いまや私たちの日常に溶け込んでいるSNS。

InstagramやYouTube、Twitterなど、とても便利で面白いツールだが…。

そこには、とんでもない“ヤバイ世界”が潜んでいる可能性も。

SNSの沼にハマった女たちに待ち受ける衝撃の事件と、その結末は…?




Twitter婚活の落とし穴〜柚香(28)の場合〜【前編】


「柚香(ゆずか)、最近マッチングアプリやってるんでしょ?いい人いた?」

土曜日の昼下がり。中目黒の『epulor』で、親友の小百合が興味津々な様子で私に尋ねてきた。

「ここ3ヶ月で15人に実際会ったけど、全然ダメ!いいよねぇ、結婚間近の恋人がいる小百合はさ。婚活頑張ってるのに、私、全然うまくいかないよ…」

テーブルにひじをつき、頭を抱える。

私は、新卒からWebメディアの編集者兼ライターとして働き、今年で28歳を迎える。小さなメディアなので、もう副編集長のポジションだ。

仕事は大好きだからこれからも頑張りたいけれど、年齢的にもそろそろ結婚相手を見つけたい。

だから、3ヶ月前からマッチングアプリでの婚活を始めた。でも、実際に会って相手を知れば知るほど、プロフィールやメッセージでの印象から遠ざかっていき、「なんか違う」とお断りするケースが続いている。

毎週のようにデートの予定を入れて、自分なりにはかなり頑張ったのだが。

「柚香さ、もっといろんな婚活ツール試してみたら?たとえば、Twitter婚活とか」

「……Twitter婚活?」

私は、聞き慣れないワードに思わず身を乗り出す。すると、小百合はTwitterで「婚活垢」と検索した画面を見せてきた。

「こんなふうに、Twitterで“婚活アカウント”っていうのを作って、同じように婚活垢をやってる男性とつながりにいくの」

そこには『〇〇@婚活垢』というアカウントがズラリと並んでいた。

「実際に、Twitterで出会った人と結婚した友達もいるよ。共通の趣味に関するツイートをきっかけにつながって、仲良くなったんだって」

私は「それはすごいね!」と相づちを打つ。でも、まだいまいちマッチングアプリとの違いがわからなかった。

小百合は、そんな私の心の内を見透かしてか、「マッチングアプリと違うところはね…」と説明を続けた。


“Twitter婚活”という新たな世界を知った柚香は…


「マッチングアプリと違うのは、その人の日常とか考え方とか、人間性の部分が浮き彫りになりやすいところ。アプリだと相手に良く見られようとして気取っちゃうけど、Twitterはもっと手軽に、思ったことをいつでもつぶやけるから」

私は「なるほど」と、深くうなずく。

「それに、相手のアカウントの“いいね”欄を見れば、思想や趣味嗜好なんかも垣間見ることができるし」

小百合は「ほら」と言いながら、適当なアカウントのいいね欄を見せてくる。

たしかに、マッチングアプリよりもTwitter婚活のほうが、会う前と会った後のイメージのギャップは少ないのかもしれない。

「実際の成功体験もあるし……私もTwitter婚活、やってみようかな」

新たな出会いへの期待感を胸に、残り少ないカフェオレを一気に飲み干した。




その日の夜、私はいくつかの婚活アカウントを参考に見て回り、早速Twitterアカウントを開設した。

アカウント名は『yuzuka@婚活垢』。写真は、ヘアサロンに行った日の後ろ姿を添付した。

マッチングアプリと違い、Twitterでは顔写真を掲載する人は少ない。私もそれに倣う形にしたが、せめて雰囲気だけは伝えられればと思ってのことだ。

次のステップは、自分のスペックをまとめた簡単なプロフィールを投稿し、そのツイートをトップに固定するようだ。早速、私もマネてプロフィールを作成する。

「性別:女」「年齢:28」「住所:都内」「学歴:大卒」「身長:160」「体型:痩せ型」「趣味:料理」「好きなタイプ:一緒にいて楽しい人」

そして、そのツイートにハッシュタグ「#Twitter婚活 #婚活垢 #婚活垢さんと繋がりたい」をつけて投稿した。

一旦これで様子をみてみようと、この日はプロフィール投稿だけにとどめて、Twitterの画面を閉じた。



翌朝。眠い目をこすりながらスマホを開くと、Twitterの通知がずらりと並んでいた。

― すごい!“いいね”が100件以上きてる。DMもいっぱい届いてる!

喜びから、スマホを持つ手が小刻みに震えた。もともと、何げない自分の日常をつぶやく別のアカウントを持ってはいるが、いいね数はせいぜい3〜5程度。ツイートにいいねがつかない日なんてざらにある。

こんなに多くのアクションをもらえるなんて…想像もつかなかった。

― もっともっと、いいね数を伸ばしたい!

