新型コロナで窮状のラブホ経営者がしたためた手記 支援事業からの除外に抱く違和感 - 小林ゆうこ
※この記事は2021年03月17日にBLOGOSで公開されたものです
新型コロナウイルスの感染に歯止めがかからない中、ラブホテルなど性風俗事業者に対して行政の支援策が届かない現状は、国の支援事業にとどまらず市町村などにも拡大している。石川県金沢市では2月末、地元のレジャーホテル協会がラブホテル経営の窮状を訴える記者会見を開いた。配布された膨大な資料の中には「元ラブホテルオーナーの手記」もあり、コロナ不況の厳しい実態が浮かんだ―――。
「国が認めないから市も認めない」コロナ支援策
「ラブホテルは社会保障から完全に除外されていて、許認可された旅館業なのに、風俗系の営業という曖昧な基準を持ち出されて銀行の融資も受けられない。国の持続化支給金が対象外になったのを始め、県や市が行う宿泊割引や感染対策支援事業からも除外されている。このままでは経営が持たないという訴えも、無視されています」
金沢市内のラブホテル約10店舗でつくる金沢レジャーホテル協会の高田英治会長は記者会見でそう訴えた。山野之義市長や市議会へは、何度も申し入れしてきたという。
「金沢市に申し入れた後、担当者は“国が認めないから”ラブホテルに宿泊することは観光ではない”と。ある市会議員は“市民の理解が得られない”とコメントしたと、翌日の報道で知った。我々も他の宿泊業者と同様に、雇用維持・感染対策・事業継続といった難題を抱えている。もう黙ってはいられません」
高田さんは、モーターホテル(モーテル)だった創業時代から数えて3代目という老舗のオーナーで、金沢市内で2棟30室余りのラブホテルを経営している。カップル利用をメインとしつつ、近隣の病院や介護施設の職員、長距離ドライバー、女子大生グループと、多種多様な利用客がいたというが、新型コロナで状況は一変した。
GoToキャンペーンのあおりで稼働率は急降下
会見の後日、電話取材に応じた高田さんは、途切れることなく語った。
「20軒ほどある同業ホテルはどこも苦戦しており、休業日を設けたり時短営業をしたりして、ようやく雇用を保っているところもあります。コロナ禍では、客室の温度調整や換気のための光熱費もかかる。たまったものではありません」
そもそも苦境は、昨年2月、新型コロナの感染拡大でインバウンド需要が消滅してから始まった。観光省の観光統計によると、2020年の石川県での外国人宿泊客数は、前年比で81.3%減少。宿泊業界は、国内客の争奪戦の様相となった。
高田さんは語る。
「4~6月の売り上げは、前年同時期比で4~6割に落ち込みました。7、8月はなんとか8割程度に戻ったが、10月に“GoToトラベルキャンペーン”と、“五感にごちそう金沢宿泊キャンペーン”が始まると月ごとに落ち込み、年末年始に半減。正価で勝負するラブホテルからは客足が遠のきました」
宿泊者数の推移を見ると、石川県では昨年10、11月以降はV字回復を見せているが、高田さん経営のラブホテルでは、それに反比例するかのように急降下した。
また、高田さんは宿泊関連施設への支援策も「ラブホテル外し」のまま始まったと指摘する。
下記はその一覧だが、仮にすべての支援策や税の減免を受けることができたら、計1300万円をまかなえたという。支援策の「格差」が、そのままホテルの集客力や施設整備の「格差」に繋がった格好だ。
ライバルは「リモートワーク応援デイユース」
「宿泊業というより風俗業」と、行政からカテゴライズされるラブホテル業界だが、利用者側はその垣根に関係なく選択しているのが現状だ。そんな現状の中、「最大の要因は、デイユースというライバル」だと、高田さんは語る。
確かに、コロナ禍では、デイユースプランを積極的に打ち出すシティホテルが増加。ラブホテルは、デイユース・非対面・低料金が特徴だが、新型コロナ感染防止として、ロビーに自動支払機や自動チェックインアウト機があるビジネスホテルも好まれている。一般ホテルの機能が限りなくラブホテル化している。
ちなみに、検索サイトで、金沢市内で1室2名の「デイユース・日帰りプラン」のあるシティ・ビジネスホテルを検索すると、結果は20数軒。プラン名も、「石川県民限定×テレワーク応援プラン」や「湯ったり日帰りプラン」や「日帰り・お昼寝プラン」などで、料金も4時間滞在で税込3000円から、15時間滞在で同6500円まで幅広い。
「民泊やゲストハウス(バケーションレンタル)の非対面チェックイン・システムは、フロントがなく暗証番号だけでも入室できるところも目立つ。そうした新しい業態への規制はないに等しい。ラブホテルは“犯罪の温床”などと言われてきたことから行政支援から除外されていますが、業界をこの際に壊滅させたいのかと思ってしまいます」
高田さんは、国会議員に加え、総務省や経産省などの官公庁に100件以上の申し入れをしたという。それでも、「私以上に陳情を続けても、経営から手を引かざるを得なかったオーナーもいると聞いて、溜め息が出ました」
「陳情を続けて心が折れた」オーナー女性
長野県に住む瀬戸悦さんは、国会議員や政党、官公庁に計200通もの手紙を出してきた。
昨年5月に配信した記事「コロナで経営難のラブホテルは緊急支援の対象外」で取材し、インタビューした当時、「出したメールは100通超え」と笑って答えてくれた。しかし、その努力は実ることなく、オーナーを退いた。
