掲載:THE FIRST TIMES

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岡崎体育が4thオリジナルアルバム『FIGHT CLUB』をリリース。
前作『SAITAMA』以来、約2年9ヵ月ぶりのオリジナルアルバムとなる本作には、インターネット上の言い争いをコミカルに描いた「Fight on the Web」、アグレッシブなラップが炸裂する「Championship」、“おっさんになった自分”を爽やかに表現した「おっさん」などを収録。岡崎自身が「デビュー当時を彷彿させる原点回帰のアルバム」と公言する、“らしさ”全開の作品となった。

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昨年末リリースの『「劇場版ポケットモンスター ココ」テーマソング集』、今年5月に発表されたコンセプト・アルバム『OT WORKS 2』(2は正しくはローマ数字の2)で、音楽家としての手腕を証明した岡崎。“ネタ曲”“あるある曲”にも改めて向き合ったという本作について語ってもらった。
■もともとの自分のスタンスを意識しながら制作しようと

──ニューアルバム『FIGHT CLUB』がリリースされます。気が付けば、前作『SAITAMA』からかなり時間が経っていて。

2年9ヵ月ぶりなんで、大物アーティストみたいなスパンですよね。言うてもまたデビュー5年しか経ってないし、もうちょっと早めに出したといと思ってたんですよ。コロナになって制作の時間はたくさんあったんですけど、この間にポケモンの映画の曲をまとめたアルバムとコンセプトアルバムを出させてもらって。ようやくオリジナルアルバムを出せてホッとしてますね。

──コラボや楽曲提供も増えてますからね。

そうですね。自分のこだわりとして、タイアップ系の曲をオリジナルアルバムに入れないことにしていて。それを入れてたら、もう6枚くらい出せてると思うんですけど。

──たしかに(笑)。今回のアルバムは、「デビュー当時を彷彿させる原点回帰のアルバム」というテーマがあったそうですね。

そこもちょっと難しいところなんですけど、自分の原点が「MUSIC VIDEO」だとしたら、あの曲は自分のためのキャンペーンソングというか、世間に注目してもらうためのネタソングだったんです。ありがたいことにたくさんの人に聴いてもらえたんですけど、デビューしてからは“あるある”ソングのイメージを払拭したいと思っていて。でも、5年間やってきて払拭できないことも理解できたし、今回のアルバムはもともとの自分のスタンスを意識しながら制作しようと。「おっさん」なんかもそうですね。

■素敵に歳を取りたい”と自戒を込めた歌

──「おっさん」は、“僕はもうおっさんになった”と爽やかに歌い上げるポップチューン。岡崎体育さんにしか作れない曲ですね。

ありがとうございます。32歳になったときに“ええ年齢になったな”って思って。この業界、若い人がどんどん出てくるじゃないですか。話をしていて“今、食い違ったな”という瞬間もあるし、歳を取ったことを実感してしまうことも増えてきて、“おっさんになった”という曲を作ってみようとかなと。

──年齢を重ねることで、制作のスタンスにも変化が生じてるんですか?

そこはあまり変わらないですね。インディーズの頃から制作のやり方は変わってないし、今もやりたいようにやらせてもらってるので。それよりも日常生活ですね。若い人と話をするときとか、階段を上がるときとか。

──いやいや、まだ32歳じゃないですか(笑)。

微妙な年齢なんですよ。32歳で“おっさんになった”っていうと年上の人に失礼だし、若い子からしたら「いやいや、32歳はおっさんやろ」と言われそうで。「シニア層の人たちを批判したり、揶揄するような曲になってはいけない」とも思ってましたね。ポリコレじゃないですけど、何をやっても誰かが何かを思う時代だし、自分の曲を聴いた人が悲しい気持ちになったり、傷つくことがないように心がけてます。

──「おっさん」も年齢を重ねることを肯定しようとする歌ですからね。

そうですね。“素敵に歳を取りたい”と自戒を込めた歌でもあって。自分にとっての一つの指針みたいな曲ですね。

■SNSの発達が招いたマイナスの側面

──「Fight on the Web」は、インターネット上でケンカする人たちを描いた曲。これも“あるある”かもしれませんが、実際、シャレにならない事態になることもありますよね…。

インターネットの良くない文化というか、SNSの発達が招いたマイナスの側面ですよね。ネット上で言い合っても何も生み出さないし、残念な気持ちになっちゃうんですよね。僕が曲を作っても警鐘にならないでしょうけど、この曲を聴いて(ネット上で言い争いをするのは)「恥ずかしいな」と思ってくれる人がいてくれたらいいなと。

──MVも最高ですが、この曲はもともとMVを作ることを念頭に置いてたんですか?

