人口減少が進むと社会インフラが維持できなくなる(写真:Katsuya Noguchi/PIXTA)

厚生労働省は3日、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が2021年は1.30だったと発表しました。出生数は81万1604人と前年比2万9231人減で、6年連続で過去最少でした。

テスラのイーロン・マスクCEOは、5月7日に「日本人はいずれ存在しなくなるだろう」とツイッターに投稿しました。言うまでもなく、合計特殊出生率が人口置換水準の2.07を下回って推移すれば、いずれ日本は消滅します。

ということで、少子化は日本にとって有史以来の一大事のはず。ところが、ネット掲示板やSNSでは「致し方ない」という諦め、「イーロン・マスクは余計なお世話だ」という反発、「まったく問題ない」という楽観論が多く、さほど危機感が高まっていません。

国も危機感が希薄なようです(自治体は強い危機感を持っています)。国は来年、「こども家庭庁」を創設し、出産や子育て支援を強化します。必要な取り組みではあるものの、従来の少子化対策の焼き直しに過ぎない印象です。

この一大事に国民も国も悠長に構えているのは、どういうことでしょうか。今回は、少子化への危機感が高まらない理由と少子化対策のあり方を考えてみましょう。

日本人の消滅と日本国の消滅は別問題

まず、少子化への危機感が高まらない理由。少子化問題を議論するとき、「日本人の消滅」と「日本国の消滅」を混同しているケースをよく見受けます。

今回、マスクCEOが取り上げたのは、「日本人の消滅」です。では、いつ日本人は地球からいなくなるのでしょうか。計算上、少子化による人口減少で日本人が消滅するのは、千年以上先のことだとされます。2004年に国立社会保障・人口問題研究所はその時期を「西暦3300年」と予測し、話題を呼びました。

日本で1300年前というと奈良時代の初め。その後、現代に至るまでいろいろな変化があったことを考えると、逆にこれから1300年も経つうちに、予測できない大きな変化があるでしょう。したがって「日本人の消滅」については、「どうなるかわからない」と考えるのが適切です。

つまり、「わからないことをあれこれ考えても仕方ないだろ」と思考停止しているのが、少子化への危機感が高まらない理由です。しかし、これは危険なことです。「日本人の消滅」と「日本国の消滅」は別問題だからです。

人口が減ると、交通機関や通信施設、電気・ガス・下水道といった社会インフラや国防・警察といった国家機能を維持することが難しくなります。最近インフラの老朽化が各地で問題になっているように、すでにその兆候が表れています。

人口減少が続き人口規模がある水準を下回ると、いよいよ社会インフラや国家機能を維持できなくなります。そして最終的には、日本人(日本民族)はそこそこいるとしても、日本という国家は消滅してしまうのです。
「日本国の消滅」が先にあって、その後に「日本人の消滅」が起こるわけですが、ここで注意が必要なのは、「日本国の消滅」は「日本人の消滅」よりもはるかに早く訪れることです。

2100年代に日本国は韓国よりも先に消滅

「日本国の消滅」は、いつ頃起こるのでしょうか。日本に関する有力な予測は見当たりませんが、お隣の韓国については、たくさんの予測があります。

オックスフォード人口問題研究所のデービッド・コールマン教授は2006年に、「韓国が人口減少で国家を維持できなくなり、世界で最初に地球から消滅する」と予測しました。国連人口部やサムスン経済研究所なども、同じような予測を公表しています。消滅の時期は2100年代としている研究が多いようです。

その後、韓国の合計特殊出生率は、2018年に0.98と世界で初めて1を下回り、2021年には0.81と加速度的に落ち込んでいます。この末期的な状況を受けて最近、「韓国は2100年まで持つのか?」という超悲観論も出始めています。

このように、「韓国が2100年代に世界で最初に消滅する、日本はそれよりも後」というのが学界の定説なのですが、本当にそうでしょうか。人口問題の研究者は、北朝鮮の存在を失念しています。

