「もしかして更年期?」悩んでいたアラフォー弁護士女が、夫に言われた衝撃の一言
いつの間にかアラフォーになっていた私。
後悔はしていないけど、なにかが違う。
自分とは違う境遇の他人を見て、そう感じることが増えてきた。
キャリアや幸せな結婚を手に入れるために、捨てたのは何だっただろう。
私のこれからって、どうなっていくんだろう。
これは揺れ動き、葛藤するアラフォー女子たちの物語。
▶前回:「アラフォーは待っていても縁談も男も来ない」先輩女子からの痛烈な一言。婚活を決意したが…
「もしかして、更年期?」【前編】
名前:戸田 南
年齢:43歳
職業:弁護士
趣味:ショッピング
仕事終わり、私はいつものように6歳下の夫の雷太にLINEしていた。
3年前に結婚し、子どものいない私たちは、平日の夕方近くになると帰り時間を確認し合っている。
『そうなんだね。じゃあ、今日は僕が何か作って待ってるよ」
私の仕事は弁護士で、恵比寿に個人事務所を開業してから今年で3年目。順調に依頼も増え、毎日が充実している。
仕事に理解のある雷太は、家事にも協力的だ。彼は外資系の製薬会社に勤めていて、出勤は2日に一度。
鷹番の自宅マンションの1室をリモートスペースに作りかえ、在宅の日は一日のほとんどをそこで過ごす。
『ごめん!明日は午後から何も入ってないから私が作るよ』
別に私も家事が嫌いなわけではないし、自宅を美しく整えて生活することは大好き。
しかし、仕事終わりに夫が美味しいアペロを用意して帰りを待っていてくれ、2人でワインを飲む夜は、忙しく仕事をこなす私にとって至福のひとときだ。
『体壊さない程度に頑張って。あとでね』
雷太から届いたLINEに私は思わずニヤけてしまう。
「先生!またご主人とLINEですか〜?ここに頼まれていた資料置いておきますよ」
こうして秘書にからかわれるのも、もう慣れっこだ。
これを言うとただの惚気になってしまうのだが、雷太は背が高く、脚が長いモデル体型。一緒に街を歩いていても、彼を2度見する女は少なからずいる。
そんな彼の隣にいても恥ずかしくないように、私もエステや美容鍼など、見た目維持への投資は惜しまないようにしている。
― 本当に幸せ…。
一日に何度もそう思う。
その一方で、この幸せがいつまで続くのか、突然不安に苛まれることがたびたびあるのも事実だ。
順調に高速道路を走っていた車が横転事故に巻き込まれるかのように、私の生活が暗転したらどうしよう?そんな漠然とした不安が、ふと私を襲うのだ。
素敵な年下旦那との未来に不安を感じる43歳弁護士の悩みとは…
「もし自分にあんな素敵なご主人がいたら、心配で心配で仕方ないと思います…」
また別の資料を一式抱えて入ってきた秘書が、笑いながら言う。
「そう?」
と何も気にしてないようなそぶりで返答した。
でも、本当のところ、私だっていつも心配している。もし私よりもっと若い子に目が行ってしまったら…。私よりもっと若くて綺麗な子から言い寄られていたりしたら…。
私が時々不安にかられる理由はいくつかある。まず夫の容姿が素晴らしすぎること、そして、夫が私より6歳も年下であること。
そして一番大きな理由は、私たちには子どもがいないことだ。
「いつもラブラブですね」とよく言われるし、その通りだと思うけれど、家族になりきれていないのでは?と思う時がある。
子どもが欲しいと思ったことはないし、雷太の口から子どもの話が出てきたこともない。私と雷太の両親からも孫を求められたことも一度もなかった。
夫は1人っ子で、私も1人っ子。夫の実家は広尾にあり、私の実家は祖師谷にある。
もし子どもがいたとしても、優しい両家の親たちが手伝ってくれ、何不自由なく子育てができることはわかっている。それに、私の年を考えたら、子どもを作るなら1日でも早いほうがいいと、結婚当初から自覚はあった。
しかし、結婚とほぼ同じタイミングで事務所を開業し、仕事を軌道に乗せることに必死になっていた私は、子どもについて積極的に考えなくなっていた。
子育て資金は潤沢にあるし、子どもができても何とかなるだろうとは思っていた。
だが、気がつくと私は43歳になっていた。
◆
週末の夜。
「今日は外で何か食べようよ」という雷太の提案で、私たちは夕方からぷらっと外に出た。
学芸大にも美味しいお店はたくさんあるけど、週末に意識的に食べようと思う私の好物がある。
「フカヒレがいいよね?」と、私の思考を先読みする雷太が愛おしい。
「だと嬉しいな」
私は、そう答えて右手を上げ、タクシーを止めた。恵比寿の『筑紫樓』までタクシーを走らせ、簡単な前菜にフカヒレそばと紹興酒をオーダーする日が月に1、2度ある。
