「これってパワハラ!?」結婚式当日に、姑に言われた恐ろしい一言
高学歴・高収入で、性格もよい男性を捕まえることができたから、幸せ……。
そんなことを言っていられるのは、“婚姻届を出すまで”かもしれない。
ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。
それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。
これは、最愛の夫・将暉(30)と結婚した春乃(29)が、強烈な個性を放つ義母・サチ子と対峙していくストーリーだ。
◆これまでのあらすじ
彼の母親のサチ子が、勝手に結婚式会場を予約していたことに、困惑した春乃。結婚の破談を恐れて、彼女の要望を受け入れることにしたが…。
▶前回:「ついに玉の輿」と喜んでいたのも束の間。ハイスペ男との結婚にありがちな問題に悩まされ…
Vol.3 姑の願いを叶えるための結婚式!?
将暉の両親に初めて会ってから1ヶ月後。
先週末に結納を交わした私たちは、結婚式と披露宴の衣装合わせのために、明治記念館を訪れていた。
もちろん、将暉の母親のサチ子も一緒だ。彼女は、張り切ってついてきている。
「まあくん、本当に素敵〜!どの色も似合うから、迷っちゃうわね〜」
試着室からでてきた黒のタキシード姿の将暉を見たサチ子が、歓声をあげた。
「春乃さんは、何色がいいと思った?」
「黒がいいと思います!」
私が答えると、すぐさまサチ子が口を開く。
「えー!黒だと、袴と同じになっちゃうじゃない。さっき着た白にしましょう」
サチ子たっての希望で、結婚式は神前式のため、彼は、結婚式と披露宴の序盤では袴を、お色直しでは、タキシードを着ることになっている。
― もう、だったら最初から聞かないでよ…。
うんざりしていることはおくびにも出さず、私は、笑顔で答える。
「おっしゃる通りですね。白にしましょう」
私の言葉に、満足げにうなずく彼女。
その姿を見た私は、返答が“はい”か“YES”しか許されないなんて、まるで彼女と私は、ブラック企業のパワハラ上司と部下みたいと、心の中で突っ込んでいた。
自分の結婚式なのに、希望が通らない!?まさかの、事態に直面した春乃は…
将暉の衣装を選び終えたタイミングで、私は、彼に作戦決行の合図を送る。
『ラウンジ kinkei』のアフタヌーンティーに、彼がサチ子を連れていく。その間に、私が1人で自分の衣装を選ぶという作戦を立てたのだ。
サチ子が、私たちに確認もせず、結婚式会場を勝手に予約していたことを知ったとき、結婚を破談にしたくなくて、その場では無理やり受け入れた。
だが、彼女が勝手に決めたことに納得がいかなかった私は、帰り道で、彼に思いの丈をぶつけた。
彼もサチ子の行動が、強引だと思うとは言っていた。「でも、一生に1度の晴れ舞台だから、母さんの願いを叶えてやりたい 」と将暉に懇願されて、私は、承知したのだ。和装もドレスも自分が着る衣装は、すべて私が決めることを条件に。
「春乃が衣装選んでいるあいだ、俺と2人でアフタヌーンティーに行かない?予約しておいたんだ」
「あら、さすがまあくん!気がきくわね〜」
彼の誘いにサチ子は、大はしゃぎだ。試着スペースから出て、ラウンジに向かう2人を見送り、私は、ホッと一息ついた。
早速、スタッフと衣装の打ち合わせを開始した。
「ウエディングドレスは、持ち込みにしたいなと思っています。なので、今日は、挙式用の白無垢と披露宴序盤用の色打掛を決めたいです」
昔から憧れていたヴェラ・ウォンのドレスをお色直しで着ることに決めていた私は、スタッフに伝える。
「では、合計3着お召しになる予定で、そのうちの白無垢と色打掛の2着をここでレンタルするということでよろしいですね」
「はい。レンタルは、2着でお願いします」
数ある衣装のなかから、まずは、一目見て気に入った松と鶴柄の白無垢をさっそく試着してみた。実際着てみても、上品な雰囲気が素敵で即決した。
その後、計5着の色打掛を試着した私は、悩んだ末、黒地に色鮮やかな牡丹柄が刺繍してあるものを選んだ。
「高級感がありますよね、赤や金の刺繍がゴージャスですし。ヘアは洋髪にして、柄に合わせた大振りの生花を飾るのも素敵ですよ」というスタッフのアドバイスも決め手になった。
衣装を決めたあと、ソファに座り衣装に合わせるヘアカタログを眺めていた。
― スタッフの方も言っていたけど、和装のときも、髪は洋髪のアップスタイルにして、生花を飾ろう。
ワクワクしながらカタログを見ていると…「春乃さん!」と自分を呼ぶ声がした。顔を上げると、なんと目の前にサチ子が、1人で立っている。
― え、なんで?先に2人で帰るようにと将暉に伝えておいたのに…。
