今日、全国のコンビニからエロ本が消える…撤去される“成人向け雑誌”はこれからどうなる? 『日本エロ本全史』著者・安田理央×93年生まれのエロ本ライター・姫乃たまが緊急対談! - BLOGOS編集部

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※この記事は2019年08月31日にBLOGOSで公開されたものです

今日、2019年8月31日、日本全国にあるほとんどすべてのコンビニから「エロ本」がひっそりと消える。8月いっぱいをもって「成人向け雑誌」コーナーがコンビニから撤去されてしまうのだ。

そこで緊急対談として、折しも7月に日本のエロ本の歴史をオールカラーで伝える大著『日本エロ本全史』を上梓したばかりの安田理央さんと、歌手でありながら現役エロ本ライターとしても活躍する、93年生まれの姫乃たまさんにお越しいただき、このコンビニ撤去がエロ本に与える意味について語っていただいた。しかし、そこから見えてきたのは壮大なメディア史そのもの。エロ本、あるいは成人向け雑誌に限らない話だったのだ。

【取材・文/木下拓海 撮影/大本賢児 ヘアメイク/EMIKO SASO】

安田理央
1967年生まれ。ライター、アダルトメディア研究家。もともとエロ本ライターだったが、90年代からエロサイトの仕事も手がけ、紙からデジタルへの移行を目の当たりにする。またAV監督しても活躍。さらにハメ撮りしまくったDVD付きエロ本など、変革の時代の中、あの手この手であらゆるチャネルを通して世の中にエロを供給。その経験からアダルトメディアの歴史をライフワークとしている。

姫乃たま
1993年生まれ。ライター、歌手。デジタルネイティブな世代にもかかわらず、“エロがあれば何でもあり!”だった80~90年代のエロ本を愛し、縁あって2010年からエロ本にライターとして参加。以降、廃刊の嵐を迎える中で、あたかも雨風から卵を守る母鳥のごとく、潮流から取り残された読者からのお便りコーナーを担当。並行して地下アイドル活動も展開し、2019年にメジャーデビューしている。

コンビニエロ本は18禁ではない

--というわけで、本日2019年8月31日、エロ本がほとんどすべてのコンビニから消えます。

姫乃たま(以下、姫)「もともとセブン-イレブンは、制限が厳しかったですよね…。表紙で下着はダメとか、水着でも下着っぽく見えるのはダメとか」

安田理央(以下、安)「だからエロ本出版社は、セブンに合わせてレギュレーションを決めてる場合が多いし、そもそも会社によってはセブンに入れてないっていうところもあった。コンビニ向けのエロ本って常にそういうことを考えて作っていたんですよ」

--基本的にエロ本って、コンビニ向けと書店などのそれ以外に分かれてるんですか?

安「そうですね。わかりやすいポイントは、18禁のマークが付いているのが書店売り。それが付いてないのはコンビニ売り。だからコンビニ売りのエロ本って本当は18歳未満でも買えるんです。成人向けではあるけれど、成人以外でも読んじゃダメってわけじゃない。両者は90年代からだんだん分かれる感じになっていったんですけど、00年代には確実に分かれましたね」

--コンビニの成人向け雑誌って、グレーゾーンなんですね。

姫「まるでノンアルコールビールだ!」

安「そうそう、あれも一応未成年はダメなんだよね。ダメなんだけどアルコールは入ってないから問題もない」

姫「コンビニ売りのエロ本って表紙の規制以外に、中身の規制もあるんでしたっけ?」

安「厳密にはセックスしていたらいけないとか…まあ、してるんだけど(笑)」

姫「モザイクかかってるから、建前上は全部セックスしてないことになるという…」

安「コンビニだと2人の身体がくっついてたらダメとかのルールがあるから、そこはモザイクをかけ直して大きくしてたよ。身体がくっついてないアピールするために

姫「あ~、だからエロ本の編集部っていつもモザイクかけてたのか! なんでいっつもモザイクかけ直してるのかなって不思議だったんです。そっか、私が出入りしてたところはコンビニ売りの編集部だったもんなあ」

--今後はヌードグラビアのある一般誌とかはどうなるんでしょうか?

