遠隔操作ロボでプラント設備点検を省人化 BIPROGYが無人設備点検用に「ugo」と連携

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遠隔操作可能なロボットを使って警備や点検などのDXを提案するスタートアップ・ugo株式会社
はパートナー各社と実証実験を進めている。2022年7月20日〜22日の会期で東京ビッグサイトにて開催された『メンテナンス・レジリエンス TOKYO 2022
』では、ugoと実証実験を進めているBIPROGY株式会社が無人点検ソリューションの一部として「ugo Ex」を出展した。
BIPROGYによる様々なロボットを接続できる共通サービス基盤「ロボットの森
」を使ってロボットを点検業務で活用する。自律/遠隔操作可能な移動ロボットと、設備に設置したIoTセンサーを連携させてデータを自動収集。巡視点検業務の省人化を目指す。
●人とロボットの融合=ハイブリッド操作型ロボット「ugo」

ugo社の「ugo Pro」がブースでお出迎え『メンテナンス・レジリエンス TOKYO 2022』は、製造業・建設業向けに生産性向上、持続可能な社会資本整備、レジリエンス向上を提案する専門展示会だ。主催は一般社団法人日本能率協会で、工場設備の維持管理・保全技術を対象にした「プラントメンテナンスショー」「インフラ検査・維持管理展」など10の専門展示会と2つの特別企画から構成されている。併催された『TECHNO-FRONTIER2022/INDUSTRY-FRONTIER2022』他と合わせた3日間の来場者数は28,421名人。
ugo(ユーゴー)は、半自律型のロボットシリーズ「ugo(ユーゴー、会社名と同名)」を主力製品としているスタートアップ。「ugo」の特徴は完全無人で動く自律モードだけでなく、遠隔操作で動かすこともできる点。遠隔操作のインターフェースは誰でも操作できる簡易なものとなっている。「ugo」という名前も「人とロボットの『融合』」に由来している。
●ロボットの動作を簡単にプログラムできる「Flow」
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遠隔操作と自律のハイブリッド操作が「ugo」の特徴だが、自律動作を組むのも容易だ。同社が「Flow」と名付けたソリューションで、適切にパラメーターを設定し、コマンドブロックを並べていくだけで、プログラミングの経験がないユーザーでも簡単にプログラムを組める。動作実行中も、いま何の動作をugoが実行しているのか、実際のカメラ画面とコマンドを見ながらチェックできる。動作プログラムのなかにはugoによる自動撮影や発話なども組み込むことができる。
●多用途ロボット「ugo」
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「ugo」は多用途ロボットだ。以前は警備・ビルメンテナンスにアプリケーションを絞ってビジネス展開していたが、今は大規模施設の点検、工場での搬送、さらには介護など様々なことに使えるとし、各業界で実証実験を行なっている。

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ロボットのラインナップには、2本腕付き上半身があるフルスペックの「ugo Pro」、その簡易版「ugo R」を基本とし、階層移動なしのワンフロア使用を想定した「ugo Stand」、そして今回出展されていた見回り業務に特化したシンプルな「ugo Ex」がある。

「ugo」シリーズのラインナップ台車部分の機能はどれも同じだ。「メカナムホイール」という特殊な車輪が使われており、その場での旋回が可能なため、狭い場所でも小回りが効く。正面と後方に2D LiDAR(レーザーセンサー)、前方後方の左右の角には超音波センサーがあり、周囲の障害物を検知して停止できる。下方には台車検知用の光センサーがある。その台車にカメラ付きポールがついた形が基本スタイルだ。

ugoの台車部。特性が異なる複数のセンサーを活用して障害物を検知。自己位置推定やマッピングも行える
●シンプルでリーズナブルな「ugo Ex」

「ugo Ex(ユーゴー イーエックス)」。シンプルで現場に素早く投入することを想定したリーズナブルなモデル現在、BIPROGYが実証実験を行っている「ugo Ex(ユーゴー イーエックス)」は、一番シンプルで拡張性が高く、簡単に素早く現場投入することを想定したモデル。サイズは、高さ180cm × 幅 44cm × 奥行き 58cm。重量は約35kg。移動速度は1.5-5km/h。連続稼働時間は約4時間。
上半身部分はないが、ポール先端には前面カメラ、背面カメラのほか、LEDリングライトがあり暗所でも運用できる。ポール部分には必要に応じて追加で温度や湿度、RFIDリーダーなど各種センサー類が追加できる。また、合成音声のほか、遠隔地からの呼びかけによりコミュニケーションが取れる。通信方式は無線LANのほか、4G/5G(別途モバイルルーターとSIM回線契約が必要)。

