●PCMark / CineBench / TMPGEnc / 3DMark

今年6月にオンラインで開催されたCOMPUTEXの基調講演の中で、AMDはリテール向けにもRyzen 5000G Desktopを出荷する事を発表したが、いよいよその出荷準備が整った。そんなわけでまずはその性能をご紹介したい。

今回入手した「Ryzen 7 5700G」と「Ryzen 5 5600G」


○スペックに変更は無し

発売されるのは以前の予告通り、Ryzen 7 5700GとRyzen 5 5600Gで、それぞれ$359、$259という価格になっている(Photo01)。発売日も以前アナウンスがあった通り、8月5日である。ちなみにSocketはSocket AM4のままであり、既存のAMD 400およびAMD 500シリーズのチップセットと互換性があるが、BIOSのバージョンに制約がついている(Photo02)。またここにも書いてあるが、パッケージにはWraith Stealthクーラーが付属している。

Photo01: この情報は以前と変わらず。


Photo02: とりあえずAGESA 1.1.8.0に準拠していれば、ブートは問題ないそうだ。古いAMD 400シリーズマザーボードとかだと、これもちょっと怪しいかもしれないが。


ちなみにAMDによる、Ryzen 5 3400Gとの性能比較がこちら(Photo03,04)。特にCPU性能に関しては大幅に向上しているとする。またGPUはまぁお察しとはいえ、中には大幅に性能が上がっているものもあるなど、やはりそれなりに性能改善は行われている。

Photo03: まぁRyzen 4000Gシリーズは公式にはOEM Onlyなので、比較が3000Gシリーズになるのは仕方がない。


Photo04: GPUそのものはRyzen 5 3400GもVegaベースの11CUなので、動作周波数が違うとはいえそう低いものではない。逆に言えばRyzen 5000GシリーズはVegaベースの8CUというあたり、あまりドラスティックに性能が改善されたわけではないともいえる。


ちなみに競合製品との性能比較、ということでCore i7-11700とRyzen 7 5700G(Photo05,06)、およびCore i5-11600とRyzen 5 5600G(Photo07,08)の性能比較も示されている。

Photo05: 内蔵GPUでの比較。勿論Ryzen 5 5700Gもそれほど高いわけではないが、Core i7-11700は輪をかけて低いので、まぁ妥当というか、なんというか。


Photo06: CPUがメインではもう少し結果が接近しているが、概ね良好な数字を出している。


Photo07: ちなみにMetro Exodus PC Enhanced Editionでないところがミソ(後ほどベンチマークパートで)。


Photo08: 6コア対決でも概ねRyzen 5 5600Gが有利とされる。


ちなみに当然FSR(FidelityFX Super Resolution)のサポートもあるが、こちらでRyzen Pro 7 4750Gの結果を示したように、元が低ければどんなに頑張っても限界がある、というのは事実であって、実用性はちょっと「?」ではあるが。

○テスト環境

ということで今回借用したのはRyzen 5 5600GとRyzen 7 5700Gである(Photo09〜12)。同然ながらWindowsからはきちんと認識された(Photo13〜18)。

Photo09: パッケージ寸法は幅132mm×高さ135mm×奥行73mm、重量は438.2g(Ryzen 7 5700G)/442.5g(Ryzen 5 5600G)(いずれも実測値)。おそらくWraith Stealthの重量に多少ばらつきがあるのだろう。


Photo10: 側面からパッケージを確認できるのは以前と一緒。


Photo11: このほかに簡単な説明所が同梱される。


Photo12: CPUパッケージは同じもの。


Photo13: SteppingはMobile向けと同じ0のままだった。


Photo14: L3は16MBのまま。


Photo15: きちんと12論理コアが認識される。


Photo16: Ryzen 7 5700GもStepping 0。


Photo17: Cache構成も同じく。


Photo18: きちんと16論理コアが認識される。


さてこれに組み合わせるマザーボード、Photo02にあるようにAGESA 1.1.8.0以上のBIOSを搭載したマザーボードなら原則動作する筈なのだが、性能をきちんと評価するためにはAGESA 1.2.0.3b以上が必要になる。今回AMDからは、4メーカー(ASUS/ASRock/GIGABYTE/MSI)から各1製品に関しての対応BIOSの提供があり、ただどれも筆者の手元には無かったので「Amazonで翌日届き、値段が安い」という基準の元にASUSのROG STRIX B550-E Gamingを調達して利用した。

その他のテスト環境は表1の通りである。今回時間の関係でIntel系の評価は省かせていただき、Ryzen 7 4750GとRyzen 5 5600G/Ryzen 7 5700Gの比較のみをご紹介することにした(ごく一部のテストだけ、さらにRyzen 7 5800Xも追加している)。基本的な評価はGeForce RTX 3080を搭載した状態で行い、内蔵GPUを使った場合は別に結果を測定することにしている。

以下グラフ中の表記は

4750G:Ryzen Pro 7 4750G

5600G:Ryzen 5 5600G

5700G:Ryzen 7 5700G

5800X:Ryzen 7 5800X

と表記している。また本文中の解像度表記は

1K :1280×720pixel

1.5K:1600×900pixel

2K :1920×1080pixel

2.5K:2560×1440pixel

3K :3200×1800pixel

4K :3840×2160pixel

とさせていただいた。

○◆PCMark10 v2.1.2519(グラフ1〜6)

PCMark10 v2.1.2519

UL Benchmarks

https://benchmarks.ul.com/pcmark10

グラフ1


まずはこちらから。Overall(グラフ1)を見ると、どのテストでも明確な性能差があって、Zen 3コアの実力発揮という感じである。

グラフ2


グラフ3


グラフ4


グラフ5


グラフ6


Test Group(グラフ2)も同じく。Essentials(グラフ3)では、特にApp Startupでここまで性能差が出るか、というくらいに差があるのが特徴的だ。これはProductivity(グラフ4_でも同じで、差が付きにくいはずのWritingでも結構大きな差だし、Spreadsheetsでも明確である。Digital Contents Creation(グラフ5)はまぁこんな感じだろうというところだ。

