著者団体や出版社などで構成するABJは海賊版対策に力を入れているが、撲滅は難しいのが現状だ(画像:「STOP!海賊版」#きみを犯罪者にしたくない公式HPより)

コロナ禍によって家での滞在時間が増えるなか、無断で漫画を公開する「違法漫画サイト」の利用が急増している。上位10サイトの閲覧数は月間で約4億回。コロナ前の2020年1月と比較すると、閲覧数はおよそ6倍にもなった。なぜ、違法漫画サイトはなくならないのか。「STOP! 海賊版」キャンペーンなどの対策に取り組む一般社団法人ABJの伊東敦広報部会長に聞いた。

2020年の4倍を超える損害額になる見込み

――国内向け最大規模の違法漫画サイト「漫画BANK」が2021年11月、ようやく閉鎖されました。それでもコロナ禍によって違法漫画サイト全体へのアクセスは急増していると聞いています。被害額はどのくらい膨れ上がっていますか。

違法サイトのPV数や滞在時間などを調べて試算した結果、2021年1〜10月の損害額は7827億円でした。2020年と比べたら、2021年は4倍を超える額になりそうです。これだけの金額がタダ読みされているんです。こんな状況だと本当に漫画家は育ちませんよ。

公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の調査(2021年2月発表)によると、紙と電子を合わせた2020年のコミック市場は推計6126億円でした。コロナ禍による巣ごもりで電子版の需要が増えたうえ、『鬼滅の刃』など社会現象にもなったコミックが多数出たことで、2年連続の右肩上がりです。

けれども、その市場規模の額よりも、違法サイトのタダ読み額が上回っているんです。違法サイトがなかったら、何割かの人は正規版を買ってくれるのではないでしょうか。その割合がたった5%であっても、400億円くらいの売り上げ増になったわけです。


伊東氏はABJで10年以上、違法漫画サイトの対策に取り組んできた。本職は集英社の編集者。『週刊プレイボーイ』などの雑誌編集も経験している(写真:板垣聡旨)

――出版業界から見て、違法サイトが与える漫画業界への影響をどう見ていますか。

違法漫画サイトがはびこっている状況下では、漫画界に才能が集まってこないおそれがあります。新人漫画家の単行本は最近、電子版のみでしか配信されないケースが増えています。それを違法漫画サイトが掲載したら、正規の電子版は購入されないですよね?

漫画には労力が掛かっています。コミックスの1ページで、情報量は100あると言われています。作者は文字だけではなく、描写で細かい情報を伝えようと必死なのです。

それなのに「漫画は違法漫画サイトで読めて、正規版を出しても売れない職業」と思われてしまうと、漫画家の志望者も減るわけです。

ネット広告費だけでは成り立たない

――サブスクリプション(定期購読)や広告収益モデルの形では、音楽やアニメとくらべると漫画は少ないです。なぜでしょうか。

そのあたり、確かに出版界の努力が足りない部分もあります。より読者に支持される仕組みを整備していく必要があるでしょう。

しかし、サブスクや広告収益モデルに転じたとしても、もっと面白い漫画文化が構築できるかは少々疑問です。漫画は作品数も多く、少数のファンに単行本を「買っていただく」ことでも成立するビジネスです。

また海賊版でタダ読みする人が正規のサブスクサービスに来てくれるのかも懐疑的です。広告モデルもそう。出版社や書店関係者などを含めて漫画業界はこれまで発展してきたわけで、ネット広告費だけでは成り立たないのではないでしょうか。

――自宅にいる時間が増加したことで、漫画を読む時間が増えたことはわかります。でも、どうして人々は違法漫画サイトにアクセスしてしまうのでしょうか。

ネット上にあるデジタルコンテンツへの“軽さ”かもしれません。道を歩いていて畑が道路脇にあるとします。そこには農産物の無人販売所があり、メロンやスイカが売られています。100人が目の前を通ると、99人は勝手に盗らないでしょう。書店でも漫画の万引きなんて、普通はしません。

ところが、それがネット上になると、50人近くが盗んでしまう。「あ、漫画がただで落ちている」となって、簡単にタダ読みされてしまうんですね。総務省による2019年5月のwebアンケートでは、電子の漫画ユーザーのうち「インターネット上で漫画を閲覧するために、マンガ海賊版サイトにアクセスしたことがあるか」という問いに対し、海賊版サイトへの閲覧などの経験が「ある」と答えたのは、15〜69歳の47.5%に達しました。

――どうして、違法漫画サイトはなくならないのでしょうか。

違法漫画サイトは今、海外で運営されているケースが多いです。今、問題となっているのはベトナムです。

相手が海外の場合、著作権法などの日本の国内法は効きません。ですから、外国の捜査機関にお願いするか、外国の裁判所に開示請求をして、運営元を突き止めて、警告し停止に追い込むしかありません。費用も何百万円、時間も1〜2年以上かかる場合もあります。

正直、手間もかかるしお金もかかる。けれども、漫画を買ってくれる人が「お金を払って漫画を買うのは馬鹿らしい。海賊版サイトでいいじゃん」と思わないように、私たち出版社はあきらめてはだめなんです。

――いまABJとして取り組んでいる違法サイト対策を教えてください。

刑事告訴や裁判所への提起は、個社の役割です。一方、ABJでは、出版社や著者、電子書店、通信事業者と連携して個社ではできない海賊版対策を続けています。

その1つが海賊版サイトのリスト化です。現在までに400サイトほどをきちんと証拠収集したうえでリスト化できました。それを会員の出版社や関連団体、関連事業者に提供しています。サイト削除要請やフィルタリングによるアクセスの抑止、ネット広告の出稿停止などに活用してもらうためです。

ユーザーに閲覧をやめてもらう取り組みも

違法漫画サイトの利用ユーザー向けには、閲覧をやめてもらう取り組みをしています。例えば、過去に違法漫画サイトを検索したことがあるユーザーには、TwitterやYouTubeを利用しているときに啓発バナー広告が表示される取り組みも実施しました。

そのバナー広告は24種類。『鬼滅の刃』や『キングダム』、『七つの大罪』といった人気作品のキャラクターが、違法漫画サイトの利用防止を訴える内容です。かなりインパクトがあると思うのですが……。


表示されるバナー広告。左から鬼滅の刃、キングダム(どちらも集英社)(画像:「STOP!海賊版」#きみを犯罪者にしたくない公式HPより)

ほかにもCODA(コンテンツ海外流通促進機構)、マンガ・アニメ海賊版対策協議会と連携して、大人気アニメ『ケロロ軍曹』と映画館でおなじみの「NO MORE映画泥棒」とのコラボレーション動画を放映することになりました。この12月24日から関東圏75の映画館で公開され始めています。これは映画業界団体の協力を得てできた取り組みです。

でも、どうなんでしょうか。中学校や高校を訪問し、「絶対に違法サイトを使わないでね」と話すと「わかった!」と返ってきます。バナー広告も1億以上のインプレッションがありますし、多くの人に呼びかけはできていると思います。

しかし、そのような取り組みを実施していても、海賊版サイトへのアクセス数は4億回になってしまいました。戦いは非常に厳しいですが、長期的な戦いは覚悟のうえで、2022年も違法漫画サイト撲滅や利用抑止に取り組んでいきます。

取材:板垣聡旨=フロントラインプレス(Fromtline Press)所属