妊娠を願う女性につけ込む男も!『精子提供マッチングサイト』“ヤりたい放題”の実態
《社会保険労務士試験合格 行政書士試験合格 年収800万超 パッチリ二重です》
【写真】「タイミング法でほぼ100%」だと自信満々の自称・年収1000万超のサラリーマン
《両親とも、使用人が複数いる家庭で育っており、両親は国家公務員でした。私は普通のサラリーマンで年収は1000万は若いうちに超えています》(以下、引用を示す《》内はすべて原文ママ)
これらの文面は、恋愛系マッチングサイトにおける男性側のPR……ではない。マッチングはマッチングでも、ただのマッチングではない。
精子提供マッチングサイト。
そう、そのサイトは“精子提供したい男性”と“精子提供を受けたい女性”をマッチングするサイトなのだ。トップページには以下の文面がある。
《精子提供での妊活という選択 精子提供や精子バンクでの妊活を望むすべての女性&お夫婦様へ妊娠出産を望む女性と精子提供ボランティア男性をつなぐ精子提供者マッチングサイトです。全国の精子提供希望男性かご希望条件の提供者を選んで相互合意すれば精子提供が低費用で実現できます》
登録している男性は現在500名ほどで、地域別で検索できる。多くが顔写真を掲載していて、プロフィールページには身長体重・血液型・最終学歴・活動地域・PRポイントなどの欄がある。
提供方法を性行為のみに限定する者も
同サイトには、さまざまな年齢、職業の男性が登録している。
《父はスポーツ万能で自衛隊にスキーを教えていたこともあります 弟は陸上でインターハイ出場。現在大学で教鞭を取ってます 従兄弟は元J1、海外リーグではベッカムと同じリーグでした》
このように超スポーツ万能一家であることを強調したり、
《不動産・法務関係士業、会社経営、俳優業等 尊卑分脈・桓武天皇〜桓武平氏〜(中略) 子供は芸能事務所所属》
など家柄の良さを売りにしたりするなど多岐に渡る。ほかにもHey! Say! JUMPの伊野尾慧の写真をプロフィールに使い、《外見ジャニーズにいそうと、言われます》という男性も……。
精子提供は一般に『シリンジ法』という性行為はせず器具を使って精子を提供するやり方と、『タイミング法』という実際に性行為をしての提供の2つの方法がある。同サイトの男性登録者の多くは女性にどちらかの方法を選んでもらう形をとっている。しかし、提供方法をタイミング法、つまりコンドームなしの性行為のみに限定している者も少なくない。
また限定まではせずとも、《タイミング法ではほぼ100%です》《できるだけ早く結果をご希望の場合はタイミング法》などと勧めている男性も多い。中には、以下のように“その面”をアピールしてくる者も……。
《若さもあり、一度に複数回提供ができます。1回お会いしたタイミングで4回分提供したこともあります。精子も年齢を重ねるごとに劣化します。そういう意味でも若いのは強みだと思っています》
「少しでも困っている人たちの役立てれば」
今回、実際に同サイトに登録している40代既婚男性のAさん(関東圏に在住)に話を聞くことができた。
「昨年10月ごろにネットニュースの記事で、“精子提供”というものがあることと、世の中には意外と“ほしいのに授からなくて”困っている人が多いということを知ったのがきっかけではじめました。うちも1人目のときに不妊治療をして、幸いにも何とか授かることができたので、困っている人たちの気持ちなどはわかるかなと。少しでも役立てればと思ってはじめました」
マッチングサイトを利用しての精子提供は、どのような流れで進むのか──。
まず、女性が男性登録者の中から居住地、容姿などを見て条件に合う精子提供者を選んでコンタクトをとる。
「メールで女性の年齢や既婚未婚、精子提供を受けたい理由などをお伺いします。条件が合えば、お会いして、面談します。実際のところ、メールのやり取りで突然、音信不通になる場合が多いです。面談では提供についての説明やこちらの精子の状態などの検査データなどを提示するとともに、依頼者のお考えなどを聞いて、問題ないようなら実際に提供に移ります。私の場合は、今までは面談する日と提供する日は同日でしたが、別の日でも構わないと思っています。重要なのは排卵予定日に合わせることなので」(Aさん、以下同)
これまでシリンジ法とタイミング法、どちらの提供も経験しているというAさん。提供方法はどのように決定されるのか。
「基本的には依頼者の希望に沿っています。ただ女性の年齢が30歳以上の場合は少しでも確率を上げるため、タイミング法を勧めますが、強要はしません。あくまでも依頼者の考えを尊重しています。あとはシリンジ法で何度か提供して、うまく行かない場合はタイミング法を勧めるようにしています。ただしこの場合も強要はしません」