Application(グラフ6)は実アプリケーション(Office365)でのスコアだが、これだけ大きな差がある(Wordは差が無いが、Excel/PowerPointは結構体感でも判るくらいに性能差がある)と、もうこれだけで現在Ryzen Pro 7 4750G(とかそれ以前のRyzen 3000Gシリーズとか)を使っているユーザーには乗り換えをお勧めしたくなる。

○◆CineBench R23(グラフ7)

CineBench R23

Maxon

https://www.maxon.net/ja/cinebench

グラフ7


おなじみのこちらも。Multi-CPUではややRyzen Pro 7 4750GがRyzen 5 5600を上回る性能になっているが、これはもうコア数の違いが露骨だからという話で、同じ8コアのRyzen 7 5600Gとは2割近いスコアの差がある。Single CPUではこれが明確で、Ryzen 5000Gシリーズは10〜15%の性能アップを果たしているのが判る。

○◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.22.24(グラフ8)

TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.22.24

ペガシス

http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html

グラフ8


エンコード系でもう一つ、TMPGEnc Video Mastering Works 7も。エンコードはやっぱりコアの数が生きてくることもあり、Ryzen Pro 7 4750Gは辛うじてRyzen 5 5600Gを上回るスコアを出してはいるが、Ryzen 7 5700Gの敵ではないという格好。性能で言えば2割ほど、Ryzen 7 5700Gが上回っている。

余談であるが、内蔵GPUを使った場合の性能は今回測定していない。というのは内蔵GPUを有効にした状況でTMPGEnc Video Mastering Works 7を起動してエンコーダにAMD Media Encode SDKを選択するとこうなるからだ(Photo19)。おそらくTMPGEnc Video Mastering Works 7で利用されているAMD Media Encode SDKのバージョンがCezanneに未対応という事だと思うので、これはバージョンアップを待ちたいところだ。

Photo19: エンコードを開始して1分以上経過しているにも関わらず、1フレームもエンコードが行われていない。別に4Streamなのが問題というわけではなく、1Streamの場合でも同様である。


○◆3DMark v2.19.7225(グラフ9〜12)

3DMark v2.19.7225

UL Benchmarks

https://benchmarks.ul.com/3dmark

次は3DMarkを。とはいってもグラフィック性能は本来GPUで決まるから、焦点としては「CPUの違いでどこまでグラフィック性能が変わるか」がポイントとなる。

グラフ9


ということでまずはOverall(グラフ9)。殆ど変わらないもの(WildLife Extreme、FireStrike Extreme/Ultra、TimeSpy/TimeSpy Extreme、PortRoyal)と、大きく違うもの(WildLife、NightRaid、FireStrike)に分かれている感がある。

グラフ10


グラフ11


グラフ12


問題はこれが、Physics/CPU Testに起因する性能差か、Graphics Testに起因する性能差か? という話であるが、Graphics Score(グラフ10)をみるとWild Life/NightRideはGraphics Test、つまり実際にフレームレートが大きく変動している(NightRaidはちょっと極端な気がする)のが判る。逆にFireStrikeに関しては、若干差があるといえばあるという程度で、大きな性能差とは言えない。

こちらに関してはPhysics/CPU Test(グラフ11)で明らかなように、特にFireStrikeではCPU性能が露骨に反映されている格好(それもSingle ThreadではなくAll Thread性能)で、これが要因といえる。つまり3DMarkで言えば、WildLifeとNightRaidのみ、フレームレートそのものがCPU性能に大きく反映されやすく、実際にRyzen 7 4750Gからの伸びが大きいということになる。

Combined Score(グラフ12)は事実上FireStrike系のみしか残っていないが、FireStrikeのみ結果の変動が大きく、Extreme以上では性能差が無い、というあたりからもGPU負荷が高いとそれほど性能差が出にくくなる傾向が明確に示されており、そんなわけでGPU負荷が軽い環境ではGamingの性能に影響が出るという傾向が明確に示された形になる。

●F1 2021 / Hitman 3 / Horizon Zero Dawn / Metro Exodus / Watch Dogs

○◆F1 2021(グラフ13〜19)

F1 2021

EA Sports

https://www.ea.com/ja-jp/games/f1/f1-2021

さてここからはゲームの比較であるが、今回は時間の関係もあり、6月に掲載したGeForce RTX 3080 Tiのレビューの中で、比較的CPUオーバーヘッドの傾向が明白なものを選んでご紹介することにする。ただF1のみ、2021年版がリリースされたので確認の意味も込めて実施してみた。

F1 2021の大きな特徴としては、ついにDirectX RayTracingに対応したことだろうか? ただ相変わらず負荷は低めであり、そのあたりも丁度今回のテストに適している。

さて簡単にテスト方法を。メインメニュー(Photo20)から"Game Options"を選び、ここのSettings(Photo21)からGraphics Settings(Photo22)を選ぶ。Graphics Settingsの中(Photo23)では、まずVideo Mode(Photo24)を選び、解像度の選択を行う。そのあと再びGraphics Settingsに戻り、描画オプションなどを選んだあとで、Video Modeの下にあるBenchmark Mode(Photo25)を選択。ここで"Run Benchmark Test"を実施するとベンチマークが開始され、終わるとResultが表示される(Photo26)という仕組みだ。