北朝鮮は、合計特殊出生率が1.90(2019年)と高く、若い女性が多い社会です。もしも将来、韓国と北朝鮮が統一されたら、北朝鮮の女性と韓国の男性が結婚する結婚ブームが起こるでしょう。韓国の少子化・人口減少は、かなりやわらぎます。

朝鮮半島の統一は、政治的に困難な課題ですし、経済・社会に大きな痛みを伴うことが確実です。しかし、こと人口問題に関して、北朝鮮の存在は韓国にとって 「奥の手」とも言えるのです。

一方の日本。国民は「子供を産みたくない」「移民の受け入れなんて真っ平ごめん」と言っていますし、北朝鮮のような奥の手もありません。日本が韓国よりも先に消滅する可能性は十分にあるのではないでしょうか。

日本と韓国でどちらが先かという問題はともかく、「日本国の消滅」は1300年先でなく、100年後にも起こりうることです。100年後というと、われわれの孫やひ孫が生きる時代。そんなに遠い未来の話ではありません。

コンパクトシティは解決策なのか

では、日本を消滅させない手立てはあるのでしょうか。国は「1.57ショック」が起こった1989年(平成元年)以来、子育て世代の負担軽減を中心とした少子化対策を進めてきました。しかし、目立った効果はなく、少子化に歯止めがかかっていません。

仮に今後、対策が功を奏して合計特殊出生率が2くらいまで急回復したとしても、子供の数は増えません。長年、少子化を放置した結果、子供を産める母親の数が減る「少母化」が進んでしまっているからです。つまり、合計特殊出生率の向上という正攻法によって問題を解決するのは、もはや手遅れなのです。

少子化が避けられないとすれば、いかに「日本国の消滅」を遅らせるかに関心が向かいます。ここで国・自治体が注目しているのが、コンパクトシティです。コンパクトシティとは、住まいや生活機能を狭いエリアにコンパクトに集約した地域の中核都市です。

元々コンパクトシティは、高齢者が郊外で暮らすのが不便になったことに対応する都市計画でした。しかし、人口減少社会でインフラや国家機能を効率的に維持・運営するためにも、コンパクトシティは有効です。

コンパクトシティを突き詰めると、日本は将来、国内に数十カ所のコンパクトシティが点在する都市連合国家になるでしょう。コンパクトシティの成功例とされる富山市や九州全域から移住者を引き寄せる福岡市などを見ると、日本は確実に都市連合国家=田舎には誰も住まない国家に向かっていると実感します。

移民も必要だが、ロボット化が解に?

さて、ここからは個人的な見解です。コンパクトシティは、人口減少社会で国民が快適に暮らすために必要な施策です。が、所詮は「日本国の消滅」を遅らせるに過ぎません。最初は全国に数百のコンパクトシティがあったのに、やがて各都道府県に1つ全国47になり、10になり、東京1つだけになり、その東京も維持できなくなり……という展開が予想されます。

コンパクトシティで延命するだけでは、いずれ日本国も日本人も消滅してしまいます。「戦略的に縮む」ことも大切ですが、やはり、子供を増やすことにも注力するべきではないでしょうか。

検討するべき1つ目の政策は、移民の受け入れです。アメリカで人口が増え続け、経済が発展し続けているのは、移民を受け入れているからです。日本も移民をタブー視せず、受け入れを検討する必要があります。

ただ、世界中で少子化が進み、すでに移民が不足し始めており、将来はお金を積んでも移民が日本にやってこないという状態になるでしょう。たまに「移民を解禁すれば人口問題が解決する」という主張を見かけますが、移民は究極的な解決策ではありません。

もう1つ、筆者が日本の「秘密兵器」として期待するのが、ロボット化です。現在、出産から育児、さらに家事まで女性に負担が偏っており、少子化が加速する原因になっています。家庭での女性の役割を日本のお家芸であるロボット技術で代替することで、少子化対策に大きな展望が開けてくるでしょう。

今こそ、国民も国も少子化という国難に向き合いたいものです。

(日沖 健 : 経営コンサルタント)