安「週刊誌のレギュレーションって、時期によって結構変わるんです。袋とじの中ならOKとか、おっぱい何個までならOKとかあるんですよね。『今号はもうおっぱい3つ使っちゃったから、残数がこれしかない』とか(笑)」

--なるほど、みんなギリギリのところで戦っているんですね。

安「今は、エロ本に限らず雑誌全体として難しいんですよね、コンビニ売りは。だけど書店売りと比べると、売り上げ規模が全然違うからそれに向き合わなきゃならない」

姫「特にコンビニのエロ本は、中身が立ち読みできないようにテープで封をされているから、表紙一発勝負みたいなところはありますよね」

安「表紙のエグい文句は、テープで閉じられちゃったからってよく言われてるよね。80~90年代に人気のあった『URECCO』みたいな、表紙に文字がほとんどないようなかっこいいデザインのエロ本だと、中身が全然わからなくなる」

--それもこれも石原慎太郎元都知事のせいですよね。東京でコンビニのエロ本がテープで封印されたのも、ちょうど歌舞伎町浄化作戦をやっていた2004年の石原都政でしたし、今回のコンビニ撤去はオリンピック開催を見越しての対応とも言われているんですけど、そもそもオリンピックを招致したのも石原都政でした。障子をおちんちんで破る人だと思ってたのに、なんとも皮肉な話です。

コンビニは読者と雑誌を見放した

--さて、実際に各コンビニさんに聞いてみたところ、各社の対応は以下の通りでした。
セブン-イレブン(約2万1000店)
状況:本部としては、基本的に品揃えの判断はオーナーに委ねているため強制という形ではないものの、本当にごく一部の店舗を残して8月いっぱいで撤去。
理由:女性と子供が安心できる店舗づくりの一環として。

ファミリーマート(約1万6500店)
状況:8月いっぱいで本部推奨の取り扱いを中止。最終的にオーナーの判断に任せる形になるが、スズメの涙程度の店舗を残して8月いっぱいで撤去。
理由:女性と子供が利用しやすい店舗づくり。および訪日外国人の増加、そして東京五輪を見越して。

ローソン(約1万4700店)
状況:すでにほぼ全店で納品は中止しているが、8月いっぱいで完全に中止。8月31日以前に納品された分については売り場に残っている可能性もあるかもしれないが、おそらく数店舗レベル。
理由:女性と子供、今後ますます増加する訪日外国人など、すべてのお客様に気持ちよく買い物してもらうため。かねてより、子供連れのお客様からは「売り場の前を通りづらい」といった声をいただいていた。

デイリーヤマザキ(約1450店)
状況:全店舗において8月いっぱいで配本を中止する。9月1日以降は、すでに配本された在庫だけが残る形となる。
理由:社会的な情勢を考えて。従来のままでは女性と子供、訪日外国人が気軽に入れない。東京五輪開催を見据えてという理由もある。

セイコーマート(約1190店)
状況:2019年年内に撤去と報道されたが、8月いっぱいで入荷ストップする。在庫も含めて全店舗で撤去する。
理由:女性と子供が利用しやすい店舗にするため。成人向け雑誌を撤去した分、子供向けの絵本や女性誌を増やす。

ポプラ(約470店)
状況:本部からの強制はしない。そこは店舗の利益に関わる部分になるので、状況を見ながらオーナーとの協議の上で決めていきたい。
理由:基本はオーナーの判断に任せたい。ただ、成人向け雑誌はすでに5割の店舗でしか取り扱っておらず、いずれ間違いなく売れなくなると見ている。

※ミニストップ(約2000店)は、すでに昨年1月1日から全店舗で成人向け雑誌を撤去している。
--というわけで、ポプラさん以外、終了です!