“ただヤリたいだけの男が登録している”という声もある、こちらの精子提供サイト。実際に利用するAさんはサイトについてどのような印象を持つのか。
「サイト内で精子の検査データを見られるようにしてほしいと思っています。依頼者の方にしてみたら、会ってみないとわからないというのは、かなり不安だと思いますから。また“セックスしたいだけ”という男性は確かに多いです。ちゃんと依頼者のことを考えて、真剣に取り組んでもらいたいものですね。依頼者にとっては一生に関わる問題なんですから」
精子提供して妊娠に至ったケースはあるのか。Aさんはこれまで2人の女性に、シリンジ法2回・タイミング法5回で計7回提供しているが、
「どちらも30代後半なので、妊娠まで至ってはいないです。個人的には、おふたりともちょっと年齢が高く、自然妊娠の可能性は低いのではないかと思っています」
提供後も、女性とのやりとりは続く。
「妊娠した場合でも、しなかった場合でも、翌月提供するかどうかに影響するので、連絡していただくようにお願いしています。また無事に出産した場合でも、子どもには会わないということにしており、名前、生年月日、性別のみを教えていただくということにしています。追加で、生まれたときの写真くらいは送ってもらうかもしれませんが、そこまでですね」
精子提供の報酬はサイトで決められているわけではないが、1回の提供につき1万円もらうことを推奨している(ちなみに登録する際、男性はサイトに登録料として3万円を支払う必要がある)。
認知請求された場合、扶養義務が発生することも
ある意味では売春を斡旋するようなサイトにも思える。精子提供マッチングサイトの法律的な問題について弁護士に話を聞いた。
「これまで日本には、生殖補助医療に関する法律はありませんでしたが、『生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律』が令和2年12月4日に成立し、令和3年3月31日に施行されました。もっとも、この法律は基本理念や国の責務が抽象的に定められたに過ぎず、この法律に基づき、これから具体化されていくことが期待されています」
そう話すのは、杉並総合法律事務所の三浦佑哉弁護士。
「第三者による精子提供、すなわち民間精子バンクを通じた精子提供や、ホームページやSNS等を使った個人間の精子提供について、日本ではまだ禁止・方法制限等の法規制はありません」(三浦弁護士、以下同)
精子提供には、行為自体の違法性のほかにも問題がある。
「第三者による精子提供の結果、子どもが産まれた場合、現在の法律下では、たとえば、子どもが裁判所等を通じて精子提供者の情報の開示を求めた場合に開示されてしまう可能性があります。また、子どもから認知請求された場合、扶養義務が発生することも。さらには、認知の結果、養育費を請求されたり、相続権までも認められてしまう可能性もあります。
今後、このような精子提供も認めるべきと社会が考えるならば、精子提供する際の法規制、親子関係に関する法制化が不可欠です」
マッチングサイトでは「シリンジ法」と「タイミング法」が選べるが、タイミング法のみを条件にしている男もいる。これはサイト運営会社による売春斡旋と言えるのか。
「タイミング法で対価を受ける場合には、売春防止法の『売春』(“対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交をすることをいう”売春防止法2条)に該当します。そのため、そのような売春の仲立ちをしているマッチングサイトについては、売春の周旋(売春防止法6条)に該当し、刑罰を科される可能性は否定できません。もっとも、たとえば“女性から謝礼を受け取ることを推奨していますが、個人の判断です”という記載の場合、“売春の周旋”とまでいえるかの判断がやや微妙です。
なお、場所の提供までをしているわけではないので、刑罰が重い場所提供(売春防止法11条)や管理売春(売春防止法12条)には当たらないでしょう」
さらには、同サイトのこんな危険性も指摘。
「登録条件として『性病などの罹患がなく性病検査の診断書が提出できる方』とありますが、登録フォームにはその検査結果を添付させたりはしていないので、実質的には性病検査が義務化されているとは言い難い。そのため性病感染者から提供を受ける可能性もあり、提供の方法によっては性病に感染するリスクがあるのではないかと思います」
なんらかの事情で「子どもがほしいが、授からない」ことで悩む女性は多く、その選択肢のひとつとして精子提供サイトの存在意義はあるだろう。しかし、その気持ちにつけ込み、“行為”を求める目的で精子提供をする者がいたら……。少子化が進む現代の日本にあっては、早急な法整備が必要だ。