「このままだと、結婚できませんよ」32歳・金融マンの衝撃発言。アラサー女の婚活が厳しいワケ
女にとって、33歳とは……。
32歳までの“20代の延長戦”が終わり、30代という現実に向き合い始める年齢だ。
結婚、キャリア、人間関係―
これは、33歳を意識する女たちが、それぞれの課題に向かって奮闘する2話完結の物語だ。
◆これまでのあらすじ
入籍目前だった婚約者に浮気され、婚活再スタートになった29歳の梨沙子。婚活パーティーで出会った男に微妙な店に連れていかれたことを友人に愚痴っていたら、隣の席に本人がいて…。
30歳までに結婚したかった女・梨沙子(29歳)【後編】
「あ…えっと」
セルリアンタワー東急ホテルのラウンジで、女友達と婚活話をしていたとき、隣で1人でお茶をしていた男性と目が合い、私は絶句してしまった。
彼こそ、数時間前まで私が代官山で一緒にランチしていた相手。そして今、私が女友達に思いっきり悪口を言っていた本人だ。
― 彼の悪口、絶対聞こえてたよね…?
冷たい汗が背中をつたう。
彼は、私と目が会うと、軽く会釈してから落ち着いた様子で口を開いた。
「梨沙子さんのような、経験豊富な30代の女性を喜ばせるのは、難しいですね。『30過ぎて行く場所じゃない』ようなお店にお連れしてしまって、すみませんでした」
「そんな。こちらこそ、失礼なことを言ってしまって…」
「いえいえ。梨沙子さんの『恋愛のリハビリ』にお役に立てたなら何よりです」
彼の口調は丁寧だが、私に向ける視線は氷のように冷たい。
「どんな素晴らしい方とお付き合いされていたか知りませんが、その人と婚活で出会う男を比べているようでは、結婚なんて無理だと思いますよ」
彼はそう言うと、席を立ち、こちらに一瞥もくれないで去っていった。
向かいに座っている女友達が、小さな声で「もしかして、さっきまで代官山でデートしていた彼?」と尋ねてきたので、私は小さくうなずく。
「結婚なんて無理」という彼の言葉が、心に突き刺ささり、去っていった男性の背中をぼう然と見つめながら、私は考えていた。
― 彼の言う通りかもしれないな…。
元カレ・雄介は、私が今まで付き合った男性たちの中でも、抜きん出て高収入。さらに高身長でイケメンで、センスや立ち居振る舞いも抜群に洗練されていた。「本来であれば彼と結婚できていた」という悔しさや未練で、婚活で出会う男性に対して、ついケチをつけたくなっているのかもしれない。
― でも、雄介みたいなスーパーマンと、普通の婚活で出会えるわけないのよ。だから、彼のことは諦めて、前に進まないと…。
元カレの影響で上がり切ってしまった理想の男性像に苦しむ30歳。婚活のゆくえは…
婚活するも、うまくいかず…
それから3ヶ月。
私は婚活に大苦戦していた。
― この人も、この人も…。私が最後にメッセージを送ってから、3日。まったく返信してこないって、切られたってこと?
アプリ上でマッチングし、メッセージのやりとりをしていた人たちが、1人、また1人と音信不通になっていく。
何度かデートを重ねた人とも、急に連絡がつかなくなることも多い。雄介と付き合う前の25歳前後の時に興味本位でアプリをやった時は、入れ食い状態だったのに…。
― マッチングまではしてるわけだし、相手に求める条件が厳しすぎる…ことも、ないと思うんだけど…。
セルリアンタワーでの一件から、「雄介と比べていては結婚できない」ということを頭では理解していた。だから、スペック面で雄介以上の人を求めるようなことはしていない。
20代の時にイイ感じになった男性たちは、こちらがそっけなくしてもぐいぐいとアタックしてくれたものだが、今連絡を取り合っている30代の男性には、そんな様子は一切見られない。
― 30代でそれなりに収入のある男性は、30女にガツガツいかなくても、引く手あまたってこと…?