安「本当の理由を単純に言うと、まあ、売れないからでしょうね。それに“エロ本ってどこからエロ本なのか?”っていう問題があるじゃない。もし18禁マーク付いてるのがエロ本だとすれば、もともとコンビニにはエロ本は置いてないということになる」

姫「ゾーニングも重要だけど、もしエロ本がコンビニを支えるほどの売り上げだったら、ここまで一斉に撤去されないんじゃないかなあ」

安「オリンピックをいい言い訳にしてるだけだと思います。売れてたらこんなことやらないよ」

姫「私は『Chuッ SPECIAL』や『ザ・ベストSpecial 極』など、何誌かで読者のお便りコーナーの担当をしていたんですけど、どこも高齢者の方からの投稿ばかりなんです。50代で若いかなという感じで、40代が来たらもうルーキー(笑)。エロ本を担う若手読者の星って感じでした」

--今エロ本を読んでいる人たちは、やはり先輩方たちなんですね。

姫「脚フェチのエロ本は特に年齢層が高いので、70代の方からのお便りも珍しくありませんでした。読者の皆さんから寄せられた手紙には、普段人に言えないような性癖が書いてあって、文通を重ねていくと身の上話が書かれたお便りが届くようになります」

--どんな身の上話が書かれてあるんですか?

姫「一人暮らしや実家で老老介護をされている方がほとんどで、身体に障がいを抱えている方も多くいました。しかもそうした事情から家をあまり出られないのに、インターネットを使えない人がほとんどで…。時々コンビニに出かけてエロ本を買うのだけが楽しみっていう、地方の一人暮らしの老人が多いんです

--特に今の地方は書店がないですからね…。

姫「私は今回のコンビニ撤去については、そういう人たちに対してどうしたらいいんだろう? って思うんです。ただそれだけです」

安「もう介護だよね」

--彼らこそが社会的弱者なんですね。

姫「コンビニにとってエロ本は売り上げにならないし、オリンピックのほうが大事なのはわかるんですけど、経済では語れないところにも大事なことってあって、今まで文通してきたようなおじいちゃんたちの人生の楽しみを奪ってどうしようっていう動揺が私にはあります。ただ、そんなことはごく少数派の気持ちでしかなくて、将来ある子供たちの目に触れさせたくないという意見は重要だし正しくて、だからこそ複雑な気持ちです」

安「そして次は、雑誌自体がコンビニから撤去されるってことなんだと思いますよ

--!!!!!

安「新規でオープンした店やリニューアルした店って、もう雑誌コーナーが店の奥のほうにたった一段しかないんですよね。昔は入り口のところにバーンとあったけど、あれを見ると雑誌って今はもう売れないんだなって」

姫「昔はコンビニの窓から女性誌を見つけて立ち読みして、その後ろの棚に化粧品が売ってるから相乗効果がある、なんて言われてましたけど、今はもうテープで閉じられてることが多いから立ち読みしないし、そもそも雑誌の棚が追いやられたりしていて、それどころじゃないですもんね」

--もはやエロ本に限らない、時代の必然的な流れなんですね。

安「それにコンビニは売るものが他に増えてきてるから。エロ本のライバルって、プリペイドカードらしいんですよ

姫「あ~確かに、プリペイドカードの棚って最近幅をとってる! iTunesとかAmazonのやつとかですよね」

安「あれってコンビニ側からすると、すっごい都合がいいんです。まず単価が高いでしょ、そしてレジでアクティベートしないと使えないから万引きがない」

--なるほど。それでそのプリペイドカードを使って、オンライン上でエロコンテンツを買うと。

安「そうそう、DMMとか結構ありますからね。そして今のエロ本は予算がなさすぎて編集者が記事を書いてる場合が多く、ライターはもう書かせてもらえないんですよ。だからライター側からするとコンビニに置かれなくなっても、もはや関係ない話だし、別にどうでもいいやってことだと思うんですよね。実際に、俺もう全然エロ本書いてないもん」

姫「私も連載してたエロ本がどんどん休刊して、今は『FANZA』しか書いてないなあ。それもビデオ情報誌でのAVレビューなので、エロ本の記事を書くのともまたちょっと違うんですけど」

--ガワとしてのエロ本はあっても、中身としてのエロ本はもうとっくに終わっていたんですね…。さて、次のページからはそんなエロ本の歴史に迫っていきます。使い捨てカメラの「写ルンです」は、エロ本に革命をもたらしたんですよ。飲み会で披露したい話がてんこ盛りです!

そもそもエロ本の歴史とは?

