ドラフトは「外れ1位」でも実は大当たり。過去15年で活躍している選手たち
6球団が1巡目を単独指名で交渉権を獲得した今年のドラフト会議。例年よりドラマは少なかったものの、それでも3人のピッチャーのプロ野球人生の出発点が「クジ引き」で決まった。
高校生ナンバー1の呼び声が高かった本格派右腕の小園健太(市立和歌山高)は、DeNAと阪神が重複指名。結果、三浦大輔監督が当たりクジを引き当て、DeNAが交渉権を獲得した。
ヤクルト、巨人、広島、西武の4球団が競合したのは、大学生左腕の隅田知一郎(西日本工業大)。交渉権は西武が掴み取り、外した巨人はこれでクジ引き11連敗となった。
その隅田に外れたヤクルトと広島は、『外れ1位』でも指名が重複。ヤクルトが法政大の左腕・山下輝を引き当て、広島は『外れ外れ1位』で関西学院大の左腕・黒原拓未の交渉権を獲得した。
15年前に巨人に指名された坂本勇人も外れ1位だった
ある程度の公平性を担保したクジ引きによる抽選は、当たりクジを巡って選手と球団、そしてファンの感情が交錯する。だが、プロ野球の面白さは、ドラフトの「会議後」にもある。数年後には外れたほうに実は大当たりが潜んでいたケースが多々あるからだ。過去15年ほど、ドラフトのその後を振り返ってみよう。
その象徴的な現役選手といえば、巨人の坂本勇人だろう。2016年に首位打者を獲得し、2020年には右打者で史上最年少の31歳10カ月で2000本安打に到達した坂本のプロ野球人生は、分離ドラフトだった2006年の高校生ドラフトの『外れ1位』からスタートを切っている。
この年の一番人気は、投手では駒大苫小牧高の田中将大。日本ハム、オリックス、横浜、楽天の競4球団の競合の末、楽天が交渉権を獲得した。
野手では、強打の遊撃手として甲子園で活躍した愛工大名電高の堂上直倫が人気。父も元プロ野球選手という毛並みのよさもあって、中日、巨人、阪神から1位指名を受けた。
堂上はクジ引きの結果、兄も在籍していた地元の中日へ。だが、当時の中日はショート井端弘和、セカンド荒木雅博の"アライバ"が君臨し、高卒野手がスタメンに割って入る余地はなかった。
一方、外れ1位で巨人に指名された光星学院高の坂本には、2年目にレギュラー獲りの大きなチャンスが訪れる。選手会長だった32歳の二岡智宏が開幕戦での故障と不祥事によって長期の戦線離脱。坂本はこの機会にしっかり結果を残したことで、現在に至る圧倒的な存在へと登り詰めていった。
NPB史上唯一となる3度のトリプルスリーを達成し、昨オフに7年35億円+出来高でヤクルトに残留した山田哲人も、抽選に外れたことで引くことができた大当たりの選手だ。
履正社高の山田がドラフトで指名されたのは2010年。沢村拓一(中央大→巨人)、大野雄大(佛教大→中日)など大学経由の"マー君世代"がドラフト対象になったことで、彼らに注目が集まっていた。
ヤクルトが最初に1位入札したのは、今季で引退の斎藤佑樹(→日本ハム)。高校時代に甲子園を沸かせ、早稲田大でも圧倒的な人気を誇った"ハンカチ王子"のクジ引きに敗れると、次は八戸大の塩見貴洋を狙った。そして楽天とのクジ引きでも敗れ、3度目の1位入札で指名したのが山田だった。
ここでもオリックスと競合となったが、ようやく山田への交渉権を手にする。結果的に2010年ドラフトの指名選手で最も成功するひとりになるとは、この時は誰も思いはしなかったのではないだろうか。
ヤクルトの野手では、今年の快進撃を牽引する村上宗隆も外れ1位での入団だ。2017年ドラフトで野手の一番人気は、7球団が競合した早稲田実業高の清宮幸太郎(→日本ハム)。外れくじを引いたヤクルト、巨人、楽天が2度目の入札で九州学院高の村上を指名し、当たりをヤクルトが射止めた。
清宮がプロの壁に苦しんでいるのとは対照的に、村上は2年目に大ブレイク。2019年に全143試合に出場して36本塁打、96打点の活躍で新人王を獲得し、今季も打率.282、39本塁打、107打点(10月14日時点)。本塁打王と打点王を巨人の岡本和真と争い、リーグ優勝の原動力となっている。
