「どちらの大学のご出身?」彼氏の母親からのマウンティングに女は…
明治。青山学院。立教。中央。法政。そして、学習院。
通称、「GMARCH(ジーマーチ)」。
学生の上位15%しか入ることのできない難関校であるはずが、国立や早慶の影に隠れて”微妙”な評価をされてしまいがちだ。
特に女性は、就活では”並”、婚活では”高学歴”とされ、その振れ幅に悩まされることも…。
そんなGMARCHな女たちの、微妙な立ち位置。
等身大の葛藤に、あなたもきっと共感するはず。
File7. 奈緒、明治大学。順風満帆な明治女子だったが…
28歳の誕生日、奈緒はアマン東京の『アルヴァ』にいた。
目の前には、ティファニーのエンゲージリングが光り輝いている。
「奈緒、結婚しよう」
「はい。喜んで!」
彼氏の雅弘から正式にプロポーズを受け、奈緒は幸せの絶頂にいた。
「今度、実家に来てくれないかな?うちの両親が、ぜひ奈緒に会いたいって言っているんだ」
「もちろん!でも、私、大丈夫かしら…」
「大丈夫だよ。いつも通りの奈緒でいいんだから」
― 雅弘、ご両親に私のことを話していてくれてたんだ…。
会社の同期でもある雅弘とは2年にわたり交際しており、年齢的にも結婚を考えていたことは、暗黙の了解だった。
雅弘から正式にプロポーズを受けて、さらに親にも奈緒の存在をすでに話してくれているということを知り、奈緒は改めて幸せをかみしめていた。
― 私は明治大学を卒業して、大手企業に勤めている。女性として経歴も申し分ないし、きっと彼のお母さんともうまくやっていけるはず!
こう信じて疑わない奈緒だった。
奈緒は、明治大学在学中は勉強やサークル活動、そしてバイトと充実した毎日を送り、きっちりと大手メーカーへの内定を決めて入社した。
そして、その会社で出会った雅弘と交際に発展。仕事でも着実に成果を上げていた。
そんな「何でもそつなくこなす優等生」の奈緒は、自分の人生にある程度満足し、自信を持っている。
しかし、この日を境に“ある問題”に巻き込まれるなど、この時の奈緒は夢にも思わなかったのだった。
順風満帆な奈緒。義理の両親のもとへご挨拶に行くが…?
この人が、未来の姑…?
両家の顔合わせを前に、まずは雅弘の両親にご挨拶をすることになった奈緒。
そんな奈緒のスマホに、3歳上ですでに結婚している姉からLINEが届いた。
『あちらのご両親にご挨拶に行く時は、服はベージュや白や黒のベーシックカラーを選ぶのよ。原色は禁止!メイクもネイルも地味にね。そうそう、ブランドバッグなんて絶対に持って行っちゃダメよ!』
『ありがとう。大丈夫!お姉ちゃん、私もそれくらいわかっているから!』
― 初対面だし、とにかく控えめにしていかないと。あ、手土産は何がいいかなぁ。雅弘に、お父さまとお母さまの好みを聞いておこうっと。
こうしてあれこれ思い悩む時間も、奈緒にとって幸せな時間だった。
◆
当日。
雅弘の実家は、杉並区の井の頭線沿線の閑静な住宅地にある。
「あら、あなたが奈緒さんね!はじめまして、雅弘の母です」
雅弘の母親は、とてもにこやかに出迎えてくれた。
ある銀行の本部長を務めているという父親も、雅弘から聞いていた通りとても穏やかで、自分が歓迎されていることに奈緒は心底安心するのだった。
話題は出会いや会社のこと、雅弘の幼少の頃などで、初めての顔合わせの場はとても盛り上がり、奈緒の緊張も解け始めた。
― 雅弘のご両親、いい人たちでよかった…!
義父母との初対面をうまく乗り切った。
そう思ったとき、奈緒の心をざわつかせる“ある話”を、雅弘の母親が切り出すのだった。
「ところで奈緒さんは、どちらの大学のご出身?」
「はい、明治大学の政治経済学部を卒業しました」
奈緒は、いつも通り自信を持って答える。
GMARCHでも頭一つ抜けた存在の明治大学。そのなかでも、政治経済学部は看板学部である。
このようなやり取りでは、いつも明治出身であることを褒めてもらっているので、今日も絶対にそうだと思っていた。
しかし、雅弘の母親から出た言葉はこうだった。
「あら、明治大学のご出身なのね。昔、私も大学受験で明治に合格したけれど、日本女子大に行ったの」
「えっ?」
奈緒は思わずこう口を出てしまい、慌てて「そうだったんですね」と付け加える。
しかし、頭の中は疑問でいっぱいになってしまっていた。
雅弘の母親から、マウンティング攻撃が始まる…
これって、マウンティング…?
雅弘の実家を後にし、奈緒は最寄りの井の頭線の駅にいた。
本来であれば義父母に無事、ご挨拶できたことにホッとしているはず。しかし、奈緒の頭の中は疑問でいっぱいのままだった。
― 明治を蹴って日本女子大に行く理由って…。一体、なぜだろう?
