大好きな柿の季節。実も葉もすべてをおいしくいただく方法<暮らしっく>
作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。
柿が美味しいこの季節、その楽しみ方についてつづってくれました。
日中は夏のような気候だけれど、ずいぶんと陽は短くなって、着実に冬に向かっているんだなと感じる。夫とバドミントンをしていて、ふと夕焼け空の美しさに気づく一時や、朝お隣さんと公園へ銀杏を取りに行く時間も、同じ今日はないのだなと噛み締める。
それでもまだ庭にはゴーヤがなっていたり、待ちに待ったオクラが花を咲かせようやく食べられるようになったり、夏から秋へバトンを渡している期間というのは意外と長い。
今月『その農地、私が買います
』という、実家の農地の話や東京での自給自足生活を書いたエッセイ本を出版するのだが、その打ち合わせで出版元であるミシマ社に行く機会が何度かあった。ミシマ社には、大きな柿の木が2本もある。古い家を出版社として使っているのも、目指すことを体現しているようでいいなと思うし、家の前に小さな農地があってそこで野菜を育てていたりする。いつも打ち合わせをしている二階の和室のベランダから手を伸ばせば、柿が取れそうだ。
私は以前出版した『ぐるり
』という小説集に「柿泥棒」という作品があるくらいに、柿が、いいや柿の木が好きだ。柿の木があるお宅はたいてい古く、寄り添いながら並ぶツーショットはとても趣がある。人生の道程を物語っているとさえ思う。
青々と苔のむした幹、どうやって実を取るんだろうと思うほどに天高く伸びた枝。その中に赤い実が、まるで小さな炎のように成っている。大きくて艷やかな葉っぱが、秋からら冬にかけて紅葉し、やがて落ちて最後は幹枝だけになる様も実に美しい木だと思う。
私があまりに柿を羨ましそうにしていたからか。
「久美子さん柿持って帰ります?」
と編集さんが言ってくれた。嬉しい。嬉しすぎます。
高枝切りバサミが出版社にあるというのも愉快だなあ。背の高い男性社員がどさどさと柿の実を取ってくれて、私はリュックに柿をつめると喜び勇んで帰ったのだった。
早速完熟の柿を頬張る。うーん、自然な甘さでおいしい。懐かしい味だな。最近の柿はまず甘さが先にがつんと来るが、これはじんわりと甘く、柿らしい柿。小学校の帰りに食べていた山柿を思い出した。
もう一つ硬めのを食べると…うわー! 渋い!! どうやら、渋柿だったようなのだ。確かに編集さんも渋柿っぽいと言っていたなあ。
ご存知でしょうか。渋柿も完熟になれば渋が自然と抜けて食べられるのだ。だから前に食べた完熟は美味しかったのだろう。
さて、残りの柿はどうしましょう。木で完熟になる前に取ってしまったので、自力で渋を抜かねばならない。今干し柿にしても、この気温では腐ってしまうしなあ。
あ、そうだ…昔、祖父がよく焼酎で渋を抜いていたのを思い出し、母に電話してみる。
ふむふむ。必要なのはほんの少しの焼酎だけらしい。まず額を取り、焼酎をなり口のところにつける。それをナイロンにどんどんと詰めていく。傷ついたらそこから腐るので、柿同士がぶつかって傷つけ合わないように注意すること。全部詰めたら、手に焼酎をつけて、えいえいえい! っと全体の上にふりかけるそうだ。こんな少量の焼酎でいいのかしら。最後のはおまじないみたいなもんだろうかね。
ここから、ナイロン袋の中を真空にするのがポイントらしい。掃除機を使って、中の空気を、もうぴったぴたになるくらい抜く。そして、間髪入れず紐でぐるぐるに縛るのだ。この状態で常温で2週間もすれば食べられるそうだよ。楽しみに待つことにしよう!
