かんぽ生命の″詐欺商法″18万件は特殊詐欺の10倍以上 小泉純一郎元総理はコメントを - 毒蝮三太夫
※この記事は2019年08月13日にBLOGOSで公開されたものです
郵政グループはひどいな。かんぽ生命の不適切営業問題で、不利な契約を勝手に結ばされてたり、二重契約させられてたり。保険の名前が「ながいきくん」だろ、これじゃ呆れて「ためいきくん」だよ。今わかってるだけで不正が18万件以上。年寄りを騙すってのが腹立たしいよ。年寄りはいたぶるもんじゃないの、いたわるものなんだよ。詐欺グループの10倍以上の被害!?
え? 認知症の方に10か月の間に10件の契約を結ばせてたなんて悪質なのもあったのか。おいおい、やってることは詐欺そのものだよ。ちなみに詐欺集団がやってる詐欺(オレオレ詐欺・架空請求詐欺・キャッシュカードすり替え詐欺)ってどれぐらい起きてるかわかる? 昨年(2018年)で約1万6千件か。てことは、かんぽは18万件だから詐欺連中の10倍以上やらかしてるんだな。郵便局って反社会的勢力になっちゃったの? 情けないね。
悪質な営業をしていた連中は、年寄りのことを裏で「ゆるキャラ」「半ぼけ」「甘い客」ってさげすんでいたって新聞報道もあったのか? 目の前に見えているのが営業ノルマだけでさ、人の姿が見えなくなっちゃったのか。人を人と思えなくなる、誰かを騙して営業成績を取り繕う、それが日々の仕事だなんて、むしろ哀れみを感じるよ。
この問題はさ、騙された年寄りも可哀想だけど、騙した郵便局の人達も切ないんだ。結局追い詰められたわけだろ。営業目標というノルマを経営陣が決めてさ、現場に向かって数字を上げろ~って。でも、現場はそう簡単じゃない。保険の契約を1件結ぶって大変な仕事だと思う。結局、ずるく老人を騙すことでしか数字が上げられない。ノルマに追い詰められていつしかモラルを踏み外してしまった。それが今回、一気に露呈したわけだ。
郵政の長門さんって社長が謝罪会見してたけど、この一連の問題を最初に把握したのは今年の5月だって言ってたよ。でも、NHKが昨年春にこの問題を「クローズアップ現代+」で取り上げてたんだってな。NHKが看板番組でそんな問題を放送してたら見てないわけないんだ。なのに会見で言ってる通りだとしたら、あまりにも呑気な社長だよ。
郵政民営化12年で出てきた歪み
日本郵政がなぜこんな組織になったのか、元を辿れば、小泉純一郎さんと竹中平蔵さんが、やんややんやで押し進めた郵政民営化(2007年)があったわけだ。郵政民営化って確か、国家公務員を減らします、財政の無駄を無くします、って話だったよな。小泉さんが声高らかに「反対する連中は抵抗勢力だ!」って。あの声にみんな押し潰されたけど、あとから冷静に見ると、それまで国がやってた郵政事業って別に赤字出して税金で支えてたわけじゃなく、郵政は郵政で自分で稼いで独立採算が成り立っていたんだろ。稼ぎ過ぎたら国に納めてさ。別に財政的な無駄は無かったという。
だけど小泉さんは選挙で大勝して、国民から郵政民営化のお墨付きをもらった。で、民営化した結果、何が起きてるんだい? 郵貯やかんぽで集めた莫大な貯蓄が市場投資に回ってアメリカが喜んだ? オーストラリアの物流会社を買収したら4千億円の損失が出て頭抱えてる? 外資の保険会社と営業の競争でヘトヘトしてる? アベノミクスで超低金利になって保険金運用では稼げないから焦ってる? 国は郵政株を売り出して計4兆円を調達し東日本大震災の復興財源に充てる?
