんも楽になれるのかなと感じています。

また家庭料理の変遷、というテーマで考えると“1975年の家庭料理が理想”などと言われますが、当時と今とでは、ライフスタイルが違い過ぎるのかな、とも。今、家族のために料理づくりだけに没頭できる生活を送っている方って、なかなかいないですよね? そんな現実を見据えつつ、でも料理をつくったぞという満足感を得たい方や、なるべく健康的なものをつくりたいという思いをもった方が、長谷川あかりのレシピに共感してくださっているのかなと思っています」

●家庭でつくる料理は、もっとシンプルでいい

――主食、副菜が多すぎず、少なすぎず。バランスのいいメニューも人気の理由です。

「家庭でつくる料理って、もっと単純でいいと思っています。栄養学って、極めていけばいくほど、スパッとした答えがなくて、“バランスよく食べること”という抽象的な世界になっていくのですが、それでも基礎から学んでいくうちに、現代人の食生活は、栄養過多な部分も多いなと感じるようになりました。

たとえば今って、糖質ダイエットが定着していることもあり、タンパク質を使ったおかずをたくさんつくって食べるのがOKみたいな風潮がありますよね。でも栄養学の面から見ると『一食でこんなに取らなくても大丈夫じゃないかな?』『もしもつくるのが大変なら、栄養素的には十分たりているから毎日そんなにがんばらなくても大丈夫だよ〜』と思うことも多くて。またアスリートの奥様が、朝からたくさんのおかずが並んでいる様子をSNSに投稿して、それに『理想的です!』というコメントがずらっとついている光景もよく目にします。激しく体を動かすプロアスリートならいいのですが、普通の人は一度の食事でそこまで大量の種類のおかずを食べるを必要はないんです。

また学生時代から、スープ作家の有賀薫さんのアシスタントもさせていただいているのですが、有賀さんの料理哲学から学んだ部分も大きいかもしれません。外食では華やかだったり、派手な料理を楽しみ、家では、簡単で、温かくて、栄養が取れて、食べ疲れしないものがいちばん。

それからこれは持論ですが、コンビニやお総菜屋さんで買えるものは、つくりません。たとえば本格的なデミグラスソースの煮込みハンバーグや、定番のひじきの煮物などは、つくるのが大変ですし、すでにおいしいものが市場に出回っていますから、つくる方ががんばる必要はなく、もう充分かなと(笑)。むしろお店では買えない、ゆでただけの野菜とか、自分好みに野菜をあえたものなどこそ、家でつくる意味があると思っています。家でつくれて、食べ疲れしなくて、なおかつ多くの人が健康になれるようなレシピを提案していきたいです」

「本格魚介中華粥」のレシピ

【材料とつくり方】

米1合をごま油で炒めたら、熱湯1.2リットル、ホタテ缶、ショウガを加えてフタをし、40分弱火で煮る。

塩小さじ1、魚醤小さじ1/2で調味後、白身魚刺身をのせ、余熱で火を通し完成。ここでは、魚醤はしょっつるを使用。ナンプラーでも可。