3月初旬。まだ肌寒いけれど、風に乗って花の香りが漂ういい季節だ。
「手前で降りて散歩したいな」
私たちは800メートルほど手前でタクシーを降りた。私は雷太の腕を取り、ゆっくりと歩道を歩く。
雷太は自分の会社でこんな薬が発売されるとか、そのためのカンファレンスがどうの、とか仕事の話をしている。
詳しいことはわからないけれど、私は雷太の仕事の話や愚痴を聞くのが割と好きだ。
話しながら歩いていると、向こうから親子連れがベビーカーを押し、こちらに向かってくる。
雷太と同世代の父親が赤ちゃんを乗せたベビーカーを押し、母親が幼稚園児くらいの男の子の手を引いていた。
駄々をこねる男の子をたしなめているように見える。
「あれ?もしかして田波か?」
いきなり雷太が、その家族の父親に声をかけた。
「おー!仕事リモートだから、会うの久しぶりだな」
父親がそう答える。どうやら雷太の同僚らしい。
「お?もしかして噂の弁護士やってる奥さん?」
いきなり矛先が私に向き、「お世話になってます」とあいさつした。彼の妻も、ますますグズる子どもを抱きかかえながら「すいません、うるさくて」と小さく会釈した。
私よりもひと回りくらいは若く、ファッション誌から抜け出てきたかのようなオシャレなママさんファッションだ。
「今、公園で遊んでお茶してきたとこ。またな」
「公園」という馴染みのないワードを耳にしながら、ただニコニコして私は雷太の隣にいた。
彼らと別れ、しばらく歩いて『筑紫楼』までやってきた時。
「子どもなんていたら大変だよね!うち、いなくてよかったね」
そう雷太が言ったのだ。
年下夫の何気ない一言にえぐられる、繊細なアラフォーの心
私は思わず、雷太の腕から手を離し、歩みを止めた。
それは故意にというより、無意識的に。
「それ、本当にそう思ってるの?」
なぜそんなことを聞いてしまったのか、自分でもわからなかった。彼からすれば、何げなく言った一言かもしれないけれど。
本当に子どもいらないの?
私に気を使ってるんじゃないの?
そんな気持ちもあったのかもしれない。
「なに?いきなり。僕、怒られるようなこと言ったかな?」
何かを察した雷太は、申し訳なさそうに私の顔を覗き込んだ。
私の気分が雷太の知らないところで勝手に乱高下したことはわかっている。
だが。
「子どもいなくてよかったね」ってわざわざ私に言う必要あった?という気持ちが否めないのだ。
「雷太…もしかして子ども、欲しいんじゃない?今まで話したことなかったけど」
私はこのとき、相当深刻な顔をしていたと思う。
「え?なに?さっきの気にしてるの?僕は子どもがいなくてよかったとは言ったけど…。
欲しいと言ったことは1度もないよね」
雷太が私に気遣いながら、言葉を選んでいるのがわかる。
「それって、子どもが欲しいって言わないようにしてたっていう意味?」
彼は何も悪くない。でも、私の口が勝手に彼に突っかかっていく。
「あのさぁ、南。最近どうしたの?ちょっとおかしいよ?」
雷太は困り顔でそう言った。
「おかしいって何がおかしいのよ?私、普通だけど?」
と言いながらも、私は雷太が言わんとしていることを理解していた。
最近の私は、自分で自分の気分がコントロールできない。ちょっとしたことで落ち込んだり、雷太の言葉尻を拾い上げては突っかかってみたり。
わかってる。情緒が不安定だってこと。
「あのさー、そういうの面倒臭いからやめない?正直、僕も疲れるよ」
雷太にしては口調が強い。きっと私は面倒な女。
「悪かったわね…」
私はふてくされながら、謝った。気持ちはまったくこもっていないけれど。
すると雷太はため息混じりに言った。
「あのさ、最近の南、やっぱりおかしいよ。怒りっぽいし、人の揚げ足ばっかりとるし」
彼の言いたいことはわかっているし、彼が毎日小さな我慢を強いられていることにも私は気づいていた。
気づいていながらも、私は彼の優しさに甘えていた。
6歳も年上なのに、精神的に成熟していないと言われてしまえばそれまでだけど、どうにも自分の感情がコントロールしにくい場面が度々あるのだ。
「あのさ、こういうこと言うと怒ると思うんだけど」
雷太の申し訳なさそうな表情を見たとき、私は彼の口から出てくる言葉が想像できなかった。
「なに?」
依然、不機嫌なままの私。
「養命酒か命の母、飲んだ方がよくない?結構効くらしいよ。南の年齢的にはちょっと早いかもだけど」
― えっ…?私、更年期扱い?
最愛の年下夫からの、想定外の言葉に、私はどう答えて良いのかわからず立ち尽くした。
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年下夫に更年期扱いされたアラフォー女。傷つく女に試練が降りかかる