Photo20: もちろんRay Tracing対応以外にも色々変更点は多い。そのあたりは右上の"What's New for 2021"で確認できる。


Photo21: このメニュー階層が本当に必要か? は疑問が残るところ。


Photo22: ここはカスタマイズでメニューが増減する。


Photo23: なんかここがちょっとごちゃっとした印象。もっとも個人的に言えば、Video Setupの中身もここに統合してもらえると操作が楽なのだが。


Photo24: ここの設定項目などは割とおなじみ。


Photo25: デフォルトがバーレーンになった。ベンチそのものはF1 2019あたりからの、追い抜きが一切発生しない単調なもの(まぁその分数字が安定してくれるのだが)。


Photo26: 自動的に結果が保存されるのも変わらず。


ということでベンチマークであるが、今回は

解像度:2K/2.5K/3K/4K

Anti-Alias:TAA

Detail Preset:Ultra High

とした。これにすると自動でRay Traced ShadowsとRay Traced RefrectionsもOnになる。ちなみにFSRあるいはDLSSへの対応は、現時点では存在しない。

グラフ13


グラフ14


グラフ15


グラフ16


グラフ17


グラフ18


グラフ19


ということで結果を。まずグラフ13が平均フレームレートであるが、Ryzen 7 5700Gを抜けば、実にCPUの性能が如実に示されている感じの結果になっている。逆に言えば、なんでRyzen 7 5700Gだと2.5K以降で急に性能がRyzen Pro 7 4750G並みに落ちるのかがさっぱりわからない(まさか8コアだとボトルネックになる、という訳でもなさそうだが)。これは最大/最小フレームレート(グラフ14・15)でも同じである。ちなみに、あまりに変なのでこれに関してはRyzen 7 5700Gは一度やり直したのだが、結果は同じであった。

フレームレート変動(グラフ16〜19)も、Ryzen Pro 7 4750GとRyzen 5 5600Gは綺麗に分離しており、もうCPU性能がボトルネックになっているのは明白なのだが、だとするとなんでRyzen 7 5700Gの性能が妙に低いのかがさっぱり判らない。ただこうした傾向が出たのはこのF1 2021だけだったので、ゲーム側との相性問題という可能性もある。将来のUpdateでは傾向が変わるかもしれない。

○◆Hitman 3(グラフ20)

Hitman 3

IO Interactive A/S

https://www.epicgames.com/store/ja/product/hitman-3/home

ベンチマーク方法はこちらのHitman 3の項目に準じる。設定は

解像度:2K/2.5K/3K/4K

Level of Detail:Ultra

Texture Quality:High

とした。

グラフ20


というわけで結果(グラフ20)であるが、これはもう非常に判りやすい。Ryzen 5000Gシリーズにすることで、2Kで10〜15fps強、4Kでも5fps程度の上乗せが実現するわけで、これは明確にCPU性能の違いとして良いかと思う。

○◆Horizon Zero Dawn(グラフ21〜27)

Horizon Zero Dawn

SIE

https://www.jp.playstation.com/games/horizon-zero-dawn/

ベンチマーク方法はこちらのHorizon Zero Dawnの項に準じる。設定はクオリティ優先とした。またOCATでフレームレートを取得している。

グラフ21


グラフ22


グラフ23


グラフ24


グラフ25


グラフ26


グラフ27


こちらもCPU性能が露骨に出るベンチマークであり、実際平均フレームレート(グラフ21)を見てもそうなった。ちなみにM/BやOS Version、Display Driver Versionなどが異なるので同一で比べるのは危険であるが、以前Ryzem 9 3900XにGeForce RTX 3080を組み合わせた結果も、大体平均フレームレートが140fps前後だったことを考えると、Ryzen 7 5700Xの性能はRyzen 9 3900Xとそう違わないレベル、と考えられる。

話を戻すと最大/最小フレームレート(グラフ22・23)も概ねCPU性能を反映した感じになっている。フレームレート変動(グラフ24〜27)も、3K/4Kでは(もともとグラフの変動が多いこともあって)見分けがつきにくくなっているが、2K/2.5Kでは、特にRyzen 7 5700Gが頭一つ抜けている感じがあり、性能差が確認できると思う。

○◆Metro Exodus Enhanced Edition(グラフ28〜34)

Metro Exodus Enhanced Edition

4A Games

https://www.metrothegame.com/

ベンチマーク方法はこちらのMetro Exodus Enhanced Editionの項目に準じる。設定は

解像度:2K/2.5K/3K/4K

Preset:Ultra

とした。なおRay TracingはHighだがDLSSはOffとしている。

グラフ28


グラフ29


グラフ30


グラフ31


グラフ32


グラフ33


グラフ34


さてグラフ28が平均フレームレートだが、もう2KのスコアがそのままCPU性能の差という感じである。2.5K以上はGPUがボトルネックになっているのは、まぁ判りやすい。おそらくDLSSを有効にすればもう少し性能差が高い解像度まで広がると思うが、今回は別にそうした結果を見たいわけではないのでこれで十分である。最大/最小フレームレート(グラフ29・30)も傾向は同じく。フレームレート変動を見ると2K(グラフ31)だけ明確に分離しているが、あとは太めの1本の線、という感じになっているあたりも判りやすい。

余談だがこのMetro Exodus Enhanced Edition、内蔵GPUでも実施しようとしたら見事にエラーで動作しなかった。Enhanced EditionではないただのMetro Exodusでは動作するので、これはEnhanced Editionで強化した部分がモロに引っかかった格好だ。そんなわけで内蔵GPUでのテストは無しである。

○◆Watch Dogs:Legion(グラフ35〜41)