いや、そんなことはなくて。「Fight on the Web」はもともとボツ曲というか、テーマだけがあって、形にしてなかったんですよ。去年かな、Twitterでボツになったテーマを公開して、「曲にしてほしいテーマはありますか?」ってフォロワーさんに発信してみたんですよ。その2トップが、「Fight on the Web」と「Quick Report」だったんです。

──「Quick Report」は、フェスの“クイックレポート”(公式ホームページで公開される速報的なレポート)をテーマにした曲。サビは“観客のボルテージは一気に最高潮に”ですが、思わずニヤッとすると同時に、音楽ライターとしては耳が痛いところも…。

よく言われます。クイックレポートではいつもよく書いてもらってるし、うれしいんですよ。クイックレポートは会場に来られなかった人にも「こんなライブやったんや」って伝えられるし、ワクワクしてもらえるのもいいなと。この曲はいろんなクイックレポートを読んで、よく出てくる言葉をつないだんですけど、ライブで何回かやってみたら、お客さんの反応もかなり良くて。敵を作るとしたらライターのみなさんでしょうけど、自分も気に入ってますね。

──「Yes」は、めちゃくちゃカッコいいテクノ。昨年9月に公開された『THE FIRST TAKE FES vol.1』でも披露されていましたが、手応えはどうでしたか?

普段のライブとは違う感覚でしたね、やっぱり。コロナ禍になって配信ライブが増えましたけど、僕はほとんどやってなくて。ネタ曲って生の温度感だったり、お客さんの反応が重要なので、自分には向いてないと思ってたんですよ。ただ、『THE FIRST TAKE』は影響力のあるコンテンツだし、出させてもらえることになったときはうれしかったです。海外の方も観ているので、歌詞よりも、パフォーマンスの面白さを観てもらおうと思って、「Yes」をやらせてもらいました。実際、海外の方にも喜んでもらえたみたいで良かったです。

──もちろん、テクノも岡崎さんのルーツですからね。

もともと“盆地テクノ”と銘打ってたんですけど、デビュー以降、テクノの“テ”の字もなかったんですよ。趣味みたいな感じでストイックなテクノを作ることはあったんですけど、リリースはほとんどしてなくて。

■3枚目の自分を愛して、応援してくれてるんだと思っていて

──出しどころが難しい?

そうなんです。岡崎体育を応援してくださってる方は、ネタ曲を面白がって、3枚目の自分を愛して、応援してくれてるんだと思っていて。いきなりテクノを出してもポカンとされるかもしれないけど、自分としては「Yes」みたいな曲も好きだし、今後もやってみたいんですよね。テクノはすごく懐が深いんですけど、やってて楽しいんですよ。

──「Okazaki Little Opera」も印象的でした。トラックメイク、ラップもすごくディープだし、サビは壮大で。

これは完全に捨て曲ですね。

──ええっ?(笑)

アルバムのうち3曲は、数合わせなんですよ。“10曲くらいないと、アルバムらしくないな”と思って、ババッと作って。「捨て曲ナシ」って言えばCDショップのポップになりますけど、“本当にそんなことある?”って思ってたんですよね、中学生の頃から。“レコード会社に急かされて作った曲もあるやろ?”って。

──なるほど(笑)。

僕はスタッフに急かされて作ったことはないですけど、数合わせで作ることはあって(笑)。でも、そういう曲がすごく聴かれたりするんですよね。前作『SAITAMA』に入ってる「なにをやってもあかんわ」もそうで、今やサブスクでも上位になってて。捨て曲っていうと聞こえが良くないですけど、肩肘張らずにリラックスして、余計なことを考えないでサクッと作るのも大事やなと。「Okazaki Little Opera」もよく聴いてるし、自分の中で再生数はかなり多くて。どんな反応が来るか、楽しみですね。

──「八月の冒険者」はオーセンティックなロックチューン。

90年代のギターロックを自分なりにやってみようと思ったんですけど、アルバムのなかではちょっと浮いてるかも。季節系の曲もあんまり作ったことなかったんですよ。アルバムの制作は7月、8月くらいだったんですけど、リリースは秋なので、“今の季節(夏)の感じで曲を作ると、シーズンがずれるな”と思いながら。…すいません、なんの着地点もない話でした。

■他者と一緒に音楽を作ることの良さがやっとわかるように

──(笑)今回のアルバムでいうと、「Hospital」もバンドサウンド。こういうテイストの楽曲も、岡崎さんの持ち味ですよね。

もともと好きですからね、バンド。大学生のときにバンドを組んでて、“バンドでデビューしたい”と思ってたこともあったんですけど、性格的に協調性もなかったし、うまくいかなかったんですよ。その後はひとりで全部作るようになって。楽器が弾けるわけではないので、バンドっぽいことはやれなかったんですけど、デビューしてからミュージシャンの友達もできて、一緒に演奏する機会も増えたんですよ。「Hospital」も、友達と“こうしよう、ああしよう”って言いながらレコーディングしたんですけど、すごく楽しくて。大人になって、他者と一緒に音楽を作ることの良さがやっとわかるようになったのかもしれないです。人に編曲してもらうのもそうで。「おっさん」「八月の冒険者」「湖」なんかはアレンジャーに入ってもらってるんですけど、自分が作ったデモをアレンジしてもらって、「こうなったんや!?」というのがめちゃくちゃ楽しかったんですよ。