“いいね”をたくさんもらうことへの快感を覚えた私は、それから毎日、婚活垢で投稿するようになった。

料理が趣味というのをアピールして、ビーフシチューやアクアパッツァなどの手作り料理を載せたり、愛用のDior、YSLなどのコスメを紹介したり。全身のコーディネート写真を載せたりもした。

しかし、プロフィール以降のツイートはあまりいいね数が伸びない。フォロワーも1週間で50人ほど増えたが、そこでストップしてしまった。

そして、最も大きな問題は…DMでやりとりをしている婚活男子が、どうもしっくりこないことだ。

プロフィールは申し分なく、ツイートも面白い。でも写真を交換すると、タイプではなくガッカリしてしまうことが多いのだ。こればかりは、仕方のないことなのだが。

こういった男性に共通するのは、フォロワー数の少なさ。

そこで、フォロワー数が4桁台と人気の男性婚活アカウントを見てみると、アイコンの写真の雰囲気、プロフィールの見せ方、日常的につぶやく内容、すべてにおいてハイスぺ感が漂い、自信がみなぎっていた。

フォロワー数が多いということは、女性から見て魅力的な要素が多いことの裏返しでもある。きっといい男に違いないと思った。

しかし、人気の男性婚活アカウントをフォローしても、フォローバックされないことがほとんど。フォローを返してもらえたとしても、DMの返事はもらえなかったりする。

人気の男性婚活アカウントは、フォロワー数の多い人気の女性婚活アカウントばかりフォローしているのが現実だ。

「お前程度のフォロワー数じゃ、俺と釣り合わない」と言われている気がして、なんだか悔しかった。

― フォロワー数を伸ばしたら、もっといい男性とマッチングできるかもしれない……。

そう思った私は、人気の女性婚活アカウントや、恋愛に関する発信をして1万人以上のフォロワーを持つ“アルファアカウント”を、片っ端からフォローした。そして、彼女たちのツイートから、多くの人に見てもらうためのコツを探る。

― なるほど。すでにバズってる恋愛ネタツイートに、引用リツイートで便乗してコメントするのがいいのね。Twitterのトレンドに入ってる男女絡みのワードを、積極的にツイートするのも効果ありそう!

早速、得た知識を取り入れながらツイートをしていく。


ツイート内容は次第に過激さを増し、ついには…


『高級コスメブランドのコットンもらうくらいなら、スタバカードのほうが100倍マシです(笑)』

『別におごってくれなくてもいいけど、初デートで割り勘だったら2回目はなし!』

こうした恋愛やデートがテーマの、SNSでよく見る論争に首を突っ込んだり。

『返信が遅いと、「お〜い」って送ってくる男。都市伝説かと思ってたけど、実在しててびっくり!』

『初デートは高級寿司だったのに、2回目のアポでチェーン居酒屋とは…(笑)気を抜くのが早過ぎでは? 付き合って数ヶ月経ったら、毎回ファミレス連れて行かれそう』

と、自分自身のリアルな婚活事情を、LINEスクショや現場の写真付きで投稿するようにもなった。

その後も、どんどんツイート内容はエスカレートしていき……。

『有名婚活垢の“ヨシロー”ってやつ。ツイートからモラ夫気質がにじみ出ててキツい』

ついには人気の男性婚活アカウントを名指しで批判するという、本来の目的を無視した炎上ツイートまでもするように。

そして、そのツイートに対する批判派・擁護派を自分のリプライ欄で論争させるなどし、着実に“いいね数”と“フォロワー数”を伸ばしていった。

そのかいあってか、半年でフォロワー数は5,000人超え。ツイートをすれば、あっという間に100以上のいいねがつくようになった。

さらには、私のどんな発言にも『yuzukaさん最高です!』『yuzukaさんのツイートは私のバイブルです!』などと反応し、信者のようになる子まで現れた。

しかし一方で、そんな過激な発言を繰り返すアカウントに好意的な連絡をしてくる婚活男子などいるはずもなく、Twitter婚活そのものは数ヶ月前から頓挫していた。

だが、それでも私は構わなかった。Twitterの向こうで、何千人ものフォロワーが私のツイートを楽しみにしてくれている。その事実が嬉しかった。

― 婚活は、マッチングアプリでやればいっか。

Twitter婚活垢としての運用はやめ、自分の言いたいことを発散する過激アカウントへ切り替えようと思っていた矢先、思いがけないDMが届く。




珍しくまともなメッセージが届いたので、少々面食らった。

― こんな、バズり狙いのツイートばかりしている私に興味を持ったって…? 正気?

相手のアカウントを覗きにいく。

「年齢:30歳」「職業:外資系コンサル」「住まい:赤坂」「趣味:温泉旅行」

顔はハッキリ出ていなかったが、全体的な雰囲気はとても良さそうだった。

ツイートに載せている店は予約の取れない有名店ばかりで、自宅とおぼしき部屋のインテリアもオシャレ。窓の外の景色から察するに、タワーマンションの高層階に住んでいるのだろう。ただ、フォロワー数は15人ほどと少なめだ。

いかにもなハイスぺ男子がなぜ私に?との疑問は拭えなかった。が、「ハイスペ風婚活男に会ってみたら、ここがダメだった」みたいなネタは、フォロワーたちが好むに違いなかった。

― フォロワーは少ないけど、連絡は取ってみようかな。

私はDMを承認し、メッセージを返した。

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