ヤクルトは外れ1位が戦力になるケースが他球団より比較的多い気がする。裏を返せば競合覚悟で1位指名に臨むからだが、セットアッパーの清水昇もそうしたひとり。
2018年ドラフトで根尾昂(大阪桐蔭高→中日)→上茶谷大河(東洋大→DeNA)の『外れの外れ1位』で國學院大から入団。即戦力と期待された1年目は鳴かず飛ばずだったが、2年目の昨季は最優秀中継ぎのタイトルを獲得。今季もリーグ最多登板で首位を走るチームに大きく貢献している。
ちなみにヤクルトのブルペン陣では、序盤戦に躍動した近藤弘樹も外れ1位である。岡山商大時代に最速152キロで注目された右腕は、2017年ドラフトで村上を外した楽天のドラ1だ。
プロ1年目から一軍登板を経験したものの、3年目を終えた昨年かぎりで戦力外通告となった。その後ヤクルトに拾われ、春季キャンプ、オープン戦で結果を残して開幕一軍入り。5月下旬に右肩肉離れで戦列を離れるまでに放った煌めきは、「外れでもドラ1」らしいものだった。
過去の外れ1位投手を振り返ると、その後生粋の1位指名をしのぐような輝きを放つケースも少なくない。2012年ドラフトで東浜巨(亜細亜大→ソフトバンク)を逃して獲得した増田達至(NTT西日本→西武)は、その後リリーバーとして活躍。2014年ドラフトで有原航平(早稲田大→日本ハム)の外れ1位で獲得した山崎康晃(亜細亜大→DeNA)も、1年目からクローザーとして圧倒的な存在感を放った。
近年では、2019年ドラフトの外れ1位投手たちが活躍している。
2019年ドラフトでは、3人の高校生に人気が集中した。夏の甲子園準優勝投手の星稜高・奥川恭伸(ヤクルト)と、高3のセンバツ甲子園で優勝した中京大中京の野手・石川昴弥(中日)に、それぞれ3球団が1位指名。大船渡高の160キロ右腕・佐々木朗希(ロッテ)には4球団が1位指名した。
今年ブレイク中のオリックス2年目左腕・宮城大弥は、まさに2019年ドラフトの『外れ外れ1位』。石川のクジに外れたオリックスは、次いでJFE西日本の左腕・河野竜生に入札するも再びくじを外し、3度目の入札で獲得したのが興南高の宮城だった。
中日に入団した石川が今季は故障で二軍戦出場もままならなかったのに対し、宮城は開幕から一軍で先発ローテーション入りしてリーグ1番乗りでふたケタ勝利。25年ぶりのリーグ優勝に迫るチームを牽引し、新人王レースでも最右翼につけている。
日本ハムが佐々木の外れ1位で獲得した河野も1年目から戦力になっている。昨季は先発ローテ入りして12試合で3勝5敗。今季は開幕直後から不振で中継ぎ転向になったが、リリーフで28試合に登板して防御率0.29と存在感を示し、後半戦は先発に再転向して安定した投球を見せている。
佐々木の外れ1位では、楽天が2度目に指名した小深田大翔(大阪ガス)の活躍もめざましい。三拍子揃った内野手との期待どおり、1年目途中からスタメンの座を掴み、2年目の今季はオールスターにも選出された。
また、2018年ドラフトの外れ1位組にも注目しておきたい。
報徳学園の遊撃手・小園海斗(広島)を4球団競合の末に敗れたDeNAが獲った上茶谷大河(東洋大)は1年目から中継ぎで躍動。3球団が競合した大阪桐蔭の外野手・藤原恭大(ロッテ)のくじ引きを外した楽天が獲得した辰巳涼介(立命館大)も1年目から即戦力になっている。
その辰巳の当たりくじを引けなかった巨人は高橋優貴(八戸学院大)を、ソフトバンクは甲斐野央(東洋大)を、そして阪神は近本光司(大阪ガス)を3度目の入札で獲得した。
高橋は1年目から先発陣の一角に加わり、今季はふたケタ勝利をマーク。甲斐野は1年目から勝利の方程式に不可欠なセットアッパーになった。近本はご存知のとおり不動のリードオフマンとして阪神打線を牽引している。
ファンにとっても、球団にとっても、ドラフトで望んだ選手の交渉権を手にできることに優るものはない。クジを外せばガッカリするのも理解できる。しかしながら、"外れ1位"や"外れ外れ1位"から多くの選手が大成していることも、どうぞお忘れなく。