--安田さんは先日、膨大な数に及ぶエロ本蔵書をもとに、エロ本の歴史をまとめた『日本エロ本全史』を出されました。エロ本の歴史について教えてください。

安「“どこからエロ本か?”っていう定義が難しくて、それこそ江戸時代にも春画本なんかもあったわけですけど、まあ、終戦直後のカストリ雑誌から始めましょう。まず最初の頃は、写真があまり使えないから文字中心でした。それが印刷技術の向上で徐々に写真が増えてくる。60年代くらいから裸の写真も増えてきて、70年代になると日本人の裸が増えた印象ですね。昔々はグラビアといえば外国人だったんですよ」

姫「はえー。70年代以前の日本は、まだヌードモデルが職業として根付いてなかったのかなあ」

安「多分、『日活ロマンポルノ』といった成人映画の影響が大きいと思うんだよね。ロマンポルノの女優さんたちがグラビアに登場するようになって、ルックスのレベルが上がっていった」

姫「なるほど~」

安「それで80年代になると、ビデオが普及してAVとかが出てきます。それで日本人モデルのレベルがすごく上がったんですよ。若くて可愛い子がどんどん脱ぎ始めた。あとはコンビニができたことが大きいですね。それによってそれまでエロ本の販売部数が数万部単位だったのが、一気に10万部20万部に広がった。一桁の世界が二桁の世界になったんです」

姫「うわあ、エロ本作ってて、一番楽しかった時代だ」

安「まあ、よく黄金時代とは言われるね。80年代に一気にエロ本業界は広がったんですよ。その時期に『ザ・ベストマガジン』が100万部、まあ公称だから本当の部数はわからないけど。『デラべっぴん』なんかも40万部くらい売れたといいます。それはコンビニがあったから成り立った話であって、コンビニがエロ本業界を広げてくれたんですね

--コンビニこそがエロ本を作ってくれたんですね。

安「そして80年代のエロ本として語るに欠かせないのは、素人モノの登場です。例えば、篠山紀信さんが素人ヌードを撮りまくった『激写』が大ヒットしたり、素人が撮った写真を投稿する“投稿写真誌”というジャンルが生まれたりしたんです。まず1981年に『アクション・カメラ術』という本が出て、“自分たちでエロ写真を撮ろう!”と提言したんですよ。その辺りから、プロだけのものだったエロ写真が、素人のものにもなってきたんです」

--カメラが安くなったのも大きそうですね。

安「そうですね。使い捨てカメラの『写ルンです』の影響が大きいという話も聞いたことがあります」

姫「あれ? その頃のエロ写真ってどうやって現像してたの? 街で? 自分で?」

安「どっちでもできないよ。街の現像屋さんに持って行ってもやってくれないし、素人でカラーの現像するのは難しい。はい、ここでクエスチョンです!」

--エロふしぎ発見!

【安田理央からのクエスチョン】
80年代当時、エッチな写真を撮ったらみんなはどこで現像してたでしょうか?










姫「はい!! エロ本編集部だと現像できるから、みんな印刷してほしくて編集部にネガを送っていた!」

--スーパーエロしくんでお願いします!

安「正解です! エロ本編集部にフィルムを送って、編集部は現像して送り返してたんですね~。プロのラボ(現像所)だと、もろヌードでもやってくれるから、エロ本編集部からプロのラボに出せる。みんなそれが欲しくて投稿してたというわけなんです」

姫「素材が無料で集まってくる天才システムだ」

安「それに掲載した写真には賞金も出すからね。お互いがWin-Winの関係で、こうして素人投稿写真が増えていったんです。ちなみに昔、あまりに過激になりすぎて警察に呼び出され…

警察『素人がこんなの送ってくるわけないだろ』
編集部『これ全部モデルだったら予算かかりすぎて雑誌作れませんよ!』


って返したらしい(笑)」

姫「みんなにとって幸せなシステム。エロって円満でいいですねえ

安「昔、某投稿雑誌の編集長が言ってたんだけど、写ルンですを現像するとね、前半はデートでディズニーランドとかに行った写真で、後半はラブホテルというパターンが多かったんだって」

姫「はー、リアリティがあっていいですね。ちょっと前までのエロ本もまず誌面でデート写真とかグラビアを見て恋に落ちてから、付録のDVDでハメ撮りを見るのが楽しかったわけじゃないですか。あの余裕のある誌面作りはどこへ行ってしまったのだろう。もう恋に落ちる隙がねえのよ…」