ポール先端のバードビューカメラ。前後に一つずつある料金は月額(税抜・3年契約)98,000円〜。基本料金はない。ugoとしてはもっともリーズナブルとなっている。なお、必要に応じて他のセンサー類を追加搭載することもできる。その料金はオプション。

出展されていたモデルにオプションとして付けられていたLiDAR(上)とデプスセンサー(下)今回出展されていた「ugo Ex」にもLiDARとデプスセンサーが付けられていた。その他、RFIDリーダーなどを取り付けて、センサー情報を非接触で収集することができる。
●BIPROGYのプラント保安業務スマート化ソリューション

『メンテナンス・レジリエンス TOKYO 2022』BIPROGYブースシステムインテグレーター企業であるBIPROGY株式会社(2022年4月に日本ユニシスから社名変更)は現在、社会課題解決型ビジネスを強化している。今回の『メンテナンス・レジリエンス TOKYO 2022』では、発電所やプラントといった大規模施設の保安業務のスマート化に向けて、1)業務情報のデジタル化、2)有人設備点検、3)無人設備点検の3領域のソリューションをブースで展示していた。

BIPROGYのソリューション。1)業務情報のデジタル化、2)有人設備点検、3)無人設備点検業務情報のデジタル化については、ファシリティの情報を統合・可視化して一元化することで、管理者による最適管理を支援するファシリティ・マネジメント用のシステム「ARCHIBUS」
、有人設備点検については、IoTセンサーやウェアラブルデバイスを組み合わせて、電流、振動、漏水などの設備点検業務の生産性を改善するサービス「まるっと点検」
というソリューションがある。

BIPROGYのファシリティ・マネジメント用システム「ARCHIBUS」の概要。人・ロボットが収集したデータもここに統合される統合することができる「まるっと点検」は異常を自動検知してメールで発報する機能のほか、タブレットやスマートグラスなどを使って音声そのほか電子データを直接入力するサービス、現場から送られる映像・音声情報を見ながら作業指示するサービスなどから構成されている。

BIPROGY 「まるっと点検」の3機能「ugo」が検討されているのは「無人設備点検」ソリューションだ。ロボットやセンサーから得られる現場の状態を元に、本来そこにはないものなどを検知し、巡視点検業務の省人化、無人化を実現するサービスである。

BIPROGY 無人設備点検ソリューション「無人設備点検」と「まるっと点検」で収集した情報は「ARCHIBUS」に統合することも可能である。いずれロボットへの点検指示なども「ARCHIBUS」から出すことも検討している。「ARCHIBUS」は各種情報を一元化できるソリューションだが、最初から全機能を利用する必要はなく必要な機能から使うことができる。「ARCHIBUS」に限らず、「まるっと点検」、「無人設備点検」など、顧客個別の課題に対して現場利用を始めている段階だという。
●BIPROGYのロボティクス共通サービス基盤「ロボットの森」

BIPROGY株式会社 戦略事業推進第一本部 社会公共サービスBiz推進部 チーフ・スペシャリスト 下舘寿大氏今回取材を受けてくれたのはBIPROGY 下舘寿大氏。BIPROGYは、多種多様なロボットの個体管理や制御、データ収集・蓄積機能を提供してロボット活用サービスを促進するために、ロボティクス共通サービス基盤「ロボットの森」
を展開している。
「ロボットの森」は、各社のロボットを接続するためのプラットフォームで、各ロボットからのデータを収集・蓄積・管理して、ロボットの運用・管理、そして業務へのデータ活用を可能にするしくみ。複数ベンダーのロボットのインターフェースをWebAPIで統一。ロボット毎の状態や位置情報を確認する機能や各ロボットへの実行指示機能は「ロボットの森」から提供する。そのため各業務固有のシステムを構築しなくても現場へのロボット活用を始めることができるという。外部データとも連携できる。