新規のメッセージが全然入ってこないアプリのトークルームを眺めながら、私は悶々としていた。
◆
結婚相談所へ
ある日曜日の午後。
私は、大手結婚相談所チェーンの有楽町店を訪れていた。
― 費用はかかっても、結婚相談所の方が、結婚にはつながりそうよね…?それに、いきなり音信不通ってことにはならなそうだし。
そんな期待を胸に、受付で予約時間と名前を告げると、ほどなくして女性コーディネーターが現れ、個室に通される。
「はじめまして!梨沙子さんの担当をさせていただく、村松と申します。よろしくお願いいたします〜!」
名刺を差し出してきたその女性は、小動物のようにかわいらしい雰囲気だ。真っ白な肌にふわふわの茶髪、それにくりくりとした目。目じりのシワなどから30代後半と見受けられるが、その割にはテンションが高めだ。
「梨沙子さんは、現在30歳ですね!いつまでにご結婚されたいなど、イメージはございますでしょうか?」
「できれば、33歳になるまでに、ですかね…」
私の答えに村松さんは「おお!」と声を上げ、興味津々といった表情で私に質問してくる。
「もしかして梨沙子さん、33歳を過ぎると婚活が厳しくなることをご存じなんですか?」
キラキラと輝く瞳の美しさとは裏腹に、村松さんの口から発せられた言葉は物々しかった。
「はい、聞いたことはありますが。まだ、実感はなくて」
梨沙子、戦々恐々。村松が「ハードモード」と言ってのけた真相は…。
「そうなんですね。昔から、婚活市場では『若ければ若い方ほど成婚率が高い』というのが常識です。30代より20代がよいと、うちの男性会員様も皆さまおっしゃいます。ですが…」
村松さんは、もったいぶるように言葉を切る。私は続きが気になり、思わず身を乗り出した。
「32歳。ここまででしたらギリギリ、男性からの足切りを回避できるんです。これが33歳になると、男性からのアプローチはガクンと減ります。相談所だけでなく、アプリや婚活パーティーも同様です。『33歳の壁』と表現されることもありますが、それはもう、丘の斜面のようにゆるやかな減り方でなく、崖のような勢いで」
「が、崖…ですか…」
「そうです。ですから、私どものように真剣に結婚を考えている会員様の多い相談所に、今のうちに入るのはおすすめですよ。うちでしたら、皆さま半年程度でご成婚されますから」
半年、と聞いて私は目を丸くした。
雄介と結婚にこぎつけるまで3年かけたことを考えると、ものすごく短く感じる。村松さんは、そんな私の心中を見透かすかのように、にっこりと微笑んだ。
「世の中には、のらりくらりと結婚を引き延ばす男性も多くいるかと思いますが…そういう男性たちに振り回されて時間をムダにするのは、もったいないことだと思いませんか?」
「…!」
雄介と3年も付き合ったのに結局結婚できなかった私にとって、この言葉は胸に突き刺さるものがあった。
私は心を決めた。
「入会、したいです。させてください…!」
「わあ、ご決断が早い!梨沙子さん、ありがとうございます!」
村松さんが、うれしそうにパチパチと手を叩く。その笑顔に、なぜだか私まで明るい気分になったのだった。
◆
― はぁ、濃厚な1時間だった…!
入会手続を終えた、帰り道。
銀座の歩行者天国に立ち寄り、にぎやかな通りをぶらぶらと歩いていた。村松さんの見事な営業トークに乗せられたような気もするが、心は満たされている。彼女から言われたことを、心の中で反芻した。
― 『なぜ33歳までに結婚したいのか』かぁ。そういえば、同じような質問を雄介からされたことがあったな…。
ふと、雄介と交際していた頃のことが心に浮かぶ。
交際して間もないある日、無邪気に「30歳までに結婚したいな」と彼に伝えたことがあった。すると、怪訝な顔で尋ねられたのだ。
「なんで30歳にこだわるの?俺、全然理解できないな。だってこのままで十分、幸せじゃない?」
彼に嫌われることを恐れて、その時は食い下がらなかった。しかしその後、ずいぶんと悩んだものだ。たまたま雄介の気が変わり、結婚する方向へと誘導できたが、そうでなければ30歳を超えてもずるずると付き合い続けていたかもしれない。
想像して、身震いしてしまう。
― 将来のことを決めないまま付き合うなんて、もうできないな。今度は最初から、ちゃんと結婚願望がある人と付き合いたい…。
大きくため息をついた直後、「あれ?」と、つい独り言が漏れた。
― 雄介って…引きずるほどの男じゃ、ない…?
思わず、立ち止まる。
雄介は、たいした男ではなかったのだ。結婚をすぐに決めてくれないどころか、いざ入籍が決まれば浮気する始末だ。いかに一緒にいて楽しかろうと、引きずる価値なんてないではないか――急速に、頭の中が整理されていく。
雄介のペースに合わせて、彼にしがみついて結婚できるタイミングを辛抱強く待っていたあの時の自分と、「33歳」という期限を決めて一歩踏み出すことを決めた今の自分。もしかしたら、後者の方が最終的には幸せを掴めるのかもしれない。
― あれ…あの人。
ふと正面を見ると、30代前半くらいの男性が歩いてくる。セルリアンのあの彼に、よく似ていた。思えば、3ヶ月前に彼から「元カレと比べ続けているようでは、結婚なんて無理」と言われたっけ…。
「もう、過去の男と比べないわ」
決心をあえて声に出してみる。
男性はどうやら別人だったようで、すれ違い際に不思議そうな顔で私をちらりと見てきた。
私は、広い道をゆっくりと歩き始める。抜けるような青空が、きらきらと眩しかった。
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梨沙子と同じ会社で働く有紀。彼女の悩みは、キャリアに関することで…。