細分化していった90年代のエロ本

安「ここからは90年代に入ります。まず、ヘアヌードブームってのがあったんですね」

姫「ヘア解禁だ」

安「1991年に出された篠山紀信さん撮影の樋口可南子ヘアヌード写真集『water fruit』をきっかけに、ヘアが『ま、いいんじゃね?』ってことになったんです。最初の頃は“芸術だからOK”という感じだった。つまり、芸能人の毛はいいけど、AV女優や風俗嬢はダメっていう逆転した時期だったんですね。一般誌は毛を出してたけど、エロ本では出せませんでした」

姫「差別だ!?」

安「そう、すごい差別があったんですよ。だからエロ本は意外と最初の頃はヘア解禁の恩恵を受けてなかったんですよね。で、その頃のエロ本は何をやっていたかというと、マニア雑誌を作ってたんだよね」

姫「シリクラですか?」

安「そう、『お尻倶楽部』。その名の通り、お尻とか、お尻から出るものを中心にしたわりとハードスカ雑誌なんですけど、そんな雑誌でも一時期7万部も売れてました

姫「え~! 『お尻倶楽部』ってそんなに売れてたんだ!」

--『お尻倶楽部』はコンビニにもあったんですか?

安「コンビニはアナルダメッ(早口で)」

姫「もしコンビニにあったら、さすがに売り上げに影響しそう」

安「熟女雑誌もその頃に生まれたし、医療マニア系の『カルテ通信』が生まれたのもその頃。こうしてマニア雑誌がすごく生まれていって、エロ本が細分化したのが90年代だったんです」

--方や一般誌ではヘアを出しまくっていたと。

安「そうです。コンビニはヘアヌードだらけでした。加納典明さんの『THE tenmei』とか、あれ一般誌っていう扱いですから。それまでサブカルっぽかった『宝島』も毛出しまくり雑誌になったんです」

姫「『宝島』にそんな時代が!」

安「そして90年代に入って『クイック・ジャパン』とか『GON!』とか、サブカル雑誌が生まれたこともエロ本にとっては結構大きいんです。高尚ではない、頭悪い感じのサブカルって、それまではエロ本の中の一色ページにあったんですよ。その部分が90年代に独立してサブカル雑誌に行って、エロ本のほうはどんどんエロに純化していきました」

--なるほど~。

安「だから80年代にデビューしたギャグ漫画家さんとか、だいたいエロ本に描いているんですよ。エロ本はなんでもOKみたいな感じだったんで、なんでも載せてくれる。一般誌が載せないものをエロ本が拾ってくれたんですよ。『週刊少年マガジン』じゃなかなか載せてくれないからね」

--エロの母性が、行き場のない作品を抱きしめてくれたんですね。

安「そういえば00年代の話になっちゃうんだけど、『GON!』っていう雑誌でさ、アナルの拡大写真をたくさん並べて載せたページがあったんだけど、実はそれ、うちの事務所にいたやつが作ったページでね。俺のエロ本蔵書からアナルのところだけ切り抜いて、集めて作ってたんだよ。あとで雑誌見たらアナルだけなくなって、穴になってた(笑)

--それはひどい(笑)。

安「で、そのページのせいで『GON!』はコンビニに置けなくなっちゃったんだよね」

--次のページではいよいよ21世紀に入ります。ネットでエロを見る習慣が広まり、刀折れ矢尽きたエロ本の壮絶な最期、ぜひ見届けてください! そして再び、安田理央からのクエスチョンもあります!

ネットが敵になり始める00年代

安「90年代はエロ本が一番売れた時代でした。実際に雑誌全体では1997年がピークなんですよね」

--完全にCDの売り上げピークと一致していますね。

安「俺がエロ本の仕事をメインでやり始めたのは1993年だったかな。その頃はコンビニに売ってる雑誌で、10万部を超えてないとバカにされた時代でした」

姫「私の生まれた年だ。そんな部数は今じゃ考えられない。うらやましいですね」

--そして1993年にエロ本を始めた2年後には、『ウィンドウズ95』が登場します。

安「その頃はまだみんな、将来あれがエロ本の敵になるとは思ってなかったんです。ダウンロードも時間かかったしね。その過渡期的な産物として、“アダルトCD-ROM”ってのがあったんですよ。脱衣麻雀とかゲームが入ってて、インタラクティブなエロが楽しめる。で、俺は当時、それに強いライターとしてよく書いてたんですね」

