以前に比べて荷物が多くなり、リュックを選ぶ人は多い(写真:吉田カバン)

新型コロナウイルスの新規感染者数が減り、外出ムードが高まった。大都市では電車通勤客も戻ってきた。各社の事情で異なるが「出勤は週4日をメド」にした会社もある。

これまでの在宅勤務中心から通勤となると、欠かせないのが外出用のバッグだ。ここ2年近く活躍する日が少なかったが、この機会に新調を考える人がいるかもしれない。

そこで今回「仕事用バッグの選び方」を、第一線で働くビジネスパーソンに聞いてみた。その内容は後述するが、同時に吉田カバン(※)に取材した。1935(昭和10)年の創業86年になる老舗メーカーで、主力ブランド「ポーター」(PORTER)は社会人にも人気だ。また商品の耐久性など品質に定評がある──などの理由で選び、教えてもらった。

仕事用といっても、業種や職種、世代でも変わるだろう。今回はマニア向けでなく一般的な視点で考え、ブランドの売れ筋商品も紹介しながらバッグ選びを考えたい。

(※)正式社名は株式会社吉田。名称は「吉」の「士」の部分が「土」


11月中旬、アポイント制で開催された吉田カバンの「新商品展示会」。こちらのフロアでは販売中の商品が紹介されていた(筆者撮影)

「リュックに変えたら楽で、戻れなくなった」

まずは30代後半の男性会社員の声を紹介しよう。最近、「奥さんの誕生日にマルニ(MARNI)のミニバッグをプレゼントした」というが、自分用にはこんな本音を明かす。

「仕事・プライベートのどちらでも使える新しいリュックが欲しいです。もともとスーツ×リュックに抵抗がありました。カッコよくないし、スーツが傷むのもイヤだったので。それが近年は出勤の服装もカジュアル化し、リュックとの相性もよくなってきました」

以前はフェリージ(FELISI)の手提げバッグだったが、現在はポーター×セレクトショップのコラボ商品リュックを愛用。「一度リュックになると楽で戻れなくなった」という。こうした消費者像を吉田カバンに聞いてみた。

「リュック派の方は多くなりました。服装とバッグは関連性が高いですが、ビジネスシーンのカジュアル化がどんどん進んでいます。最近の当社の売れ筋商品に『ポーター エクスプローラー』があります。3層式で1層目の前段に細いポケット、2層目のメイン部分は大きく開く、3層目の後段にはPCも入ります。丸みのあるデザインでオフにも向くと好評です」

吉田カバンの岡田博之さん(広報部)はこう語り、「当社のお客さまでも『ノートパソコンが入り、背負えて、本体が軽い』という商品を求める方が多いです」とも話す。

本体の軽さを求めるのは近年の傾向で、リュック人気も高い。前述の男性は「混雑する電車内では前がけするなど、リュックのマナーも一般化したと感じます」と話していた。


「ポーターエクスプローラー」は3層構造も特徴だ(写真:吉田カバン)

「PCを持ち歩く機会が増えた」

「明日は出勤するの?」「(自宅で)オンラインで行います」「そう、お疲れさま」

先日、都内の駅で会社員2人のこんなやりとりを耳にした。現在は在宅ワーク中心の人も多いだろう。「在宅勤務+時々出勤でバッグ選びはどう変わったか?」も聞いてみた。

前述の30代男性は「パソコンをよく持ち歩くようになったので、PCが入るサイズと安全に持ち運べることを意識するようになりました」と言う。

別の30代男性は「いつも使うバッグは、PC用ポケットがある革製ランドセルで便利ですが、電源も常備するようになり、中にエコバッグも入れています」と話す。

会社所有のPCを自宅に持ち出しできるかは、かつては「情報漏洩の視点から禁止」が多かったが、最近は多くの会社で、持ち出し基準が緩和されてきた。

「データのクラウド化で機密情報の管理が進んだのに加えて、コロナ禍での作業の利便性に欠かせないことも大きいと思います」(岡田さん)

そうなると「久しぶりの出勤では荷物が増える」電車通勤派も多いようだ。

「駅の改札を出るまでリュックを前がけする人も多いですよね。今年7月発売の『ポーター ロード』というデイパックが好評ですが、この商品の特徴はスマホやICカード、ワイヤレスイヤホンなどがショルダーストラップに収納できて、背負ったまま出し入れできる点。今まで前がけで行っていた行為にも対応できるようになりました」(同)

「前がけで使いやすい人気バッグはあるのですか」という筆者の質問への答えだった。


背負ったまま小物が出し入れできる「ポーター ロード」(写真:吉田カバン)

「メイク道具一式」を持ち歩かない女性も増えた

ここまで男性の声を紹介してきたが、女性の声も紹介したい。

興味深いのは「コロナ禍でメイク道具一式を持ち歩かなくなり、リップやフェイスパウダーなど最低限になった」が目立つことだ。基本はマスク姿なので「口紅の需要が減った」という話は知られているが、バッグの中身も変わってきた。

一般的に女性のほうが、男性に比べてオン・オフでバッグを一新する傾向にある。

「仕事用には、黒の大きなロンシャン(Longchamp)のバッグを使いますが、休日はマイケル・コース(MICHAEL KORS)の小さなチェーンバッグ(ブラウン)を愛用しています。

選ぶ理由は、荷物がたくさん入って、バッグ自体が軽くて持ちやすい点。通勤で着る服を選ばないのもあります。一方、休日用はケータイ、ハンカチ、リップなど必需品が最もいい感じに収まるからです」(20代女性)

