※この記事は2019年08月29日にBLOGOSで公開されたものです

日韓の対立はエスカレートするばかりだ。

日本政府の輸出管理強化を受けて、韓国では一部から日本製品の不買運動が起きた。さらに日本各地で行われてきた文化交流イベントにも韓国側から中止、延期が申し入れられ、同時に韓国からの観光客も減少。その結果、日本路線の航空便が大幅に縮小、運休する事態になっている。

それだけではない。韓国の「反日感情」はさらにヒートアップして安全保障面にまで発展し、韓国政府は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定した。また、韓国が不法占拠している島根県・竹島(韓国名は「独島」)の周辺では、韓国海軍や海上警察、陸空軍と海上隊などが参加しての軍事訓練まで始めている。

まさに官民一体による反日運動の過熱、という感じで、日本への報復は日常化している。だいたい、今回の日本側の輸出管理強化は「ホワイト国から除外した」という程度のことで、国民が意地になって騒ぐのは異常なこと。それがなぜGSOMIAの破棄にまでなるのか理解に苦しむ。

GSOMIAの意味を理解していない韓国国民

今回のGSOMIAの破棄に関して、日本では「理解できない」と判断している人が8割以上もいるのに対して、韓国では「(破棄を)支持する」という人が5割を超えているという。

「韓国の反日教育」とか何とか言っているが、やはり韓国内のメディアの問題もあって、おそらく韓国ではGSOMIAの役割を理解出来ていない人が多いのだろう。もちろん、日本国内でもどの程度理解出来ているのかは疑問符がつく。しかし、読売新聞社の全国世論調査によると、日韓問題とは離れ、日本では72%が「韓国との連携を必要」としている。この点を見ただけでも、日本人は単に感情だけでは動いていないことが分かる。

理由はどうであれ安全保障にまで「反日カード」を持ち出してくる韓国の感覚は、もはや理性の欠如としか言いようがない。そもそも、韓国の李洛淵首相ですらGSOMIAについて「日本の不当な措置が元に戻れば再検討するのが望ましい」などと発言しているのだから、意思の疎通を図るのは難しいということだ。

こういった状況は、おそらくネット社会の反動から生まれてくるのだろうと思う。韓国では、日本以上に「新聞」の弱体化が進んでいる。これは政治や社会への見方が鈍ったり偏ったりする大きな原因になっている。新聞からは、あらゆる情報が得られ、良くも悪くも自身の考えを確認することが出来る。

しかし、ネットでは自分に都合の良い情報や意見しか得ようとしない。しかも、今の時代はSNSの普及で情報操作も可能である。そうした中にあって新聞は、時として政権にすり寄り、重要なものや都合の悪い情報については、アリバイ程度に小さく掲載したりすることがある。がしかし、読み続けていくと、その情報に気づき、それをソースにネットなどで検索する行動も起こせる。結局のところ、いまだに新聞批判がネットで起こっている日本に比べ、おそらく韓国は情報のバランスが崩れているのだろう。

余談になるが、麻生太郎副総理兼財務相は2017年秋の衆院選に関連し、30代前半までの若い有権者層から自民党の得票率が高かったことに「一番、新聞を読まない世代」とした上で「読まない人は全部自民党だ」と発言したこともあったが…。

いずれにしても日本も他人事ではないが、韓国における情報の貧困さは否めない。

米国の逆鱗に触れれば文政権退陣も

それはさておき韓国によるGSOMIAの破棄は、今後の文在寅政権を揺るがす事態になっていくに違いない。そもそもGSOMIAは、米国の意向によって日韓が結んだ安全保障だからだ。それだけに米国政府高官からは「失望した」とか「文在寅政権の思い違い」との苦言が出てきている。

もっとも、ツイッターでの発言が好きなトランプ米大統領からは、現時点でこの件に関してのコメントが出ていない。「何でもかんでも呟く御仁」だけに、逆に不気味な雰囲気があるのだが、もしかしたら犬も食わないような両国の争いには関わり合いたくないと思っているのか、あるいは周囲に解決を押し付けているのかもしれない。

