パッティングの改善が地元Vを生んだ!(撮影:佐々木啓)

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北海道出身の菊地絵里香が自身初の地元優勝を遂げた「大東建託・いい部屋ネットレディス」。2日目に大会コースレコードとなる「63」をマークするなど、優勝スコアは20アンダー。伸ばし合いを制した。上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志が勝因を語る。
■ウェッジを中心としたツアー屈指のショット力を発揮
プロ15年目、34歳の勝因に挙げたのは予選ラウンドのビッグスコアとベテランらしい勝ち切れる強さと語る。「9アンダーのビッグスコアを出した次の日は、ゲームを組み立てるのは難しいのですが、きっちり69をマーク。予選ラウンドのアドバンテージを活かして、勝ち切った印象です」。
もともとショットメーカーとして有名な菊地だが、ツアーの中でも群を抜いているのが「ウェッジショットの正確性」。今大会、アマチュアの六車日那乃のキャディを務めていた辻村は、インサイドロープでコースを体感。ツアー最長の605ヤードの14番を始め、4つあるパー5は飛ばし屋の選手でも2オンが難しいコースだったと話す。「パー5は飛ばし屋優勢ではなく、ショートアイアンやウェッジの“3打目選手権”でしたので、菊地さんには追い風だったと思います」。実際、菊地はパー5で7つ伸ばしており、リズムよく回れたといえる。
「菊地さんのショットがすごさは、打点の良さ。ボールに対しての刃の入れ方が別格です。イコール縦距離が合いやすくなります。トッププレイヤーになるには、他の人より秀でたものが必要です。菊地さんはウェッジを中心としたショット力が素晴らしい選手」。ピッチングウェッジの下は46度、51度、57度の3本のウェッジを入れているが、特にこの3本の精度は際立っているという。
■悪いときは手が出るがしっかり“ヘッド”が出ていたパット
ショット力に加えて初日「27」、2日目「25」と「久しぶりにさく裂した」というパッティングも光った。4日間での3パットはゼロだった。大会前から日照時間が少なく、大会中も雨が降ったり、曇り模様だったこともあり「快晴の乾いたグリーンと違い、選手は重く感じていました。しっかりと芯を食ってヒットする技術が求められていました」。
菊地自身もウィークポイントと話すパッティングだが、この試合では「ヘッドがよく前に出ていました」。パッティングのアドレスでヘッドより手元を前に出すハンドファーストと手元を後ろにするハンドレートのタイプに分かれるが、菊地は後者。
「どちらがいいというわけではありませんが、菊地さんはハンドファーストに構えて振り遅れてボールがタラタラ弱くなるのを嫌がってその構えになったと思います。菊地さんのパッティングが悪いときは、インパクトで球をとらえる押し込みのときに手元がダラダラと前に出ている感じがありました。今回は、インパクト寸前で手元が止まってヘッドが前に出る感覚に見えました。これがスムーズにストロークできたポイントでしょう。本人が求めていた感覚と合うかは分かりませんが。手元が出ているときは悪く、ヘッドが出ているときはいいと言えると思います」
パッティングが良くなった要因としてパット巧者の西村優菜のパッティングを参考にしたことと、ちょうど2戦前の「資生堂レディス」からパターを替えたのも奏功している。「道具ありきではありませんが、イメージを変えたいときに道具を替えることも一つの手ですからね」。序盤戦一度もトップ5に入っていない菊地が、きっかけをつかんだ試合だったとみている。
■難しいピン位置でも攻める姿勢が流れを引き寄せた
最終日、辻村がキャディを務めた六車はインスタートのトップで、折り返し後は最終組のすぐ後ろで、菊地のプレーを随所に見ていた。序盤バーディを取った4番、5番がポイントだったとも。4番パー5は3打目を1メートル。5番パー4はバンカー越えのすぐの難しいピン位置だったが、果敢に攻めて60センチにつけた。5番は菊地の後に打った小祝が、その姿勢に影響されたのか、グリーン手前のバンカーにつかまっている。
「久しぶりの優勝争いだと“流れ”を読んでプレーしがちですが、菊地さんは違いました。4番、5番ホールは攻めづらいピン位置ですが、自分から攻めていって流れを引き寄せた感じです。最終組の三ヶ島さん、小祝さんが絶対に伸ばしてくると思っていたから、自分のパフォーマンスしか考えていなかったのだと思います」。
案の定、最終組は見応えある伸ばし合いとなり、三ヶ島は最後の最後まで菊地を追い詰めた。序盤から攻める姿勢を見せ、並ばれた後の14番パー5で絶対にバーディを取るという勝負強さがベテランらしいゲーム運びも称賛した。
「17番パー3は215ヤードあって、3人とも3番ウッドで打っていましたがしっかりバーディチャンスに着けてきました。グリーンが柔らかったというのもありますが、みんなのレベルが上がっています」。
ちょうど同じ週に海外メジャーの「エビアン選手権」が行われ、西郷真央が3位タイ、西村優菜が15位タイに入った。最近は日本選手が海外でも結果を残しているが、「日本の選手たちが海外で結果を出しているのは、日本ツアーでバーディ合戦、攻め合いを経験し、海外にいってもそういう展開についていけるようになったのだと思います。日本ツアーのレベルの高さを感じる試合でもありました」。バーディを取る技術と気持ちがないと上位に入れない。その姿勢が海外での活躍にもつながるという。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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