不安定な世の中、他人から怒りをぶつけられたり、もしくは見てしまった場合、こちらも嫌な気持ちになったり落ち込んだりしてしまうことがありますよね。そんな他者の怒りに乱されないために、私たちができることとは? 公認心理師の川本義巳さんにすぐできることを教えてもらいました。

他人の怒りの矛先が自分に向いたら…対処法

川本さんが、自身の実感とともに、昨今目立つようになってきた「他人を攻撃する人」について話してくれました。

●他人への攻撃が以前よりも目立つようになってきた背景

先日母のつき添いで病院に行ったときのことです。初老の男性が何やら大きな声で、看護師さんにクレームをつけていました。内容は定かではなかったのですが、どうやら病院の指示と本人の解釈が違うみたいで「そういうのは聞いていない!」「なんとかしろ!」といった様子でした。私は普段、こういう場面に遭遇しないのでちょっとびっくりしたのですが、一緒にいた奥さん(現役看護師)は「よくある話」だと言っていました。そして「昔に比べて増えた気がする」とも。

彼女によるとコロナ過になってから増えているということでした。受診も面会もかなり制限が増えましたから、以前に比べて手間もストレスも当然多くなり、それを誰かにぶつけてしまうということはあり得る話です。

ネットの世界ではもっと顕著ですね。もともと匿名性が高いということもあり、持論をストレートにぶつけやすい場所ではありますが、それにしてもひどいなあと思うものもたくさん見受けられます。また直接コメントをせずに低評価ボタンで意思表示できるのも「どうなのかな?」と思ったりします。

先日も「どう考えても普通それが正しいでしょ」という記事に対してかなりの低評価がつけられていました。おそらく内容よりも書き方だったり、書いた人に対してだったり、単なる気晴らしだったりするのでしょうか。でもこうなると「常識」とか「公共性」というものも成り立たなくなるのでは? と少し不安にもなりますね。

●自分が悪くなくても攻撃されてしまう可能性も

すべてをコロナ過のせいにするつもりはありませんが、昔に比べてストレスの高い社会になっていることは間違いがないです。ストレスはやがて自分の心身に影響を与えます。それを健康的に解消できる場合は良いのですが、そうでない場合に「攻撃」という形で解消されることがあります。

「攻撃」は文字通り誰かを攻撃することです。自分と意見が合わない者や自分の領域を侵す者に対して発動されます。これはストレス対処方法ではあるのですが、攻撃される側にとっては、その人のストレスなどわからないわけですし、いきなり攻撃されても意味がわからないというのが本音のところでしょう。

自分に関係がないことで攻撃されるのは理不尽な話ではあるのですが、これだけ高ストレスの時代ですから、いつどこでそういう目に遭うのかわからないというのも正直なところです。

他人の攻撃から身を守る方法

そこで今回は、このような「攻撃」に対処する考え方、方法をお教えしたいと思います。

(1) 「私たちはただ違っている。それだけだ」

これはNLPで習った言葉ですが、私たちは本来一人一人違います。生まれた日も育った環境も学んできたことも経験してきたことも。なので、完全一致はありえません。

「ただ違っているだけで、善悪や優劣があるわけでない」のですから、そもそも批判の対象にはなりえないという考え方です。講座やコーチングでもこの言葉をよく引用しますが「そう思うと楽ですね」と言ってもらえますし、「これを知って楽になりました」という感想もよく聞きます。

(2) 事実をベースに会話をする

相手が感情的になっていると、ついついその「気持ち」に意識を向けがちですが、じつは気持ちばかりを気にしていると、さらに深みにはまってしまうことがあります。なぜなら気持ちはその人にしかわからないので、とらえどころがないのです。

そこで、相手の気持ちを尊重しながら事実をベースに会話をすることをオススメします。たとえば「あなたが怒っている気持ちは伝わりました。なにかいい方法はないか一緒に考えたいのですが、実際に何が起こったかとか何をしようとしていたのかを教えてもらえませんか?」というような感じです、事実が明確になってくると、思い違いや手順のミス等が明確になるので、「話がすごく整理できるようになった」という人が多いです。

(3) 「私はこう思う」と相手に伝える

攻撃をする相手は「自分は被害者だ」という感覚を持っていることがあります。そんな人に対して上から目線で「こうしなさい」と言えば、話はさらにややこしくなるのは目に見えていますよね。そんなとき有効なのが「アイ・メッセージ」です。

アイとは英語のIのことで「私」を指しています。アイ・メッセージというのは会話の冒頭に必ず「私」をいれるという会話法です。たとえば「こうすればいいよ」を「私はこうする方がいいと思うけど」に変える感じです。これが、「上から目線で言われている」「みんなから言われている」となると逆効果です。

アイ・メッセージは「その人の個人的な意見」になるため否定しづらく「つい受け取って」しまいます。そうなると、頭ごなしに反論はしづらくなります。

 

実際にはその場面によって違いがあるので、この通りとはいかない部分もありますが、基本的な考え方でもあるので、もし他者の怒りに遭遇したら、意識してもらえたらと思います。