姫「はっ、だからいまだに安田さんってちょっと機械に詳しい風を吹かしてるんですね」

安「いや、実際は全然詳しくなかったんだよ。当時のエロ業界はPCできる人少なかったってだけ(笑)。その頃はよく『PCの画面見ながらオナニーできるわけないだろ!?』って言われてましたね。当時のエロといえば本を開くか、テレビ画面で見るもので、『キーボードとかにかかったらどうするんだ!?』みたいに言われてた。それが今や、『え、本でオナニーするんですか? それ動かないですよね?』だもんねえ…」

--で、その次は、『ケータイのあのちっこい画面でシコれるわけないだろ!?』になるんですよね。

安「そうそう。時代は変わるんですよ」

--ネットのエロが広まるのはいつですか?

安「やっぱり00年代になってからですね。常時接続のADSLが流行ったのが大きいです。それまではネットもタクシー料金と同じでどんどん上がっていって怖かった。夜中から朝方にかけては定額になる『テレホーダイ』ってのがあって、みんな23時から始めてましたね。そして、自動でサイトを巡回するやつでネタを探してね」

姫「誰が?」

安「プログラムがいろんなところを回って、勝手に画像とか集めてくれるのよ。それで朝見るとたくさん獲れてて『よっしゃよっしゃ』って。そしてネットは何より、無修正が見れるってのが大きかったですね。その頃、俺はエロ本とか週刊誌に『インターネットで無修正丸見え!』っていう記事をすごい書いてました。というか、その手の記事はどれもだいたい俺が書いてた(笑)」

姫「『インターネットでエロ動画が見られるらしいぞ』っていう記事は、いまだに実話誌に載ってますよね

安「そうそうそう、それも俺が書いてるんだよ。お年寄り向けに」

--その頃のエロ本ってDVDが付き始めましたよね?

安「2004~06年くらいから付き始めて、2008年には一気に広まった感じですね。多分、PC雑誌の文化の流れだと思うんですけど、DVDの前はCD-ROMが付録に付いてたんですよ。その中にエロ動画が『QuickTime』とかで入ってた。尺が短くて、画像もこんなに小さくて、しかも粗い。それでも売れたんです」

--で、それがDVDへ発展していくと。

安「2006年創刊の『サルシキ』の影響が大きいですね。俺も全面的に関わってたんだけど、390円で全部撮り下ろしのDVD付きというすごいエロ本だったんです

姫「あれカッコよかったんですよ~」

安「それが結構話題になってね、それまで版元のワニマガジンは『DVD? え~?』みたいな反応だったのが、『お、いいんじゃん?』となって全誌にDVDが付くようになり、他の出版社もそれに続いたという流れです。実際はそんなに売れたわけじゃないんだけど、話題にはなった」

--エポックメイキングなエロ本だったんですね。

安「エロ本が動画を撮るっていうやり方もできるんだと、当時は思いましたね。ところがそれも程なくして、動画素材をまるごとAVメーカーから借りて作るようになるんです。その端緒は同じく2006年に出された『一冊まるごとプレステージ』っていうエロ本です」

--『プレステージ』ってAVのメーカーですよね?

安「そうです。タイトル通り、全部プレステージからもらった素材だけで作った本です。で、それがね、売れちゃったんですよ。自分のところで何も作ってないから製作費が安いし、その頃はもうエロ本の売り上げも落ちてたので、『お、このやり方、いいな!』って」

姫「なっちゃうよねえ」

安「そして、それがだんだん当たり前になっていくんです。そこが多分一つの分岐点

--カルチャーとしてのエロ本が、そこで終わってしまったんですね。

どん底に辿り着いた10年代

安「こうしてだんだんネットに押されて、エロ本の売り上げが落ちていったわけなんですけど、まずエロ本からはグラビアが消えていきました。だって、スタジオを抑えて、カメラマンとヘアメイクも抑えなきゃいけないから、グラビアはお金がかかるでしょ。ということで、ハメ撮りが増えたんです