あと、全国にあった「かんぽの宿」をまとめて売却するとかでモメたよな。そうそう、全部で2千4百億円ぐらいの資産を100億円でオリックスに売るって話。とにかく郵政民営化によって巨額の金が動いてるわけだ。
郵政民営化されて12年か。ホントに民営化で良かったのか、その道しかなかったのかな。そういえば今回のかんぽ問題が起きてから、小泉純一郎さんって何もコメント出してないよね。小泉さんはこの問題をどう感じてるんだろうね? 息子の小泉進次郎さんと滝川クリステルさんとの結婚を内々に知っていたから、この時期にマイナスイメージのかんぽ問題には一切近づかないようにしてたのかな。でもさ、それはそれ、これはこれでね、郵政民営化の一番の当事者としてどう思っているのか聞いてみたいよ。
一気に信用を失った郵便局
しかし、今回の問題で失ったものは大きいな。明治時代に近代の郵便制度が出来て以来、長年にわたって築き上げられてきた郵便局への「信用」が、これでズタボロだよ。前島密が泣いてるよ。1円切手だよ。郵便局ってさ、貯金を預かる、為替を扱う、手紙・小包を届ける、生活の中でもとくに信頼が無いと扱えないものばかり扱っていることで、他に代えがたい「信用」があったんだ。郵便局員だっていい加減じゃ務まらないよ。「真面目」で「地道」で「堅い」、そうでないと務まらない職業だよ。
俺がガキの頃は学校の卒業式なんかに、地元の郵便局長が列席してたよ。校長の隣りに座ってね。地元の名士だよ。郵便局長という地位に対して地域住民は尊敬のまなざしを向けていたし、それに見合う格式があったんだ。
うちのカミさんなんかも郵便局にはいいイメージばかりだもの。バブルの前のまだ金利がいい時代に定期預金かなんか組んでさ、10年満期でビックリするぐらい利息がついたらしく通帳眺めてニコニコしてたよ。
俺も郵便局とは縁があるし長い付き合いだ。税金納め過ぎて還付金もらいに行ったりね。あれ嬉しいんだ。あとこの時期は暑中見舞いの「かもめーる」も買ってる。手書きのハガキをしょっちゅう出してるよ。でも今は通信手段がスマホやケータイですっかり様変わりしちゃった。おかげでハガキは年々売れなくなってる。毎年年賀状も買ってるけどさ、民営化してからは暮れになると駅前や店先にテーブル出して、寒い中で年賀状を売ってる姿を見ると、ああ大変だなって思うよ。
そうそう、俺の兄貴はその昔、東京簡易保険支局に勤めてたんだ。麻布の二の橋から坂を上がった処に立派な建物があったよ。昭和初期に建てられた西洋古典様式の建築でね、俺も1回連れてってもらったよ。建物の屋上から芝や品川を一望して東京湾が見えたのを覚えてるな。
郵便局って、色んな形で地域の人々に密着してて、そこに厚い信用があった。だから今回、多くの高齢者が郵便局員を信じて、かんぽの契約を言うがままに結んだんだよ。その信用を裏切ったんだもんな。これを取り戻すには、大変な改革が必要だろうな。
人が人の思いを届ける
中国映画に「山の郵便配達」(1999年)って傑作があるんだ。中国の山奥でさ、長年手紙を届けてきた老いた郵便配達員が引退を決めて息子に跡を継がせるんだ。山道をひたすら歩いて手紙を届ける。一見、何の変哲もない単純な仕事のようだけど、そこには日々の時の流れがある。人が人の思いを届けるという大きな意味がある。仕事って尊いなとしみじみ感じさせてくれる。胸を打つよ。仕事っていったい何なんだって問いかけてくるよ。配達する郵便にはさ、祝電もあれば、訃報もあれば、合格通知とか、金の無心とか、一喜一憂の報せがあってね。ハガキや封書そのもの自体は軽いけど、中に詰まっているものは重たいんだ。収支とか効率には見合わない、そういう処に、仕事の価値や、人が存在する理由があるってことがじんわりと伝わってくるんだ。山の上までドローンで一気に届けました、とは違う次元の話だよ。便利で良かったね、というプロセスからは感じることが出来ない人の営みに関する話だ。
この「山の郵便配達」って映画を、この機会に観てほしいな。とくに全国の郵便局員には観てほしい。でね、郵政がどうあるべきか、考え直す為の参考にしてほしい。仕事って、誰かが持っている蓄財を騙してかすめ取ることじゃない。仕事って、人に寄り添って人の為になることをするものだよねって。
俺の手元に1枚の古いハガキがあるんだ。俺が中学1年生の時に書いたものでさ、昭和23年11月、俺は子役で舞台「鐘の鳴る丘」に出演していて、その巡業先だった四国から浅草の自宅へ出したハガキなの。中1の俺、下手クソな字でさ、だけど親を思う気持ちが鉛筆でくっきりと書かれていてね。今眺めても当時のことがまざまざと目に浮かぶよ。あの頃、四国から浅草までの長距離、1枚2円のハガキをきちんと運んでくれた郵便配達のおじさん達に今でも感謝している。大事な俺の宝物だよ。
日本の郵便が築いて保ってきた地域のネットワークはすごいよ。過疎化や人口減少にあえぐ地域のフォローで、大きな役割を果たせるはずなんだ。おそらく民生委員にもなれるし、ライフラインにもなれる。地域という身体を流れる血液になって、いち早く個々の家の不調に気づいたりできる。
そういう公共のサービスに直結する仕事って売上至上主義とは真逆だから、本質的に民間には向かないんだ。だけど、みんなが生きていくのに必要なものだよ。今回、信用を失って地に堕ちた郵政を、もう一度、国民の心強い味方にするにはどうしたらいいか。郵政建て直しの先に、民営化の見つめ直し、大胆な半官半民の道もあるんじゃないかな。
(取材構成:松田健次)