マウンティング。

本来は動物が「相手よりも自分が優位であること」を示そうとする行為のことを言う。

しかし最近、残念ながら人間界にもマウンティングが蔓延っているのだ。

それらを制裁すべく現れたのが、財閥の創業一族で現在はIT関連会社を経営する、一条元(はじめ)。通称・ジェームズだ。

マウンティング・ポリスとも呼ばれる彼が、今日戦う相手とは…?

▶前回:未婚の37歳友人に「結婚してなくて可哀想」と言い放つ女。しかし、実は夫と…




「ジェームズ、この前のことで少し話があるんだけど…」

日曜12時。澪から呼び出された僕は、近所にある『オー バカナル 紀尾井町』のテラス席にいた。目の前には、澪とともに1人の可愛らしい女性が座っている。

「初めまして、まひろです。すみません、お休みの日にお呼び立てしてしまって」

そう丁寧な日本語を話すまひろは、白のふわっとしたセーターがよく似合っていて、透明感のある美女だった。

「実は、この前ジェームズさんが、澪さんのマウンティング相手を制裁したと伺いまして…」
「いやいや!別に制裁というほどでは」

自分の中で制裁したつもりはなかった。けれど、まひろは必死な様子でこう懇願してきたのだ。

「私も、ジェームズさんに助けてほしいんです!自分1人ではもう、どうやって対応したらいいのかわからなくって」

…最初は、僕も興味がなかった。

でも彼女の話を聞いていると、あまりにも理不尽なエピソードばかりが飛び出してきて、どうにかしてあげたくなってしまったのだ。


まひろが苦しんでいたマウンティングとは?


Case1:“モテ力”マウンティングをしてくる女


「あれは、食事会後のことだったんですけど…」

まひろの話によると、マウンティングの内容はこんな感じだった。



マウンティング女の名は、菜穂(25)。まひろの会社の同期であり、お互い独身の彼氏ナシ。食事会などがあると一緒に参加する仲だという。

菜穂は顔がハッキリしている黒髪ロングヘアの美人で、性格は自称サバサバ系。幹事力が高く、頻繁に食事会を開催して出会いを探す、アグレッシブガールだそうだ。

まひろが、菜穂の食事会で恩恵を受けていたことは間違いない。

でも毎回、気になることがあるという。

「ねぇ、まひろ。康平くんから個別に連絡来た?」
「うん。LINEが届いてたよ」
「えっ、そうなの?何て来た?」

毎回菜穂は食事会の後、誰から連絡が来たのか細かく聞いてくる。最初はまひろも素直に報告していたけれど、ふと“あること”に気がついたそうだ。

「私は康平くんと、あと龍太郎さんからも連絡が来たんだけど…。正直、困ってるんだよね。同じグループで、手を出していいのは1人までっていうルールがあるじゃない?」

困っているはずなのに、どこか菜穂は嬉しそうだったらしい。

「うん、そうだね」
「2人とも個別で『またご飯行こう』って誘ってくるから、悩んじゃって」
「さすが菜穂、モテるね」

ちなみにその会は、菜穂とまひろ。そして康平と龍太郎という男性2名の、計4名での食事会だったそうだ。

「あれっ、まひろは?龍太郎さんからは連絡なし?」
「グループLINEだけだよ。なぜかインスタのフォローリクエストは来てたけど…」
「DM?なんかダサいね。ちなみに康平くんは何て言ってたの?」
「えっと…。『次は2人で会いましょう』みたいな感じだったかな」