──作り方の自由度も上がっているんでしょうね。「普通の日」は岡崎さんの作詞・作曲・編曲ですが、なんでもない日の様子がユルいテンションで描かれていて。

この曲も20分くらいで作りました。マネージャーに「日常のことを歌った、ユルいラップの曲はどうですか?」と言われて、「じゃあ、作るわ」って。その日の出来事をメモしてまとめただけなので、日記みたいなもんですね。

──“買い物がてら散歩”して、いつもの風景が描写されて。ほっこりするし、ジーンときちゃいます。

散歩っていいなと思ってもらえたらうれしいですね。僕も散歩好きで。東京に来て2年くらいになるんですけど、住んでいる場所の近くだけじゃなくて、わざわざ別の街に行って散歩することもあって。街並みや味が違うし、面白いんですよね。

■ネタ曲とバラードを両方やれたらカッコいいなと

──そして「湖」もめちゃくちゃいい曲で。バラードの名曲を書いてやる、という気合いを感じました。

アルバムの中に1曲入ってるバラードが好きなんですよね。自分にいいバラードを書く力があるのか、それが世間に受け入れられるか試しているところもあるし、ネタ曲とバラードを両方やれたらカッコいいなと。それができたら、音楽家でいる意味もあるような気がするので。

──「湖」の編曲は、兼松衆さん。映画、ドラマなどの劇伴も数多く手がける音楽家の方ですが、ストリングスのアレンジが素晴らしいですね。

そうなんですよ。今年の初めに手嶌葵さんに曲(「星明りのトロイメライ」)を提供させてもらったんですけど、そのときにアレンジャーとして兼松さんが入ってくれて。そのアレンジが自分の中で“ど”ストライクで、自分のオリジナルアルバムにもぜひ参加してほしいなと。僕は楽譜が読めないし、音楽理論もわからないので、バラードのストリングス・アレンジは長けてる人にお願いしたほうがいいと思ったんですよね。「湖」もデモを聴いたときに、めちゃくちゃ感動したんですよ。自分で描いた絵に色を塗ってもらった感じですね。

──手嶌葵さんがつないだ縁なんですね。

そうなりましたね。僕、移動中に聴いてる音楽は97%くらい手嶌葵さんなんですよ。楽曲提供のお話をいただいたときは、“よし!”と思いました。

──アルバムの最後「Eagle」は、“あなただけは誰もに愛されて”というフレーズが心に染みる楽曲。

ライブの最後っぽい曲が欲しかったんですよね。ここ2年くらい、「The Abyss」がライブのラストを締めることが多くて。そろそろ、それに代わる曲が欲しいなと思って作ったのが「Eagle」で。去年の2月に大阪のライブで初めて披露したんですけど、SNSでも「最後にやった曲が良かった」という人も結構いたし、アルバムにも入れようかなと。5、6回はライブでやってるんですけど、現場で学ぶことも多いし、じっくり育てていきたいですね。

──すごく多彩なアルバムになりましたね。1曲目の「Championship」、そして『FIGHT CLUB』というアルバムタイトルもそうですが、ファイティングポーズを取っているのもカッコいいなと。

ありがとうございます。「Championship」に関しては、アルバムの1曲目にこういうオフェンシブな曲を入れることが多くて。もともとは『24時間生配信ひとり曲作り合宿』のときに作った曲で、リスナーのみなさんの反応も良かったので、1曲目にしました。アルバムのタイトルは、なかなか決められなかったんですよ。毎回そうなんですけど、いつもレコード会社の人に「早く決めてください」て急かされて、「『Fight on the Web』も入ってるし、“『FIGHT CLUB』でどうやろ?”」ってパッと決めちゃったんです。

──直感で決めたと(笑)。

そうですね。なので最初は意味もなかったんですけど、「おっさん」「Hospital」も僕にとっては珍しい応援ソングみたいな感じだし、日本人は応援するとき“ファイト”って言うじゃないですか。そうやって(アルバムの意味を)後付けできたのは良かったなと(笑)。

■スタッフの皆さんにも「引退を撤回して、ステージに立ちます」と

──11月23日には、横浜アリーナでワンマンライブ『めっちゃめちゃおもしろライブ』を開催。2019年6月のさいたまスーパーアリーナ公演以降、岡崎さんの中でライブに対するモチベーションはどう変化してますか?

1回、めっちゃ減退しちゃったんです。たまアリが終わったら引退するつもりだったし、燃え尽きた感じがあって。でも、フェスのデカいステージに立たせてもらって、5万人の前でライブをやると、やっぱり気持ちいいんですよ。スタッフの皆さんにも「引退を撤回して、ステージに立ちます」と話したんですけど、コロナになってしまって。この2年は、普通にライブができるようになったときのために制作を続けてたところもあるんですよね。近い将来マスクしなくてもよくなって、ギュウギュウの会場で大声をあげてライブをやれるようになる日が待ち遠しいです。

INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希

リリース情報
2021.10.20 ON SALE
ALBUM『FIGHT CLUB』

ライブ情報
岡崎体育ワンマンライブ『めっちゃめちゃおもしろライブ』
11/23(火・祝)横浜アリーナ