Watch Dogs:Legion

Ubisoft

https://www.ubisoft.co.jp/wdlegion/

ベンチマーク方法はこちらの"Watch Dogs:Legion"に準ずる。ちなみに設定は

解像度:2K/2.5K/3K/4K

Quality:Ultra

RT:High

DLSS:Off

としている。

グラフ35


グラフ36


グラフ37


グラフ38


グラフ39


グラフ40


グラフ41


結果であるがもう平均フレームレート(グラフ35)が判りやすく、2Kでは見事に性能差が出ている。ただこの先はGPUネックになってほぼ性能差が見られないが、逆に言えばセオリー通りの結果ということになる。平均フレームレートで2Kで10fps近く、というのは結構大きな差といえる。

最大フレームレート(グラフ36)は2.5Kあたりまで差があるが、最小フレームレート(グラフ37)でバラつきがあるのは2Kのみ、というあたりはやはり実質的には2Kのみが性能差が明確に出る格好だろうか。実際フレームレート変動を見ると2K(グラフ38)では明白なのが、2.5K(グラフ39)だと開始20秒程度と最後の10秒程度、つまり描画負荷が軽い時だけ性能差があり、重くなると殆ど差が出ない。3K・4K(グラフ40・41)はもう太目の1本の線、といった格好だ。

●内蔵GPUとFSRの評価

○◆内蔵GPU評価その1:PCMark10 v2.1.2519(グラフ42〜47)

グラフ42


さて、ここからは内蔵GPUでの比較である。まずはPCMark 10について。Overall(グラフ42)を先のグラフ1と比較すると、殆どさが無いことが判る。しいて言えば、PCMark 10 Extendedのスコアだけが急激に落ちているが、他は(Applicationも含めて)殆ど誤差の範囲である。

グラフ43


グラフ44


グラフ45


グラフ46


グラフ47


この謎はTest Group Score(グラフ43)を見ると分かりやすい。Gaming、つまりFireStrikeの結果が大幅に異なる(24000〜26000→3300前後)のが主な理由であって、そりゃ内蔵GPUとGeForce RTX 3080でスコアが異なるのは当然である。逆に言えば大きな差が出るのはここだけである。

細かいところで言えば、次のProductivity(グラフ45)のSpreadsheetsとか、Digital Contents Creation(グラフ46)におけるRendering&VisualizationやPhoto Editingでもスコアが違うが、これは主にOpenCL 2.0を利用する部分である。つまりGeForce RTX 3080とそれぞれの内蔵GPUをOpenCL 2.0で使った場合の性能に差がある(当たり前だ)からで、これは別に大きな問題ではないと思う。さらに細かい話をすればそのグラフ46のVideo Editing、Ryzen Pro 7 4750GではScoreが4602なのに対し、Ryzen 5000Gシリーズは5000超えになっている。

PCMark 10の基本的なコンセプトは、リファレンス構成(Digital Contents CreationだとCore i5-7600K CPU+GeForce GTX 1050+16GB DDR4-2677+Samsung SSD 850 EVO 500GB)で5000になる様に調整されており、つまりRyzen 5000Gシリーズはこのリファレンス構成を超える性能を持っている、ということになる。内蔵GPUでもここまで性能が上がった、という一つの目安ではあるかと思う。

Application(グラフ47)はまぁ概ねGeForce RTX 3080の時(グラフ6)と変わらない性能になっている。しいて言えば全体的に若干スコアが下がっているが、内蔵GPUを利用しているとメモリ帯域を(若干ながら)GPUに喰われる事を考えれば、そうおかしな数字ではないと判断する。

○◆内蔵GPU評価その2:3DMark v2.19.7225(グラフ48〜50)

グラフ48


こちらも内蔵GPUでのテスト。さすがに2Kを超える解像度は試すだけ無駄と判断し、FireStrike Extreme/UltraやTimeSpy Extremeは省いた。またRay Tracingにも未対応なのでPortRoyalも実施していない。さらに、先日追加されたばかりのWildLife Extremeだが、これも内蔵GPUでは動作しなかったので省いている。Overallで見ると、性能差はともかくとして絶対性能はやはり殆ど変わらずといったところ。FireStrikeこそ26667とちょっと高めであるが、全体的に言えばRyzen Pro 7 4750Gと大差なしというレベルに留まっている。

グラフ49


グラフ50


Graphics(グラフ49)も概ね同じである。強いて言えば8CUのRyzen Pro 7 4750Gと7CUのRyzen 5 5600Gが大体同等。8CUのRyzen 7 5700Gがやや上という程度だが、CU数が少ない上にメモリ帯域も変わらなければ、まぁ性能が上がるはずもないというあたりだろうか。逆に言えばこの制約のなかでよく頑張ったというべきなのだろうが。

CPU/Physics(グラフ50)は先のグラフ11とスコアがだいぶ異なるが、これはGPU性能そのものが違う事に起因する。絶対性能はともかく、傾向そのものはグラフ11と同じであり、とりあえずRyzen 5 5600G ≦ Ryzen Pro 7 4750G < Ryzen 7 5700Gという傾向は明確である。

○◆内蔵GPU評価その3:F1 2021(グラフ51〜56)

設定方法は先ほど説明したとおりである。なおテスト構成は

解像度:1K/1.5K/2K

Anti-Alias:None

Detail Preset:Ultra Low

とした。勿論Ray Tracingは無効化されている。

グラフ51


グラフ52


グラフ53


グラフ54


グラフ55


グラフ56


さて平均フレームレート(グラフ51)を見ると、3製品とも2Kで60fps超えは流石である。最大フレームレート(グラフ52)はそれほど上がっていないが、最小フレームレート(グラフ53)を見ると、2Kでも50fps超え(Ryzen 7 5700Gなど57fps)で、これは十分内蔵GPUでプレイできる範疇と判断してもよいと思う(まぁその分画質はちょっとアレだが)。相変わらずF1シリーズは、性能の低いGPUにも優しいゲームであった。