ただ、今回の案件は米国にとって「韓国にメンツを潰された」との思いが強いはずで、今後、何らかのリアクションが出てくるだろう。とにかく、米国に逆らったらどうなるのかは、日本の政治家だったら薄々は理解しているはずである。過去を振り返っても田中角栄氏を始め、鈴木善幸氏など米国の逆鱗に触れ退陣に追い込まれた(と言われる)首相はいる。それだけに、文大統領も…同じような道を歩むような気がしてならない。

にも関わらず、文政権にはそういった「危機感」のようなものが感じられない。なぜか? おそらく米国なんかよりも内政のことばかりに気を取られ、いかに「反日感情」を煽ることが政権の支持率を高めることだとしか考えていないのだろう。「まさか…」と思うかもしれないが、意外にそんなものである。しかし、それが文政権の命取りになりかねない。

大統領側近にスキャンダル 娘が不正入学か

すでに、文大統領の側近で、新たに「法相に起用する」と発表されていたチョ・グク氏の不正スキャンダルが表沙汰になっている。チョ氏は、最近まで首席補佐官を務め、文政権の中でも対日強硬派と言われてきた。

そのチョ氏を巡って家族ぐるみの不透明な投資ファンドの運営や資産隠し、さらには娘を名門大学に不正入学させた疑惑が持ち上がった。とりわけ、学歴社会の韓国では「不正入学」に対しては批判が高まる傾向にあり、文政権にとっても影響が出かねない状況になっている。

そういった背景もあってか、韓国内では「GSOMIAの破棄は、チョ氏の不正隠し、疑惑から国民の目をそらす狙いがあったのではないか」とも報じられている。

この不正疑惑の情報に米国が絡んでいるかは定かではないが、だからといって関わっていないとも言い切れないところが、米国の巧妙なところだ。チョ氏は「叱責を受け止める」としながらも「聴聞会の機会を与えてほしい」「検察捜査で早期に事実関係を解明されることを願う」と火消しに追われているが、検察当局は強制捜査に着手しているし、大規模な集会も行われ始めている。

チョ氏の不正疑惑に限らず今後、文大統領、政権に関するネガティブな情報が飛び出てくる可能性もある。その一つが「ライダイハン問題」とも言われている。

韓国歴代政権が目をそらすベトナム戦争の「ライダイハン」

文大統領は日本に対して「慰安婦問題」を掲げ、各地に慰安婦像を設置しているが、韓国軍はベトナム戦争当時に30数万人の兵士を投入し、ベトナム中部で虐殺事件を起こした。事件現場は100ヶ所を上回り、被害者は3万人とも言われている。そこで韓国軍は現地の女性を強姦し、妊娠させた結果、混血児(ベトナム語で「ライダイハン」)が産まれたという、慰安婦以上に人権を無視してきた歴史があるにも関わらず韓国の歴代政権は、そういった事実に向き合うことはぜず、謝罪や補償すらしてきていなかった。

ところが、ここにきて、この「ライダイハン問題」が英国を中心に大きな動きを見せているのである。

英民間団体「ライダイハンのための正義」が、英彫刻家のレベッカ・ホーキンス氏によって制作した「ライダイハンの母子像」(ブロンズ像)を、8月1日にロンドンのウエストミンスター地区の公園に設置し、一般公開を始めた。しかも、この「ライダイハン問題」については、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」からの性暴力を告発し、2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんも「私は、認知と正義を求めるベトナムにおける性暴力の被害者の、このほどの取り組みを支援する」とコメントしている。

その時の混血児たちは韓国の文大統領に対して、国連人権委員会の調査と親子関係を確定するDNA型鑑定に応じ、公式謝罪を求める公開書簡を提出しているという。同団体のジャック・ストロー元英外相も「(像の公開が)韓国政府に自国軍が犯した罪を認め、国連の調査を支持する姿勢へと変えさせる役割を果たしてほしい」と訴えている。

「ライダイハン問題」は国際問題に発展する可能性があり、これまでのように韓国内で反日感情を煽るだけの行動は、逆に自らの首を絞めることになりかねないということである。結局、文政権は、やることなすことブーメランになって苦境に立たされることになりそうだ。