姫「ハメ撮りだったら、女優さんと撮る人が2人でホテルに行くだけでいいもんね。それにDVDにもしやすいし」

安「そう。それで一時期どれもハメ撮り雑誌になってしまった。その頃、俺も随分ハメ撮りしたな~。で、撮らなかったらもっと安いということで、素材を全部借りるようになってしまったと、こういう流れです」

姫「AVの宣伝にもなるしね」

安「さらに言うと、ライターの費用を削減する流れになり、00年代後半から記事らしい記事は消えていったんです。そこから今に至るまでは、実はあんまり変わっていません。ひどい状況がずっと続いている感じですね」

姫「私はわりと最近までKKベストセラーズのエロ本で、多摩川の河川敷にエロ本を探しに行ったりだとか、そういう余裕ある企画をやらせてもらえたので幸せ者でした。結局、2年くらい前に休刊になってしまいましたが…」

--多摩川にまだエロ本は落ちてましたか(涙)?

姫「残念ながらありませんでした…。なので、河川敷にいたホームレスのおじちゃんにそのエロ本を献本して帰りました

--なんだかいい話(涙)。

安「10年代に入ると、エロ本出版社がエロ本を作らなくなってくるんですよ。今でもちゃんとエロ本作ってるのは、三和出版だけだから」

--作らないで何をやってるんですか?

安「さて、ここでクエスチョンです!」

姫「エロふしぎ発見!」

【安田理央からのクエスチョン】
10年代に入ってエロ本を作らなくなったエロ本出版社は、今、何をやって糊口を凌いでいるでしょうか?










姫「え~~~、何だろう…」

安「正解は、概ねクロスワードパズル雑誌を作ってます

姫「あっ、確かにクロスワードパズルめちゃくちゃ作ってる!」

--なるほど~! でもそれは正しいやり方ですよね。クロスワードパズルって高齢者向けだし、紙メディアでやる意味もあるし、コンビニでも売れる。

姫「うちの祖母もめちゃくちゃ熱中してます」

安「今、マガジン・マガジンがクロスワードパズルで一番の大手出版社だったと思うんですけど、その前身のサン出版ってエロ本で有名なところだったんですよ」

--もともとエロ本を作ってた人たちが、今はパズルを考えているんですか?

安「いやいや、パズルには作家がいるんですよ。編集者は彼らに発注して雑誌にしているだけです。だからエロ本がコンビニからなくなると、みんなクロスワードに移ってきてライバルが増えるって思ってるかもしれませんね」

姫「それにしても本当に実写のエロ本作ってるところなくなっちゃったね。エロ漫画ばかり

--二次元でしかシコれない若年層が増えましたからね。

安「クロスワードパズルとエロ漫画だよね。コアマガジンは白夜書房のエロ部門的な出版社なんだけど、今は実写のエロ本は全く作ってないんじゃないかな。漫画ばっかりだよね」

姫「ワニマガジンも全部漫画になってるはずです」

安「有名なエロ本出版社だった英知出版はもうなくなったし、東京三世社もなくなった。KKベストセラーズもエロ本を作ってない。だからコンビニのエロ本って、インテルフィンとかブレインハウスとか、あんま聞いたことないところがいっぱい作ってたのよ」

--新しい出版社なんですか?

安「でも、たどっていくと古い出版社だったりするんですよ。インテルフィンもビデオ出版って老舗だったし。10年代後半っていうのは、エロ本出版社はもうエロ本作ってなくて、たくさん出してるのは聞いたことがないところばっかりっていう感じですね」

姫「私はエロ本でライターデビューしたのが2010年なので、ライターというより“おくりびと”みたいな感じだったなあ」

安「ホスピスみたいだよね」

姫「エロ本編集部が、どんどん会社の倉庫にされていくんですよ。デスクの島の誕生日席に担当さんが座ってたから、『偉くなってすごいじゃないですか!』って言ったら、そもそも島に一人ずつしかいなくて全員がお誕生日席とか。その部屋にはもはやその人しかいないとか…」

安「フロア丸ごとガラッと空いてて、誰もいない階があったりするんだよね」

姫「で、物置になって、やがてそのフロアに別のテナントが入って…」

安「某大手出版社もオーナーが変わって、自社ビルを売っぱらわれたりしてましたね。みんなベンチャーに買われちゃうんですよ

--ベンチャーが弱ったエロ本出版社を買うのは不動産目当てですか?