それはともかくフレームレート変動を見てみると、2K(グラフ56)でもRyzen 7 5700Gは頭一つ抜けている印象で、これにRyzen 5 5600Gが続くが、こちらはRyzen Pro 7 4750Gとそう大きくは変わらない感じ。丁度3DMarkのFireStrike Graphics Score(グラフ49)に近い印象である。

○◆内蔵GPU評価その4:FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク Version 1.3(グラフ57〜59)

FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク Version 1.3

SQUARE ENIX

http://benchmark.finalfantasyxv.com/jp/

いつものこれ。今回は

解像度:1K/2K

描画品質:軽量品質

とした。

グラフ57


グラフ58


グラフ59


さてまずグラフ57が平均/最大/最小フレームレートである。さすがに解像度が2つだけだと折れ線にするのも変なので、まとめて一つにさせて頂いた。もう御覧の様に、Ryzen 5000Gシリーズでも2Kだと軽量品質でもプレイできる範疇ではなく、1Kですら厳しい(辛うじて平均で40fpsは超えているというレベル)状況で、まぁ予想通りではあるが内蔵GPUでプレイするのは無謀、という結論である。

1Kフレームレート変動(グラフ58)を見ると、3製品で大きな違いがあるとは言いにくいし、40fps台を推移していて、ちょっとプレイには厳しいという結論に変わりはない。そして2K(グラフ59)は、悲惨以外の何物でもない。あるいはDDR4-4000くらいのOCメモリを使えばもう少し性能は上がるかもしれないが、大きく上がったりはしないだろうと思われる。

○◆内蔵GPU評価その5:Shadow of the Tomb Raider(グラフ60〜65)

Shadow of the Tomb Raider

SQUARE ENIX

https://tombraider.square-enix-games.com/en-us

ベンチマーク方法はこちらに準じる。設定は

解像度:1K/1.5K/2K

描画品質:Lowest

とした。勿論Ray Tracingは無効である。

グラフ60


グラフ61


グラフ62


グラフ63


グラフ64


グラフ65


さて平均フレームレート(グラフ60)を見ると、性能の絶対値という意味では低迷しているが、性能差は意外に大きい感じだ。最大/最小フレームレート(グラフ61・62)も同じで、明確に

Ryzen Pro 7 4750G < Ryzen 5 5600G < Ryzen 7 5700G

という関係が成立している。

もっともフレート変動を見ると、1K(グラフ63)ではRyzen 5 5600GがRyzen 7 5700Gに近いあたりで推移しているのに、2K(グラフ65)ではRyzen Pro 7 4750Gに近くなっているあたりは、やはり7CUではそれなりに厳しいということだろうか。

○◆FSRの評価:Anno 1800(グラフ66〜68)

Anno 1800

UBISOFT

https://ubisoft.co.jp/anno1800/

内蔵GPUのベンチマークはShadow of the Tomb Raiderまでで一応ひと段落だが、ついでにFSR(FidelityFX Super Resolution)の効き具合を確認してみたいと思う。ということで、FSRの紹介記事の中で、Anno 1800についてのみ実施してみた。ベンチマーク方法はこちらのAnno 1800の項目に準ずる。設定は

解像度:1K/1.5K/2K

グラフィック品質:低

FSAA:なし

で、この状態でFSRについて、なし/超高画質/高画質/バランス/パフォーマンスの5つでどう平均フレームレートが変化するかをまとめたものだ。

グラフ66


グラフ67


グラフ68


さて、FSRの紹介記事時点における平均フレームレートの変化はこんな感じであった。Ryzen Pro 7 4750を使うと、どの解像度でも超高画質の場合にはオーバーヘッドが大きくなりすぎ、むしろフレームレートが落ちる結果になっていた(と筆者は判断した)。ところが今回は? というと、そのRyzen Pro 7 4750でもオーバーヘッドを感じさせない、順調にフレームレートが上がる傾向を見せている。

実はFSRの記事を書いた際のAnno 1800のバージョンは11.1.1010590であったが、今回試したバージョンは11.1.1010647となっていた。前のバージョンは、FSRが公式に発表される「前に」リリースされた、いわば大急ぎでFSRに対応させたバージョンだったようで、なので実はUltraQualityにおけるフレームレートの落ち込みはゲーム側の問題だった可能性がある。多分FSRの発表後に、そのあたりの問題への対策が行われたのかもしれない。

それはともかくとして、傾向を見るとやはりRyzen 7 5700Gがややマージンが大きい様で、Ryzen Pro 7 4750Gと比較して常に+10fpsほど上回っている。微妙なのがRyzen 5 3600Gで、1K(グラフ66)では明確にRyzen Pro 7 4750Gを上回っているのに、2K(グラフ68)ではほぼ同等といったあたりに落ち込んでいる。まぁ7CU構成で8CUのRyzen Pro 7 4750Gと同等というだけでも誉めてしかるべきなのだろうが。

そんなわけで、Ryzen 5000Gシリーズの内蔵GPUでも、FSRの恩恵をきちんと受けられる事は確認できた。まぁ絶対的な性能が足りないのは致し方ないところで、なので性能の上がり方に限度はあるのだが。

●RMMT 1.1 / Sandra 2021

○◆RMMT 1.1(グラフ69〜70)

RMMT 1.1

Rightmark.org

http://cpu.rightmark.org/products/rmma.shtml

メモリ回りの帯域も確認しておこう。ここからは再びGeForce RTX 3080を利用してのテストとなる。

グラフ69


グラフ70


グラフ69がReadの結果であるが、5Thread以降からは先は大差ない結果になっているのは、もうDDR4そのものの帯域が飽和しているのだと思う。ただそれ以前、4Threadまでの範囲で言えばRyzen 5000Gシリーズの方がかなり高いBandwidthを確保できているのは、メモリコントローラそのものも改良されたためと思われる。これはWrite(グラフ70)にも言えることで、ピーク帯域もさることながら、5threads以降も多少性能の上乗せがある。