Twitterのアカウントは「ゴメンね、ラブホテル守れない」。経営するラブホテルがある安曇野市の地元与党議員に相談した際、返ってきた回答をアカウント名にそのまま利用した。
改めて電話で取材すると、次のように経緯を語ってくれた。
「まず、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の宿泊客が減り、稼働率は前年比で7割に。カップルだけでなく観光客の利用も多かったので、それが響きました。正直言ってもう続けられない。経営を譲渡することにして、いまはその手続きをしているところです」
ラブホテルがコロナ対策の支援事業の対象から除外されたことは、大きな痛手だったようだ。
「税金の減免や支援が受けられれば、まだ頑張れた。焦げ付いた発端は昨年の3月、減免されなかった税金を払うために信用金庫から多額の融資を受けたことでした。6月に返済をいったん止めてはもらいましたが、次第にホテルを手放す方向で考えるように。それでもメールで申し入れをしたり、電話をかけたりして頑張っていましたよ。でも、11月になると心が折れました」
「何のために納税義務を果たしてきたのか?」
当時、公明党の窓口に宛てたメールには、心情が綴られている。タイトルは「公明党は憲法違反による差別を黙認するのですか?」
経済産業省による「2021年度の固定資産税・都市計画税の軽減措置」https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/2020/200501zeisei01.pdfを読んだところ、減免を受けられる中小企業は「性風俗関連特殊営業を行っていない旨を誓約書で確認」とあります。融資もダメ、給付金もダメ、税金だけはしっかり納めろとは、もう意味がわかりません。国を挙げてラブホテルを潰しにかかっているのでしょうか?私は親の代から受け継いで42年経営を続けてきたラブホテルを手放さなくてはならない状況に直面しています。ホテルのスタッフを助けることも、親を助けることもできない自分も情けないですが、日本国民として何のために納税義務を果たしているのか、本当にわからなくなりました。
このような状況をどのようにお考えになりますか?国民の理解を得られない職業を認めて、税金を納税させ、それを国のお金として使っているのです。そのお金は、私のラブホテルを利用していただいた年間1万人以上の国民のお金です。
ラブホテルを支援することについて、自民党の中で強い反対意見があると聞いています。その反対の理由、誰が反対しているのか、はっきりした根拠を知りたいです。
ぜひ、公明党のお考えを教えていただきたく思います。返信お待ちしております。(後略)
瀬戸さんは言う。
「党から返信はありませんでした。200通送ったメールのうち、こちらの話を聞いて動いてくれた議員さんは、立憲民主党所属や無所属など、6名ぐらい。やるだけのことはやったが、納得できないのは納めた税金。こんな瀕死のときに支援を受けられないのなら、税金を返して欲しい。その憤りは収まりません」
瀬戸さんの経営したラブホテルは、女性客に楽しんでもらえるサービスを大切にしてきたという。館内の廊下は広く、インテリアは温泉リゾートを意識して統一。ラブホテルなりに、女性目線のこだわりでアイデアを尽くしてきた。
苦境の中、行政支援を受けられるリゾートホテルなどへの業態転換を考えたこともあるが、「温泉郷の小さなラブホテル」のファンでいてくれる常連客を思うと、こだわりのサービスを変えてしまう気にはなれなかったという。
「新しいファンが定着するには数年かかります。その体力が果たしてあるかというと、その自信もありません。金沢の高田さんのところも、代々経営を引き継いだ伝統あるラブホテル。なんとか、持ちこたえてもらいたいと思います」
県や市の宿泊割引キャンペーンに戦々恐々
金沢市議会では3月11日(木)、森一敏市議(会派みらい金沢/社民党所属)による一般質問が行われた。内容は「ラブホテル・レジャーホテルへの支援事業からの除外について」。緊急議会で議決した新たな宿泊施設環境向上等奨励事業から、ラブホテルが除外されていることについて質疑が行われた。
森一敏議員:立地規制や建物基準を守り納税義務を果たしてきた事業者が、新型コロナ感染拡大によって経営の危機的状況に瀕しているときも、一切の支援を受けられないのは不条理です。その判断の根拠についてお答えください:
山野之義市長:今回の事業は観光や出張の客を対象とした旅館・ホテル・民泊を対象としたものです。ご理解いただきたいのは、持続化給付金の補完事業として大きな枠組みを作らせていただいた。“五感にごちそう金沢宿泊キャンペーン”も同様で、“GoToトラベルキャンペーン”からさらに、金沢市のインセンティブを高めていきたい。ご理解いただきたい:
森議員は「合理的理由のない区別は差別と言う。政策差別ではないか」と質したが、市長は同じ答弁を繰り返した。
金沢市議会では、この「ラブホテル・レジャーホテルへの支援策」だけでなく、「五感にごちそう金沢宿泊キャンペーン」の再開に関しても、今週中に採決する予定という。また、「石川県民宿泊割キャンペーン」第2弾が、3月19日(金)にスタートする。
「もしこれから、国のGoToトラベルキャンペーンも再開したら、ラブホテルはいったいどうなってしまうか。私どもの業界にいま吹いているのは、政策不況という逆風です」
高田さんは、戦々恐々とした声で語った。
せめて地元の自治体には、国からの支援除外を補完するような温かみのある施策をと願っている。
