ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。

それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。

あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―?

◆これまでのあらすじ

無事に結婚式を終えた春乃と将暉。念願の新婚生活がスタートして、春乃は、期待に胸を躍らせていたが…。

▶前回:「これって一種のパワハラ!?」結婚式当日に、花嫁が義母に言われた恐ろしい言葉とは




Vol.4 新居に突然の来訪者


結婚式から1週間後、4月の土曜日。

ヨガのオンラインクラスに参加し終えた私は、コーヒーを飲みながら、将暉とリビングのソファでくつろいでいる。

私たちの新居は、もとは彼が1人で暮らしていた彼の父親名義の池尻大橋の1LDKのマンションだ。

家賃を支払うと将暉の父親に申し出たのだが、「水臭いことを言わないでほしい」と固辞されたので、タダで住ませてもらっている。

将暉の母親であるサチ子から、結婚前の同棲を反対されたため、一緒に住み始めたのは、結婚式が終わってからだ。

「今日の昼ごはんは、俺がパスタを作るよ!」

「えー!嬉しい。じゃあ私は、サラダを作ろうかな…」

私は、彼と2人でキッチンに行き、料理を作る準備を始めた。

― これぞまさに夢に描いていた新婚生活♡

なんて浮かれていたとき、来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。

『ピーンポーン、ピーンポーン』

私が、インターホンの受話器を取ると、モニターにサングラスをカチューシャにしたカジュアルな装いの女が、映し出された。

義母のサチ子だ…。

― 連絡もなしで、突然何の用?しかも、下のオートロック通り抜けて、なんで部屋の前にいるの?

サチ子の突然の来訪に、驚きを通りこして恐怖を感じながら、玄関の扉を開けに行く。


新婚生活の邪魔をしにきたサチ子から、驚きの提案をされ春乃は…


「春乃さん、こんにちは〜」

サチ子がやけにハイテンションで声をかけてくる。

「お、お義母さま、どうされたんですか?」

「お昼ごはんの差し入れを持ってきたのよ。今日は家にいる予定だって、まあくんが言ってたから。私って、気が利くでしょ!?」

そう言い放った彼女は、シャネルのバレエシューズを脱ぐと、ズカズカとバスルームに手を洗いに行った。

その隙に、将暉にサチ子が来ることを知っていたのか尋ねる。

彼は「何も知らなかったけど、昼飯作らなくてすんだからラッキー」とのん気な様子だ。

手を洗い終えたサチ子は、キッチンへ向かい、食器棚から私が購入したル・クルーゼの皿を勝手に取り出し、持参したサンドイッチを並べはじめた。

そして、バルミューダのケトルで、お湯を沸かし紅茶を入れている。

てきぱきと動く彼女を、ただただ呆然と見つめていた私は、ダイニングの席に着くように促された。

「ほら、将暉も春乃さんも座って。いただきましょ!」

3人でテーブルを囲み、『まい泉』のヒレかつサンドとエビかつサンドを食べることになった。

― もう、なんでこうなるのよ…!

結婚式が終わり、久しぶりに2人でゆっくり過ごせる週末を楽しみにしていた私は、とんだ邪魔が入り、絶望した。




先週の披露宴の写真をスマホで将暉に見せて、はしゃいでいたサチ子だったが、突然顔をあげて言った。

「そうだ、次の週末は、3人で京都に行きましょう」

― まるで、テレビのコマーシャルみたい…。

私は、心の中で突っ込みを入れる。

聞けば彼女は、大の京都好き。四条烏丸エリアに、彼の父親が購入したマンションがあるので、頻繁に通っているという。

「結婚式が終わったばかりだし、仕事も忙しいから、次の週末は家でゆっくりしたいかな」

彼がやんわりと断ってくれたことに、私は、心の中でガッツポーズする。

「じゃあ、ゴールデンウィークはどうかしら?」

まったく諦める気配がない彼女。

― 結婚式が終われば、解放されると思ってたのに……。

私は内心イラ立ったが、ある作戦を決行しようと思い立つ。

「お義母さま、このご時世ですし、遠出は控えた方がいいかと。

代わりに、私と2人で銀座にでも行きませんか?一緒に行きたいレストランがあるんです!」

「あら、嬉しい!じゃあ銀座に行きましょう。春乃さんって、思ってたより気が利くのね〜。見直したわ」

私の提案を、上機嫌で快諾したサチ子。

「じゃあ、連絡待ってるわね」と言い、満足したような様子で帰って行った。


春乃が自らサチ子を銀座に誘ったワケとは…?