これらがコアの改良によるものか、メモリコントローラの改良によるものかといえば、1〜3threads辺りまではコアそのものの要因が大きいだろう。ただ4threads以上になると、各コアから大量のMemory I/O Requestがメモリコントローラに殺到している訳で、このあたりからコアというよりはメモリコントローラの性能が向上した、とみて間違いないと思う。特にWriteで性能を引き上げているのは素晴らしいと思う。

○◆Sandra 2021 R3 2021.31.29(グラフ71〜117)

Sandra 2021 R3 2021.31.29

SiSoftware

https://www.sisoftware.co.uk/

ここからはSandraを利用しての性能比較を。まずグラフ71〜74がDhrystone/Whetstoneの結果である。

グラフ71


グラフ72


グラフ73


グラフ74


MT(Multi-Thread:全スレッド動作)だと

Ryzen 5 5600G < Ryzen Pro 7 4750G≦Ryzen 7 5700G

という結果で、1Tだと

Ryzen Pro 7 4750G < Ryzen 5 5600G < Ryzen 7 5700G

という傾向は、命令セットを問わずほぼ共通である。やはりZen 3を搭載したRyzen 5000Gシリーズは地力では勝っているが、CPU全体としてみると色々制約条件があってその実力を発揮しにくいというべきか、それともZen 2コアも結構頑張っているとみるべきか。

グラフ75


グラフ76


グラフ77


グラフ78


ただProcessor Multi-Media(マンデルブロ図形の描画)をさせてみた結果(グラフ75〜78)では、1Tは変わらないがMTだと

Ryzen 5 5600G ≒ Ryzen Pro 7 4750G≦Ryzen 7 5700G

という結果になり、アプリケーションの要件次第ではZen 3コアの性能が引き立つ格好だ。6コアのZen 3と8コアのZen 2が同等のスコア、というのはなかなか印象的である。

グラフ79


グラフ80


グラフ81


グラフ82


AES Encryption/Decryptionでは、1T(グラフ80)だとコアによるばらつきが大きいが、MT(グラフ79)だとほぼ横並びというのは、もうメモリ帯域が先にボトルネックになっているという事と思われる。また1Tの場合、AES-256だと横並びなのにAES-128でばらつきが多いのは、AES-256だとAES命令が使えるが、AES-128だとAES命令を使っていないためと思われる。ちょっと面白いのがHasing(グラフ81・82)。SHA2-512はAVX2のレジスタが溢れることもあって性能が低迷する(AVX512をサポートしていればこのあたりもだいぶマシなのだが)が、それは別にするとここでも

Ryzen 5 5600G ≦ Ryzen Pro 7 4750G≦Ryzen 7 5700G

の傾向が見えているところだろうか。6コアのRyzen 5 5600Gが想像以上に健闘している感じだ。

次のFinancial Analysisであるが、現バージョンのSandraからこのテストは

MT(全スレッド)/MC(全コア)/1T(1スレッド)

ではなく

MT/MC/bMC(全bigコア)

になってしまった。おそらくAlderLake世代(と一応Lakefield)で導入されるbig.LITTLE対応という事なのだろうが、今回の場合MC=bMCであり、1Tの結果が取れなくなってしまった。という訳でグラフ83〜85は1TがなくMTの結果のみである。

グラフ83


グラフ84


グラフ85


結果はもう見ての通りで、テストによって差はあるが

Ryzen 5 5600G ≦ Ryzen Pro 7 4750G≦Ryzen 7 5700G

の再現である。ただBinomialだとRyzen 5 5600G ≒ Ryzen Pro 7 4750Gとしても良い程度で、かなりRyzen 5 5600Gの性能が高いとして良いと思う。

グラフ86


グラフ87


グラフ88


なぜかこのbig.LITTLE対応はFinancial Analysisだけである。という事で次はScientific Analysis(グラフ86〜88)であるが、Zen 3でAVXユニットが倍増したこともあって、1T/MTともにRyzen 5000Gシリーズの性能が高い。ただGEMM(グラフ86)ではなぜか1TでRyzen 7 5700GよりRyzen 5 5600Gの方がやや高い数字を出しているとか、N-Body(グラフ88)ではRyzen 5 5600Gがもっと高い性能でも良いはず(というか、Ryzen Pro 7 4750Gが高すぎるというべきか)、などやはりアプリケーションによってばらつきは見られる。とはいえ、Ryzen 5000Gシリーズの性能の高さは間違いない。

グラフ89


グラフ90


グラフ91


グラフ92


グラフ89〜92がAI Training/Inferenceの処理性能である。項目のLow/HighはLow Precision/High Precisionの意味である。この手のものをx86の汎用命令で処理する事にどこまで意味があるのか? という話はとりあえず措いておくとして、性能を見てみると、やはりMTではRyzen 7 5700Gが圧倒という感じになってはいる。ただこれも、例えばInference 1T(グラフ89)でRNNのHigh PrecisionだとRyzen Pro 7 4750Gとそれほど大きな差でなくなっている(CNNのHigh Precisionと比較すると明らかに傾向が異なる)とか、Inference 1T(グラフ90)のRNN High PrecisionやTraining MT(グラフ91)のRNN/CNN High PrecisionではRyzen 7 5700GよりRyzen 5 5600Gが高速といったちょっと面白い傾向も見えている。要するにこの辺りはまだアプリケーションによって性能の出方の傾向が変わる余地がある、ということだ。