安「そうですね。だいたい自社ビルを建てるとそのあと潰れます。象徴的なのは英知出版ですね。そういう歴史を見ていると、自社ビル建てるとろくなことがないって思いますね」

--会社がベンチャーに買収され、ビルも売っぱらわれ、もはやケツの毛もむしり取られたかのようなエロ本。時代の必然というにはあまりに悲しい。嗚呼、僕の古い友達、エロ本よ。君はどこに行ってしまうのか?

「エロの人は戦わない」

--ところで姫乃さんは、どういう理由でエロ本ライターをやろうと思ったんですか?

姫「もともと私、地下アイドルをやっていて、ライブにエロ本の取材が来たんですよ。『地下アイドルはヤレるのか?』という企画で」

--ひどすぎる!

姫「そう! あまりにひどい! のですが、当時は地下アイドルがまだ黎明期で、業界全体がマスメディアとの接触がないっていうジレンマを抱えていたので、とんでもない企画だったものの雑誌が来たということで取材を受けたんです。でも当時はまだ16歳だったので、誌面に載せてもらえなくて」

--さすがにそれはエロ本とはいえどね。

姫「いや、エロ本側はOKだったんですけど、ライブのイベンターさんが気を使ってNGにしてくれたんです。だけど私はエロ本に興味があったので、それをきっかけに編集部の人と連絡取り合うようになって、コラムを書かせてもらうようになりました」

--もともとエロ本に興味があったのはなぜですか?

姫「実家が酒屋で、エロ本を販売してたんですよ。近くにコンビニができて潰れたんですけどね。でも私がエロ本の仕事を始めた頃には、すでにかなりの斜陽産業になっていたので、あちこちのエロ本を看取りながら猛スピードで編集部を転々としていました」

安「本当に大末期だよね」

姫「それで『地下アイドルが見たエロ本業界』というブログを書いたら、一気にいろんなエロ本出版社から連絡もらえて連載が増えたんですけど、まあ書いたらなくなる書いたらなくなるで、連載1回で終わるとかゴロゴロあって。タイトル決めをした翌月になくなるとか…」

--姫乃さんは93年生まれのデジタルネイティブ世代だと思うんですけど、そんな世代から見てエロ本のよさとは?

姫「エロいページがあれば、あとは好きにやってよし! みたいな、記事ページにカルチャーもあった頃のエロ本に憧れてるんです。“場”としてのエロ本というか。エロを中心に、いい写真、面白い記事、面白い人が集まってくるのがエロ本のいいところだと思います。あと私は、お便りコーナーを通してすごい人数の読者と文通していたのですが、独特の不器用な交流に心が救われましたし、他には代えがたい魅力がありました」

安「読者からプレゼントもらったりね」

姫「そう、手作りのチーズケーキもらったり! 届いたときには、カビがフワッフワに生えててね(笑)。これからのエロは、インターネットに移行していくと思いますけど、本当は閉じた空間でやりたい気持ちもあります。なんとなく社会では肩身の狭い人たちが、迷惑かけたり怒られたりしない場所で寄り集まれるような、場としてのエロ本に代わる何かがほしいですよね」

安「『エロの人は戦わない』ってよく言うよね

姫「ああ、エロの人は戦わないかもしれないですね」

安「怒られたら、とりあえず『ごめんなさい』って言う」

姫「うん、言えるように心構えしてるつもりです」

安「戦うのは芸術の人とかそういう人であって、エロ本の人は戦ってる暇があったら他のことをやります。抜け道を探すんです

--だからエロは他のジャンルに先駆けて、変化が早いってのもあるかもしれませんね。

安「そうですね。今回のコンビニ撤去を受けて、こうやって取材するメディアは本当は俺に憤ってほしいのかもしれないし、『いや、エロ本まだまだ未来がありますよ』って言ってほしいのかもしれませんけど、『今売ってるエロ本はエロ本なのか?』っていうのが正直あるので、別にいいかなって気がするんです」

--なるほど。

安「だったら“エロ本的なもの”が他のジャンルで、メディアで生き延びてくれるほうがいいかな。エロ本に限らず雑誌っていうのは全部、時代とともに生きてるんですよ」


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