※この記事は2019年08月05日にBLOGOSで公開されたものです

「これは検察の明らかなミス。そもそも求刑後、判決言い渡し直前の変更なんてあり得ないこと。前代未聞の失態だと言っていい」

スポーツ紙社会部記者もさすがに呆れる〝珍事〟が起こった。

「どちらかの無罪は確実でしょう」

大麻取締法違反(所持)で、厚労省関東信越厚生局麻薬取締部(通称「マトリ」)に逮捕され、その後、起訴された元KAT-TUNのメンバー田口淳之介被告(33)と元女優・小嶺麗奈被告(39)の判決を延期したことから、東京地裁は2人の勾留を取り消したのである。

2人の初公判は7月11日に東京地裁であった。その際、2人とも「間違いありません」と起訴内容を認めた。検察側は「常習性がある」としてそれぞれに懲役6カ月を求刑、一方の弁護側は「依存症はない」と、執行猶予つきの判決を求めていた。判決は7月30日に言い渡されることになっていたのだが…。

「検察側の請求で判決が延期されたのです。新たな期日は未定ですが、おそらく共同所持は崩れ、どちらかの無罪は確実でしょう」(法曹関係者)。

罪を全て認めているのに「無罪」とは…、この国は本当に法治国家なのか?

容疑を全て認め捜査に応じていた

まず経緯から。

田口被告と小嶺被告は5月22日午後1時47分、東京・世田谷区内の自宅マンションで乾燥大麻約2.2グラムと吸引器具を所持した疑いで、冒頭でも記した通りマトリによって現行犯逮捕された。捜査関係者によると「自宅と車の中を捜索し、グラインダーや巻紙などを押収した」そうだが、大麻については「隠し持っていたというより、自宅内に無造作に置いてあった。おそらく日常的に使用していたのでしょう」。

その後、2人は警視庁湾岸警察署で取り調べを受けたが、容疑については全て認め「捜査に対しても素直に応じていた」と言う。その際、2人の関係については「事務所の代表(田口)と所属の女優」とし、婚姻関係はないが「同居していて内縁関係」と説明していた。

起訴されたのは6月5日だったが、7日には保証金300万円で保釈された。その際、湾岸警察署の玄関で田口被告が報道陣を前に土下座をした光景は記憶に新しい。

そして前述したように7月11日には初公判が行われたわけだが、検察側は冒頭陳述で、2人は2006年ごろに交際を始め、09年から小嶺被告が買った大麻を一緒に使用するようになったと指摘した。

法廷で飛び出した"プロポーズ"発言

そして被告人質問。大麻に手を出したことに小嶺被告は、当時、田口被告との交際を伝える記事が週刊誌に掲載されたことがキッカケで、田口ファンからの誹謗中傷が殺到したそうで「心身に不調を来していた」と説明。田口被告も「仕事や人間関係でストレスがあった」と述べた。その上で「関係者やファンの期待を裏切った」とし、今後は2人で治療を受けながら「芸能活動は続けていきたい」と神妙に語っていた。

ところがその一方で、小嶺被告からは「交際を続けられるなら結婚したい」などと、田口被告へのプロポーズと受け取れる発言まで飛び出した。しかも、田口被告の腹も結婚で固まっていたようだった。もちろん2人は被告の身。「即結婚」とはならないだろうが、薬物に詳しい関係者の間からは「公判で非常識な言動。いくら反省を述べていても一緒にいたら再犯の可能性は十分」と批判の声が巻き起こったものだ。

判決先送り 検察は緊張感の欠如露呈

それが、検察側の請求によって「判決」が先送り…である。

「判決前に勾留が取り消されるなんてことは異例というより、前例がないのではないか」(司法関係者)。

ちなみに、今回の勾留取り消しによって保釈状態ではなくなるため、支払った保証金も返還されるという。

しかしなぜ、こんなことになったのか? 検察側は自らの汚点は明らかにしないが、捜査上での証拠に不備があったのか、手続き上で不備があったのか、いずれにしても初歩的なミスが原因だったことは確かだ。

この事件はマトリが逮捕し、警視庁湾岸署に留置されていた。「薬物捜査で、マトリと警視庁との間ではライバル意識が強いですからね。そもそも捜査手法にも違いがある。そういった部分での手続きに問題があったのかもしれませんが、最終的には起訴した検察に責任がありますからね。単なるタレントの薬物事件だと思った検察の驕り、緊張感の欠如が一気に露呈したということでしょう」(週刊誌の取材記者)。

起訴猶予になったアイドルの前例

事情こそ違うが検察では不可解な出来事が以前にもあった。

3~4年前のこと。ある人気女性アイドルTが、コカイン使用で警視庁に逮捕され起訴されたものの、なぜか東京地裁は「起訴猶予処分」としたのだ。

Tは、「全日本国民的美少女コンテスト」でグラビア賞を受賞し、ドラマや映画に出演するなど人気を得ていたが、都内自宅にコカインを所持、使用していたことから逮捕された。

ところが地検は処分保留で釈放した。「この時、Tは妊娠3カ月でした。そういった事情もあったのかもしれません」(当時を知る芸能関係者)とも言われているが、最終的に下された処分が「起訴猶予」。

「実は検察上層部からの指令だったという噂が出回ったんです。当然、捜査した警視庁内からも、この処分には疑問の声が上がっていました。結局はウヤムヤになってしまいましたが、記者の間からは『交際していた実業家が裏で動いた』なんて声もあったほどです。だいたい、処分理由について検察はコカインの所持量が微量だったとか、社会的制裁を十分に受けたなんて言っていましたが、笑っちゃいます。そんな理由だけで起訴猶予にするのだったら、10年前の酒井法子だって起訴猶予処分ですよ。検察はご都合主義過ぎます。そんな意識や感覚が、今回の田口被告と小嶺被告の裁判にも繋がっているように思いますね」(芸能記者)。

かつては、大阪地検特捜部主任検事による証拠改ざん事件なんていうのもあったが、昨年3月には、覚醒剤取締法違反で起訴されていた男が、保釈中に更生施設から逃走を図った事件で、北海道・函館地検の失態が問題になった。さらに最近では実刑確定後も収容に応じなかった男が、身柄を確保しようとした横浜検察の事務官らに抵抗し、刃物を持って逃走するという事件まで引き起こしている。いずれにしても失態続きである。

検察は襟を正して欲しいものだが、それにしても懲役6カ月を求刑しておきながら「実は検察のミスで無罪」なんてことになったら、さすがに法治国家として検察トップも責任を取らなければならないだろう。