グラフ93


グラフ94


この「アプリケーション次第で性能差が出る」顕著なケースがImage Processing(グラフ93・94)である。なぜかBlurだけ、MT/1T共にRyzen Pro 7 4750Gが突出して高性能である。1Tに限って言えば、Diffusionもそうで、このあたりどんなアルゴリズムで実装するとこういう結果になるのかソースを見てみたいというか、プロファイラ付けて走らせてみたい(このあたりが突っ込んで分析できないのがSandraの欠点ではなる)。

グラフ95


グラフ96


演算性能はこの辺りにして、次はInter-Thread Efficiency。こちらもバージョンアップで少し構成が変わったので、従来のLatencyとBandwidhtのグラフは無しである。まずグラフ95・96がInter-Thread Latencyであるが、同一コア内のThread、同一Core Group(AMDで言うなら同じCCXに属するCore)間のThread、同一モジュール(異なるダイ、ないしは異なるCore Group)間のThreadで、それぞれのLatencyの平均値を求めたものだ。BestとWorstでそれほど差はないが

Inter-Thread/Inter-Core LatencyはRyzen Pro 7 4750Gの方がRyzen 5000Gシリーズよりやや高速

その一方、Ryzen Pro 7 4750Gは8コアを2つのCCXに分割して格納している関係で、CCX間のLatencyは50nsを超えている。対してRyzen 5000Gシリーズはそもそも1つのCCXに8コアが格納されているので、Inter-Module Latencyに相当するものがない

ということになる。Ryzen 5000GシリーズはInter-Thread LatencyやInter-Core LatencyはCCXが8コア化したことで多少Latencyは増えたものの、CCXを跨いでのアクセスが無くなったことで平均的なLatencyはだいぶ短縮した様に思える。

グラフ97


グラフ98


グラフ97・98は、今度はInter-Thread Bandwidthである。Best/Worstは主にこちらの帯域に関係してきており、BestだとRyzen Pro 7 4750Gは恐ろしく効率が良い(1MBまでの範囲で言えばRyzen 7 5700Gを上回る)のに対し、Worstでは桁違いに性能が下がる。実際BestとWorstのピーク性能を比較すると

と、極端に性能が変わる。これに比べると、Ryzen 5000Gは性能のブレがずっと減っていると考えられる。

グラフ99


グラフ100


グラフ99・100は先のグラフ95・96のBreadkdownである。実際に1ns刻みでLatencyの頻度分布を示したものだが、見てお分かりの様にRyzen Pro 7 4750Gは50ns以上のLatencyの頻度が半分以上(正確には53%)ほどある。つまり半分の確率でRyzen 5000GよりもちょっとLatencyが少ないが、残りの半分では2倍以上のLatencyになる訳だ。この頻度を加味した 平均のLatencyは

となった。Single Threadのアプリケーションでは関係ない話だが、Multi-Threadアプリケーションでは、この平均のInter-Thread Latencyの削減が効果的に効いてくるように思われる。

グラフ101


グラフ102


次がMemory I/F周り。グラフ101・102がStreamとグラフ103・104の256MB〜4GBの範囲のBandwidthの平均値である。先のRMMTの結果もそうだが、ある程度Thread数がフルに動くとMemory Controllerが飽和することもあって、ほぼDDR4の連続性能の限界値に近くなる。そうした事情もあってMT(グラフ101)では大きな差ではない。が、1T(グラフ102)では、CPUコア側のLoad/Storeユニットの性能が効いてくることもあり、やはりRyzen 5000G系は多少有利な結果となっている。

グラフ103


グラフ104


Cacheまで含めたBandwidthはこちら(グラフ103・104)である。面白いのは、MTでのピーク性能そのものはRyzen Pro 7 4750Gの方が高い事である。Ryzen 5000Gはやや低めに推移している。ただ1Tで見ると、個々のThread(というか、コア)のBandwidth自体には大きな差はない。差が出るのは先ほどのInter-Thread Bandwidthでも出てきたコア間帯域の差で、MTの場合はこれが効果的に作用している格好と思われる。また1Tに関しては、L3容量の差も大きい。Ryzen 5000Gシリーズは16MBのUnified L3であり、対するRyzen Pro 7 4750Gは4MB L3×2という構成である。グラフ104で4MB〜16MBで大きな差がある理由は、このL3の構成の違いという事になる。

グラフ105


グラフ106


グラフ107


グラフ108


グラフ109


グラフ110


グラフ111


グラフ112


グラフ113


グラフ114


グラフ115


グラフ116


グラフ105〜116まではCache AccessのLatencyである。奇数番台の結果の単位Cyclesで、これはL1〜L3のLatencyの比較に。偶数番台はnsで、これはMemory Accessの比較にそれぞれ利用する向けである。ということでざっと見ておくと、意外にRyzen Pro 7 4750GはSequential AccessでもLatencyが大きい。L0は1cycleだがL1で4cycle、L2で5〜6cycleあたり。Ryzen 5000GもData L1は4cycleだがInst/Code L1は1cycleでアクセスできるし、その先もそうそう急には増えない。In-Page RandomやFull Randomだとキャッシュアクセスに関する限り大きな違いはない。Memory Accessは、アクセスパターンによってはRyzen 5000Gの方が大きい(例えばグラフ108、111など)が、1GBのメモリをいきなり舐める、というケースは少ないし、L3の容量増もあってこれが体感されるケースはレアではないかと思う。

グラフ117


グラフ117は、Video Memory Bandwidthである。これは何をやっているかというと、事前情報でRyzen 5000GシリーズのPCIeの帯域がどこにも書かれておらず、ベンチマークの形で確認するしかなかったという話だ。このテストのみ、リファレンスにRyzen 7 5800Xも入れてある。

