7人が埋まるはずのベンチメンバーには、5人の名前しか記されておらず、うち3人がGK登録。前代未聞のそのリストが、川崎フロンターレの緊急事態を如実に物語っていた。

 川崎から「トップチーム関係者1名が新型コロナウイルス感染症の陽性判定を受けた」というリリースが出たのは、7月26日の火曜日のこと。木曜日には新たに5名の陽性者が判明し、試合前日の金曜日にはさらに4名の陽性判定が報告されている。

 金曜日のリリースには「明日開催される2022明治安田生命J1リーグ第23節vs浦和レッズには、出場条件を満たした選手・スタッフで出場いたします」と記されていたものの、試合当日のスクリーニング検査でも新たなに1名の陽性者が判明した。


手持ちの駒で最善のメンバーを組んだ鬼木監督

 Jリーグの規約では、13人がベンチ入りできれば試合を開催するエントリー基準がある。一方で13人以上が出場条件を満たしていても、保健所によってチームが活動停止の指示を受ければ、試合を行なうことはできない。今季の中止試合は、すべてこのケースだった。

 もっとも、自治体によって保健所の判断基準は異なるため、公平性は保たれないことになる。Jリーグの野々村芳和チェアマンは「今までは保健所の判断を仰ぐことが多かったが、リーグとして試合をするのかしないのかの判断の規約を早急に考えないといけない」と話しているが、まだルールは定められていない。

 保健所から活動停止を指示されなかった川崎は既存の規約にのっとり、4人のGKを含む16人で、浦和レッズのホーム、埼玉スタジアムに乗り込むことになったのだ。

 不幸中の幸いだったのは、スタメン11人のポジションを無理なく当てはめることができたこと。

 GKには守護神のチョン・ソンリョンが入り、最終ラインには代表帰りの谷口彰悟が強行出場。故障明けのジェジエウともに2CBを形成した。中盤の3人、3トップの3人も、いずれもレギュラークラスが適正ポジションでピッチに立っている。

悔しさを吐露した鬼木監督

 唯一の不安要素は両SB。右の瀬古樹、左の橘田健人はともに経験こそあるものの、本職はボランチを主戦とする選手である。

「今日の試合に臨むにあたって、しっかりと自信を持ってピッチに立つところまではできたと思う」

 主将の谷口がそう語ったように、川崎は手負いの状況でありながらも、敵地で勝ち点3を得るために可能なかぎりの準備をしてきていた。

 ただ、やはり大量離脱の影響は否めなかった。開始早々の4分に先制されると、17分にも2点目を奪われてしまう。

「試合の入りで大きなミスをしてしまった。チームとして入り方を合わせられなかったのは非常に悔しいし、大きなミスをしてしまった」

 谷口が悔やんだように、試合巧者の王者らしくない立ち上がりが、この試合のすべてだった。とりわけ先制点は橘田のエリアを崩されただけに、不安要素が浮き彫りとなった格好だ。

 立ち上がりに力を注げなかったのは、交代枠が限られていたことが要因となったと考えられる。

 実質ふたりしか交代できない状況である以上、90分間のペース配分を考えれば、いきなりエンジン全開というわけにはなかなかならないだろう。受け身となったところを浦和にうまく突かれてしまった。そんなふたつの失点だった。

 2点のビハインドを負った川崎はようやくスイッチが入り、その後は多くの時間帯で相手を押し込んだ。しかし、早い段階からブロックを築いた浦和の対応を崩すことができず、終盤に一矢を悔いたものの、直後にさらに1点を失い、1−3の完敗に終わっている。

「早い時間での失点が響いたと思いますし、なかなかひっくり返すところまで持っていけなかった。こういう状況でも自分のところで、もっとできたんじゃないかと思いますし、力不足だと思っています」

 そう試合を振り返った鬼木達監督は、この試合に臨むにあたっての難しさも吐露している。

「本当は勝って、いろいろと話せたらよかったんですが」と前置きしたうえで、「ルールに沿ってやれば、こういう形で人が減ってでもやらないといけない状況になります。そこに関しては、覚悟を持ってやっていこうと。ただ、自分たちの2試合は(対戦相手に陽性者が複数出たことで)延期になっています。自分たちはGKをサブに多く入れたりする状況なのに、簡単に延期になるのかなという思いは当然みんなにありました。もしかしたら今日のゲームは意図的、意図的じゃないかは別にして、問題提起のゲームになるかもしれない」

次節で首位チームと直接対決

 負け惜しみになるから多くを語れない。それでも、鬼木監督の言葉からは万全の状態で試合のできなかった悔しさがにじみ出ていた。

 一方、いずれも意図した形からゴールを重ねた浦和のパフォーマンスは讃えられるべきだろう。得点力不足に苦しんだシーズン前半の不振を払拭し、これで3連勝と上昇気流に乗っている。

 もちろん川崎もコロナを言い訳にせず、手負いの状態で試合に挑み、自らの力不足を認めている。だから外野がとやかく言う必要はないのだが、この状況で本当に試合をしてよかったのかという疑問は大いに残ったし、読後感の悪さは否めなかった。

 ただひとつ確かなのは、この敗戦で川崎の3連覇に黄信号が灯ったということだ。

 5位に順位を下げた川崎は、この日、鹿島アントラーズとの直接対決を制した首位・横浜F・マリノスとのポイント差が11に広がった。川崎は消化試合数がふたつ少ない状況なので、この2試合をともに勝つことができれば、その差は5ポイントとなるが、それでも残り試合数を考えれば、決して小さくないディスアドバンテージである。

 幸か不幸か、首位チームとの直接対決が今週末の8月7日に開催される。おそらくこの試合は川崎にとって、3連覇への分水嶺となる。願わくば、万全の状態で臨んでほしい。結果はどうであろうとも。