何とも言えない気持ちを抱えながら、帰宅した奈緒。
「おかえり!あちらのご両親にきちんとご挨拶できた?どんなご様子だった?」
今回、奈緒の両親は同席しなかった。だから、ご挨拶の1週間ほど前から、奈緒の母親は落ち着かない様子で娘のことを心配していたのだ。
「うん、ちゃんとご挨拶できたよ!雅弘のご両親もとてもいい方だったし。ただ…」
どこか浮かない様子の奈緒を見て、母親が見逃すはずがない。
「『ただ…?』って、何かあったの?もしかして、ひどいことでも言われたの?」
「そういうのじゃないの。ただ、雅弘のお母さまに大学を聞かれたから、明治って答えたの。そうしたら『明治大学なのね。私も受かったけど、日本女子大に行ったの』って言われて、何で、雅弘のお母さまは本女なのかなぁって」
― お母さんもきっと不思議がるはずだわ…。
そう思って母親に話した奈緒だが、回答は意外なものだった。
「何だ、そのことで浮かない顔していたの。まぁ、昔は迷わず本女に行った子も多かったわね。
今の子はやっぱり明大を選ぶけど、昔は明治って男の子が行く大学というイメージで『女の子が行く大学としてどう思われるか』というのを気にして本女に行く子が、お母さんの時代には多かったのよ。まぁ時代の差よ。気にしない方がいいわ」
母親はこう明るく答えてくれた。
しかし、奈緒の心の片隅には、消えないシミのように雅弘の母親からの言葉が残っていた。
◆
― あぁ、なぜあのときLINEを交換しちゃったんだろう…。
ご挨拶したときに、未来の姑となるであろう雅弘の母親とLINEを交換してしまったことを、奈緒は激しく後悔していた。
案の定、雅弘の母親からは頻繁にLINEが届くようになっていた。
『奈緒さん、高校は〇〇なんですってね!私は小学校から田園調布雙葉なの。同じ沿線だったのね』
『奈緒さんのご実家は、市は横浜じゃなくて川崎になるのかしら?私は横浜にずっと住んでいたのよ。何だか嬉しいわ』
― 雅弘のお母さま、絶対、私にマウンティングしてるに違いないわ…。
LINEには、奈緒の高校や住まいを尋ねながらも、雅弘の母自身の経歴を出しては『自分の方が奈緒より上』と言いたいのだろうと思える言葉がちりばめられていた。
早くも発生した、プレ嫁姑問題。
― 私、このまま雅弘と結婚して大丈夫なのかしら…。
雅弘とのデートも、どこかで雅弘の母親の顔がちらつくようになってきて、楽しめなくなっていた。
◆
1ヶ月後。
雅弘の父親がお誕生日ということで、再び自宅に招かれ、一緒にお祝いをすることになった。
「お父さん、奈緒さんは〇〇高校なんですって。私の母校の田雙と同じ沿線よ。私は同級生との集まりで、まだ母校のあたりへ行くこともあるけれど、奈緒さんは?」
― いや…。私は普通の公立高校出身だし!集まるといっても、学校の近くじゃなくてアクセスのいい駅で居酒屋とかだし。何て答えようかしら…。
内心こう思いつつも「えぇ、時々は…」と、言葉を濁す奈緒。
「ねぇ、お父さん。奈緒さんは川崎のご出身で…」「奈緒さんは…」
奈緒の困惑など意に介さない様子で、LINEで入手した情報を会話に出してくる雅弘の母親。
そして最後に、あの話題を出してきた。
「日本女子大、とてもいい大学だったの。うちには娘がいないけれど、もし娘が産まれたら、田雙でもいいけれど本女もぜひ付属から通わせたかったわ」
― お母さま、私が明治なのがよっぽど気に食わないのかな。それとも、雅弘と結婚してもし娘が産まれたら、田園調布雙葉か日本女子大付属に入れろって暗に言っているの…?
そのとき、奈緒の隣に座っていた雅弘が、笑いながらこう言った。
「あのさ、お母さん。さっきから結局、自分の話ばかりしているよね?そんなこと話されても奈緒は困るよ。それに、大学のことも昔と今じゃ時代が違うんだからさ…。
だいたい、今日はお父さんの誕生日のお祝いなんだから、俺はお父さんの話をもっと聞きたいよ」
― えっ…。雅弘、お母さまにそんなこと言って、大丈夫なの?
奈緒は心配になったが、雅弘の母親はあっけらかんとこう言った。
「別にそんなつもりじゃなかったのよ…。さぁ、もっと食べて!」
雅弘は、奈緒が色々と困惑していることを察していたのだろう。
だからこそ、この場で母親をやんわりと諫めることで、奈緒の不安を和らげようとしてくれたのだ。
― やっぱり、雅弘と結婚したい。この人となら、うまくやっていけるはず!
そう思いながら、雅弘の隣で安堵する奈緒であった。
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