今回の年次改良で発表された新グレード「990S」(写真:マツダ)

マツダ「ロードスター」が2021年12月16日に、年次改良を発表。それに合わせて、メディア向けにオンラインで説明会が実施された。新しくなったロードスターは、2022年1月中旬の発売を予定しているという。

ロードスターは、1989年に「ユーノス・ロードスター」として誕生した2人乗りFR(後輪駆動)のオープンカーだ。


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高性能ではないけれど、「だれもが、しあわせになる。」をコンセプトとして「走る楽しさ」「クルマを持つ楽しさ」を売りに、これまで4世代にわたって世界で110万台以上が販売されてきた。

オープンスポーツカーとしては破格の数であり、マツダの「走りのよさ」というイメージ醸成に、多大な貢献をしてきたモデルだ。

例年とは異なる年次改良の中身

現行の第4世代モデルは、2015年にデビューし、これまで毎年のように改良が行われてきた。ある意味、毎年恒例のイベントだが、今年は2つのトピックがあった。

それは「3つの特別仕様車・新機種の発売」と「新技術KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)の採用」の2つだ。

3つの特別仕様車・新機種は「軽いことによる楽しさ」を追求した特別仕様車「990S(キュー・キュー・マル・エス)」(289万3000円)と、ダークブルーの幌と黒レザー内装を組み合わせた特別仕様車「NAVY TOP(ネイビー・トップ)」(330万6600円)、鮮やかな新色内装を採用した新機種「RF VSテラコッタ・セレクション」(382万5800円)の3モデルだ。


「RF VSテラコッタ・セレクション」のインテリア(写真:マツダ)

新技術となるKPCは、すべてのロードスターに標準装備となる。

これは、ロードスターにもともと備わっている後輪のサスペンションの特性を生かして、コーナーリング中の安定感を高めるというものだ。具体的には、0.3G以上の強い横Gが発生するコーナーリング中、後輪の内輪側に、瞬間的に非常に軽いブレーキを自動でかける。

ロードスターの後輪はブレーキを利かせると、車体を沈みこませる特性がもともとあるため、ブレーキングによって車体の浮き上がりが小さくなるという。つまり、タイヤの接地感が増して、より安心感が高まるのだ。

おもしろいのは、メディア向けの技術的説明が非常に詳しく、丁寧であったこと。しかも、「違和感のないこと」「トルクベクタリングではないこと」「モディファイ(タイヤやサスペンション、ブレーキなどを交換するなど)しても大丈夫であること」を繰り返したのだ。

実際にヨーロッパのワインディングをはじめ、ドイツ・ニュルブルクリンクや日本のサーキットなどで、モディファイしたクルマもあわせて走り込んで実証したという。

これはロードスターのユーザーが、ハンドリングに電子制御を介入させる違和感を特に嫌っていることの表れであり、さらにロードスターユーザーの多くは愛車をモディファイしていることが理由だろう。

このように、走行性能を磨いてきた今回の年次改良であるが、もう1つ例年とは違うことがある。それは3つの限定車・新機種のうち「990S」が、すでに世間に知られているということだ。

どういうことかといえば、去る10月24日に開催されたファン・イベント「ロードスター軽井沢ミーティング」において、マツダが正式発表前の「990S」をお披露目していたからだ。

ロードスター開発のリーダーである主査の齋藤茂樹氏は、「ロードスターの本質は軽さにあります。その軽さをもう一度スポーツカー・ファンの皆さんに確認してもらいたいという意味を込めて企画しました」と言う。


軽井沢ミーティングにて齋藤茂樹氏(筆者撮影)

名称にある「990」とは、車両重量が990kgであることを意味する。今どきのスポーツカーで1トンを切るものは希少だ。それをアピールする名称として990Sが採用された。軽井沢ミーティングでお披露目された990Sの実車は、すでにメディアでも記事化されている。ファンを大切にする、マツダらしい告知方法だ。

最量販モデルが「990S」という驚き

驚くのは、ファン・イベントでお披露目されただけの990Sが売れているということだ。しかも、「軽井沢ミーティング以降、990Sの構成比は大きく伸び続け、11月以降は最量販モデルとなっている」とマツダは言う。

12月(12月1〜12日)の受注実績を見れば、ロードスター(RFを除く)の受注のうち38%が990Sなのだそうだ。990Sのベースとなった「S」グレードの通常の販売構成比は、モデル全体の4%にすぎない。それが10倍近くにもなっているのだから、驚きだ。

ちなみに、コロナ禍でのロードスターの販売は絶好調だという。絶対数こそ少ないものの、2020年の第3四半期以降は前年比プラスで推移。2021年も第1四半期で前年比177%、第2で147%、第3で111%、第4(10〜11月)で126%を記録している。

コロナ禍において、移動手段としての自動車需要のアップにくわえ、お金を使う対象を趣味へと向ける人が増えたことも理由に考えられる。その傾向は海外でも同じで、グローバルでもロードスターの販売は好調だという。

さらに驚くのは、若いユーザーが増えていることだ。ロードスターのユーザー層は、2020年で言えば30代以下が15%、40代が27%、50代が35%、60代以上が23%で、平均すると51歳であった。

ところが2021年は、30代未満のユーザーが15%から30%へと倍増。平均46歳と、5歳も若返ったのである。

「990Sの記事を見て、興味を抱いてディーラーに足を向けた方が多かったようです。ただし、若い方が結果的に購入するのは、装備のより充実したSパッケージになっています」とマツダの国内販売本部の二宮誠二氏は説明する。

990Sのヒットに対して開発主査の齋藤氏は、「軽井沢の記事があったことで、いろいろな反響が寄せられています。今時点では、ものすごい手ごたえを感じています。本当に、このクルマを(主査になって)最初に企画できてよかったと思います」という。

しかし一方で、「なぜ若い人が増えているかは、お客様の声を拾えていません。直接、何が起きているのかわかっていません。これから国内営業を通じて、若いお客様がいったいどんな考えで買われたのかに注目して、今後につなげていきたいと思います」とも話してくれた。

ジェネレーションZ(25歳以下)の価値観

ここで思い出したのは、この夏にホンダの新型「シビック」を取材したときの経験だ。シビックは、若者向けといいながらも319万円からという強気のプライスで登場した。


新型「シビック」は6MT車が売れていることでも話題となっている(写真:本田技研工業)

「若い人向けに、そんな高い値付けでいいのか」とホンダの開発者に尋ねれば、「今の若い人、特にジェネレーションZ(25歳以下)の方たちは、本質を重視する傾向が強い。価格は二の次で、本当に良いモノであれば、高くても買う」と返ってきた。

若い世代には「良いモノであれば高くてもいい」という層が一定数、存在するというのである。

もしかすると、そのような層にロードスターの本質を追求した990Sのコンセプトが刺さったのかもしれない。本質に注目する若者たちが、これからの日本のマーケットを主導するとなれば、それほど悪いことではないのではなかろうか。若い層の動きに要注目だ。