さて、柿といえば実だけではない。葉っぱはビタミンが豊富に含まれてお茶にするととってもおいしいとご存知かな? 葉っぱももらってきていたので、洗って、一度干して、蒸し器を使って蒸し、そして再び数日間干し完成だ。
気をつけるのは、柿の葉は熱に弱いので蒸し時間は2分ほどにすること。そして少量ずつ蒸すこと。お茶を入れるときも、煎じたりせず、急須の中に茶葉を入れて95度くらいのお湯を注ぐだけで良い。
葉の真ん中の葉脈を切った方がさらに美味しいそうだけれど、面倒なのでそこは省略して、まるまる葉っぱのままで飲んでみる。
はふー。体中に染み渡る。乳酸発酵したような酸味があって、毎日飲んでも飽きない。これはこの冬に大活躍だなあ。あまりに美味しいので、後日再び柿の葉を大量にもらいに行ったのだった。
秋の楽しみは尽きないなあ。普段歩いている道にこそ、宝物が落ちていたりする。
1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。最新刊で初の小説集『ぐるり
』(筑摩書房)が発売。旅エッセイ集『旅を栖とす
』(KADOKAWA)ほか、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』
(ちいさいミシマ社)、絵本『あしたが きらいな うさぎ』
(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集「いっぴき」
(ちくま文庫)、など。翻訳絵本「おかあさんはね」
(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:んふふのふ
柿が美味しいこの季節、その楽しみ方についてつづってくれました。
第56回「柿の実と柿の葉」
●柿の木がとても好きだ
日中は夏のような気候だけれど、ずいぶんと陽は短くなって、着実に冬に向かっているんだなと感じる。夫とバドミントンをしていて、ふと夕焼け空の美しさに気づく一時や、朝お隣さんと公園へ銀杏を取りに行く時間も、同じ今日はないのだなと噛み締める。
それでもまだ庭にはゴーヤがなっていたり、待ちに待ったオクラが花を咲かせようやく食べられるようになったり、夏から秋へバトンを渡している期間というのは意外と長い。
』という、実家の農地の話や東京での自給自足生活を書いたエッセイ本を出版するのだが、その打ち合わせで出版元であるミシマ社に行く機会が何度かあった。ミシマ社には、大きな柿の木が2本もある。古い家を出版社として使っているのも、目指すことを体現しているようでいいなと思うし、家の前に小さな農地があってそこで野菜を育てていたりする。いつも打ち合わせをしている二階の和室のベランダから手を伸ばせば、柿が取れそうだ。
私は以前出版した『ぐるり
』という小説集に「柿泥棒」という作品があるくらいに、柿が、いいや柿の木が好きだ。柿の木があるお宅はたいてい古く、寄り添いながら並ぶツーショットはとても趣がある。人生の道程を物語っているとさえ思う。
青々と苔のむした幹、どうやって実を取るんだろうと思うほどに天高く伸びた枝。その中に赤い実が、まるで小さな炎のように成っている。大きくて艷やかな葉っぱが、秋からら冬にかけて紅葉し、やがて落ちて最後は幹枝だけになる様も実に美しい木だと思う。
私があまりに柿を羨ましそうにしていたからか。
「久美子さん柿持って帰ります?」
と編集さんが言ってくれた。嬉しい。嬉しすぎます。
高枝切りバサミが出版社にあるというのも愉快だなあ。背の高い男性社員がどさどさと柿の実を取ってくれて、私はリュックに柿をつめると喜び勇んで帰ったのだった。
●渋柿の沈みの取り方
早速完熟の柿を頬張る。うーん、自然な甘さでおいしい。懐かしい味だな。最近の柿はまず甘さが先にがつんと来るが、これはじんわりと甘く、柿らしい柿。小学校の帰りに食べていた山柿を思い出した。
もう一つ硬めのを食べると…うわー! 渋い!! どうやら、渋柿だったようなのだ。確かに編集さんも渋柿っぽいと言っていたなあ。
ご存知でしょうか。渋柿も完熟になれば渋が自然と抜けて食べられるのだ。だから前に食べた完熟は美味しかったのだろう。
さて、残りの柿はどうしましょう。木で完熟になる前に取ってしまったので、自力で渋を抜かねばならない。今干し柿にしても、この気温では腐ってしまうしなあ。
あ、そうだ…昔、祖父がよく焼酎で渋を抜いていたのを思い出し、母に電話してみる。
ふむふむ。必要なのはほんの少しの焼酎だけらしい。まず額を取り、焼酎をなり口のところにつける。それをナイロンにどんどんと詰めていく。傷ついたらそこから腐るので、柿同士がぶつかって傷つけ合わないように注意すること。全部詰めたら、手に焼酎をつけて、えいえいえい! っと全体の上にふりかけるそうだ。こんな少量の焼酎でいいのかしら。最後のはおまじないみたいなもんだろうかね。
ここから、ナイロン袋の中を真空にするのがポイントらしい。掃除機を使って、中の空気を、もうぴったぴたになるくらい抜く。そして、間髪入れず紐でぐるぐるに縛るのだ。この状態で常温で2週間もすれば食べられるそうだよ。楽しみに待つことにしよう!
●柿の葉もお茶に。冬に大活躍間違いなし
さて、柿といえば実だけではない。葉っぱはビタミンが豊富に含まれてお茶にするととってもおいしいとご存知かな? 葉っぱももらってきていたので、洗って、一度干して、蒸し器を使って蒸し、そして再び数日間干し完成だ。
気をつけるのは、柿の葉は熱に弱いので蒸し時間は2分ほどにすること。そして少量ずつ蒸すこと。お茶を入れるときも、煎じたりせず、急須の中に茶葉を入れて95度くらいのお湯を注ぐだけで良い。
葉の真ん中の葉脈を切った方がさらに美味しいそうだけれど、面倒なのでそこは省略して、まるまる葉っぱのままで飲んでみる。
はふー。体中に染み渡る。乳酸発酵したような酸味があって、毎日飲んでも飽きない。これはこの冬に大活躍だなあ。あまりに美味しいので、後日再び柿の葉を大量にもらいに行ったのだった。
秋の楽しみは尽きないなあ。普段歩いている道にこそ、宝物が落ちていたりする。
【高橋久美子さん】
1982年、愛媛県生まれ。作家・作詞家。最新刊で初の小説集『ぐるり
』(筑摩書房)が発売。旅エッセイ集『旅を栖とす
』(KADOKAWA)ほか、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』
(ちいさいミシマ社)、絵本『あしたが きらいな うさぎ』
(マイクロマガジン社)。主な著書にエッセイ集「いっぴき」
(ちくま文庫)、など。翻訳絵本「おかあさんはね」
(マイクロマガジン社)で、ようちえん絵本大賞受賞。原田知世、大原櫻子、ももいろクローバーZなどアーティストへの歌詞提供も多数。公式HP:んふふのふ