好調のUber Eats 運営の透明性や事故時の補償は不十分… 配達員から漏れる不満の数々 - 岸慶太
※この記事は2019年09月06日にBLOGOSで公開されたものです
飲食店の宅配を代行するサービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」について、配達中の事故の補償などをめぐって、運営するUber Japan社(以下U社)の対応を疑問視する配達員のツイートが相次いでいる。
配達員がU社の従業員ではなく、個人事業主として仕事を請け負う形態のため、配達中にケガを負っても補償が受けられない問題があるからで、事故を起こしたことを理由に契約解除をほのめかす通告を受けた配達員もいた。
Uber Eatsのサービスは高い利便性が受け、東京を中心に全国の主要都市に広がっている。配達員の中には配達業務を本業とする人も多く、配達員としてのアカウントが突然停止されれば死活問題となりかねない。こうした状況を受け、配達員らの労働組合結成に向けた動きも加速している。Uber Eatsをめぐる現状を追った。
事故起こした配達員へ警告メール U社の対応に高まる批判
UberEatsの配達中にコケるとこういうメールをもらえるよ! pic.twitter.com/EJohA2hCL0 #UberEats
- クロヒコ(人生再設計第一世代) (@kurohikosan) July 13, 2019
7月12日。雨でぬれた路面をバイクで走行中にスリップして、打撲を負ったというある配達員が、Uber Eats運営側から届いたというメールをツイートした。メールには「今回のようなことが再度あれば、あなたのアカウントは永久停止となるかもしれませんのでご注意ください」と資格停止を示唆する文面が記され、配達員らの間でリツイートが1800件以上(8月23日現在)されるなど物議を醸した。
多彩な味を自宅で味わえる 東京から全国に拡大
Uber Eatsは米IT企業・ウーバー・テクノロジーズ社が手掛け、スマートフォンなどのアプリ上で、商品を注文すると、自宅やオフィスまで30分ほどで配達してくれる。日本では2016年9月に東京でサービスが始まり、全国の大都市に拡大。背中に背負った緑色の大きな四角いバッグに料理を入れ、自転車やバイクで届け先に向かう配達員の姿はごく当たり前の光景となった。
Uber Eatsは、従来の宅配サービスと何が違うのか。
利用者にとっては、注文の幅が大きく広がった。配達を行うのはこれまで、ピザや寿司、ラーメンなど自前で配達スタッフやバイクを準備している店にほぼ限られていたものの、Uber Eatsと契約する店が急増したことで、ファーストフードやチェーン店などこれまで出向く必要のあった店の商品も自宅で楽しめるようになった。
労働時間の指定無く働き方は自由 1日2万円稼ぐ強者も
配達員の働き方も大きく異なる。配達員はアプリ上で自転車かバイクのどちらで配達するかを選択し、顔写真や身分証明書をアップロードする。東京や大阪、横浜、京都、神戸、名古屋、福岡の7都市に計9か所あるパートナーセンターを訪れ、バッグを受け取ると配達を始めることができる。
実際の配達の様子は次のようになる。アプリ上に配達を希望する店が表示され、仕事を受けるかどうかを選択する。店に向かって商品を受け取り、客のもとに無事に届けることがミッションで、距離に応じて報酬を得られる仕組みだ。
勤務時間が定められているアルバイトと違って、自分が希望する時間に好きに働くことができるため、副業として働くサラリーマンも多い。給料は、注文が多くなる土日、雪や雨など悪天候の日はインセンティブが上乗せされることもあり、ベテランになれば1日に2万円ほど稼ぐ配達員もいるという。
こうした注文時の利便性や自由な働き方が人気を呼び、サービスエリアが拡大した一方、近年は配達員のサポート体制について配達員からの批判も高まってきた。
「運営の透明性見えない」 配達員から高まる不満
冒頭のアカウント停止を示唆するメールは、他に複数の配達員にも送られている。「問題は運営側の透明性が見えないことだ。アカウントの停止についても運営側の一存で突如決められており、一方的過ぎる」
そう話すのは、配達員による労組結成を進めている川上資人弁護士だ。アカウント停止をめぐって、配達員に対して丁寧に理由が説明されず、弁明の機会も与えられないなど、その対応に疑問を呈する。
他にも、事故を万一起こしてしまった際、十分な補償が受けられないことに不安を抱える配達員は多い。個人事業主として働くこともあって、U社は労災や健康保険を負担しない。対人、対物損害保険には加入しているものの、配達員自身は保険の対象外であり、事故の治療費は自己負担だ。
「配達員こそ利益の源泉」 実態は雇用契約に近い働き方
この点について、川上弁護士は「安心、安全に働ける環境を整えるべきという点で、異論を唱える配達員はいないはずだ。汗水流して道路を走りまわって荷物を運ぶ配達員こそが企業としての利益の源泉であり、その配達員が事故を起こした時点でほったらかしというのはおかしい」と指摘し、次のように付け加える。
「労災保険制度の趣旨を考えれば、配達員の労働力によって利益を上げているU社は、労働力を提供する配達員が被る危険と損害のコストを負担する責任がある」。配達員は個人事業主であるものの、実態は雇用契約に基づく働き方に近いと言えるだろう。
「距離ちょろまかし」も問題に 周囲への相談難しい配達員
配達員がU社に対して不信感を抱く要因は、これにとどまらない。今年5月には実際の走行距離に応じた報酬が支払われない「距離ちょろまかし問題」が配達員の間で話題になった。
東京都内で土日を中心に、自転車で配達員をしている30代の男性は事務のアルバイトと並行して、毎月15万円ほどを稼いでいる。今年に入って、自らの計測では2.1キロ走行したにもかかわらず、1.8キロ分の報酬しか支払われないなど、不自然な算出に基づいて振り込まれた報酬が複数あった。ツイッターでも同様のケースが報告されていたため、U社に問い合わせたものの、メールでの機械的な対応に終始したという。
後日、修正された金額が追加で振り込まれたものの、「配達員にとって最も大切な報酬という部分でトラブルが起きたことは、企業としての信用を一気に無くす話だ。他にもいろいろなところで“ちょろまかし”をされているのではと不安でならない」とU社の対応をいぶかしむ。
一方、自らの立場が個人事業主であることから「Uber Eatsでの配達の仕事は、今では収入の大きな柱になった。自分一人が抗議することで、アカウントを停止されたら生活は成り立たない。同じような不安を抱く人は全国にたくさんいるのではないか」と打ち明ける。
労組は10月に設立 事故時の十分な補償などを要求する
通常のアルバイトなどと違って、Uber Eats配達員は業務に関する相談がU社の窓口に限られ、報酬や労働環境といった悩み事を打ち明けられる環境が整っていなかった。こうした状況を受け、川上弁護士らが中心となって6月に労組の準備会を初めて開催した。
現在は、事故に遭った際に配達員自身が保護される十分な補償環境や、アカウントの一方的な停止をやめることを盛り込んだ運営の透明性など、U社への要求事項を固めつつある段階だ。広く配達員の加入を呼びかけながら、10月に設立総会を開く予定で、川上弁護士は「配達員が内に抱え込んでいた悩みを共有でき、企業に対して改善を強く働きかけられる組合にしたい」と話している。
日本でUber Eatsを運営するU社に対し、労組への対応や配達員の労働環境について見解を求めたものの、6日現在で回答は得られていない。