一応、まひろなりにメッセージの内容はボカして伝えたつもりだった。しかしこの言葉を聞いた途端、菜穂はこんなことを言い出したという。

「2人で会うの?思ってたんだけど、康平くんってちょっと微妙じゃない?そんなに稼いでなさそうだし。…まぁでも、まひろは“そういう感じの人”のほうがいいのか」




男性がまひろへ個別にメッセージを送っていたと知ると、途端にその人をけなしてくることに、気づいてしまったそうだ。

その一方で、食事会が終わると必ず「〇〇くんから個別にLINEが来て、食事に誘われちゃって…」と言ってくるという。

「まひろといるとバッティングしなくていいわ〜。ごめんね、毎回」

食事会をセッティングし、まひろを呼んでいるのは菜穂自身だ。それなのに自分よりモテたり、そこにいた人とまひろがうまくいくのは許せないらしい。

「この前さ、一緒に食事した高橋さん覚えてる?またご飯に行こうってしつこくてさ…。あれ?まひろは誘われてない?」
「高橋さんからは、別に何も…」

高橋さんとは、以前の食事会で出会った30代の経営者だそうだ。

「そっかあ。…彼の家、白金の豪邸らしいよ!今度ホムパしようって言われたんだけど、まひろも行く?でも私にだけ連絡が来たってことは、まひろは高橋さん的にハマらなかったのかな」



ここまで話し終えると、まひろはふぅっと息を吐いた。

「…という感じなんです」

一度や二度なら我慢できる。でも毎回繰り広げられるこの“モテ力”マウンティングに、まひろは辟易しているという。

そして結局、またしても僕は女性同士のいざこざに首を突っ込んでしまったのだ。

なぜなら話を聞いている限り、菜穂とまひろのどちらがモテているのかは明白だったから…。


“モテる”と勘違いしている女の悲劇。実際の男ゴコロとは…?


デート相手ではなく、食事会要員としてモテていた女


その翌週末。僕は友人である高橋くんの自宅にいた。

プラチナ通りに面するタワーマンションの、28階にある彼の部屋は、かなり居心地がいい。僕は呑気に彼がいれてくれたオーガニックグリーンティーを飲みながら、くつろいでいた。

「ジェームズ、急に女の子と飲もうってどういう風の吹き回し?」
「まぁまぁ。人助けだと思って、ちょっとだけ協力してよ」

実は高橋くんとは、2〜3年ほど前からの知り合いなのだ。若手経営者仲間が立ち上げたグルメ会で一緒になり、それ以降なんとなく交流が続いている。

そのとき、部屋のインターホンが鳴った。彼が玄関へ向かうと、驚いたような声が聞こえてくる。

「いらっしゃい!…って、あれ?」

僕が呼んだのは、菜穂だったのだ。




「お邪魔します!」
「えっ、菜穂ちゃんだけ?」
「はい!高橋さんが私と飲みたがってると聞いて、お邪魔しちゃいました♡」

高橋くんの素敵な部屋を見て、菜穂はさらにテンションが上がっているようだ。しかしその一方で、彼はなぜだか困ったような顔をしている。

「今日は1人なの?…まひろちゃんとかは、来ないのかな?」
「え?まひろですか?」

菜穂の顔が、みるみるうちに険しくなる。

「まひろは来ませんよ。今日は1人です」

その言葉に、あからさまにガッカリしている高橋くん。そんな彼の態度に、菜穂もさすがに何か気づいたようだった。

「…誰か呼んだ方がいいですか?」
「もし呼べるならぜひ!」

すると急に、高橋くんの顔がパァッと明るくなった。その後慌てて弁明しようとするけれど、かえって墓穴を掘っている。

「あ、いや…。ごめん。正直に言うと、菜穂ちゃんの周りって可愛い子が多いでしょ?だから彼女たちを呼んでほしくて」

菜穂の顔が、一瞬にして引きつる。

「え?」
「ごめん!!女の子は菜穂ちゃん1人だから、みんなで飲みたいなぁと思ってさ」

要約すると、こうだ。結局のところ、菜穂はただの“幹事”でしかなかった。

可愛い子が周りに多く、フットワークも軽い。そんな彼女に、男から連絡する理由はただ1つ。デート相手としてではなく、“食事会をセッティングしてくれる人”として連絡していただけ…。

「高橋くん的に、その会で誰かいいなと思った子はいたの?」
「僕はまひろちゃんかな。でも可愛いし、彼氏がいそうだなと思ってなかなか連絡できなくて。だからインスタだけフォローした(笑)」
「なんだよそれ!連絡すればいいじゃん」

うっかり2人で盛り上がってしまったが、そんな様子を菜穂は呆然と見つめていた。

▶前回:未婚の37歳友人に「結婚してなくて可哀想」と言い放つ女。しかし、実は夫と…

▶NEXT:2月8日 火曜更新予定
“東京生まれ、東京育ち”であることをマウンティングしてくる女