「仕事用には、ロンシャンのトートバッグ、休日用には無印良品のマザーズバッグを使っています。仕事用は革なのに軽いことで、休日用はいろんな服に合うから。小さなバッグも欲しいけど、休日子連れで出かけるときの大荷物を想像するとまだ買えません」(30代女性)

この2人が仕事用に選ぶロンシャンのバッグは、上質感と軽さ、価格帯の幅広さも人気だ。


トートバッグを愛用する女性も目立つ(写真:吉田カバン)

仕事用にトートバッグを選ぶ女性は多いが、男性は手提げ派とリュック派が多い。

吉田カバンには「タンカー」(ポーターの1シリーズ)というロングセラーがある。1983年の発売で今も売れ続ける看板商品だ。手提げ型も軽くて丈夫で、長年愛用する人も多い。

荷物と利便性については、昨年の取材でこんな話も聞いた。

「かつては2wayバッグで、日によって、手持ちにしたり肩掛けにしたりしましたが、年々荷物が増え、重い中身を支えられるのか不安になりました。そこで大きめのトートバッグに変えましたが、歩行中に電話がかかってくると対応しにくい。結局、両手が自由に使えるリュックにたどりつきました。それ以来、リュック一筋ですね」(30代の男性会社役員)

近年はバッグの中身が重くなる傾向にある。

例えば降雨やゲリラ雷雨に備えて、つねに折りたたみ傘を常備する人は多い。夏はもちろん秋冬でもペットボトル飲料を携帯する人も増えた。一方で化粧道具一式を持ち歩かなくなった人、キャッシュレスで財布が小さく軽くなった人もいるが、移動時のバッテリーコードなど周辺機器を入れると、中身は重くなってしまう。どうしても荷物は増えがちだ。

コロナ禍で、人との接触をさけて自転車通勤をする人も目立った。吉田カバンの商品ではメッセンジャーバッグもあるが、取材では「自転車通勤をやってみたが今は休止中」「考えたのだが、勤務先のビルに自転車置き場がなかった」という声を聞いた。


「タンカー」は手提げ型、リュック、ポーチなど多彩な商品を展開する(写真:吉田カバン)

実店舗・オンラインでの選び方

吉田カバンの岡田さんに、実店舗とオンラインでの一般的な選び方も教えてもらった。

「まずは使うシーンですよね。私が店舗販売員をしていた時も『どんなときにお使いですか?』をよく聞いていました。それからサイズや重さなどはネットでも表示できますが、持ってみて『意外に軽い』『こちらのほうがしっくりくる』という感覚は実店舗ならではです。当社でも、お客さまに気軽に寄っていただける雰囲気づくりに取り組んでいます」

「ネットの場合は、予算・欲しいものがある程度決まっていて『探し物』から始まると思います。やはり使うシーンを思い出していただき、『ブリーフケース、PC収納ができる、軽い』などのキーワードで検索していただくなど、より具体的に調べられてはいかがでしょう」

オンラインは商品数も多く、探し疲れとならないよう具体的に絞るのは大切だろう。

コロナ前と現在で変わったのが、出張・旅行と会食の激減だ。これらもバッグの使い方に影響した。「ボストンバッグは本当に使わなくなりました」(別の30代男性)という声を聞いたが、以前多かったキャスター付きのキャリーバッグを見る機会も減っている。

会食では、コロナ前は取引先とハードルの高い店に行く機会があったかもしれない。そうなるとふだん使いのバッグでは気が引ける。重要な役職を務める女性も増え「プレゼンテーションの場でも持参できるようなバッグが欲しい」という要望に応えて、上質感のあるバッグを開発したメーカーもあった。

それが今はどうか。コロナ禍で通勤回数が減っただけでなく、あらたまった会食やパーティーも減り、多くの人が格好をつけなくなった風潮があるのではないだろうか。

この話を紹介したのは、現時点では「TPOで変えるよりも汎用性のきくバッグ」を選んでいるように感じるからだ。今後の流れ次第ではTPO重視が戻るかもしれないが。

コロナ前まで好調だった「鞄市場」だが…

最後に、少し引いた視点で業界全体についても説明したい。

国内の鞄・袋物市場はコロナ前まで好調だった。国内外の出張や旅行ニーズに加えてインバウンド(訪日外国人)需要も大きかったからだ。それがかなりの部分で消滅し、繰り返し発令された緊急事態宣言による「店舗の営業自粛」で各社の業績は落ち込んだ。

ほかのメーカーと同様に吉田カバンも影響を受けたが、とくにトラベルバッグ中心のメーカーは大打撃だった。「ヒトの移動が激減」で影響を受ける業界は旅行やホテル、外食業だけではないのだ。

一方、在宅勤務が増え、息抜きを兼ねて近所のコンビニや商店で頻繁に買い物するようになった。近場外出で「携帯とバッグ一体型のスリムなバッグを持つ人が増えた」(30代女性)という指摘もある。ようやくそこから本格外出ムードに流れが変わってきた。

バッグ選びには消費者心理も透けて見える。まだコロナ前の華やいだ感じにはならないだろうが、「どんなバッグで出かけるか」の参考にしてもらえれば幸いだ。


東京・JR新橋駅前「SL広場」のSLもイルミネーションで飾られていた(11月中旬、筆者撮影)