ロボットを使って、通常は存在しないはずの異物などを自動発見する下舘氏によれば「プラントや発電所、工場などをターゲットにして、現在、点検システムとして『ロボットの森』を包括したシステムを開発中」とのこと。ロボットやIoTセンサーで収集した情報を解析し、点検対象物を確認、異物を発見などいつもとの違い「違和感」を検知できるソリューションだ。ロボットが担当するのはデータ収集までで、データ解析等は全てBIPROGYが開発している。
●商用展開は2023年以降を想定

「無人点検支援システム(開発中)」の画像解析による異常検知結果は正常時と違う部分が表示されるロボットを活用することで、点検品質のバラツキをなくすことができる。また、点検体制を5人から4人+ロボット2台とすることで省人化、あるいは人をより重要な施設の点検に割り振るなどして効率化することが期待できるという。
では、具体的にはロボットをどのように使うのだろうか。今回出展されていた「ugo Ex」の場合は、正常時と比較し違和感を検知する画像解析のために映像を収集したり、設備側に設置した振動センサーの情報をRFIDリーダで収集したりといった使い方が想定されている。プラントではネットワークや電源を追加で導入するのは難しい。そこで無給電式の省電力振動センサーなどを設備に事前につけておき、ロボットを使って、情報を取得する。なお現状の「ugo」は屋内専用なので、運用場所は屋内である。
実際には「ugo Ex」に複数のカメラやセンサー類をつけたスタイルでの運用を検討している。BIPROGYが開発中の小売店舗の棚卸し用ロボット「RASFOR」を彷彿とさせるスタイルだ。

テスト中の「ugo Ex」の様子。各種カメラをつけて動かしている当初は、上半身に双腕付きの「ugo Pro」を用いて、腕先のカメラで点検させようという検討も行ったという。だが、手の動きと台車周りの動きを考えると、毎回同じような映像を撮影することは困難ではないかと考えて、まずは複数カメラを用いたスタイルで一度検討ということになった。
BIPROGYとしては「ugo」以外のロボットに対応可能な構成推しているが、様々なセンサーを搭載できる拡張性を評価して、実証実験用に「ugo」を選んだ。実証実験は2022年内を予定し、その後、客先での商用展開を考えている。
●現場現場で受け入れられるロボットへ

様々なロボットが適材適所で活躍することで業務DXが可能になる「ugo」を選んだ理由は拡張性だけではない。「完璧に動けるロボットはないと思いますので、自律移動一辺倒では困ります。遠隔操作もプロしか動かせないようでは困る。その点、『ugo』の操作は簡単ですし、いろいろな動きができる。腕の力は人を傷つけないように弱いし、衝突しそうになったら、ゆっくり動く。現場に受け入れられやすいのではないかと思いました」
今後の課題としては、まずコストがある。「ugo」は比較的価格も抑えられているが、各種オプションを付けると少しずつ負担が増す。一方で、人を超えるメリットを出すことは現在の技術では難しい。また、1台で一人分の作業をこなせないのであれば結局人手を削ることはできないので、もう一台追加するとなると、トータルサービスとしてはさらにコスト負担が増してしまう。これらは、どのサービスロボットも共通して抱える課題である。
だがBIPROGYの下舘氏は、「個別のコストも大事ですが、各現場で受け入れられるロボットが出て来てほしい」と語る。今後は、それぞれの現場環境に適したロボットが各社から出てくると考えられる。そうすれば、それぞれに適したロボットを選択し、組み合わせることでソリューション化すればいいというわけだ。
海外製のロボットも各種出ているが、顧客要望を反映させやすい国産メーカーには期待しているという。「ugo」自体に対しては色々な現場で活用できるように屋外への対応と、段差乗り越え能力の強化を期待したいとのことだった。