驚く私にサチ子は、ニッコリと微笑んで言った。
「春乃さん、どんなお衣装にしたのか、教えてくださらない?」
私は、恐る恐る選んだ衣装を着用している自分の写真を、スマホで見せる。すると突然、彼女が厳しい口調でまくし立ててきた。
「白無垢とドレスはこれでいいけど、色打掛は黒なんて縁起が悪いわよ。着るなら、赤にしなさい。
あと、確認だけど、和装のヘアは、文金高島田にするわよね!?白無垢には綿帽子、色打掛には角隠しを合わせるのが伝統よ。角隠しには、『夫に角を隠して、従順な妻になる』っていう意味があるの」
― なんで色打掛の色や、髪型のことまでうるさく言われないといけないの?私の衣装とヘアメイク代は、私が好きなものを選べるようにって、うちの両親が払うことにしたのに…。
結婚式会場と挙式スタイルという重要な要素は、サチ子の希望を聞き入れている。愛する将暉のためとは言え、好みではない和髪を強いられたことで、私の我慢は、限界に達した。
あえてムッとした表情で、私は、思いを伝える。
「わかりました。色打掛は、選び直します。でも髪型は、和髪も素敵ですが、私の髪だと自前で結うには、長さが足りないですし…。洋髪にしたいです」
「自前で和髪を結う人なんて少ないわ、かつらを被るのよ。それに、素敵とかそういう問題じゃなくて、1番格式が高い髪型が、文金高島田なの!春乃さんって、常識がないのね」
引くつもりが無いことを、全面に押し出してくるサチ子。彼女は、人に抵抗する気力を失くさせる不思議な力を持っている。
サチ子の勢いに圧倒された私は、力なく「わかりました」と答えるしかなかった。
披露宴後に、サチ子が春乃にかけた衝撃の言葉は…
結婚式当日にまさか
4月中旬の土曜日、私たちは、ついに結婚式の日を迎えた。
早朝に目黒区役所の夜間・休日受付に婚姻届を提出し、昼過ぎに儀式殿での挙式を終えて、明治記念館の金鶏の間で披露宴を執り行っている。
親族とごく親しい友人のみでの食事会スタイルで、今は、乾杯を終えて、ご歓談に入ったところだ。
「春乃、本当に綺麗だよ」
隣に座る紋付袴姿の将暉が、声をかけてくる。
「ありがとう!将暉と結婚できてしあわせ」
私は、彼と夫婦になれた嬉しさを、心の中でかみ締めていた。
ふと会場を見渡すとクラブのママ風の和髪に、金色の鳳凰が描かれた黒留袖姿のサチ子が、嬉しそうに彼の親戚と話している姿が目に入る。
― 結婚式は、サチ子がほぼ取り仕切ったけど、将暉は親孝行できたって喜んでるし、結果オーライかな…。
結婚式は、親のためにするものっていう人いるし、結果いい式になったので、これでよかったと私は自分を納得させた。
◆
披露宴が滞りなく終了して、招待客を見送ったあと、私の両親が、彼の両親に挨拶をする。
「今日は、本当にありがとうございました。これから娘をよろしくお願いします」
「こちらこそ、ありがとうございました。これからよろしくお願いします」
将暉の父親とサチ子が深々とお辞儀をした。
「それじゃあ、春乃。今日はゆっくり休んでね」
私の母親がそう言うと、父親と妹と一緒に、先に帰っていった。3人の後ろ姿を見ていると、「結婚したんだな」という実感が急に湧いてきた。
「じゃあ、そろそろお着替えしましょうか」
介添のスタッフに促されて、私が、彼と彼の両親と別れて控え室に向かおうとしたとき、サチ子が駆け寄ってきて耳元で囁いた。
「ねえねえ。披露宴で春乃さんの紹介を聞いてる時、恥ずかしくなっちゃったわ。MARCH卒で銀行の支店勤務なんて、まあくんと不釣り合いよ…」
将暉は、開成・一橋卒で、今はメガバンクの本部勤務。それに対して私は、立教卒で信託銀行の支店勤務だ。
彼女の言う通り、不釣り合いなのかもしれない。でも、前からわかっていたことで、今日この場で言ってくるサチ子の気が知れない。
私が黙っていると、彼女は続けた。
「気を悪くしたら、ごめんなさいね。私は表裏がない性格だから。思ったことはその場で口に出さないと気が済まない性分なのよ…」
そう言って、颯爽とサチ子は立ち去っていった。
呆気にとられながら、彼女の後ろ姿を見つめる私。
― 婚姻届を出したということは、あの人と家族になったってことよね…。
その事実を思うと、一瞬身震いがした。
でも、無事結婚式を終えたのだから、きっと彼女と顔を合わせる機会も減って、これからは、将暉と2人で幸せな新婚生活を送れるはず。
そう思い、私は、彼女の言葉を気にしないようにすることにした。
▶前回:「ついに玉の輿」と喜んでいたのも束の間。ハイスペ男との結婚にありがちな問題に悩まされ…
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次週、結婚式が終わればサチ子から解放されると思っていた春乃。その思惑は、外れて…!?