ということで結果であるが、見てお分かりの通り、Ryzen 5000GシリーズはPCIe Gen3×16構成であった。Ryzen 7 5800Xのきっちり半分である12GB/secという帯域でしかなく、勿論これで困るケースは少ないとは思うがちょっと残念である。ちなみにNVMe M.2向けのレーンも、当然PCIe Gen3接続という事になる。

●消費電力 / 総評

○◆消費電力(グラフ118〜128)

最後に消費電力の確認結果を。まずはGeForce RTX 3080を使った場合である。テスト項目はSandraのDhrystone/Whetstone(グラフ118)、TMPGEnc Video Mastering Works 7で4streamの同時エンコード(グラフ119)、3DMark FireStrike Demo(グラフ120)とMetro Exodus PC Enhanced Editionを2Kでベンチマークした際の消費電力変動(グラフ121)である。これらの平均値と待機時消費電力をまとめたのがグラフ122、そこから待機時消費電力との差を求めたのがグラフ123となる。

グラフ118


グラフ119


グラフ120


グラフ121


グラフ122


グラフ123


まずDhrystone/Whetstoneは妙にスパイクが多いのだが、これは(後述の理由で)CPUではなくGPUが何か突発的に動いたのかもしれない。あとグラフ119で、冒頭25〜26秒のみXFRが動いて消費電力が240W近くまで上がるが、そのあとは160Wあたりで安定する。このXFRの動く時間が30秒未満で抑えられているというのは、勿論性能を稼ぐには不利(特にベンチマークなどで)だろうが、安定利用の観点からすると好感が持てる。

それはともかくとして、平均値(グラフ122)を見ると、Ryzen 5000Gシリーズの消費電力はRyzen Pro 7 4750Gと大差ない、として良いかと思う。厳密に言えば微妙に増えている(特にグラフ123で比較すると差が顕著)が、性能の向上分を考えればこれは十分許容範囲かと思われる。TMPGEnc稼働時の平均消費電力差は95〜100W前後に達しており、TDP 65Wはどこに行った? とか思われるかもしれないが、この時はメモリもフル稼働、ストレージもガンガン動いているという状況なので、この分を抜くと純粋にCPUの消費電力はギリギリ65W位に収まっていると思われる。その意味では、TDPの表記が信用できるCPUということになる。

次に内蔵GPUを使った場合を。やはりSandraのDhrystone/Whetstone(グラフ124)、3DMark FireStrike Demo(グラフ125)、それとFFXV Benchmarkの1K(グラフ126)の消費電力変動を示す。グラフ127が待機時消費電力+それぞれの平均、グラフ128が待機時消費電力との差である。

グラフ124


グラフ125


グラフ126


グラフ127


グラフ128


さて、先にSandraのDhrystone/WhetstoneにGPUの影響がでているのでは? と書いたのは、グラフ124を見るとスパイクが綺麗に消えているからだ。実際平均値をまとめてみると

という感じで、スパイクの出ないRyzen 5 5600Gはどちらもほぼ同じ。対してスパイクが出ているRyzen Pro 7 4750GやRyzen 7 5700Gは5W程度の上乗せという事になっている。おそらく測定値としては内蔵GPUを使った方が正確なのだろう。

○考察

ということで、一通りRyzen 5000Gシリーズの性能を確認してみた。すごくざっくり言えば

Ryzen 5 5600G:Ryzen Pro 7 4750Gとほぼ同等(シングルスレッド性能ではやや上乗せあり)の性能を6コアで実現。

Ryzen 7 5700G:Ryzen Pro 7 4750GからCPU性能を相応に強化している。とはいえ、動作周波数はそれほど変わらないし、TDP 65W枠をきちんと守っている関係で、それほど大きな性能向上は無い。またGPUに関しては、若干改善はあるものの、過大な期待は禁物。

というあたりだろうか。もうRyzen Pro 7 4750Gの購入は難しい(一応今もAmazonで若干販売されている)が、昨年9月に筆者が購入した時の金額が\43,980である。一方Ryzen 5000Gシリーズの価格は先のPhoto01にあるように$359と$259である。AMDによれば国内販売価格はRyzen 7 5700Gが\51,800、Ryzen 5 5600Gが\36,800(どちらも税込)だそうで、Wraith Stealthが付属してくる事を考えると、Ryzen Pro 7 4750GとRyzen 7 5700Gの価格差は実質4〜5,000円程度だろう。それでこの性能であれば申し分ない。

また、とりあえず安く新規にマシンを組みたい(そして後でアップグレードしたい)というエントリユーザーには、Ryzen 5 5600Gはかなりお勧めできる。値段は手ごろで、それでいてそこそこ使える(本格的にFPSを遊ぶとかは無理があるが、F1 2021位ならなんとかこなせる)内蔵GPUと、Ryzen Pro 7 4750G並みのCPU性能を持っており、オマケに消費電力は低い。

今回IntelのRocket Lakeとの比較は行っていないから性能面での言及は避けるが、これを考えると省電力性では選びやすいCPUではないだろう。このあたり、GPUを内蔵しないRyzen 5000は結構消費電力的に攻めた設定になっているのに対し、GPU統合のRyzen 5000GはTDP枠をかなり厳密に守っているようで、省電力を志向するユーザーにもお勧めできる。

その意味では、厳密にはRyzen 5000GはIntelのRocket Lakeとは競合しないのかもしれない。消費電力が多くても構わないし、3Dゲームを内蔵GPUで使ったりしない、というユーザーはむしろRocket Lakeの方が好ましいだろうし、そこそこの内蔵GPU性能が欲しいとか消費電力はきちんと低いまま維持される方が良いといったユーザーにはRyzen 5000Gという選択肢になるだろう。とりあえず筆者はこのRyzen Pro 7 4750G、どうしよう?