正直、サチ子と接するのは、心底気が重い。2人で銀座なんでまっぴらだ。披露宴直後に彼女から言われた言葉もずっと胸に引っかかっている。

子離れできていないサチ子の言動はもちろんだが、それを受け入れる将暉にも違和感を抱いていた。

将暉と私とサチ子――。

どうすれば円満な関係を築くことができるのか、結婚前から考えていた。

将暉に相談しようと思ったこともあったが、「夫に姑のことを相談するなんて無意味だし、少しでも悪口など言った日には、関係が悪化するだけだ」という既婚の友人からのアドバイスを思い出し、とどまった。

だから、将暉との結婚生活を守るためにも、サチ子問題に関しては、自分で解決しようと決めている。

― サチ子から逃げていても何も解決しない。結婚もしたし、早めにこの問題を解決するのが大事よね……。

作戦の第1弾は、「相手を知ること」。銀座に自分から誘ったのは、そのためだった。




その日の夕方、私は、将暉ととともに家の近くにある『コスタ・ラティーナ』を訪れていた。

一軒家の外壁のイグアナがトレードマークのアルゼンチンレストランだ。

骨つき牛リブとハラミのバーベキューをいただいて、サチ子に奪われたパワーをチャージした私は、彼に問いかける。

「ねえ、お義母さまって、前から家によく来てたの?」

「たまに来てたけど、来るときは必ず事前に連絡くれてたからさ。今日は、どうしちゃったんだろう?って、驚いたよ」

彼の言葉に嘘はなさそうだ。

― よかった。サチ子ってそこまで過干渉じゃないのね。今だけってことなら。

「もしかして母さん、俺が結婚して急に寂しくなったのかもな。考えたら父さんは、仕事人間で、出かけるのがあまり好きじゃないから、母さんが誘っても、いつも『きなこと留守番してる』って、断るしさ」

“きなこ”は、彼の実家で飼っているどこかサチ子に似た茶色のヨークシャー・テリアだ。

― 寂しいって言ったって、将暉が結婚する前からその生活なんだから。

彼女の言動は、寂しさだけが起因しているとは思えなかった。

「だから春乃が、銀座のレストランに行こうって誘ってくれて、本当に嬉しかった。これからできるだけ週末は、実家に顔を出したり、母さんと一緒に出かけたりしてくれるかな?」

「……」

将暉の問いかけに、私はすぐに返答できなかった。

もちろん結婚したからには、自分の親と同じくらい大切にしたいと思う。

ただ、サチ子のことだ。近づきすぎると、新婚旅行にまでついていきたいとか、同居したいとか言い出しかねない。

万一の事態に備えて、私は先手を打つことにした。

「わかった!でも、これだけは約束して。新婚旅行は、絶対に2人だけで行くって」

新婚旅行は、お互いの仕事の休みが合う6月に行くことになっている。

「そんなの当たり前だろ!?どこに行こうか?遠出は難しいから、春乃が行きたがってた箱根の『強羅花壇』にする?車で行けるし」

「いいね!」

彼の言葉に、私は安堵する。

そのとき、私のスマホにLINEが入った。

送り主はサチ子で、「初鰹♡ 」というメッセージに、夕食に作ったとみられるカツオのタタキの写真が添えられている。銀座に一緒にいくことになったので、昼間にLINE交換したら、早速これだ。

これからも、なんて返信すればよいかわからない“実況中継LINE”が頻繁にくるかもしれないと思うと、身震いがした。

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次週、春乃とサチ子は、銀座でタイマンを張る…!?