石井亮次アナ

「おはようございます! 今日はよろしくお願いします」

 Tシャツと黒のパンツと黒縁メガネ。ラフなスタイルで廊下を歩いてきた石井亮次(45)は、本誌記者に気がつくと、大きな声と笑顔で挨拶をしてくれた。

「これ、どうぞ。もしよかったらこれで僕の本をご購入いただけると。1000円分のクオカードなんで、足りないぶんは自腹でお願いします(笑)」

 笑いながら、定価1500円の著書の表紙がプリントされたクオカードを手渡される。

「モノを渡すのは早いほうがいいと思っているんですよね」

 石井がメインMCを務める平日午後のワイドショー『ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜』(CBCテレビ・TBS系)。2013年4月1日から東海地区のローカル番組としてスタートし、2015年からは関東地区にも放送が拡大。10年めを迎えた今年は、同時間帯の視聴率でトップを走り続けてきた『ミヤネ屋』(読売テレビ・日本テレビ系)を上回る日もある。今回、大躍進の立役者である石井の奮闘ぶりに密着した。

 石井が局に入るのは毎朝7時30分。これは2020年3月にフリーになっても変わらず、CBCの局アナだったころとまったく同じだという。

 8時には会議が始まり、その日に扱うネタ候補を40〜50分ほどで選定。9時からの会議では、そのネタごとにどんなボードフリップを作るかを打ち合わせる。

 石井は会議中、その日の新聞をチェック。赤ペンで「○△□」で大きく囲んでいく。

「○は大事、△は使うかも、□は後で読む、という感じで記事を切り取り、ファイルに分けて鞄に入れておきます。そうすると時間が空いたときすぐに読めるし、ネタの整理にもなりますからね」

 10時からは楽屋に戻ってネタの下調べ、10時30分からはOA(オンエアー)進行確認会議で、番組全体の流れを確認する。11時に再び楽屋に戻り、着替えとメイクをすませると、テレビでニュースを見ながら慌ただしく昼食を食べる。12時15分からボード・フリップ会議で、『ゴゴスマ』名物のボードと原稿を確認しながら読み合わせ。13時35分からコメンテーターを含めた出演者全体で打ち合わせをしたら、13時55分から放送開始だ。

 この間、何度もおこなわれる会議で議論が行き詰まると、石井はものまねをしたりダジャレを言って笑わせたりと、その場をなごませて空気を変えていた。

 放送開始時から石井とともに番組を支える、増子淳一チーフプロデューサーは、石井の魅力についてこう話す。

「石井さんは “気のいいあんちゃん” 。大物コメンテーターにもスタッフにも分け隔てなく接してくれるんです。コメンテーターの一人が『石井さんのよさは “なめられ力” 。石井さんの前だからしゃべれる、石井さんだったらこれを言っても大丈夫だろうとまわりに思わせてしまう』と話していたんです。確かに、自分で話しやすい空気を作り出し、そこにうまくまわりを巻き込んでいく力は天才的だと思います」

ガソリンスタンドでバイトをしていた高校2年の石井亮次アナ

■トークを学んだのはガソリンスタンド

「番組をご覧になって、どうでしたか?」

 放送終了後、疲れも見せずに笑顔で記者に逆質問。会議から本番まで、場の空気を作るのが素晴らしかったと感想を伝えると、こう話し始めた。

「毎日、顔を合わせる仲間なので、楽しくやらないと絶対うまくいかないんですよ。僕が常に上機嫌でいることをいちばん心がけています」

 先輩アナから『10歳離れたら外国人、20歳離れたら宇宙人ぐらいに、育ってきた文化も違う』と習ったという石井。自身は現在45歳。サラリーマンなら中間管理職という年齢だが、うまくやっていく秘訣はあるのだろうか。

「まずはやはり上機嫌でいること。2つめは挨拶を笑顔ではっきり、とにかく早くすること。挨拶は早いもの勝ちです。3つめは上司だけではなく、部下にも教えを請うこと。へんなプライドを持って知ったかぶりをしない。わからないことは素直に聞く、という姿勢ですね。結果的に教えてもらったほうが得ですからね」

 そんな話をしながら通りかかった年下のスタッフに「さっきのあれ、今度教えてな」と声をかけていた。

「4つめはミスをしたら “正しく” すぐに謝る。たとえば、若いスタッフがミスしたら、その人のポイントはマイナス1になりますよね。そのまま謝りに来なかったら『なんや、あいつ』とマイナス2になってしまう。でも、すぐに『すみませんでした。次から気をつけます』と謝りに来たらマイナス1が0になって、頑張っている姿を見たらさらにプラス1になる。

ミスする前よりポイントが上がるんですよ。だからミスしても、しっかり謝って対策を立てれば評価は上がります。これは上司に対しても、部下に対しても同じです。5つめは『でも、だって』のマイナス返しをしないことですね。たまにいませんか、『今日は天気がいいですね』と話しかけたら『でも暑いな』と返してくる人。マイナス返しをされると、そこで会話が終わってしまうんです。相手の言葉や意見に共感することが会話を盛り上げるうえでは本当に重要なんです」

 ちなみに初対面の人に心を開いてもらう石井の “必殺技” があるという。

「相手の情報が何もわからないときにおすすめなのが “出身地ネタ” 。これは盛り上がる可能性がかなり高いです。ただ、『出身地はどちらですか?』『大阪です』『そうですか』で終わってしまっては意味がない(笑)。大阪なら『みんな愛想がいいですよね』という感じで、とにかく地元を褒めること。仕事関係なら『今のお仕事、ひと筋ですか?』も、そこはかとなくリスペクトの意がこめられているので万能な質問です」

 石井の “人に好かれる努力” は抜かりない。お辞儀は45度、手は前に組んでふんぞり返らないように。さらに時計は1000円程度の「チープカシオ」を愛用。これも、エラそうに見えないようにする工夫だという。

 そんな石井の “原点” を聞くと、意外な場所が返ってきた。

「父親がやっていたガソリンスタンドです。高校生のときにバイトしていて、笑顔で挨拶、人とのコミュニケーション、ラジオがかかっていたので、そこで聴く力……。アナウンサーの基本を学びました」

 バイト先で身につけた “なめられ力” は、石井を大舞台へと導いた。7月10日の参議院選挙当日にTBS系で放送される『選挙の日 2022 私たちの明日』では、スペシャルキャスターの爆笑問題・太田光(57)らとともに、キャスターを務める。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの躍進だ。

「いま思うことは一日でも多く、一人でも多くの方に『ゴゴスマ』を観ていただきたい。そして将来的なことでは、死ぬまでおしゃべりの仕事をしていたい。それがテレビであれ、ラジオであれ、おしゃべりの場があればいいなと。午前中にラジオでしゃべっていたのに、昼に死にはったみたいなのが理想かなと思っています」

 そう話す石井は、現場の空気を「朝から疲れた」ではなく「今日も上機嫌だった」に変えていた。

いしいりょうじ
1977年3月27日生まれ 大阪府出身 同志社大学卒 2000年、中部日本放送(当時)入社、2020年3月にCBCテレビ退社後はフリーアナとして活躍

写真・福田ヨシツグ