あえて玄関を広くしてみる理由。広い土間スペース+大きな窓で開放的に
家づくりでは、どちらかというと軽視されがちな玄関回りのプラン。じつは、あえて広くしたり、内と外のつながり方を工夫したりすることで、機能的なうえに、雰囲気のある玄関にできます。一級建築士の新井崇文さんが、そのうちの1つの形として提案するのが、「外とつながる土間スペースのある玄関」。自身が設計した事例をもとに、詳しく解説します。
土間スペースが広い玄関のメリット
靴を並べておくための土間スペース。この土間スペースをあえて広めにとると、玄関が広くスッキリと見えるだけでなく、日常生活での動作にもゆとりが生まれます。なぜでしょう?
たとえば、雨の日に家族みんなで出かけるとき。土間スペースが広ければ、何人もが同時に靴を履いたり、土間スペースでコートを着たりと、身支度ができます。先に靴を履いて身支度をすませた人が、雨の中で、待つこともなし。
このお宅では、土間スペースから出入りできるシューズクローゼット(黒い扉の部分)を設けています。靴やコートはこの中にしまう仕組み。おかげで、土間スペースをスッキリと見せることができます。
広い土間スペースがあれば、観葉植物を飾ることもできます。窓越しに外の緑と中の緑がつながり、玄関スペースにうるおいが感じられるように。土間スペースは、床が水濡れしたり汚れたりしても、気にならないのが強み。観葉植物に水やりする際にも、気兼ねしなくてすみます。
また、お気に入りの自転車を安全な室内で保管したい、という際にも玄関の土間スペースはうってつけ。このお宅でも、将来そのような使い方がされるかもしれません。
土間スペースとアプローチの緑をつなげる
このお宅では、道路から玄関までのアプローチをゆったりとつくっています。
アプローチには、高木から下草まで緑が豊か。
アプローチを右に左に折れつつ、ステップを上がっていき玄関ポーチへ。
そして、建物内部に入っても、再びこのアプローチの豊かな緑が楽しめる仕掛け。
ガラス窓は、枠がスッキリとしたFIX窓を基本にしつつ、下部をすべり出し窓に。通風にも配慮しています。
玄関は大部分が土間スペースですが、上がり框(かまち)から先の空間もリビングと一体につながっています。そのため、玄関から家の中を見ると、広々と感じます。
リビングの先には、建物の南東側にある庭が。ゆったりとしたアプローチから、玄関へ、そしてその視線の先も、開放感が楽しめる住まいとなっています。
土間スペースを「魅せる」場所に
土間スペースのアプローチ側をガラス窓で開放的にすることで、道路側に「土間スペースを魅せる」楽しみも生まれます。
とくに夕方以降あたりが暗くなってからは、明かりの灯った土間スペースが、アプローチの木々の葉っぱごしに見えてくる感じになります。
こうした開放感ある玄関回りにすることで、通りを行き交うご近所さんも、親しみと温かみを感じてくれます。もちろん住まい手にとっては、「おかえり!」と家に迎えられる感じあって、ホッと心温まるものです。
玄関土間とリビングの間には、ルーバーの入った格子引き戸が。土間スペースを外に見せつつ、必要なときは、リビングのプライバシーは守ることができます。
広めの土間スペースは、ご近所さんとちょっと立ち話したり、スツールなど置いて座りながらお茶したりと、気軽な応接空間としても利用できます。
その際も、玄関土間とリビングの間の格子引き戸を閉めれば、来客に家の中を見られることはありません。
ちなみに、格子引き戸に組み込まれたルーバーは、角度が自在に調整可能。通風しながら視線はコントロールすることができます。
玄関の考え方次第で、住まいの雰囲気が変わる
リビング、ダイニング、キッチンなどといった、いわば家の主役級のスペースを狭くしてまで、玄関を広くするというプランにするのは、勇気のいることです。
しかし、この事例のように、玄関を主役のスペースとつなげることで特別なシーンがつくれるのなら、玄関にゆとりのスペースを振り分ける価値も生まれるのではないでしょうか。
どちらが有効かは敷地条件や住まい手の好み・暮らし方によりケースバイケース。玄関の考え方次第で住まいの雰囲気も大きく変わります。
家づくりにはいろいろな考え方があるから、いろいろな家が生まれる。それが楽しいところであり、家づくりの醍醐味なのではないでしょうか。